ユニリーバ(Unilever)のESG経営を分析|Compassとネットゼロ2039

2026.07.17
サステナビリティ開示

ESG Company Analysis

消費財海外

朝、顔を洗う石けん。髪を洗うシャンプー。食卓の調味料。その多くを、たった一つの会社がつくっているかもしれません。ユニリーバ(Unilever)です。世界中の暮らしに入り込む消費財メーカーだからこそ、同社は早くから、サステナビリティを経営の中心に据えてきました。しかし近年、その姿勢には見直しもありました。本記事では、ユニリーバのESG経営を、Compass戦略とネットゼロ目標、そして2024年の目標見直しをめぐる議論まで、公式情報をもとに中立に分析します。

この記事の目次

01

ユニリーバのESG経営とは|サステナビリティを経営の中心に

まず、ユニリーバがどんな企業で、そのESG経営が何を大切にしてきたのかを整理しましょう。

暮らしのそばに、責任を

サステナビリティを、経営の中心に
気候ネットゼロをめざす
自然原材料を森林破壊のない形で調達
プラスチック容器包装を減らし循環させる
暮らし働く人々の生活を支える

世界的な消費財メーカーとして、生活に密着した課題に取り組む。

出典:Unileverの公表情報をもとにgreenote作成

世界的な消費財メーカー

ユニリーバは、イギリスに本拠を置く、世界有数の消費財メーカーです。石けんや洗剤、シャンプーなどのパーソナルケア、そして食品まで、多くの人が毎日使うブランドを、世界中で展開している。生活に密着した商品を、とてつもない量、扱う会社なのです。

だからこそ、その影響は広く、深いものになります。原材料の調達から製造、消費者による使用、そして廃棄まで、サプライチェーン全体での環境や社会への影響が、非常に大きくなるからです。この「影響の大きさ」こそが、ユニリーバがサステナビリティに本気で向き合ってきた理由になる。

サステナブル・リビング・プランからCompassへ

ユニリーバのESG経営には、長い歴史があります。その原点が、2010年から約10年間にわたって進められた、サステナブル・リビング・プラン(USLP)です。事業の成長と環境負荷を切り離すことなどをめざした、当時としては先進的な行動計画でした。

そして2020年、その後継として打ち出されたのが、Compass(コンパス)という新たな戦略になる。Compassの特徴は、サステナビリティを「社会貢献の付け足し」ではなく、事業戦略そのものに組み込んだ点にあります。気候、自然、プラスチック、暮らし。これらのテーマを、経営の羅針盤(コンパス)として位置づけました。サプライチェーンを通じた調達の考え方は、関連記事の責任ある調達とはもあわせてご覧ください。

02

Compass戦略とネットゼロ2039

現在のESG経営の軸となる「Compass」と、その中核にある気候の目標を見ていきます。

羅針盤が、示す先

Compass2020年に打ち出した、サステナビリティを事業戦略に組み込んだ統合的な経営戦略
気候の中核目標2039年に、バリューチェーン全体でネットゼロ

10年続いたサステナブル・リビング・プランの後継。

出典:Unileverの公表情報をもとにgreenote作成

Compass戦略の中核にあるのが、気候の目標です。ユニリーバは、2039年までに、バリューチェーン全体(Scope1〜3)でネットゼロを達成することを掲げている。多くの企業が2050年を期限とするなか、それより早い2039年を目指す、意欲的な目標になる。

自社の工場やオフィスだけでなく、原材料の調達から製品の使用まで、バリューチェーン全体を対象にしている点が重要です。消費財の排出は、その大半が自社の外、つまりサプライチェーンで生じるからです。この視野の広さが、Compass戦略の特徴を表している。脱炭素の全体像は、関連記事のネットゼロとはもあわせてご覧ください。

03

気候目標|Scope1・2を74%削減、2030年の中間目標

ユニリーバの気候目標と、その達成状況を確認しましょう。

進んだ実績と、次の一里塚

-74%
事業からの排出(Scope1・2)を2015年比で削減。多くは再生可能エネルギーへの切り替えによる
道筋気候移行行動計画(CTAP)を2021年に公表し、2024年3月に更新。2030年に向けた中間目標を設定

更新版は、2024年の株主総会で97%超の支持を得た。

出典:Unileverの公表情報をもとにgreenote作成

ユニリーバの気候目標は、着実に前へ進んできました。公表情報によれば、事業からの排出(Scope1・2)は、2015年比で74%削減したとされます。その多くは、工場やオフィスの電力を再生可能エネルギーへ切り替えたことによるものです。自社でできる削減を、まず大きく進めた形になります。

そして、2039年のネットゼロへ向けた道筋を示すのが、気候移行行動計画(CTAP)です。同社は2021年に初版を公表し、2024年3月に更新版を発表しました。この更新版は、2024年の株主総会で97%を超える株主の支持を得ています。更新版では、2030年に向けた中間目標も設定されました。長期の目標だけでなく、途中の一里塚を示す。この段階的なアプローチが、計画の実効性を支えます。サプライチェーン排出の考え方は、関連記事のScope3とはもあわせてご覧ください。

04

プラスチック・自然・暮らし|消費財ならではの重点課題

気候以外の、消費財メーカーならではの重点テーマを見ておきます。

気候の、その先へ

プラスチック容器包装を減らし、再生材を使い、回収・リサイクルの仕組みをつくる
自然パーム油などの原材料を、森林破壊のない形で調達する
暮らしサプライチェーンで働く人々の生活賃金や、小規模農家を支える

出典:Unileverの公表情報をもとにgreenote作成

ユニリーバの課題は、気候だけにとどまりません。消費財メーカーならではの、重いテーマがあります。第一が、プラスチックです。大量の容器包装を使うため、その削減や、再生材の利用、回収・リサイクルの仕組みづくりに取り組んでいる。使い捨てを減らし、資源を循環させる。この発想が土台にある。循環経済の考え方は、関連記事のサーキュラーエコノミーとはもあわせてご覧ください。

第二が、自然です。ユニリーバは、パーム油をはじめとする多くの農産物を原材料に使います。そのため、森林破壊のない形での調達(デフォレステーション・フリー)を重視している。第三が、暮らしです。サプライチェーンで働く人々の生活賃金の確保や、原材料を育てる小規模農家の支援などに取り組んできました。原材料の調達や人権への取り組みは、関連記事のビジネスと人権とはもあわせてご覧ください。

05

2024年の目標見直し|「野心」と「現実」をめぐる議論

近年、ユニリーバは一部の目標を見直し、賛否の両方を呼びました。

野心と、現実のあいだで

2024年:一部のサステナビリティ目標の水準や期限を見直し
実利的だとする見方より少なく焦点を絞った実現可能な約束に集中し、着実に成果を出す
後退だとする批判サステナビリティのリーダーからの後退だという指摘

野心と実現可能性の、どちらを重視するかという議論。

出典:Unileverの公表情報および公開報道をもとにgreenote作成

ここで、避けて通れない論点にふれておきます。2024年、ユニリーバは一部のサステナビリティ目標について、水準や期限を見直しました。かつて「サステナビリティのリーダー」と目されてきた企業だけに、この見直しは大きな注目を集めます。

見直しには、二つの見方があります。会社側は、達成が難しい多くの目標を掲げるよりも、より少なく、焦点を絞った、実現可能性の高い約束に集中する方が、着実に成果を出せると説明している。これを、地に足のついた実利的な判断だと評価する声があります。一方で、これを「サステナビリティの野心からの後退」だと批判する声も少なくありません。高い目標を下げること自体が、企業の姿勢の後退を示すという見方です。どちらが正しいと、簡単に断じることはできません。野心と実現可能性のどちらを重視するか。ユニリーバの見直しは、その難しい問いを、私たちに投げかけている。なお本記事は、特定の企業や投資を推奨するものではなく、経営判断の是非を断定するものでもありません。

06

まとめ|ユニリーバのESG経営から学べること

ユニリーバの歩みは、ESG経営の理想と、その実践の難しさを、あわせて映し出している。最後に、要点を振り返りましょう。

ユニリーバに学ぶ、3つの視点

戦略に組み込むサステナビリティを、事業戦略そのものに統合する
バリューチェーン全体で見る自社の外の排出まで対象にする
野心と現実のバランス高い目標と着実な達成を、どう両立するか

出典:Unileverの公表情報をもとにgreenote作成

ユニリーバのESG経営を振り返ると、いくつもの学びが見えてきます。

  • 世界的な消費財メーカー。影響の大きさゆえ、早くからサステナビリティを経営の中心に据えてきた
  • 2010年からのサステナブル・リビング・プランを経て、2020年にCompass戦略へ。事業戦略に統合
  • 気候では2039年にバリューチェーン全体ネットゼロ。Scope1・2は2015年比で74%削減
  • 気候以外にも、プラスチック・自然(森林破壊のない調達)・暮らし(生活賃金)という重点課題に取り組む
  • 2024年に一部目標を見直し。実利的だとする評価と、後退だとする批判の両方がある

ユニリーバから学べるのは、サステナビリティを戦略に組み込む先進性と、それを実践し続けることの難しさの両方です。かつてESG経営の旗手とされた企業でさえ、野心と現実のバランスに悩みます。大切なのは、目標をどう設定し、状況に応じてどう見直し、それをどう誠実に説明するか。ユニリーバの葛藤は、多くの企業がこれから向き合う課題を、先取りして見せてくれています。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。

FAQ

よくある質問(FAQ)

Q. ユニリーバ(Unilever)とはどんな企業ですか?

ユニリーバは、イギリスに本拠を置く、世界有数の消費財(日用品・食品)メーカーです。石けんや洗剤、パーソナルケア、食品など、多くの人が毎日使うブランドを世界中で展開しています。生活に密着した商品を大量に扱うため、原材料の調達から製造、使用、廃棄まで、サプライチェーン全体の環境・社会への影響が大きく、早くからサステナビリティを経営の中心に据えてきたことで知られます。

Q. サステナブル・リビング・プランとCompassの関係は何ですか?

サステナブル・リビング・プラン(USLP)は、ユニリーバが2010年から約10年間進めた、サステナビリティの行動計画です。事業の成長と環境負荷の切り離しなどをめざしました。その後継として2020年に打ち出されたのが、Compass(コンパス)です。Compassは、サステナビリティを事業戦略そのものに組み込んだ統合的な経営戦略で、気候・自然・プラスチック・暮らしといったテーマにさらに踏み込んでいます。

Q. ユニリーバのネットゼロ目標はどうなっていますか?

ユニリーバは、2039年までにバリューチェーン全体(Scope1〜3)でネットゼロを達成することを目標に掲げています。その道筋を示すのが、気候移行行動計画(CTAP)です。2021年に初版を公表し、2024年3月に更新版を発表しました。更新版は2024年の株主総会で97%超の株主の支持を得ています。公表情報によれば、事業からの排出(Scope1・2)は2015年比で74%削減したとされ、その多くは再生可能エネルギーへの切り替えによるものです。

Q. ユニリーバは気候以外にどんな環境・社会課題に取り組んでいますか?

消費財メーカーとして、プラスチック、自然、暮らしが重点テーマになっています。プラスチックでは、容器包装の削減や再生材の利用、回収・リサイクルの仕組みづくりを進めています。自然では、パーム油などの原材料を森林破壊のない形で調達すること(デフォレステーション・フリー)を重視しています。暮らしでは、サプライチェーンで働く人々の生活賃金の確保や、小規模農家の支援などに取り組んでいます。

Q. ユニリーバはなぜ2024年に目標を見直したのですか?

2024年、ユニリーバは一部のサステナビリティ目標について、水準や期限を見直しました。会社側は、達成が難しい多くの目標を掲げるよりも、より少なく、焦点を絞った、実現可能性の高い約束に集中する方が、着実に成果を出せるという考えを示しています。一方で、これを「サステナビリティのリーダーからの後退だ」と批判する声もあります。実利を重視する姿勢と、野心の後退という見方の、両方の評価があるのが実情です。

Q. ユニリーバのESG経営から学べることは何ですか?

大きく2つあります。1つ目は、サステナビリティを社会貢献の付け足しではなく、事業戦略そのものに組み込んできた点です。2つ目は、高い目標を掲げることと、それを現実に達成し続けることのバランスの難しさです。ユニリーバの2024年の見直しは、野心と実現可能性のどちらを重視するかという、多くの企業が直面する葛藤を象徴しています。目標をどう設定し、どう見直し、どう説明するか。その姿勢自体が問われることを示しています。

Sources

出典・参考(一次情報)

※ 本記事は上記の一次情報および公開報道をもとにgreenote編集部が整理しています。企業評価や投資判断を目的とするものではありません。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

編集責任

greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年7月17日

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