「お金を増やす」だけでなく、「社会や環境をよくする」ことも、同時に狙う——。そんな投資が、世界で1兆ドルを超える規模に育っています。それが、インパクト投資です。よく似たESG投資とは、ある一点で決定的に違う。それは、社会・環境への良い変化を「意図的に」起こし、その成果を「測る」ことです。本記事では、その定義と、ESG投資との違いを、金融庁・GIINなどの一次情報をもとに、わかりやすく解説します。
ESG投資の全体像はESG投資とは、資金の流れ全体はサステナブルファイナンスとはもあわせてご覧ください。
≡この記事の目次
- 1インパクト投資とは
- ►インパクト投資をひとことで言うと
- ►なぜ注目されているのか
- 22つの目的を「両立」する――GIINの4つの特徴
- ►財務リターンと、社会・環境インパクト
- ►GIINが示す4つの中核的な特徴
- 3ESG投資・SRIとの違い
- ►投資のスペクトラム――伝統的投資から寄付まで
- ►分かれ目は「意図」と「測定」
- 4インパクト測定・マネジメント(IMM)
- ►ロジックモデル――インプットからインパクトまで
- ►金融庁の指針が示す「特定・測定・管理」
- 5市場の広がりと日本の動き
- ►世界で1兆ドル超、日本でも拡大
- ►金融庁の基本的指針とインパクトコンソーシアム
- 6課題――インパクトウォッシュをどう防ぐか
- ►インパクトウォッシュと測定の難しさ
- ►リターンとの両立をめぐる議論
- 7インパクト投資をどう捉えるか
- 8出典・参考(一次情報)
インパクト投資とは
まず、インパクト投資をひとことで整理します。「財務リターンと、測定できる社会・環境インパクトを、意図的に両立させる投資」という発想から入りましょう。
インパクト投資をひとことで言うと
インパクト投資とは、財務的なリターンと並行して、ポジティブで「測定できる」社会的・環境的なインパクトを、「意図的に」生み出すことを目的とする投資です。国際的な業界団体であるGIIN(グローバル・インパクト・インベスティング・ネットワーク)の定義にもとづく考え方です。
ポイントは、2つあります。1つは、「意図」。たまたま社会に良い影響があった、ではなく、最初から良い変化を起こすことを狙う。もう1つが、「測定」。再エネの普及量や、雇用を生んだ人数など、生み出したインパクトを具体的に測る。この「意図」と「測定」が、インパクト投資を特徴づける。
なぜ注目されているのか
インパクト投資が注目される背景には、社会・環境の課題解決に、民間のお金を動かす必要性があります。気候変動や貧困といった大きな課題に、公的資金だけで立ち向かうのは限界がある。そこで、投資の力で課題解決を加速させようという発想が広がりました。
日本でも、金融庁が2024年3月に「インパクト投資(インパクトファイナンス)に関する基本的指針」を公表するなど、制度づくりが本格化しています。「儲けか、社会貢献か」という二者択一ではなく、「両方を追う」という新しい投資のかたちとして、関心が高まっているのです。
2つの目的を「両立」する――GIINの4つの特徴
インパクト投資の核心は、財務と社会・環境という2つの目的を、どちらも本気で追うことにあります。国際的な定義から見ていきましょう。
2つの目的を、本気で両立する
財務的リターン
社会・環境インパクト
GIINが示す4つの中核的な特徴
意図
ポジティブなインパクトに意図的に貢献
エビデンス重視
データにもとづいて投資を設計
測定と管理
インパクトの実績を測り管理
分野への貢献
インパクト投資分野の成長に貢献
財務と社会・環境の、どちらか一方ではなく両方を追うのがインパクト投資。
出典:GIIN・金融庁・GSG国内諮問委員会の公開情報をもとにgreenote作成
財務リターンと、社会・環境インパクト
インパクト投資が追うのは、2つの目的です。1つは、財務的なリターン。これは、寄付や慈善とは違う点です。インパクト投資は、あくまで投資であり、お金が returns として戻ってくることを前提とします。元本を割っても構わない、という話ではありません。
もう1つが、社会・環境へのポジティブなインパクト。たとえば、再エネ事業への投資でCO2を減らす、教育事業への投資で学びの機会を増やす、といった具体的な変化です。この2つを、トレードオフ(あちら立てればこちら立たず)ではなく、両立させる——。そこに、インパクト投資の難しさと面白さがあります。
GIINが示す4つの中核的な特徴
では、何をもって「インパクト投資」と呼べるのか。GIINは、4つの中核的な特徴を示す。第一に、意図。社会・環境にポジティブなインパクトを生むことを、意図的に狙うこと。第二に、エビデンスにもとづく設計。データや根拠をもとに投資をデザインすること。
第三に、インパクトの測定と管理。生み出したインパクトの実績を測り、管理すること。そして第四に、分野への貢献。インパクト投資という分野自体の成長に貢献すること、です。とくに重要なのが、第一の「意図」と第三の「測定・管理」。この2つが、次に述べるESG投資との違いを生む、決定的な要素になります。
ESG投資・SRIとの違い
インパクト投資は、ESG投資やSRIと混同されがちです。投資のスペクトラム(連続したグラデーション)のなかで整理しましょう。
投資は、グラデーションで捉える
伝統的投資
財務リターンのみを追求
責任投資(ESG投資)
ESG要素をリスクと機会として考慮
サステナブル投資
サステナビリティを重視して選別
インパクト投資
測定可能なインパクトを意図的に追求しつつ財務リターンも狙う
寄付・慈善
財務リターンを求めず社会貢献のみ
インパクト投資は、リターンを求める投資と寄付の間に位置し、両方を意図的に追う。
出典:GIIN・金融庁・GSG国内諮問委員会の公開情報をもとにgreenote作成
投資のスペクトラム――伝統的投資から寄付まで
投資は、「財務リターンだけを追うもの」と「社会貢献だけのもの」の二択ではありません。実際には、連続したグラデーション(スペクトラム)として捉えるのが分かりやすい。左端に、財務リターンのみを追う伝統的投資。右端に、リターンを求めない寄付・慈善があります。
その間に、ESG要素を考慮するESG投資(責任投資)、サステナビリティを重視して選別するサステナブル投資、そしてインパクト投資が並びます。インパクト投資は、財務リターンを求めつつ、社会・環境インパクトも意図的に追う位置。寄付に近いようでいて、あくまでリターンを伴う投資である点が、ポイントです。
分かれ目は「意図」と「測定」
では、隣り合うESG投資と、何が違うのか。ESG投資は、環境・社会・ガバナンスの要素をリスクと機会として投資判断に取り入れ、主に中長期の企業価値やリターンの向上を目指します。社会・環境への影響は重視しますが、インパクトの測定までは必須ではないことが多い。
一方、インパクト投資は、社会・環境の課題解決そのものを目的に掲げ、インパクトを測定することを必須とします。歴史的に倫理的な除外(ネガティブスクリーニング)から始まったSRIとも、出発点が違う。「意図的に」インパクトを狙い、それを「測定する」——。この2点こそが、インパクト投資を他と分ける分かれ目なのです。
インパクト測定・マネジメント(IMM)
インパクト投資を、ただの「良いことをする投資」と分けるのが、インパクトを測り、管理する仕組み(IMM)です。
インプットから、インパクトまで
インプット
投じる資金や資源
活動
事業として行う取り組み
アウトプット
活動の直接の結果(例:研修の実施回数)
アウトカム
対象に生じた変化(例:就職できた人の増加)
インパクト
社会全体に生まれた長期的な変化
活動量だけでなく、生じた変化(アウトカム・インパクト)まで測り管理する。これがIMM。
出典:金融庁・GSG国内諮問委員会の公開情報をもとにgreenote作成
ロジックモデル――インプットからインパクトまで
インパクトを測ると言っても、何を測ればよいのでしょうか。手がかりになるのが、ロジックモデルという考え方です。これは、投資が生む変化を、段階を追って整理する枠組み。まず、インプット(投じる資金や資源)から始まり、活動(行う取り組み)、アウトプット(活動の直接の結果。たとえば研修の実施回数)へと進みます。
そして重要なのが、その先のアウトカム(対象に生じた変化。たとえば就職できた人の増加)と、インパクト(社会全体に生まれた長期的な変化)です。インパクト投資が問うのは、「何回やったか」ではなく「何が変わったか」。活動量ではなく、実際に生じた変化まで測ろうとする点に、本質があります。
金融庁の指針が示す「特定・測定・管理」
こうした測定の取り組みを、インパクト測定・マネジメント(IMM)と呼びます。日本でも、その重要性は公的に位置づけられている。金融庁が2024年3月に公表した「インパクト投資(インパクトファイナンス)に関する基本的指針」では、インパクト投資の基本的な要素として、社会・環境的な効果の「特定・測定・管理」を行うことが挙げられました。
つまり、どんなインパクトを目指すかを特定し、その実績を測定し、改善につなげて管理する。この一連のサイクルを回すことが、インパクト投資の「型」とされているわけです。IMMは手間がかかりますが、インパクトを口先だけにしないための、欠かせない仕組みなのです。
市場の広がりと日本の動き
インパクト投資は、世界でも日本でも急速に広がっています。市場規模と、日本での制度づくりの動きを見ていきます。
世界でも日本でも、広がるインパクト投資
世界
1兆1,640億米ドル
GIINの推計・2021年12月時点の運用資産額
日本
5兆8,480億円
GSG国内諮問委員会の推計・2022年3月末時点
日本の制度づくり
金融庁の基本的指針
2024年3月に公表。効果の特定・測定・管理などを基本要素として提示。
インパクトコンソーシアム
官民連携の組織を設立し、実践と普及を後押し。
数値は時点により変わりうる。
出典:金融庁・GSG国内諮問委員会・GIINの公開情報をもとにgreenote作成
世界で1兆ドル超、日本でも拡大
インパクト投資の市場は、世界的に拡大している。GIINは、世界全体のインパクト投資の運用資産額を、1兆1,640億米ドル(2021年12月時点)と推計しました。1兆ドルを超える規模にまで育ったことは、この投資手法がニッチから主流へと近づいていることを示しています。
日本でも、広がりは明らかです。GSG国内諮問委員会の調査では、国内の運用資産総額が5兆8,480億円(2022年3月末時点)と推計されました。投資家の関心の高まりを受け、金融機関や運用会社が、インパクト投資の商品や取り組みを増やしてきています。世界の潮流と歩調を合わせ、日本市場も着実に成長しているのです。
金融庁の基本的指針とインパクトコンソーシアム
市場の広がりとともに、制度づくりも進む。日本では、官民が連携するインパクトコンソーシアムが設立され、インパクト投資の実践と普及を後押ししています。さまざまな金融機関や事業者が参加し、ノウハウの共有や課題の検討を進める場です。
そして、先に触れた金融庁の「基本的指針」(2024年3月)が、市場の共通の土台になりつつあります。何をもってインパクト投資とするか、どう測定・管理するか——。こうした「型」が公的に示されることで、参加者が増え、市場の信頼性も高まる。インパクト投資は、個別の取り組みから、社会の仕組みへと育ちつつあります。
課題――インパクトウォッシュをどう防ぐか
期待が高まる一方で、インパクト投資には乗り越えるべき課題もあります。中立に整理します。
インパクト投資の課題
インパクトウォッシュ
実際は十分なインパクトがないのに、あるように見せかけること。グリーンウォッシュの一種。
測定の難しさ
社会・環境の変化を客観的に測るのは難しく、手法の標準化が課題。
リターンとの両立
財務リターンと社会・環境インパクトを、どこまで同時に追えるかをめぐる議論。
これらを防ぐには、インパクトを客観的に測定し開示する仕組みが欠かせない。制度づくりが進む。
出典:金融庁・GSG国内諮問委員会・GIINの公開情報をもとにgreenote作成
インパクトウォッシュと測定の難しさ
最大の課題が、インパクトウォッシュです。これは、実際には十分なインパクトがないのに、あるように見せかける行為。環境分野のグリーンウォッシュと同じ構図で、「インパクト投資」という言葉だけが先行し、中身が伴わない懸念があります。投資家の信頼を損ない、市場全体の評価を下げかねません。
これを防ぐ鍵が、インパクトの客観的な測定と開示です。ところが、社会・環境の変化を測るのは、財務指標のように単純ではありません。何を、どう測れば妥当なのか。測定手法の標準化は、世界共通の課題として、いまも議論が続いています。
リターンとの両立をめぐる議論
もう一つの論点が、財務リターンとインパクトの両立です。「社会に良いことをすれば、リターンは犠牲になるのでは」という見方は根強い。一方で、市場並みのリターンを上げているインパクト投資も多いとされ、必ずしもトレードオフではない、という実証も増えています。
大切なのは、どこまでのリターンを求め、どこまでのインパクトを狙うのかを、最初に明確にすることでしょう。両立の度合いは、投資ごとに異なります。過度な期待も、過度な悲観も避け、一つひとつの取り組みを、インパクトと財務の両面から冷静に見ていく——。その姿勢が、健全な市場を育てます。
インパクト投資をどう捉えるか
インパクト投資は、財務的リターンと並行して、測定できる社会・環境インパクトを意図的に生み出す投資です。GIINの定義にもとづき、意図・エビデンス・測定と管理・分野への貢献という4つの特徴を持ちます。ESG投資との分かれ目は「意図」と「測定」にあり、投資のスペクトラムのなかでは、リターンを伴う投資と寄付の間に位置づきます。世界で1兆ドルを超える規模に育ち、日本でも金融庁の指針などで制度づくりが進んでいます。
大切なのは、インパクト投資を「きれいごとの投資」と片づけるのではなく、「お金の力で、社会・環境の課題解決を意図的に・測定可能な形で進める仕組み」として捉えることでしょう。インパクトウォッシュや測定の難しさといった課題はあるものの、それらに向き合う制度づくりも進んでいます。ESG投資やサステナブルファイナンスとあわせて理解すると、お金の流れが社会を変える可能性が見えてきます。ESGや金融の全体像はESG完全ガイドもご覧ください。
利益と、社会・環境への良い変化を、同じテーブルに乗せる。インパクト投資は、投資の意味そのものを問い直す、新しい挑戦なのです。なお本記事は制度や考え方を中立に整理したものであり、特定の投資や金融商品を推奨するものではありません。最新の内容は金融庁やGIINなどの公表資料でご確認ください。
あわせて読みたい:「いい会社」を第三者が証明する国際認証 → B Corp(Bコーポレーション)認証とは|基準・5分野・2025年新基準とメリット
よくある質問(FAQ)
Q. インパクト投資とは何ですか?
A. 財務的なリターンと並行して、ポジティブで『測定できる』社会的・環境的インパクトを『意図的に』生み出すことを目的とする投資です。国際的な業界団体GIINの定義にもとづきます。単に利益を上げるだけでなく、たとえば再エネの普及や貧困の削減といった具体的な社会・環境の変化を狙い、その成果を測って管理するのが特徴です。
Q. インパクト投資とESG投資は何が違うのですか?
A. ESG投資は、環境・社会・ガバナンスの要素を投資判断に取り入れ、主に中長期の企業価値やリターンの向上を目指します。一方インパクト投資は、社会・環境の課題解決そのものを目的に掲げ、その『インパクトを測定する』ことを必須とします。違いの分かれ目は『意図』と『測定』です。投資を、伝統的投資からインパクト投資、寄付までの連続したグラデーション(スペクトラム)で捉えると分かりやすくなります。
Q. インパクト投資には、どんな課題がありますか?
A. 代表的なのが『インパクトウォッシュ』です。実際には十分なインパクトがないのに、あるように見せかける行為で、グリーンウォッシュの一種といえます。これを防ぐには、インパクトを客観的に測定・開示する仕組みが欠かせません。測定手法の標準化や、財務リターンとの両立をどう図るかも論点です。日本では金融庁が2024年に基本的指針を示すなど、健全な発展に向けた制度づくりが進んでいます。
出典・参考(一次情報)
- 金融庁「インパクト投資(インパクトファイナンス)に関する基本的指針(2024年3月)」
- 金融庁「インパクトコンソーシアム」
- GSG Impact JAPAN(GSG国内諮問委員会)「インパクト投資」
- GIIN(Global Impact Investing Network)「What You Need to Know about Impact Investing」
最終更新日:2026年6月28日
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。