障がい者雇用とは|法定雇用率2.7%への引き上げ(2026年7月)・納付金と企業の実務をわかりやすく解説

2026.08.27
ESG開示

「うちの会社も対象になるの?」——障がい者雇用のルールが、いま大きな節目を迎えています。民間企業の法定雇用率は2024年4月に2.5%へ、そして2026年7月に2.7%へと段階的に引き上げられ、対象となる企業の範囲も従業員37.5人以上へ広がりました。これまで「大企業の話」だった障がい者雇用が、多くの中堅・中小企業にとって自分ごとになっています。

この記事では、障がい者雇用促進法と法定雇用率の仕組み、2.7%時代に企業へ求められる対応、納付金・調整金のルール、そしてESG・人的資本開示の文脈でなぜ障がい者雇用が注目されるのかを、わかりやすく解説します。

※本記事は2026年8月時点の公表情報にもとづく一般的な解説です。制度の詳細・数値は変わり得るため、最新・確定の内容は厚生労働省の公式情報をご確認ください。

この記事の目次

障がい者雇用と法定雇用率の基本

障害者雇用促進法という土台

企業の障がい者雇用のルールを定めているのが障害者雇用促進法です。同法は、事業主に一定割合以上の障がい者の雇用を義務づける「雇用義務制度」を中心に、差別の禁止や合理的配慮の提供義務(本人の障がい特性に応じた職場環境の調整)を定めています。2022年の法改正では、雇用の「数」だけでなく職業能力の開発・キャリア形成といった「質」の向上も事業主の責務として明記されたとされます。

法定雇用率の仕組みとカウント方法

法定雇用率とは、「常用労働者のうち一定割合以上を障がいのある方にしましょう」という基準です。対象は身体障がい・知的障がい・精神障がい(障害者手帳等の所持者)で、カウントには次のようなルールがあります。

  • 週30時間以上の労働者:1人と数える(重度の身体・知的障がいは2人分)
  • 週20〜30時間の短時間労働者:0.5人(重度は1人分)
  • 週10〜20時間の労働者:重度身体・重度知的・精神障がいの方は0.5人と数える特例(2024年4月から)

週10時間以上からカウントできる特例の追加は、長時間働くことが難しい方にも雇用の入口を広げる趣旨とされます。

2026年7月から2.7%へ|何が変わったか

対象企業が従業員37.5人以上に拡大

民間企業の法定雇用率は、段階的に引き上げられてきました。

〜2024年3月
2.3%
従業員43.5人以上
2024年4月〜
2.5%
従業員40人以上
2026年7月〜
2.7%
従業員37.5人以上

ポイントは2つあります。第一に、雇用義務のライン自体が上がったこと。従業員1,000人の企業なら27人以上の雇用が求められる計算です。第二に、対象事業主の範囲が従業員37.5人以上へ広がったこと。これまで対象外だった小規模の企業が新たに雇用義務・ハローワークへの状況報告義務を負うことになり、「初めての障がい者雇用」に直面する会社が増えています。

納付金・調整金のルール

法定雇用率の実効性を支えるのが障害者雇用納付金制度です。常用労働者100人超の企業が法定数に不足する場合、不足1人あたり月5万円の納付金が徴収されます。逆に法定数を超えて雇用する企業には調整金(月2万9,000円。超過が多い場合は一部単価の調整あり)や報奨金が支給されるとされます。

納付金は「罰金」ではなく、障がい者雇用に取り組む企業との経済的負担を調整する仕組みです。ただし、雇用状況が著しく悪い企業には行政指導が行われ、改善が見られない場合は企業名の公表という重いペナルティもあります。

自社は対象か|人数の数え方と6月1日報告の実務

「37.5人以上」の数え方

対象かどうかは常用労働者の数で判定します。ポイントは、フルタイムだけを数えるのではないことです。

  • 週30時間以上の労働者:1人と数える
  • 週20〜30時間の短時間労働者:0.5人と数える
  • 1年を超えて雇用される見込みの有期・パート社員も、上の基準で常用労働者に含める

たとえば「正社員30人+週25時間のパート16人」の会社なら、30+16×0.5=38人で対象(37.5人以上)です。「正社員は30人だからうちは関係ない」という判断が危ういことが分かります。法定雇用数は 38人×2.7%=1.026 → 小数点以下切り捨てで1人となります。

毎年6月1日の雇用状況報告

対象企業には、毎年6月1日時点の障がい者雇用状況をハローワークへ報告する義務があります(いわゆるロクイチ報告)。この報告が全国集計され、毎年末に公表される「障害者雇用状況の集計結果」の元データになります。報告を怠ると行政指導の対象になり、雇用状況が著しく悪い場合は雇入れ計画の作成命令、それでも改善しなければ企業名公表へと進む建てつけです。

新たに対象となった企業がまずやるべきことは、①自社の常用労働者数の正確な把握、②現在雇用している障がいのある社員(手帳所持者)の確認、③不足数の把握と採用計画づくり——の3点です。なお、社員に手帳の有無を尋ねる場面では、プライバシーへの配慮と本人同意が大前提になります。

特例子会社という選択肢|グループ算定の仕組み

従業員数の多い企業グループで広く使われているのが特例子会社制度です。障がいのある社員の雇用に特化した子会社を設立し、一定の要件(雇用者に占める障がい者の割合、雇用管理体制など)を満たして認定を受けると、その子会社の雇用者数をグループ(親会社・関係会社)の実雇用率に合算できます。

  • メリット:バリアフリー設備・支援スタッフ・業務設計を1か所に集約でき、雇用ノウハウが蓄積しやすい。グループ全体で雇用率を管理できる。
  • 論点:本体から切り離された「別の場所」になりやすく、キャリアの広がりや処遇の面で本体社員との差が生まれがちです。近年は特例子会社と本体の人事交流や、本体での直接雇用への段階的な移行を設計する企業が増えているとされます。

特例子会社を作るほどの規模でない企業には、複数の中小企業が共同で雇用の場をつくる事業協同組合等算定特例や、就労支援機関と連携した業務委託から始めて直接雇用へつなげる方法もあります。

日本の障がい者雇用の現在地

厚生労働省の集計では、民間企業に雇用される障がい者数は67万人を超え、20年以上連続で過去最高を更新しているとされます(2024年6月時点の実雇用率は2.41%)。特に伸びが大きいのが精神障がいのある方の雇用で、身体・知的中心だった障がい者雇用の姿は大きく変わりつつあります。

一方で、法定雇用率を達成している企業は半数に届かない水準が続いており、雇用率の引き上げに実態が追いついていないのも事実です。また、雇用はしたものの仕事の切り出しや定着支援が不十分で早期離職につながるケース、貸農園などで雇用を代行するサービスへの依存が「雇用の質」の観点から議論を呼ぶケースなど、数字の裏側の課題も指摘されています。

ESG・人的資本開示との関係|「数」から「質」へ

障がい者雇用は、ESGのS(社会)の中核指標のひとつです。DEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の取り組みが問われる中、障がいのある社員の活躍は「多様な人材が力を発揮できる組織か」を測るリトマス試験紙として、投資家や取引先から見られています。

人的資本経営有価証券報告書のサステナビリティ開示の流れの中で、統合報告書やサステナビリティレポートに障がい者雇用率を開示する企業も一般的になりました。ここで差がつくのは「数」ではなく「質」の開示です。定着率、キャリアパス、アンコンシャス・バイアス研修、障がいを開示して働ける心理的安全性——そうした中身まで語れる企業が、S評価で頭ひとつ抜け出しています。

企業の実務|雇用を進める5つの打ち手

  • ①業務の切り出し(ジョブ・カービング):既存の仕事を分解し、集中しやすい定型業務や専門性を活かせる業務を再構成する。「仕事がない」のほとんどは「切り出していない」。
  • ②支援機関との連携:ハローワーク、地域障害者職業センター、就労移行支援事業所と組み、採用前の実習(トライアル雇用)から始める。ジョブコーチ支援は定着率を大きく左右する。
  • ③特例子会社の活用:グループ全体の雇用率に算入できる特例子会社は、設備・支援体制をまとめて整備できる選択肢。ただし「隔離」にならないようグループ本体との交流設計が重要。
  • ④環境と制度の整備:合理的配慮(通院配慮・静かな執務環境・テレワーク・時短勤務等)を制度化し、上司・同僚向けの理解研修とセットで運用する。
  • ⑤定着とキャリアの支援:採用がゴールではない。定期面談・相談窓口・キャリアパスの提示まで含めて「雇用の質」を作る。ウェルビーイング経営の実践そのものといえます。

「雇うだけ」から定着へ|精神障がい・テレワーク・支援機関

伸びているのは精神障がいのある方の雇用

雇用者数の内訳で近年最も伸びているのが精神障がい(発達障がいを含む)のある方です。身体・知的中心だった障がい者雇用の姿は大きく変わり、それに伴って実務の論点も「設備のバリアフリー」から「業務量の調整・声かけ・体調変化への気づき」といったマネジメント側の対応に移っています。心理的安全性アンコンシャス・バイアスへの取り組みが、そのまま障がい者雇用の定着率に効く構図です。

テレワークという選択肢

通勤が困難な方にとって、テレワークは働く選択肢を大きく広げました。地方在住の障がいのある方を都市部の企業が雇用する事例も生まれています。一方で、在宅では体調の変化に気づきにくいため、定期的な1on1やチャットでの日常的な接点をあらかじめ設計しておくことが定着の鍵とされます。

支援機関・ジョブコーチの使い方

採用から定着まで、企業が単独で抱え込む必要はありません。ハローワークの専門援助部門、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター(いわゆるナカポツ)が公的な相談先で、ジョブコーチ(職場適応援助者)の派遣を受ければ、業務の切り出しや指導方法を現場で一緒に組み立ててもらえます。採用前の実習(トライアル雇用)から始めれば、本人と職場の相性を確かめてから本採用に進めます。

農園型・貸しオフィス型の論点

企業に代わって農園などの働く場と支援者を用意し、雇用者をそこに配置するサービス(いわゆる雇用代行型)は、雇用率の達成手段として利用が広がる一方、「本業との関わりが薄く、雇用の質の観点から望ましいのか」という批判も国会やメディアで取り上げられてきました。制度上直ちに違法とされるものではありませんが、ESG開示で雇用率の内訳を問われた際の説明可能性まで含めて判断するのが、これからの実務と言えます。

使える支援制度の入口

採用・定着のコストを支える公的制度がいくつもあります。制度名だけでも知っておくと、ハローワークでの相談が速くなります(要件・金額は変わるため、最新は公式情報で確認してください)。

  • トライアル雇用の助成:原則3か月の試行雇用期間を支援する制度。相性を確かめてから本採用へ進めます。
  • 特定求職者雇用開発助成金:障がいのある方を継続雇用する事業主への代表的な助成金です。
  • 職場定着に関する助成:職場支援員の配置やジョブコーチ支援など、定着フェーズを支える助成メニューがあります。
  • 施設整備等への支援:作業設備やバリアフリー改修への助成制度があります。
  • 納付金制度の調整金・報奨金:法定数を超えて雇用する企業には調整金(100人超)や報奨金(100人以下)が支給される仕組みです。

障がい者雇用 用語ミニ辞典

  • 法定雇用率:企業に義務づけられる雇用割合。民間企業は2026年7月から2.7%。
  • 実雇用率:企業が実際に達成している雇用割合。全国平均は2.4%台(2024年6月時点)で法定を下回ります。
  • ロクイチ報告:毎年6月1日時点の雇用状況をハローワークへ報告する義務の通称。
  • 納付金・調整金:不足1人あたり月5万円を徴収(100人超)し、超過雇用企業に調整金等を支給する経済調整の仕組み。
  • 特例子会社:障がい者雇用に特化した子会社。認定によりグループ算定が可能。
  • 合理的配慮:本人の障がい特性に応じて職場環境や働き方を調整する法的義務。
  • ジョブコーチ:職場適応援助者。企業と本人の間に入り、業務の切り出しや指導方法を支援する専門職。
  • 就労移行支援・A型/B型:福祉サービスとしての就労支援。移行支援は一般就労を目指す訓練、A型は雇用契約あり・B型は雇用契約なしの働く場。
  • 除外率:一部業種で雇用義務を軽減する経過措置。段階的な縮小が進んでいます(2025年4月に一律10ポイント引き下げとされます)。

まとめ

  • 障がい者雇用促進法にもとづき、民間企業の法定雇用率は2026年7月から2.7%へ。対象も従業員37.5人以上に拡大し、多くの中堅・中小企業が新たに義務を負う。
  • 常用100人超の企業は不足1人あたり月5万円の納付金。改善しない場合は企業名公表も。
  • 雇用者数は67万人超と過去最高を更新する一方、達成企業は半数未満。精神障がいの方の雇用が拡大している。
  • ESG・人的資本開示ではS(社会)の中核指標。「数」の達成から、定着・キャリア・心理的安全性という「質」の開示へ評価軸が移っている。
  • 実務は業務切り出し→支援機関連携→環境整備→定着支援の順で。DEI男性育休女性活躍と並ぶ、組織のインクルージョンの試金石。

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出典・参考資料(一次情報)

厚生労働省|障害者雇用対策高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)|障害者雇用納付金制度

よくある質問(FAQ)

Q. 法定雇用率2.7%はいつから、どの企業が対象ですか?

A. 民間企業では2026年7月から2.7%が適用され、対象は従業員(常用労働者)37.5人以上の企業に広がりました。対象企業には雇用義務に加え、毎年6月1日時点の雇用状況をハローワークへ報告する義務があります。

Q. 法定雇用率を達成できないとどうなりますか?

A. 常用労働者100人超の企業は、不足1人あたり月5万円の障害者雇用納付金が徴収されます。さらに雇用状況が著しく悪く行政指導でも改善しない場合は、企業名が公表されることがあります。まずはハローワークや支援機関と連携した採用計画づくりが現実的な一歩です。

Q. 障がい者雇用はESG評価とどう関係しますか?

A. 障がい者雇用率はESGのS(社会)・DEIの代表的な指標で、統合報告書やサステナビリティレポートでの開示が一般化しています。近年は雇用率の数字だけでなく、定着率・キャリア支援・合理的配慮の運用といった「雇用の質」まで問われる傾向が強まっています。

Q. パートが多い会社です。「37.5人以上」はどう数えますか?

A. 週30時間以上の労働者を1人、週20〜30時間の短時間労働者を0.5人として合算します。1年を超えて雇用される見込みのパート・有期社員も含めます。たとえば正社員30人+週25時間のパート16人なら38人となり対象です。法定雇用数は常用労働者数×2.7%の小数点以下切り捨てで計算します。

Q. 採用したいのですが、何から始めればよいですか?

A. ハローワークの専門援助部門への相談が出発点です。あわせて地域障害者職業センターや就労移行支援事業所と連携し、業務の切り出し→採用前実習(トライアル雇用)→ジョブコーチ支援つきの本採用、という流れが定着率の高い進め方とされます。設備や支援員配置には助成制度もあります。

Q. 雇用率を達成できないと、すぐに企業名が公表されますか?

A. すぐには公表されません。まず不足分の納付金(100人超の企業、1人あたり月5万円)の対象となり、雇用状況が著しく悪い場合に雇入れ計画の作成命令や行政指導が行われ、それでも改善が見られない場合の最終段階が企業名公表です。ただし公表に至らなくても、ESG評価や採用ブランドへの影響は先に現れます。

最終更新日:2026年8月27日

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

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greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

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