「VPP(仮想発電所)」という言葉を、ニュースで見かける機会が増えました。とはいえ、「発電所なのに仮想とはどういうこと?」と、いまひとつイメージしづらい言葉でもあります。
本記事では、VPPとは何かを、できるだけかみ砕いて解説します。仕組みの基本から、ドイツ・米国・豪州といった国ごとの違い、そして日本の制度までを順に整理します。関連して、束ねる対象となる蓄電池の市場については系統用蓄電池(BESS)市場の今もあわせてご覧ください。
≡この記事の目次
VPP(仮想発電所)とは
まず、VPPをひとことで言うと何なのか。難しく考えず、「散らばった小さな電源を、ネットでつなぐ」というイメージから入りましょう。
VPPをひとことで言うと
VPP(Virtual Power Plant=仮想発電所)とは、あちこちに散らばった小さな電源や蓄電池を、通信と制御の技術でつなぎ、まるで1つの大きな発電所のように動かす仕組みです。
ポイントは「仮想(バーチャル)」という言葉です。実際に大きな発電所を建てるわけではありません。家庭の太陽光、ビルの蓄電池、工場の自家発電——こうした既存の小さな資源をネットワークでまとめ、全体として1つの発電所のようにふるまわせる。いわば、大勢の小さな演奏者をまとめる「オーケストラの指揮者」のような発想です。
なぜいま必要とされるのか
VPPが注目される背景にあるのは、再生可能エネルギーの拡大です。太陽光や風力は天候しだいで発電量が揺れるため、電力の需要と供給のバランスを保つ調整役が、これまで以上に必要になりました。
同時に、家庭用の太陽光・蓄電池やEV(電気自動車)といった小さな電源が、社会のあちこちに急速に増えています。1台ずつでは小さすぎて電力システムでは役に立ちません。しかし、束ねれば話は別です。この「ちりも積もれば」を実現する仕組みこそ、VPPなのです。
VPPの仕組み(アグリゲーターとDER)
VPPは、誰が、何を束ねて成り立つのでしょうか。司令塔となる「アグリゲーター」と、束ねられる資源の2つから読み解きます。
VPPの仕組み
散らばった資源を束ね、1つの発電所のように
アグリゲーター
(司令塔)
通信・制御ソフトで予測し、まとめて制御
電力市場
需給調整市場・卸市場・容量市場
1台では小さすぎる電源も、束ねれば1つの発電所のように市場へ参加できます。
出典:各種公開情報をもとにgreenote作成
司令塔となる「アグリゲーター」
VPPの中心にいるのが、「アグリゲーター」と呼ばれる事業者です。アグリゲーター(aggregator)とは「集める人」という意味で、散らばったリソースを束ねる司令塔の役割を担います。
具体的には、各家庭や事業所のリソースを集め、需要と供給の予測を立て、「いま充電する」「いま放電する」「いま需要を抑える」といった指示を、通信と制御ソフトでまとめて出します。先ほどのオーケストラでいえば、各演奏者(リソース)に出すタイミングを示す指揮者です。この束ね役がいてはじめて、バラバラの資源が1つの力としてまとまるのです。
束ねる資源(太陽光・蓄電池・EV・需要)
アグリゲーターが束ねる対象を、まとめて「分散型エネルギーリソース(DER)」と呼びます。代表例は、家庭やビルの太陽光発電、蓄電池、そしてEVです。
見落とされがちですが、「電気を使う側」もリソースです。電力が逼迫したときに工場やビルが使用を控える「デマンドレスポンス(DR)」も、供給を増やすのと同じ効果を持つからです。発電を足すだけでなく、需要を引くことでもバランスは取れます。VPPは、この需給の両側を束ねられる点が強みです。
国ごとに姿が違うVPP
ここからが本題です。VPPは、国によって主役も制度も大きく異なります。代表的な3つの型から、その違いを見ていきましょう。
国ごとに姿が違うVPP
制度と主力リソースが国で異なる
ドイツ
主力リソース
再エネの発電所を束ねる
特徴
Next Kraftwerkeが欧州最大級(約15GW規模)。卸市場での取引が中心。
米国
主力リソース
蓄電池・需要調整など幅広いDER
特徴
2020年のFERC Order 2222で卸市場参加の障壁を撤廃。系統運用機関ごとに実装。
豪州・英国
主力リソース
家庭用の蓄電池・EV
特徴
家庭の機器を束ねる型が目立つ(豪州の南オーストラリア、英国のKrakenなど)。
日本
主力リソース
需要調整(DR)+蓄電池
特徴
ERABという枠組みとアグリゲーター制度のもとで構築中。
制度(誰が市場に入れるか)と主力リソース(何を束ねるか)が国ごとに異なります。
出典:各国の公開情報・報道をもとにgreenote作成
ドイツ=再エネ発電を束ねる欧州最大型
ドイツは、VPPの先進国として知られます。代表格が、ケルンを拠点とするNext Kraftwerke(ネクスト・カラフトベルケ)です。多数の太陽光・風力・バイオガスなどの発電所を束ね、欧州最大級となる約15GW規模のVPPを運営しています。
ドイツ型は、家庭の機器よりも、再生可能エネルギーの「発電所」を束ねて、卸電力市場で取引するのが特徴です。再エネ比率の高さと市場の成熟が、この型を後押ししてきました。
米国=FERC Order 2222で市場を開く
米国で大きな転機となったのが、2020年に連邦エネルギー規制委員会(FERC)が出した「Order 2222」です。これは、分散リソースの集約体が、容量・エネルギー・調整力といった卸電力市場に参加できるよう、障壁を取り除く規則です(FERC)。
米国は、CAISO(カリフォルニア)やPJMなど、地域ごとに系統運用機関が分かれています。そのため、Order 2222の実装も地域ごとに段階的に進むのが特徴です。「制度で市場の扉を開き、各地域が続く」という構図といえます。
豪州・英国=家庭の蓄電池を束ねる
豪州と英国では、家庭用の蓄電池やEVを束ねる型が目立ちます。豪州では、南オーストラリア州でテスラの家庭用蓄電池を束ねたVPPが2018年から展開され、2025年にはAGLがそのプログラムを取得しました。
英国では、Octopus Energyが「Kraken」と呼ばれるプラットフォームで家庭のリソースを束ねる取り組みを進めています。屋根置きの太陽光や家庭用蓄電池が普及した国ほど、こうした「住宅発」のVPPが育ちやすい傾向です。
日本のVPP(ERABとアグリゲーター)
では、日本はどうでしょうか。VPPやDRを束ねる「ERAB」という枠組みと、アグリゲーターの制度から現在地を整理します。
日本のVPP制度(ERAB)
アグリゲーターを軸に構築中
制度のポイント 1
2022年度から一定規模以上のアグリゲーターは「特定卸供給事業者」の届出が義務(2025年10月時点で125社が登録)。
制度のポイント 2
資源エネルギー庁がガイドラインを随時改訂(2025年11月改訂でデータ連携・セキュリティ・需要家保護を強化)。
出典:資源エネルギー庁・経済産業省の公開情報をもとにgreenote作成
ERABとアグリゲーター・ライセンス
日本では、VPPやデマンドレスポンス(DR)を含む事業を、まとめて「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス(ERAB)」と呼びます。資源エネルギー庁がガイドラインを定め、市場環境の変化に合わせて随時改訂しています。2025年11月の改訂では、データ連携・セキュリティ・需要家保護の3点が強化されました(資源エネルギー庁 VPP・DRとは)。
制度面では、2022年度から、一定規模以上の分散リソースを束ねるアグリゲーターに「特定卸供給事業者」としての届出が義務づけられました。いわばアグリゲーターのライセンス制度です。2025年10月時点で、登録は合計125社にのぼります。日本のVPPは、この事業者を軸に広がりつつある段階です。
需給調整市場とのつながり
アグリゲーターが束ねたリソースは、電力の需給を細かく調整する「需給調整市場」などで活用されます。これは、系統用蓄電池が稼ぐ市場とも重なる領域です。
つまりVPPは、蓄電池ビジネスと地続きの関係です。蓄電池やEVといった個々のリソースが「点」だとすれば、VPPはそれらを束ねて市場につなぐ「面」の仕組みです。両者を合わせて理解すると、日本の電力市場の動きが見えやすくなるはずです。市場側の事情は系統用蓄電池(BESS)市場の今もご参照ください。
VPPの課題とこれから
期待の大きいVPPですが、普及には乗り越えるべき壁もあります。データと収益の両面から、率直に押さえておきましょう。
データ連携・セキュリティ・需要家保護
VPPは、多数の機器をネットワークでつなぐ仕組みです。だからこそ、機器やシステム間のデータ連携をどう標準化するか、サイバーセキュリティをどう確保するかが、避けて通れない課題です。
加えて、参加する需要家(家庭や事業者)の保護も重要です。前述のとおり、日本のガイドライン改訂でこれらが強化されたのも、リソースが増えるほどリスク管理の比重が高まるからです。便利さの裏側にある守りの設計こそ、信頼の土台です。
参加するメリットをどう設計するか
もう1つの壁が、「参加するメリット」の設計です。家庭や事業者が自分の蓄電池やEVを束ねてもらうには、手間やリスクに見合う対価が欠かせません。
報酬が小さかったり、仕組みが複雑だったりすれば、リソースは集まりません。逆に、わかりやすい報酬や電気料金の割引などが整えば、参加は広がるでしょう。海外で家庭発のVPPが育った背景にも、こうしたインセンティブ設計の工夫がありました。技術だけでなく、人が参加したくなる仕組みづくりが鍵です。
課題
データ連携・セキュリティ・需要家保護。多数の機器をつなぐため、データ標準化・サイバー対策・参加者保護が不可欠。
対応・ポイント
ガイドライン改訂で保護を強化。守りの設計こそ信頼の土台。
課題
参加メリットの設計。報酬が小さい・仕組みが複雑だとリソースが集まらない。
対応・ポイント
わかりやすい報酬や電気料金の割引など、参加したくなるインセンティブを整える。
技術だけでなく、人が参加したくなる仕組みづくりが鍵です。
VPPをどう捉えるか
VPPは、散らばった小さな電源を束ね、1つの発電所のように動かす仕組みです。再生可能エネルギーが増え、分散リソースが社会に広がるほど、その調整役としての価値は高まっていきます。
一方で、その姿は国ごとにさまざまです。再エネ発電を束ねるドイツ、制度で市場を開いた米国、家庭の蓄電池を束ねる豪州・英国——そして日本は、ERABという枠組みのもとで、アグリゲーターを軸に独自の形を育てている最中です。どれが正解というより、それぞれの電源構成や市場の事情に合った形が選ばれている、と捉えるのが自然でしょう。
大切なのは、VPPを「魔法の技術」としてではなく、分散したエネルギーを賢くつなぐ「仕組み」として理解することです。その視点を持てば、これからのエネルギーの動きが、より立体的に見えてくるはずです。
なお本記事は、特定の事業者やサービスへの加入・投資を推奨するものではなく、仕組みと各国の動向を中立に整理したものです。関連するテーマは系統用蓄電池(BESS)市場の今、第7次エネルギー基本計画とはもあわせてご覧ください。
最終更新日:2026年6月21日
出典・参考(一次情報)
- 経済産業省「次世代の分散型電力システムに関する検討会」(分散型リソースの活用を議論する検討会。第1回2022年11月7日〜第14回2025年11月19日の議事・配布資料を公開)
- 同検討会「中間とりまとめ」(2023年3月14日。分散型電力システムの方向性)
- 同検討会「第14回」(2025年11月19日。直近の論点と配布資料)
- 「第7次エネルギー基本計画」本文(2025年2月18日閣議決定)。需要side・分散型リソースの位置づけ
※制度・価格・目標は改定されます。本記事は2026年9月時点の公表情報に基づく解説です。最新の内容は各出典元でご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q. VPPは実際に発電所があるのですか?
A. ありません。太陽光、蓄電池、EV、工場の需要抑制といった分散したリソースをまとめて制御し、1つの発電所のようにふるまわせる仕組みです。「仮想」と呼ばれるのはこのためで、実体はソフトウェアと契約の集合体です。
Q. アグリゲーターとは何をする事業者ですか?
A. 分散リソースの持ち主と契約し、それらを束ねて制御し、電力市場や送配電事業者に価値を提供する事業者です。日本ではERAB(エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス)として制度整備が進み、需給調整市場への参加などが可能になっています。
Q. 国によってVPPの姿が違うのはなぜですか?
A. 市場設計と電源構成が違うためです。調整力の取引ルール、需要側リソースの参加要件、再エネの比率によって「何をまとめると儲かるか」が変わります。海外事例をそのまま日本に当てはめられないのはこのためです。
Q. 企業が参加するメリットはありますか?
A. 自家発電設備や蓄電池、生産設備の需要抑制を提供して収益を得る、あるいは電力コストを下げるという形で関わることができます。ただし制御を受け入れる範囲を事業に支障のない形で決める必要があり、操業計画との調整が実務上の要点になります。
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