電気やガソリンを使えば、その「燃やした分」の排出は把握できます。しかし、その燃料が採掘・生産・輸送されるまでにも、CO2は出ています。このエネルギーの「上流」の排出を計上するのが、Scope3カテゴリ3「燃料・エネルギー関連活動」です。Scope1・2のデータを土台にできるため、比較的取り組みやすいカテゴリでもあります。本記事では、Scope3カテゴリ1・カテゴリ4に続き、カテゴリ3の構成要素と計算ステップを、環境省グリーン・バリューチェーンプラットフォームやGHGプロトコルの一次情報をもとに、実務目線で解説します。
≡この記事の目次
- 1Scope3カテゴリ3(燃料・エネルギー関連活動)とは
- ►カテゴリ3に含まれるもの
- ►なぜ見落とされやすいのか
- 24つの構成要素
- ►購入燃料のWTTと購入電力の上流
- ►送配電ロスと電力の再販
- 3基本の考え方――Scope1・2の消費量に上流係数を掛ける
- ►Scope1・2のデータを土台にする
- ►二重計上に注意する
- 4計算ステップ
- ►燃料のWTT・電力の上流を計算する
- ►送配電ロスを加える
- 5データはどこから取るのか
- ►Scope1・2の消費量データ
- ►上流(WTT)・送配電ロスの排出係数
- 6CDP回答・開示での実務ポイント
- ►算定方法と係数の記載・重複の説明
- ►実務で多い方法と現実的な進め方
- 7カテゴリ3の算定をどう進めるか
- 8出典・参考(一次情報)
Scope3カテゴリ3(燃料・エネルギー関連活動)とは
まず、カテゴリ3が何を対象とするのかを整理します。「使ったエネルギーの、さらに上流で出る排出」という発想から入りましょう。
カテゴリ3に含まれるもの
カテゴリ3「燃料・エネルギー関連活動」とは、報告年に購入・取得した燃料や電力に関わる排出のうち、Scope1やScope2には含まれないものを指します。少しわかりにくいので、順に整理しましょう。自社が燃料を燃やせば、その排出はScope1。購入した電力を使えば、その排出はScope2に計上されます。カテゴリ3が扱うのは、それらの「さらに上流」の排出です。
たとえば、ガソリンを1リットル買うと、その燃焼分はScope1に入る。けれど、そのガソリンが原油の採掘から精製、輸送を経て手元に届くまでにも、別のCO2が出ています。この上流分は、Scope1にも2にも入りません。「使う手前」で、すでに発生していた排出を拾うのが、カテゴリ3なのです。Scope3とはの15カテゴリのなかでも、少し独特な位置づけです。
なぜ見落とされやすいのか
カテゴリ3は、見落とされやすいカテゴリでもあります。理由は、その排出が目に見えにくいからです。自社の煙突から出る排出(Scope1)や、電気の使用(Scope2)は意識しやすい。しかし、「買った燃料が作られるまでの排出」は、他社の敷地で、過去に起きた排出であり、実感がわきにくいのです。
しかし、エネルギーを多く使う事業では、この上流分も無視できない量になります。しかも後で見るように、カテゴリ3はScope1・2の消費量データを流用できるため、算定のハードルは比較的低い。「見えにくいが、取り組みやすい」——。この特徴を理解すると、カテゴリ3は着手しやすいカテゴリだとわかります。
4つの構成要素
カテゴリ3は、いくつかの要素の集まりです。代表的な4つに分けて整理します。
カテゴリ3の4つの構成要素
購入燃料の上流(WTT)
購入した燃料の採掘・生産・輸送に伴う排出。Well-to-Tank。
購入電力の上流
購入電力を発電するための燃料の採掘・生産などの上流排出。
送配電ロス
送配電の過程で失われる電力に伴う排出。
電力の再販
電力を購入して他者に再販する事業者の場合の再販分。
いずれもScope1(燃料の燃焼)やScope2(電力の使用)には含まれない上流側の排出。二重計上を避けて計上する。
出典:GHGプロトコル・環境省の公開情報をもとにgreenote作成
購入燃料のWTTと購入電力の上流
カテゴリ3の中心が、エネルギーの「上流」排出です。第一が、購入した燃料の上流排出。買った燃料が、採掘・生産・輸送されて手元に届くまでに出る排出で、これをWTT(Well-to-Tank、井戸からタンクまで)と呼びます。燃料を燃やす排出(Tank-to-Wheelなど)はScope1ですが、その手前のWTTがカテゴリ3です。
第二が、購入した電力の上流排出です。電力そのものの使用はScope2ですが、その電気を発電するための燃料(石炭やガスなど)を採掘・生産する段階の排出は、Scope2に含まれません。この発電の上流分を、カテゴリ3で拾います。いずれも、「エネルギーを使う手前」で発生していた排出を対象にする、という点で共通しています。
送配電ロスと電力の再販
第三の要素が、送配電ロスです。発電所で作られた電気は、送電線・配電線を通って届くあいだに、一部が失われます(ロス)。この失われた電力を作るためにも、当然CO2は出ている。自社が使った電力に対応する送配電ロス分の排出を、カテゴリ3で計上します。
第四が、電力の再販です。これは、電力を購入して他者に売る(再販する)事業者に関係する要素で、一般の事業会社では該当しないことが多い。以上の4つが、カテゴリ3の主な構成要素です。多くの企業にとって実務上重要なのは、購入燃料のWTT・購入電力の上流・送配電ロスの3つになります。
基本の考え方――Scope1・2の消費量に上流係数を掛ける
カテゴリ3のよいところは、すでに持っているデータを活用できる点です。基本の考え方を見ていきます。
Scope1・2のデータを、そのまま活かせる
Scope1
燃料の消費量
Scope2
電力の消費量
Scope1・2で把握済みの消費量に係数を掛けるだけ。だから比較的取り組みやすい。ただしScope1・2と重複させないよう注意する。
出典:GHGプロトコル・環境省の公開情報をもとにgreenote作成
Scope1・2のデータを土台にする
カテゴリ3の算定が比較的取り組みやすいのは、Scope1・2で把握済みのデータを、そのまま土台にできるからです。Scope1を算定していれば、燃料ごとの消費量は分かっている。Scope2を算定していれば、電力の消費量も分かっている。カテゴリ3は、このすでにある消費量の数字に、上流や送配電ロスの排出係数を掛けるだけで、大枠が求まります。
つまり、新たに膨大な活動量を集める必要は、基本的にありません。カテゴリ1(購入した製品・サービス)が数千の品目と格闘するのに比べ、カテゴリ3はデータの土台がすでにある。この点が、多くの企業にとって「着手しやすいカテゴリ」とされる理由です。まずScope1・2を固め、その延長でカテゴリ3に進む、という流れが自然です。
二重計上に注意する
一方で、カテゴリ3で最も注意すべきなのが、二重計上(ダブルカウント)を避けることです。カテゴリ3が対象とするのは、あくまでScope1・2に含まれない「上流側」の排出です。自社が燃料を燃やした排出(Scope1)や、電力を使った排出(Scope2)を、カテゴリ3にもう一度入れてしまってはいけません。
境界を明確にするのが肝心です。燃料なら、「燃やした分」はScope1、「作られるまで(WTT)」はカテゴリ3。電力なら、「使った分」はScope2、「発電の上流と送配電ロス」はカテゴリ3。この線引きを意識すれば、重複なく、漏れなく計上できます。使う排出係数が、上流分だけを表すものか(Scope1・2分を含まないか)を確認することも大切です。
計算ステップ
実際の計算は、要素ごとに掛け算を積み上げるだけです。手順を見ていきます。
要素ごとに掛け算を積み上げる
① 購入燃料の上流
燃料の消費量 × 上流(WTT)の排出係数
② 購入電力の上流
電力の消費量 × 発電の上流に対応する排出係数
③ 送配電ロス
電力の消費量 × 送配電ロス率 × 電力の排出係数
Scope1・2で把握済みの消費量に、上流・送配電ロスの係数を掛けて足し合わせる。
出典:GHGプロトコル・環境省の公開情報をもとにgreenote作成
燃料のWTT・電力の上流を計算する
計算は、構成要素ごとに進めます。まず、購入燃料の上流(WTT)。Scope1で把握した燃料の消費量に、上流(WTT)の排出係数を掛ける——これが基本式です。燃料の種類(軽油・ガソリン・ガスなど)ごとに、対応する上流係数を掛けて合算します。
次に、購入電力の上流。Scope2で把握した電力の消費量に、発電の上流に対応する排出係数を掛ける。石炭やガスなど、電気を作るための燃料が、採掘・生産される段階の排出を捉えます。どちらも、「消費量 × 上流係数」というシンプルな掛け算です。すでにある消費量を使うので、計算そのものは複雑ではありません。
送配電ロスを加える
最後に、送配電ロスを加えます。これは、電力の消費量に、送配電ロス率を掛け、さらに電力の排出係数を掛けるという形になります。たとえば、使った電力に対して数%のロスがあると想定し、その失われた電力分の排出を計上する、というイメージです(ロス率は地域や年度で異なり、公表値を用います)。
これら3つ(燃料の上流・電力の上流・送配電ロス)を足し合わせれば、カテゴリ3の排出量が求まります。要素の掛け算を積み上げるだけなので、手順は明快です。大切なのは、前述のとおり、それぞれの係数が「上流分」だけを表すものであることを確認し、Scope1・2と重複させないことです。
データはどこから取るのか
カテゴリ3の算定に使う、消費量や上流排出係数などのデータの入手先を整理します。
使うデータはどこから
Scope1・2の消費量データ
すでに算定しているScope1の燃料消費量、Scope2の電力消費量をそのまま使う。新規収集はほぼ不要。
上流・送配電ロスの排出係数
WTTや送配電ロスの係数。環境省のグリーン・バリューチェーンプラットフォームの排出原単位DBや各国の公表値。
消費量は自社のScope1・2データ、係数は公的な根拠。上流分だけを表す係数かを確認し、出典と版を記録する。
出典:環境省・GHGプロトコルの公開情報をもとにgreenote作成
Scope1・2の消費量データ
カテゴリ3のデータの土台は、自社のScope1・2の消費量データです。Scope1で集計した燃料ごとの消費量、Scope2で集計した電力の消費量が、そのまま活動量になります。すでに算定しているなら、新たなデータ収集はほとんど必要ありません。カテゴリ3が「取り組みやすい」とされる、最大の理由がここにあります。
裏を返せば、Scope1・2の精度が、そのままカテゴリ3の精度を左右するということです。燃料や電力の消費量が正確に把握できていれば、カテゴリ3も正確になる。まずはScope1・2をしっかり固めることが、カテゴリ3の土台づくりでもあるのです。
上流(WTT)・送配電ロスの排出係数
消費量に掛ける、上流(WTT)や送配電ロスの排出係数は、公的なデータベースから入手します。日本では、環境省がグリーン・バリューチェーンプラットフォームで公開する排出原単位データベースに、燃料や電力の上流に対応する原単位が示されています。海外分は、各国や国際機関の公表する係数を用います。
ここで重要なのが、その係数が「上流分」を表すものかを確認することです。係数によっては、燃焼分(Scope1)まで含んだものもあるため、カテゴリ3では上流分だけの係数を選ぶ必要があります。方法論はGHGプロトコルのScope 3 Standardに沿い、使った係数の出典と版を必ず記録しておきます。
CDP回答・開示での実務ポイント
算定結果を、CDPなどでどう開示するか。カテゴリ3の押さえどころを整理します。
カテゴリ3の開示で押さえること
算定方法と係数を記載する
平均データ法・燃料ベース法などの方法と、使った上流・送配電ロスの排出係数の出典・版を記す
Scope1・2との重複を説明する
Scope1・2に含まれない上流分だけを計上していることを説明欄で示す
含めた構成要素を明確に
燃料の上流・電力の上流・送配電ロスのどれを含めたかを明確にする
Scope1・2との境界と、含めた要素を説明できることが信頼性につながる。
出典:CDP・GHGプロトコルの公開情報をもとにgreenote作成
算定方法と係数の記載・重複の説明
カテゴリ3をCDPとはなどで開示する際は、他のカテゴリと同様に、評価ステータス・排出量・算定方法を記します。カテゴリ3でとくに説明したいのが、使った排出係数(上流・送配電ロスの係数とその出典・版)と、Scope1・2との重複をどう避けたかです。上流分だけを計上していることを、説明欄で明確に示すと、算定の信頼性が高まります。
あわせて、どの構成要素を含めたかも記載します。購入燃料の上流・購入電力の上流・送配電ロスのうち、どれを計上したのか。該当しない要素(電力の再販など)は含めていないことも、あわせて説明できると親切です。境界の明快さが、カテゴリ3の開示では特に問われます。
実務で多い方法と現実的な進め方
CDPに開示された算定方法を見ると、カテゴリ3では平均データ法や燃料ベース法が中心です。Scope1・2の消費量に係数を掛ける構造上、サプライヤーからの一次データの比率は総じて低く、二次データ(公表係数)を土台に算定するのが一般的です。これはカテゴリ3の性質上、自然なことだといえます。
現実的な進め方は、Scope1・2の算定が固まった段階で、その延長として取り組むことです。消費量データはすでにあるので、適切な上流・送配電ロスの係数を選んで掛けるだけで、比較的短期間に算定できます。Scope3の全体像をつかむうえで、早い段階で押さえておきたいカテゴリの一つです。省エネ(燃料・電力の使用削減)は、Scope1・2だけでなくカテゴリ3も同時に減らす効果があります。
カテゴリ3の算定をどう進めるか
Scope3カテゴリ3(燃料・エネルギー関連活動)は、購入した燃料・電力に関わる排出のうち、Scope1・2に含まれない上流側を計上するものです。購入燃料の上流(WTT)・購入電力の上流・送配電ロス・電力の再販という要素からなり、基本は「Scope1・2の消費量×上流・送配電ロスの係数」で求めます。すでにあるデータを活かせるため、比較的取り組みやすい一方、Scope1・2との二重計上を避けることが最大の注意点です。
大切なのは、Scope1・2を土台に、その延長として着実に押さえることです。膨大な新規データを要しないため、Scope3算定の早い段階で取り組みやすい。省エネがそのまま削減につながる点でも、意義の大きいカテゴリです。Scope3の全体像はScope3とは、関連の深いカテゴリはカテゴリ1(購入した製品・サービス)やカテゴリ4(輸送・配送 上流)もあわせてご覧ください。ESGの全体像はESG完全ガイドもどうぞ。
使ったエネルギーの、さらにその手前にある排出。カテゴリ3の算定は、Scope1・2の延長線上で、サプライチェーンの排出をより正確に描くための一歩です。なお本記事は、環境省・GHGプロトコルなどの公開情報をもとに算定の考え方を整理したものであり、特定のツールや製品を推奨するものではありません。係数や制度は変わりうるため、算定時は最新の一次情報をご確認ください。
無料ダウンロード:Scope3 簡易算定テンプレート
カテゴリ別の算定を、手を動かして進めたい方へ。15カテゴリを一覧で整理し、「活動量 × 排出原単位」で排出量を自動計算できる入力シートを無料で配布しています(会員登録不要)。この記事で解説した算定手順を、そのままシートに落とし込めます。
よくある質問(FAQ)
Q. Scope3カテゴリ3(燃料・エネルギー関連活動)には何が含まれますか?
A. 購入した燃料や電力に関わる排出のうち、Scope1(自社の燃料燃焼)やScope2(購入電力の使用)には含まれない『上流側』の排出が対象です。具体的には、購入した燃料の採掘・生産・輸送に伴う排出(WTT)、購入電力を発電するための燃料の上流排出、送配電の過程で失われる電力(送配電ロス)に伴う排出、電力を再販する場合の再販分などです。Scope1・2で計上済みの燃焼・使用そのものは含めず、二重計上を避けます。
Q. カテゴリ3はどうやって計算しますか?
A. 多くの場合、Scope1・2で把握済みの燃料・電力の消費量を土台に、それぞれ上流や送配電ロスの排出係数を掛けて求めます。たとえば購入燃料は『燃料消費量×上流(WTT)の排出係数』、購入電力の上流は『電力消費量×発電の上流に対応する係数』、送配電ロスは『電力消費量×送配電ロス率×電力の排出係数』です。すでにあるScope1・2のデータを活用できるため、比較的取り組みやすいカテゴリです。
Q. カテゴリ3で気をつけることは何ですか?
A. 最大の注意点は『二重計上を避ける』ことです。自社が燃料を燃やす排出はScope1、購入電力の使用はScope2にすでに計上されているため、カテゴリ3ではそれらと重複しない上流側だけを対象にします。また、使う上流(WTT)や送配電ロスの排出係数によって結果が変わるため、出典と版(バージョン)を記録しておくことが大切です。本記事は特定のツールや製品を推奨するものではありません。
出典・参考(一次情報)
- 環境省「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム(サプライチェーン排出量の算定・排出原単位データベース)」
- 環境省「サプライチェーン排出量の算定方法」
- GHG Protocol「Corporate Value Chain (Scope 3) Standard」
最終更新日:2026年7月3日
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。