工場、生産設備、社屋、社用車——。企業が長く使う設備や建物も、作られるまでには大量のCO2を出しています。この資本財の上流排出を計上するのが、Scope3カテゴリ2「資本財」です。算定の手法はカテゴリ1(購入した製品・サービス)とよく似ていますが、両者の線引きが最初の関門になる。本記事では、Scope3カテゴリ別シリーズの一環として、カテゴリ2の対象範囲・カテゴリ1との違い・計算ステップを、環境省グリーン・バリューチェーンプラットフォームやGHGプロトコルの一次情報をもとに、実務目線で解説します。
≡この記事の目次
- 1Scope3カテゴリ2(資本財)とは
- ►カテゴリ2に含まれるもの
- ►購入した年に全量を計上する
- 2カテゴリ1(購入した製品・サービス)との違い
- ►資本財(固定資産)か、消耗品か
- ►二重計上を避ける
- 3算定方法――カテゴリ1と同じ3つの手法
- ►支出ベース法・平均データ法・サプライヤー別法
- ►実務では支出ベース法が主流
- 4支出ベース法の計算ステップ
- ►設備投資額を分類し、原単位を掛ける
- ►長所と、精度の限界
- 5データはどこから取るのか
- ►設備投資(capex)・固定資産のデータ
- ►金額あたりの排出原単位
- 6CDP回答・開示での実務ポイント
- ►算定方法とカテゴリ1との区分の説明
- ►実務で多い方法と現実的な進め方
- 7カテゴリ2の算定をどう進めるか
- 8出典・参考(一次情報)
Scope3カテゴリ2(資本財)とは
まず、カテゴリ2が何を対象とするのかを整理します。「買った設備や機械が、作られるまでに出したCO2」という発想から入りましょう。
カテゴリ2に含まれるもの
カテゴリ2「資本財」とは、報告年に購入・取得した資本財が、作られるまで(原材料の採取から製造まで=cradle-to-gate)に出した上流のCO2のことです。資本財とは、設備・機械・建物・車両・ITシステムなど、長期にわたって使う固定資産を指します。製品を作るための生産設備や工場、社屋、社用車などが、その典型例です。
考え方は、カテゴリ1(購入した製品・サービス)とよく似ています。どちらも、購入したモノが作られるまでの上流排出を対象にする点は同じです。違いは、その対象が「資本財かどうか」という一点にある。工場の製造ラインを一つ導入すれば、その設備が鉄やコンクリートから作られるまでに出たCO2が、カテゴリ2に計上されます。Scope3とはの15カテゴリの、2番目のカテゴリです。
購入した年に全量を計上する
カテゴリ2で特徴的なのが、排出を計上するタイミングです。資本財は、何年、何十年と使い続けるもの。しかし、その上流排出は、原則として購入・取得した年に、全量を計上します。会計の減価償却のように、耐用年数にわたって少しずつ分けて計上する、ということはしないのです。
たとえば、10年使う設備を導入した年は、その設備の製造に伴う排出を、その年に一度に計上します。翌年以降に配分することはありません。この考え方のため、大きな設備投資をした年は、カテゴリ2の排出が大きく跳ねることがある。年ごとの変動が大きくなりやすい点は、カテゴリ2を理解するうえで押さえておきたいポイントです。
カテゴリ1(購入した製品・サービス)との違い
カテゴリ2で最初に押さえたいのが、カテゴリ1との線引きです。両者はよく似ていて、混同されがちです。
カテゴリ1とカテゴリ2の線引き
資本財
長期にわたって使う固定資産。設備・機械・建物・車両・ITなど。会計上、固定資産として計上されるもの。
購入した製品・サービス
原材料・部品・購入サービスなど、消耗品的な購入。会計上、費用処理されるもの。
実務上は固定資産か費用処理かが目安。両者を明確に区分し、二重計上を避ける。
出典:GHGプロトコル・環境省の公開情報をもとにgreenote作成
資本財(固定資産)か、消耗品か
カテゴリ2とカテゴリ1は、どちらも「購入したモノの上流排出」を扱うため、どちらに入れるべきか迷いやすいカテゴリです。線引きの目安になるのが、会計上の扱いです。設備・機械・建物のように、固定資産として計上され、長期にわたって使うものは、資本財=カテゴリ2。原材料・部品・購入サービスのように、費用処理される消耗品的なものは、カテゴリ1、という整理です。
たとえば、製品の材料になる鋼材はカテゴリ1ですが、その鋼材を加工するプレス機(設備)はカテゴリ2になる。同じ「鉄」でも、消耗するのか、資産として長く使うのかで、分かれるわけです。この目安を持っておくと、多くの購入品目を、比較的迷わずに振り分けられます。
二重計上を避ける
線引きが重要なのは、二重計上(ダブルカウント)を避けるためです。同じ購入を、カテゴリ1とカテゴリ2の両方に入れてしまえば、排出量を二重に数えることになる。逆に、どちらにも入れなければ、漏れが生じます。だからこそ、自社の購入・調達データを、カテゴリ1とカテゴリ2に明確に振り分けることが欠かせません。
実務では、両者を厳密に分けきれず、資本財の排出をカテゴリ1に含めて算定している企業も見られます。それ自体が直ちに誤りというわけではありませんが、どちらにどう計上したかを説明できるようにしておくことが大切です。境界を意識し、重複や漏れがないように整理する——。これが、カテゴリ2を正しく扱う出発点です。
算定方法――カテゴリ1と同じ3つの手法
算定方法は、カテゴリ1と共通しています。精度と手間の異なる手法を整理します。
カテゴリ2の算定方法(カテゴリ1と共通)
支出ベース法
資本財の購入額に金額あたりの原単位を掛ける。
平均データ法
資本財の物量(重量など)に物量あたりの原単位を掛ける。
サプライヤー別法
サプライヤーから資本財ごとの排出量を入手。精度は高いが手間も大きい。
設備投資は金額データが把握しやすく、実務では支出ベース法が広く使われる。まず全体像→金額の大きい資本財から精度を上げる。
出典:GHGプロトコル・環境省の公開情報をもとにgreenote作成
支出ベース法・平均データ法・サプライヤー別法
カテゴリ2の算定方法は、カテゴリ1と共通です。第一が支出ベース法。資本財の購入額に、金額あたりの排出原単位を掛ける方法です。第二が平均データ法。資本財の物量(重量など)に、物量あたりの原単位を掛ける方法。第三がサプライヤー別法で、サプライヤーから資本財ごとの排出量データを直接入手する方法です。
3つは、精度と手間がトレードオフの関係にある点も、カテゴリ1と同じです。サプライヤー別法は精度が高い一方、大型の設備などでは個別データの入手に手間がかかる。支出ベース法は手軽ですが、精度は粗くなります。求める精度と、手に入るデータに応じて、使い分けるのが基本です。
実務では支出ベース法が主流
この3つのなかで、実務でもっとも広く使われるのが支出ベース法です。CDPに開示された算定方法を見ても、カテゴリ2では支出ベース法が突出して多くなっている。理由は、設備投資の金額データが、比較的把握しやすいからです。財務・経理のデータから、「何にいくら投資したか」は、多くの企業ですぐに分かります。
資本財は、種類が多岐にわたり、物量やサプライヤー別のデータをそろえるのが大変なことも少なくありません。その点、金額をベースにすれば、網羅的に、素早く全体像をつかめる。まずは支出ベース法で概算し、金額の大きい資本財から、必要に応じて精度を上げていく——。カテゴリ1と同じく、この段階的な進め方が現実的です。
支出ベース法の計算ステップ
実務でもっとも使われる支出ベース法の手順を見ていきます。設備投資のデータが出発点です。
支出ベース法:設備投資額から概算する
設備投資額を分類
その年のcapexを機械・建物・車両・ITなど資本財の種類ごとに整理
原単位を掛ける
分類ごとに、産業連関表にもとづく金額あたり原単位を掛ける
合算する
すべての分類の排出量を足し、カテゴリ2の合計とする
その年に取得した資本財の全量を計上する。減価償却のように分けない。
出典:環境省・GHGプロトコルの公開情報をもとにgreenote作成
設備投資額を分類し、原単位を掛ける
支出ベース法の計算は、カテゴリ1と同じ3ステップです。まず、その年の設備投資(capex)を、資本財の種類ごとに分類します。機械・建物・車両・ITシステムなど、「何に、いくら投資したか」を、財務データから整理する。次に、分類ごとに、金額あたりの排出原単位を掛ける。この原単位は、産業連関表にもとづくもので、後述の環境省データベースなどから入手します。
計算式は、資本財の購入額(円)× 金額あたりの排出原単位 = 排出量。たとえば「生産機械に1億円投資」に、機械分類の原単位を掛ける、という具合です。最後に、すべての分類の排出量を合算すれば、カテゴリ2の概算値が得られる。前述のとおり、その年に取得した資本財の全量を計上し、翌年以降に分けることはしません。
長所と、精度の限界
支出ベース法の長所は、設備投資のデータさえあれば、手軽に全体像をつかめることです。多くの企業で、capexの金額は財務データから把握できるため、着手のハードルが低い。カテゴリ2の第一歩として、広く使われている。
一方で、精度には限界がある。原単位が業種の平均値のため、同じ金額を投資すれば、同じ排出量として計算されてしまう。低炭素な設備を選んでも、金額が同じなら数字は変わらない、という弱点は、カテゴリ1と共通です。そのため、金額の大きい主要な設備投資については、平均データ法やサプライヤー別法へ切り替えて精度を上げることが、次のステップになります。
データはどこから取るのか
カテゴリ2の算定に使う、設備投資額や排出原単位などのデータの入手先を整理します。
使うデータはどこから
設備投資(capex)・固定資産データ
その年の設備投資額や固定資産台帳から、資本財の種類ごとの金額を把握。件数が限られ金額も明確なことが多い。
金額あたりの排出原単位
産業連関表にもとづく金額あたりの原単位。環境省のグリーン・バリューチェーンプラットフォームの排出原単位DBなど。
金額データは自社の財務・経理、原単位は公的な根拠。どの原単位を使ったか、出典と版を記録する。
出典:環境省・GHGプロトコルの公開情報をもとにgreenote作成
設備投資(capex)・固定資産のデータ
カテゴリ2のデータの出発点は、自社の設備投資(capex)や固定資産のデータです。その年にいくら設備投資をしたか、どんな資本財を取得したかは、財務・経理のデータや固定資産台帳から把握できます。カテゴリ1が数千の購入品目と向き合うのに比べ、設備投資は件数が限られ、金額も明確なことが多い。この点で、カテゴリ2は活動量を集めやすい面があります。
大切なのは、資本財の種類ごとに金額を分類することです。機械、建物、車両、ITなど、種類が違えば、掛けるべき原単位も変わります。財務データを、算定に使える形に整理する。ここが、カテゴリ2の実務の第一歩になります。
金額あたりの排出原単位
分類した金額に掛ける、金額あたりの排出原単位は、公的なデータベースから入手します。日本では、環境省がグリーン・バリューチェーンプラットフォームで公開する排出原単位データベースに、産業連関表にもとづく金額あたりの原単位が示されています。資本財に対応する分類の原単位を選んで、掛け合わせる。
ここでも、どの原単位を、いつの版で使ったかを記録することが欠かせません。より精度を高める場合は、物量ベースの原単位(IDEAなどのLCAデータベース)や、サプライヤーの一次データを用います。方法論はGHGプロトコルのScope 3 Standardに沿い、金額データは自社の財務・経理、原単位は公的な根拠、と使い分けるのが基本です。
CDP回答・開示での実務ポイント
算定結果を、CDPなどでどう開示するか。カテゴリ2の押さえどころを整理します。
カテゴリ2の開示で押さえること
算定方法と原単位を記載する
支出ベース法・平均データ法などの方法と、使った金額あたりの原単位の出典・版を記す
カテゴリ1との区分を説明する
資本財をカテゴリ2に計上したか、カテゴリ1に含めたかを明確にし、二重計上がないことを示す
年ごとの変動に触れる
大きな設備投資をした年は排出が跳ねやすい。全量を購入年に計上する前提を説明する
カテゴリ1との境界と、計上の前提を説明できることが信頼性につながる。
出典:CDP・GHGプロトコルの公開情報をもとにgreenote作成
算定方法とカテゴリ1との区分の説明
カテゴリ2をCDPとはなどで開示する際は、他のカテゴリと同様に、評価ステータス・排出量・算定方法(支出ベース法・平均データ法など)を記す。カテゴリ2でとくに説明したいのが、カテゴリ1との区分です。資本財をカテゴリ2として計上したのか、それともカテゴリ1に含めたのかを明確にし、二重計上や漏れがないことを説明欄で示す。
あわせて、使った排出原単位の出典と版を記載します。どの分類に、どの金額あたり原単位を掛けたか。境界と根拠を説明できることが、開示の信頼性を高める。カテゴリ1とカテゴリ2は表裏一体なので、両者をセットで、整合的に説明する姿勢が大切です。
実務で多い方法と現実的な進め方
CDPに開示された算定方法を見ると、カテゴリ2では支出ベース法が中心です。設備投資の金額に係数を掛ける構造上、サプライヤーからの一次データの比率は総じて低く、二次データ(公表原単位)を土台に算定するのが一般的です。資本財の性質を考えれば、これは自然な姿だといえます。
現実的な進め方は、まずその年の設備投資額を分類し、支出ベース法で概算することです。カテゴリ1の算定と並行して進めると、両者の区分も整理しやすくなります。そのうえで、金額の大きい主要な設備については、精度を上げていく。省エネ性能の高い設備や低炭素な建材を選ぶことは、カテゴリ2の削減にもつながります。責任ある調達の視点は、設備投資にも当てはまります。
カテゴリ2の算定をどう進めるか
Scope3カテゴリ2(資本財)は、設備・機械・建物などの資本財が作られるまでの上流排出を計上するもので、カテゴリ1(購入した製品・サービス)と手法は共通です。違いは対象が資本財(固定資産)かどうかで、排出は原則として購入年に全量を計上します。算定方法は支出ベース法・平均データ法・サプライヤー別法で、設備投資の金額が把握しやすいことから、実務では支出ベース法が主流です。
大切なのは、カテゴリ1との境界を明確にし、二重計上を避けること、そしてその年の設備投資を土台に、まず支出ベース法で全体像をつかむことです。カテゴリ1とセットで進めると、区分の整理も算定も効率的になります。Scope3の全体像はScope3とは、関係の深いカテゴリはカテゴリ1(購入した製品・サービス)もあわせてご覧ください。ESGの全体像はESG完全ガイドもどうぞ。
長く使う設備や建物の、その始まりに宿る排出。カテゴリ2の算定は、投資の意思決定に脱炭素の視点を織り込む、その足がかりになります。なお本記事は、環境省・GHGプロトコルなどの公開情報をもとに算定の考え方を整理したものであり、特定のツールや製品を推奨するものではありません。原単位や制度は変わりうるため、算定時は最新の一次情報をご確認ください。
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よくある質問(FAQ)
Q. Scope3カテゴリ2(資本財)には何が含まれますか?
A. 報告年に購入・取得した資本財、すなわち設備・機械・建物・車両・ITシステムなど、長期にわたって使う固定資産が、作られるまで(原材料採取から製造まで=cradle-to-gate)に出した上流のCO2が対象です。製品を作るための工場や生産設備、社屋、社用車などが典型例です。カテゴリ1(購入した製品・サービス)が主に消耗品的な購入を扱うのに対し、カテゴリ2は固定資産にあたる購入を扱います。
Q. カテゴリ2とカテゴリ1はどう違いますか?
A. 対象が『資本財(固定資産)かどうか』で分かれます。実務上は、会計で固定資産として計上されるもの(設備・機械・建物など)はカテゴリ2、費用処理される消耗品的なもの(原材料・部品・サービスなど)はカテゴリ1、が目安です。また、資本財の排出は原則として購入・取得した年に全量を計上し、耐用年数にわたって減価償却のように分けて計上することはしません。両者を明確に区分し、二重計上を避けることが大切です。
Q. カテゴリ2はどうやって計算しますか?
A. カテゴリ1と同じ手法が使えます。主に、資本財の購入額に金額あたりの排出原単位を掛ける『支出ベース法』、物量に原単位を掛ける『平均データ法』、サプライヤーから個別の排出量を入手する『サプライヤー別法』です。設備投資は金額データが把握しやすいため、実務では支出ベース法が広く使われます。まず支出ベース法で全体像をつかみ、金額の大きい資本財から精度を上げるのが現実的です。本記事は特定のツールや製品を推奨するものではありません。
出典・参考(一次情報)
- 環境省「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム(サプライチェーン排出量の算定・排出原単位データベース)」
- 環境省「サプライチェーン排出量の算定方法」
- GHG Protocol「Corporate Value Chain (Scope 3) Standard」
最終更新日:2026年7月3日
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。