EVは、これからどこまで増えるのでしょうか。IEA(国際エネルギー機関)の最新レポートは、2035年までの長期見通しを、具体的な数字で描いています。そこに見えるのは、EVが一過性のブームではなく、長期のトレンドだという姿です。
本記事は、IEA「Global EV Outlook 2026」解説シリーズの第2弾です。2035年に向けたEV保有・シェアの見通し、石油需要と電力需要への影響を、レポートのシナリオに沿って整理します。2025年の市場実績は、第1弾のGlobal EV Outlook 2026の要点|2025年の世界EV市場と2026年見通しもあわせてご覧ください。
≡目次
- 1IEAが示すEVの長期見通し(2035年)
- ►2つの探索シナリオ(現行政策・表明政策)
- ►新車シェアは2035年に約50%へ
- 2EV保有・販売シェアの見通し
- ►保有は6倍超・最大5.1億台へ
- ►中国・欧州は9割超、東南アジアも急伸
- ►エンジン車は2017年のピークに戻らない
- 3石油需要への影響
- ►2030年に世界で日量約500万バレルを代替
- ►2035年は約900〜1000万バレルに拡大
- ►代替の半分は中国
- 4電力需要への影響
- ►2035年に1500TWh超(2025年の約6倍)
- ►それでも世界全体では電力需要の約4%増
- ►地域差と系統への備え
- 5企業・日本への示唆
- ►不可逆な流れとしてのEVシフト
- ►電力・インフラへの投資の必要性
- ►日本企業の立ち位置
- 6まとめ|EVの主流化は長期トレンドに
IEAが示すEVの長期見通し(2035年)
まずは長期見通しの前提と、最大の見出しを押さえましょう。EVの主流化が一段と進む姿が見えてきます。
2つの探索シナリオ(現行政策・表明政策)
IEAは、未来を一つに断定しません。複数のシナリオで「探索」します。本レポートの中心となるのが、2つの探索シナリオです。一つは、いま実施中の政策だけを前提とする「現行政策シナリオ(CPS)」。もう一つは、各国が表明済みの政策や目標も織り込む「表明政策シナリオ(STEPS)」です。
さらに、国際的な気候目標と整合する「ネットゼロ排出(NZE)シナリオ」もあります。本記事の数値は、特記がなければ探索シナリオ(CPS・STEPS)に基づくものです。複数の前提を比べることで、見通しの幅をつかめます。
新車シェアは2035年に約50%へ
最大の見出しは、シェアの伸びです。EVの価格競争力が高まり、CO2や燃費の基準も厳しくなることで、世界の新車販売に占めるEVのシェアは、2035年に約50%へ高まる見込みです。新車の2台に1台がEVになる、という水準です。
しかも、これは新たな政策が追加されなくても見込まれる姿だとされます。普及を後押しする力が、すでに政策と価格の両面で働いているのです。EVの主流化は、長期のトレンドとして定着しつつあります。
EV保有・販売シェアの見通し
保有台数とシェアは、どこまで伸びるのでしょうか。具体的な数値を見ていきましょう。
2035年のEV普及見通し(IEA)
新たな政策がなくても、主流化が進む
世界のEV保有
6倍超
2025年比。最大5.1億台へ(二輪・三輪を除く)
新車のEVシェア
約50%
2台に1台がEVに(2035年)
中国・欧州
9割超
東南アジアもシェア最大3倍に拡大
エンジン車の販売シェアは縮小が続き、2017年のピークには戻らない見通しです。
出典:IEA, Global EV Outlook 2026(CC BY 4.0)をもとにgreenote作成
保有は6倍超・最大5.1億台へ
台数の見通しも、力強いものです。IEAによると、新たな政策が追加されなくても、世界のEV保有台数は2025年の水準から6倍を超えて増えます。2035年には、電動二輪・三輪を除いて、最大5.1億台に達する見込みです。
走っているEVが、10年で一気に増える計算になります。価格競争力の向上と、各国の燃費・CO2基準の強化が、この拡大を支えます。
中国・欧州は9割超、東南アジアも急伸
地域ごとに見ると、その差は鮮明です。中国では、2035年に新車の9割超がEVになる見通しです。すでに2025年時点で、バッテリー式EVの約7割が平均的なエンジン車より安いとされ、価格面でEVが優位に立っています。
欧州も、CO2規制を背景に9割超に達するとされます。東南アジアでも、シェアは最大3倍に拡大する見込みです。なかでもベトナムは、域内最高の8割超に届く可能性があります。新興国を含め、EVシフトは世界中で進みます。
エンジン車は2017年のピークに戻らない
裏を返せば、エンジン車(ICE)の縮小です。IEAは、すべてのシナリオでICEの販売シェアが縮小を続けると見ています。そしてICEの販売台数は、2017年に記録したピークに、二度と戻らないと予測しました。
これは、市場の主役が静かに、しかし決定的に入れ替わりつつあることを意味します。EVへのシフトは、もはや後戻りしない流れだといえます。
石油需要への影響
EVの普及は、石油需要を大きく押し下げます。エネルギー安全保障に直結する数字です。
EVが代替する石油消費の拡大
日量・百万バレル(mb/d)
2030年に世界で約5mb/d(3倍)、2035年は約9〜10mb/d。うち約半分が中国です。
出典:IEA, Global EV Outlook 2026(CC BY 4.0)をもとにgreenote作成(CPS・STEPS)
2030年に世界で日量約500万バレルを代替
EVは、ガソリンや軽油の消費を直接減らします。IEAによると、2025年に世界のEVは日量約170万バレルの石油消費を回避しました。中国だけで約100万バレルにのぼり、これは中国の道路輸送の石油需要を約15%押し下げた計算です。
この代替量は、2030年に約3倍へと拡大します。世界で日量約500万バレルに達し、道路輸送の石油需要を約4400万バレル/日まで引き下げる見通しです。石油の輸入に頼る国にとって、EVは依存を減らす切り札になります。
2035年は約900〜1000万バレルに拡大
時間軸を2035年まで延ばすと、効果はさらに大きくなります。IEAの試算では、EVが代替する石油は、現行政策シナリオで日量約900万バレル、表明政策シナリオで約1000万バレルに達します。
参考までに、より野心的なネットゼロ排出シナリオでは、2035年に日量1500万バレル超もの石油需要が回避されるとされます。EVの普及ペースが、石油需要の行方を大きく左右するのです。
代替の半分は中国
地域別では、中国の存在感が際立ちます。2035年には、世界の石油代替量のうち約半分にあたる日量400万バレル超が、中国のEVによるものになる見通しです。
世界最大の石油輸入国である中国が、EVで需要を抑える。この構図は、世界のエネルギー地政学にも影響を与えます。EVの普及は、単なる環境対策を超えた意味を帯びています。脱炭素とエネルギーの全体像は、関連記事のWorld Energy Outlook 2025の要点|IEAが示す「電化の時代」もあわせてご覧ください。
電力需要への影響
EVが増えれば、電力需要も増えます。その規模と、系統への影響を整理します。
EVの電力需要の見通し
大きく増えるが、世界全体への影響は限定的
2025年
約250
TWh
2035年
1500超
TWh
それでも世界の総電力需要の増加は約4%にとどまります(欧州は+10%超、中国は+6%未満)。
出典:IEA, Global EV Outlook 2026(CC BY 4.0)をもとにgreenote作成(現行政策シナリオ)
2035年に1500TWh超(2025年の約6倍)
EVは電気で走るため、台数が増えれば電力需要も伸びます。IEAによると、世界のEVの電力消費は、2025年の約250TWhから、2035年には1500TWhを超えます。現行政策シナリオで約6倍、表明政策シナリオでは約1700TWhに達する見込みです。
一見すると、大きな増加に思えます。電力インフラへの影響を心配する声もあります。
それでも世界全体では電力需要の約4%増
ところが、世界全体で見ると、その影響は限定的です。EVによる電力消費の増加は、2035年の世界全体の電力需要を、約4%押し上げるにとどまるとされます。
つまり、EVの普及そのものが、ただちに電力不足を招くわけではありません。もちろん、地域や時間帯によっては備えが要りますが、世界全体としては吸収できる規模だといえます。
地域差と系統への備え
ただし、影響には地域差があります。欧州では、道路輸送のEVが2035年に電力需要を10%以上押し上げます。一方、中国では6%未満です。電力需要の伸びが大きい地域では、相応の対応が求められます。
鍵を握るのが、充電の工夫です。需要の少ない時間帯に充電をずらす「スマート充電」や、車から電力系統へ送電する「V2G」を使えば、ピーク需要をやわらげられます。再生可能エネルギーの活用とあわせ、EVを電力システムに上手に組み込むことが課題です。再エネ調達の基礎は、関連記事のRE100とは|再生可能エネルギー100%の仕組みもあわせてご覧ください。
企業・日本への示唆
この長期見通しは、企業の戦略にどう関わるのでしょうか。示唆を整理します。
不可逆な流れとしてのEVシフト
第一の示唆は、EVシフトが後戻りしない長期トレンドだということです。エンジン車が2017年のピークに戻らないという予測は、市場の構造変化を物語ります。自動車に関わる企業はもちろん、素材・部品・エネルギーまで、幅広い産業がこの前提で戦略を立てる必要があります。
短期の販売の増減に一喜一憂するのではなく、10年単位の構造変化を見据える。その視点が、長期見通しから得られる最大の学びです。
電力・インフラへの投資の必要性
第二に、電力とインフラの重要性です。EVの電力需要は世界全体では約4%増にとどまるとはいえ、充電インフラの整備や、再エネ電源の拡大、系統の柔軟性の確保は欠かせません。スマート充電やV2Gといった技術の普及も、これからの課題です。
EVの普及は、自動車産業だけの話ではありません。電力・エネルギー産業にとっても、大きな事業機会であり、備えるべき変化でもあります。
日本企業の立ち位置
第三に、日本企業の立ち位置です。世界のEV市場では、中国メーカーが大きな存在感を示しています。価格競争力やバッテリー供給網で、中国が先行しているのが現実です。日本企業にとっては、厳しい競争環境だといえます。
一方で、電池技術や充電インフラ、サプライチェーンには、まだ強みを発揮できる領域が残っています。長期トレンドを直視し、自社の強みをどこで生かすかを見極めることが問われています。脱炭素の全体像は脱炭素・カーボンニュートラルとは?完全ガイドもあわせてご覧ください。
まとめ|EVの主流化は長期トレンドに
Global EV Outlook 2026の長期見通しは、EVの主流化が一過性ではなく、長期のトレンドであることを、具体的な数字で示しました。最後に、要点を振り返りましょう。
- 新たな政策がなくても、世界のEV保有は2025年比で6倍超・最大5.1億台(2035年)に拡大
- 新車に占めるEVシェアは2035年に約50%へ。中国・欧州は9割超、東南アジアも急伸
- エンジン車の販売シェアは縮小が続き、2017年のピークには戻らない
- EVによる石油代替は2030年に世界で日量約500万バレル、2035年に約900〜1000万バレル(半分は中国)
- EVの電力需要は2035年に1500TWh超(約6倍)だが、世界の総電力需要の増加は約4%にとどまる
EVの主流化は、もはや「来るかどうか」ではなく、「どのくらいの速さで進むか」という段階に入りました。長期の構造変化を見据え、自社の事業をどう適応させるか。その問いに、いま向き合うことが求められています。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。
参考(出典):IEA「Global EV Outlook 2026」(IEA, CC BY 4.0)
出典・参考(一次情報)
※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年6月20日