学校に通い、遊び、育つ——。本来あたりまえのはずの子ども時代を奪われ、働かざるをえない子どもが、世界にはいまも約1.6億人います。しかもその数は、近年増加に転じました。私たちが手にするチョコレートやスマートフォンの原材料の先に、児童労働が潜んでいることもある。本記事では、児童労働の定義とILO条約、世界の現状、そして企業に求められる対応を、ILOやユニセフなどの一次情報をもとに、わかりやすく解説します。
サプライチェーンの人権対応の全体像はビジネスと人権とはもあわせてご覧ください。
≡この記事の目次
児童労働とは
まず、児童労働という言葉を整理します。「子どもの心身の発達や教育を妨げる労働」という考え方から入りましょう。
児童労働をひとことで言うと
児童労働とは、ひとことで言えば、子どもの心身の健全な発達や教育を妨げる労働のことです。ここで大切なのは、子どもが働くことすべてを指すわけではないという点です。国際的には、就業できる最低年齢を下回る就労や、子どもの健康・安全・道徳を損なうような労働が、児童労働とされる。
児童労働は、子どもから教育の機会を奪い、健康や安全を危険にさらします。学校に通えないまま大人になれば、十分な収入を得る力が身につかず、その子もまた、自分の子を働かせざるをえない——。こうして貧困が世代を超えて連鎖していく。児童労働は、一人の子どもの問題にとどまらず、社会全体の未来を損なう、根の深い課題なのです。
「子どもの仕事」との違い
ここで、注意しておきたい区別がある。それは、「児童労働」と「子どもの仕事(手伝い)」は違う、ということです。子どもが家業を手伝ったり、学校の後にお小遣いのために軽い仕事をしたりすること自体は、必ずしも問題ではない。むしろ、責任感や技能を育む、健全な経験になりうるものです。
問題になるのは、その労働が子どもの教育を妨げたり、心身に害を与えたりする場合です。長時間労働で学校に通えない、危険な環境で健康を害する、幼すぎる年齢で働かされる——。ILO(国際労働機関)も、発達を妨げない範囲の軽易な仕事は児童労働に含めていません。「働くこと」自体ではなく、「子どもらしい育ちを奪うかどうか」が、線引きの本質なのです。
世界の児童労働の現状
児童労働は、過去の問題ではない。いまも世界に、数多くの子どもが働かされている。数字で現状を見ていきます。
数字で見る、児童労働
約1.6億人
児童労働に従事する5〜17歳の子ども(2020年)
約7,900万人
そのうち健康や安全を損なう危険な労働に就く子ども
約7割
児童労働のうち農業分野が占める割合
児童労働は長く減少してきたが、近年は増加に転じた。サブサハラ・アフリカで最も多い。
出典:ILO・ユニセフの公開情報をもとにgreenote作成
約1.6億人という現実
ILOとユニセフの推計によれば、2020年時点で、世界の5〜17歳の子どものうち約1億6,000万人が、児童労働に従事している。これは、世界の子どもの、およそ10人に1人にあたる規模です。さらに、そのうち約7,900万人は、健康や安全を損なうおそれのある危険な労働に就いているとされる。
深刻なのは、この数字が近年、増加に転じたことです。児童労働は、2000年以降、国際社会の取り組みによって着実に減ってきました。ところが、直近の推計では、その流れが反転してしまった。紛争や気候変動、そして新型コロナウイルスの影響による貧困の拡大が、背景にあるとされます。「減少」から「増加」へ——。児童労働は、いま改めて世界的な課題として問われているのです。
農業に7割――どこで起きているのか
児童労働は、どのような場所で起きているのでしょうか。分野で見ると、最も多いのは農業です。児童労働に従事する子どもの約7割(約1億1,210万人)が、農園や畑で働いているとされます。カカオやコーヒー、綿花などの生産現場が、その典型です。工場よりも、目の届きにくい農村部に、多くの児童労働が潜んでいる。
地域別では、サブサハラ・アフリカが最も多くなっています。貧困や紛争、教育機会の不足といった要因が重なる地域ほど、児童労働は深刻です。また、その多くは家族の事業のなかで行われており、賃金を得る雇用労働だけの問題ではありません。「遠い工場の話」ではなく、貧困と結びついた農村の現実として捉える必要がある。
ILO条約による定義――第138号と第182号
児童労働の国際的な線引きを定めているのが、ILO(国際労働機関)の2つの条約です。年齢と、深刻さの2つの角度から見ていきます。
2つの条約で線を引く
最低年齢条約
就業の最低年齢を原則15歳とする。危険な労働は18歳、軽易な労働は一定条件で13歳。開発途上国は当面それぞれ14歳・12歳とできる。
最悪の形態の児童労働条約
人身取引や強制労働などの奴隷的労働、性的搾取、薬物取引などへの使用、危険有害労働を最悪の形態とし、即時の撤廃を求める。
年齢で線を引く第138号と、深刻さで線を引く第182号。この2つが国際基準の柱になっている。
出典:ILO(国際労働機関)の公開情報をもとにgreenote作成
最低年齢条約(第138号)
児童労働の基準を、まず年齢から定めているのが、ILOの最低年齢条約(第138号、1973年)です。この条約は、就業できる最低年齢を、原則として15歳(義務教育を終える年齢)としている。つまり、それより幼い子どもを働かせることは、原則として認められません。
さらに、労働の内容に応じた区別もある。健康・安全・道徳を損なうおそれのある危険な労働については、より高い18歳が最低年齢とされます。一方、発達を妨げない軽易な労働は、一定の条件のもとで13歳から認められる。ただし、開発途上国の事情に配慮し、当面はそれぞれ14歳・12歳とすることもできるとされている。年齢という、わかりやすい物差しで守りの線を引いたのが、この条約です。
最悪の形態の児童労働条約(第182号)
もう一つが、労働の深刻さに着目した、最悪の形態の児童労働条約(第182号、1999年)です。この条約は、数ある児童労働のなかでも、とりわけ深刻で、直ちになくすべきものを「最悪の形態」として定め、その即時撤廃を各国に求めています。
「最悪の形態」とされるのは、次の4つです。第一に、人身取引や強制労働、債務労働などの奴隷的な労働。第二に、性的搾取(売春やポルノなど)。第三に、薬物の取引など不正な活動への使用。第四に、子どもの健康・安全・道徳を損なうおそれのある危険有害労働です。年齢で線を引く第138号と、深刻さで線を引く第182号。この2つが、児童労働に関する国際基準の柱になっています。強制労働・現代奴隷とも深く関わるテーマです。
なぜ児童労働はなくならないのか
禁止する条約があっても、児童労働はなくなっていません。その背景にある、根深い構造を整理します。
貧困の連鎖
家庭の貧困
子どもが働く
(学校に通えない)
教育を受けられない
収入を得る力が育たない
↻ そして、また「家庭の貧困」へ ― 次の世代に連鎖する
貧困が児童労働を生み、児童労働がまた貧困を生む。この連鎖を断つには、禁止だけでなく教育や生計への支援が要る。
出典:ILO・ユニセフの公開情報をもとにgreenote作成
貧困の連鎖という根本原因
児童労働を禁じる条約があるにもかかわらず、なぜ、それはなくならないのでしょうか。最も根本にある原因が、貧困です。家庭が貧しければ、子どもの働き手としての稼ぎが、その日の暮らしを支えるために必要になる。「子どもを学校に通わせる余裕がない」という現実が、児童労働を生み出している。
そして、ここには負の連鎖がある。働くために学校に通えなかった子どもは、大人になっても十分な収入を得る力が身につきにくい。すると、その人が親になったとき、再び自分の子を働かせざるをえなくなる——。貧困が児童労働を生み、児童労働がまた貧困を生む。この連鎖を断ち切らない限り、禁止するだけでは根絶できないのが、児童労働の難しさです。
SDGs目標8.7と撤廃への歩み
国際社会も、手をこまねいているわけではありません。SDGs(持続可能な開発目標)は、そのターゲット8.7で、2025年までに、あらゆる形態の児童労働を撤廃することを掲げています。世界共通の期限を切って、根絶を目指す。強い決意を示した目標です。
しかし、前述のとおり、現実には児童労働は増加に転じてしまいました。2025年までの撤廃という目標の達成は、極めて厳しい状況にあります。だからこそ、国だけでなく、企業や市民社会を含めた、あらゆる主体の取り組みが求められています。目標を掲げるだけでなく、それをどう実現するかが、いままさに問われているのです。
サプライチェーンと企業の関わり
児童労働は、企業にとっても人ごとではありません。日々扱う原材料の先に、児童労働が潜んでいることがあります。
原材料の先に潜むリスク
カカオ
西アフリカの農園
コーヒー
各地の農園
綿花
綿産地
鉱物
コバルトなど・紛争地域
↑
これらを調達する企業
サプライチェーンを通じて児童労働と関わる
自社の工場になくても、原材料の生産現場に児童労働が潜むことがある。
出典:ILO・ユニセフの公開情報をもとにgreenote作成
カカオ・コバルトなどに潜むリスク
児童労働は、企業のサプライチェーンとも深く関わっています。とりわけリスクが高いと指摘されるのが、いくつかの原材料の生産現場です。代表例が、カカオ。チョコレートの原料であるカカオは、西アフリカの農園で、多くの子どもが収穫に関わっているとされます。ほかにも、コーヒーや綿花などの農産物が挙げられます。
近年、とくに注目されているのが、コバルトなどの鉱物です。スマートフォンや電気自動車の電池に使われるコバルトは、その採掘現場で児童労働が指摘されてきました。脱炭素やデジタル化を支える鉱物の裏側に、児童労働のリスクが潜む——。自社の工場に児童労働がなくても、原材料をたどった先に問題が潜んでいれば、企業はそのリスクを免れないのです。責任ある調達の視点が欠かせません。
子どもの権利とビジネス原則
こうしたなか、企業が子どもの権利にどう向き合うべきかを示す指針も生まれています。その一つが、ユニセフなどが2012年に策定した「子どもの権利とビジネス原則(CRBP)」です。これは、企業に対し、児童労働の撤廃にとどまらず、子どもの権利全般を尊重し、支援するよう求めるものです。
背景には、子どもは、事業の影響を最も受けやすいステークホルダーの一つだ、という認識があります。労働者としてだけでなく、消費者として、また地域住民として、子どもは企業活動の影響を受けます。だからこそ、企業には、子どもの権利という視点を経営に組み込むことが期待される。児童労働への対応は、この大きな枠組みの、重要な一部として位置づけられます。
企業に求められる対応
では、企業は児童労働にどう向き合えばよいのか。取引を断つだけでは解決しない、その難しさもふまえて整理します。
断つのではなく、解決する
人権デューデリジェンス
サプライチェーンの児童労働リスクを特定・防止・是正する
↓
やってはいけない対応
発見したら即座に取引を打ち切るだけ。子どもがより悪い状況に追い込まれることがある。
求められる対応
教育の支援や家庭の生計向上など、根本原因に働きかける。取引先とともに改善する。
取引を断つだけでは、子どもは救われない。根本原因の解決に踏み込むことが大切。
出典:ILO・ユニセフの公開情報をもとにgreenote作成
サプライチェーンでの特定・防止・是正
企業が児童労働に取り組む土台となるのが、人権デューデリジェンスです。自社とサプライチェーンのどこに児童労働のリスクがあるかを特定し、それを防止・軽減し、問題が見つかれば是正する。この継続的な取り組みを通じて、児童労働に立ち向かいます。とくにリスクの高い原材料や産地から、優先的に確認していくことが現実的です。
ここで難しいのが、「見つけたら、どうするか」です。児童労働が発覚したとき、その取引を即座に打ち切るのは、一見正しい対応に思えます。しかし、それだけでは、その子どもと家庭は、より不安定な状況に追い込まれかねません。仕事を失った子どもが、もっと危険な労働に移ってしまうこともある。単純な取引停止が、必ずしも子どものためにならない——。ここに、児童労働対応の難しさがあります。
根本原因(教育・生計)への支援
だからこそ、企業に求められるのは、根本原因への働きかけです。児童労働の背景にあるのは、前述のとおり貧困です。したがって、本質的な解決には、子どもが学校に通える環境を整えたり、家庭の生計を向上させたりする支援が欠かせません。取引先の農家の収入を安定させることが、子どもを働かせずにすむ状況をつくります。
つまり、企業に問われているのは、「児童労働を排除する」ことではなく、「児童労働をなくす」ことです。問題のある取引先を切り捨てて自社を守るのではなく、取引先とともに、根本から改善に取り組む。NGOや国際機関、地域社会と連携することも有効です。時間はかかりますが、連鎖を断ち切るこの道こそが、児童労働の解決につながります。
児童労働をどう捉えるか
児童労働とは、子どもの心身の健全な発達や教育を妨げる労働であり、世界にはいまも約1.6億人がその状態にあります。ILOは、最低年齢条約(第138号)と最悪の形態の児童労働条約(第182号)で国際基準を定め、SDGsは2025年までの撤廃を掲げています。その根本には貧困の連鎖があり、カカオやコバルトなど、企業のサプライチェーンとも深く関わっています。
大切なのは、児童労働を「発見して取引を断つべき悪」とだけ捉えないことでしょう。その裏には、子どもと家庭の貧困という現実があります。企業に求められるのは、リスクを特定し防ぐと同時に、教育や生計といった根本原因に、取引先とともに働きかけることです。ビジネスと人権や強制労働への対応とあわせて捉えると、全体像が見えてきます。ESGの全体像はESG完全ガイドもご覧ください。
未来を担う子どもたちの、育つ権利を守ること。児童労働への取り組みは、企業が次の世代に対して負う責任を映し出す、S(社会)の象徴的なテーマなのです。なお本記事は制度を中立に整理したものであり、最新の内容はILOやユニセフなどの公表資料でご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 児童労働とは何ですか?
A. 子どもが働くことすべてではなく、子どもの心身の健全な発達や教育を妨げる労働を指します。ILO(国際労働機関)は、就業の最低年齢を原則15歳とし、それを下回る就労や、健康・安全を損なう危険な労働などを児童労働と位置づけています。家庭の手伝いや、発達を妨げない範囲の軽易な仕事は、児童労働には含まれません。
Q. 世界にどれくらいの児童労働がありますか?
A. ILOとユニセフの推計では、2020年時点で世界の5〜17歳の子どものうち約1億6,000万人が児童労働に従事し、うち約7,900万人が危険な労働に就いています。その約7割は農業分野で起きており、地域別ではサブサハラ・アフリカが最も多くなっています。児童労働は長く減少してきましたが、この期間に増加へ転じました。
Q. 企業は児童労働とどう関係しますか?
A. カカオやコーヒー、綿花、コバルトなどの原材料の生産現場で児童労働が使われていることがあり、それらを調達する企業はサプライチェーンを通じて関わることになります。企業には、人権デューデリジェンスによって児童労働のリスクを特定・防止・是正するとともに、取引を断つだけでなく、教育や家庭の生計支援といった根本原因への働きかけが求められます。
メールマガジン
ESG・脱炭素の最新動向を、月に数回
規制・評価・資金の流れは毎年変わります。実務に効く変更点だけを整理してお届けします(登録無料・解除はワンクリック)。
無料で登録する手を動かす段階なら、無料のExcelテンプレートもあります → 実務テンプレート
出典・参考(一次情報)
- ILO(国際労働機関)「児童労働」
- ILO「児童労働に関するILO条約」
- 日本ユニセフ協会「子どもの権利条約」
最終更新日:2026年7月1日
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。