サプライヤー行動規範とは|盛り込む項目と作り方・運用までを解説

2026.09.02
ESG開示

「取引先からサプライヤー行動規範への同意を求められた」「自社でも作れと言われたが、何を書けばいいのかわからない」。調達やサステナビリティの担当になると、必ず一度は通る場所です。

サプライヤー行動規範とは、自社が取引先に守ってほしい人権・労働・環境・倫理の基準をまとめて明示した文書です。英語ではSupplier Code of Conductと呼ばれます。ポイントは、これが作って配るだけでは機能しない文書だという点です。契約に組み込み、順守状況を確認し、問題が出たときに是正まで回して初めて意味を持ちます。

この記事では、依拠すべき国際基準、盛り込む項目の標準形、作り方の手順、そして配ったあとの運用までを実務目線で整理します。

※制度・ガイドラインは改定されます。本記事は公表情報(2026年9月時点)に基づく解説です。

この記事の目次

サプライヤー行動規範とは

サプライヤー行動規範は、取引先に向けた要求事項の一覧です。人権や労働、環境、腐敗防止といった分野ごとに、「これは禁止」「これは求める」という水準を書き並べます。

多くの企業では、自社サイトで公開し、新規取引の開始時や契約更新時に同意を求める運用にしています。取引先から見れば、その会社と取引を続けるための条件にあたる文書です。

なぜ必要になったのか

背景は2つあります。ひとつは規制です。EUではCSDDD(サステナビリティ・デューデリジェンス指令)のように、サプライチェーン上の人権・環境リスクへの対応を企業に義務づける動きが進みました。義務を負った企業は、取引先に同じ要求を伝えるしかありません。結果として、規制の宛先でない日本企業にも取引条件として届きます。

もうひとつは日本国内の整備です。2022年9月、日本政府は「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定しました。国連指導原則、OECD多国籍企業行動指針、ILO多国籍企業宣言といった国際スタンダードに則った内容で、企業向けに具体例が付いています。さらに2025年12月には「ビジネスと人権」に関する行動計画が改定されており、国内でも「取り組んでいるか」を問われる下地ができています。

調達方針との違い

混同されやすいのが調達方針です。違いは主語にあります。

調達方針は自社の姿勢を示す文書で、「当社はこういう考え方で調達を行う」と宣言します。対してサプライヤー行動規範は取引先に求める基準で、「貴社にはこれを守っていただく」と書きます。

方針だけを掲げて規範がない状態は珍しくありません。その場合、取引先には考え方は伝わるが、具体的に何をすればよいかが伝わりません。調達の全体像は責任ある調達の記事で整理しています。

何を根拠に作るのか|依拠すべき4つの基準

行動規範は独自に発明するものではありません。国際的に確立した基準を土台にするのが前提で、そうしないと取引先や投資家から見て根拠のない要求になります。

国連指導原則(UNGP)

国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」(UNGP)は、この分野のすべての出発点です。企業には人権を尊重する責任があるとし、そのために人権デューデリジェンス(影響の特定、防止・軽減、追跡、情報開示)を行うことを求めています。

行動規範はこのうち「防止」の道具にあたります。進め方の全体像は人権デューデリジェンスで解説しています。

ILOの中核的労働基準|4分野8条約から5分野10条約へ

労働分野の最低線はILOの中核的労働基準です。ここは2022年に内容が変わったので、古い規範をそのまま流用している場合は要注意です。

1998年の宣言では、結社の自由と団体交渉権、強制労働の禁止、児童労働の撤廃、雇用及び職業における差別の排除という4分野8条約が中核でした。2022年6月10日の第110回ILO総会で決議が採択され、これに「安全で健康的な労働環境」が加わって5分野10条約になりました。追加されたのは第155号条約と第187号条約で、決議は即時発効しています。

実務上の意味は明快です。行動規範の労働セクションは、この5分野を漏らさないのが最低線になります。労働安全衛生を「あれば書く」項目として扱っていた規範は、現在の基準では不足しているという整理になります。なお加盟国は条約を批准していなくても、これらの原則を尊重・促進・実現する義務を負います。

OECD多国籍企業行動指針と国連グローバル・コンパクト

OECD多国籍企業行動指針は、人権に加えて環境、腐敗防止、消費者利益、情報開示など幅広い分野を扱います。国連グローバル・コンパクトの10原則は、人権2・労働4・環境3・腐敗防止1という構成で、行動規範の章立てをそのまま借りられる使いやすさがあります。

日本政府のガイドラインと実務参照資料

日本企業にとって実務的にいちばん使えるのが、前述の政府ガイドラインと、それを補う実務参照資料です。実務参照資料は2023年4月に経済産業省が公表したもので、これまで人権尊重の取組を本格的に行っていなかった企業や中小企業がガイドラインに沿って進めやすくなるよう作られています。

特に有用なのは別添のExcel作業シートです。リスクの洗い出しを埋めながら進められる形になっているので、「何から手をつけるか」で止まっている場合の出発点になります。英語・ベトナム語・タイ語の仮訳版もあり、海外の取引先に説明する場面でも使えます。

盛り込む項目|章立ての標準形

章立ては業種を問わずおおむね共通しています。以下は標準的な構成です。自社に関係のない項目を削るより、まず網羅してから絞るほうが漏れが出ません。

分野盛り込む主な項目主な根拠
人権強制労働の禁止、児童労働の禁止、人身取引の禁止、差別の禁止、ハラスメントの禁止、地域社会・先住民の権利国連指導原則、ILO中核的労働基準
労働結社の自由と団体交渉権、労働時間と休日、賃金(最低賃金・時間外割増)、安全で健康的な労働環境、外国人労働者の取扱いILO中核的労働基準(5分野)
環境環境法令の順守、化学物質の管理、廃棄物・排水・大気、温室効果ガスの把握と削減、水資源、生物多様性、森林破壊の回避各国環境法、EUDRなど品目規制
倫理腐敗防止・贈収賄の禁止、公正な競争、利益相反、知的財産の尊重、情報セキュリティと個人情報、責任ある鉱物調達国連グローバル・コンパクト第10原則ほか
管理体制方針の明文化、責任者の指定、従業員教育、記録の保持、是正の仕組み、通報窓口、二次以降の取引先への展開国連指導原則(デューデリジェンス)
協力事項情報提供への協力、質問票への回答、訪問や監査の受け入れ、重大事案の報告買い手側の確認手段の確保

※業界共通の規範がある業種(電子機器・自動車など)では、そちらの章立てに寄せると取引先の負担が下がります。

環境分野では、温室効果ガスの把握と削減を入れる企業が増えています。取引先に排出量データの提供を求めるなら、その根拠として規範に書いておくと話が通りやすくなります。森林破壊の回避はEUDR(森林破壊防止規則)の対象品目を扱う場合には必須の項目です。

人権分野で最も厳しく見られるのは強制労働です。各国の輸入規制と直結しているため、禁止の明記だけでなく、確認の方法まで踏み込むのが近年の傾向です。規制の状況は強制労働・現代奴隷で扱っています。

🌱 あわせて読む。
鉱物までさかのぼる要求への対応 → 紛争鉱物とは|3TGとCMRT対応の実務

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作り方の手順|5つのステップ

すでにある文書を棚卸しする

調達方針、CSR調達ガイドライン、契約書の既存条項、取引先に配っている覚書。ゼロから書き始める前に、いま何を求めているかを集めるのが最初です。重複や矛盾もここで見つかります。

依拠する基準を決める

国連指導原則とILOの5分野、日本政府のガイドラインを土台に置きます。業界共通の規範があるなら、独自に書くより既存の章立てに合わせるほうが実務が回ります。

自社の重点リスクを織り込む

原材料、生産国、業種によってリスクは違います。一次産品を扱うなら森林破壊や土地の権利、労働集約的な製造なら労働時間や外国人労働者。汎用の規範に自社固有の項目を足すと実効性が上がります。

判定できる言葉に直す

「努める」「配慮する」ばかりでは、守られているかを確認できません。禁止・要求・推奨を書き分けること。推奨にとどめる項目があっても構いませんが、どちらなのかを明示します。

承認して、相手の言語で配る

経営レベルで承認し、対外文書として公開します。海外の取引先がある場合、英語だけでなく実際に使われている言語版を用意しないと読まれずに終わります。

配って終わりにしない|運用の3点

ここが本題です。行動規範は作った時点では何の効果もありません。運用に載せる3点を最初から設計しておく必要があります。

① 契約に組み込む

配布や公開だけでは、守らなくても契約上は何も起きません。新規取引では契約時に同意を取り、既存取引では更新のタイミングで組み込みます。CSDDDのような規制が動いたあと、契約条項として求める形が実務の標準になってきています。

条項の書き方には幅があります。順守の確約だけを求める形、違反時の是正義務まで書く形、重大な違反を解除事由にする形。厳しくするほど取引先の抵抗も強くなるので、取引の重要度とリスクの大きさで書き分けるのが現実的です。

② 順守状況を確認する

確認の方法は3段階で考えると整理できます。自己評価票への回答、第三者評価の結果の共有、そして必要な場合の現地確認です。

全取引先に一律で同じ確認をかけるのは、コストの面でも相手の負担の面でも続きません。取引額、生産国、業種のリスクで優先順位をつけるのが原則です。第三者評価ではEcoVadisのような共通の評価基盤を使う企業が増えていて、取引先が既に評価を受けていれば、その結果を共有してもらう形で確認を省けます。

③ 是正と対話の道筋を決めておく

問題が見つかったときの手順を先に決めておきます。これがないと、報告を受けた側が動けません。

国連指導原則の考え方では、取引の停止は最後の手段です。関係を切れば問題は自社の視界から消えますが、現地の状況が改善するとは限らず、悪化することもあります。期限を切った是正計画を求め、進捗を確認し、改善の意思が見られない場合に初めて取引の見直しを検討する、という順序になります。

あわせて、取引先の従業員が声を上げられる通報の経路を規範の中で求めておくと、問題の把握が早くなります。

求められた側はどうするか|同意を迫られたときの確認点

ここまでは求める側の話でしたが、読者の多くは求められる側でもあります。取引先から規範への同意を求められたとき、そのまま署名して終わらせると後で困る場面があります。確認すべきことは3つです。

ひとつ目は自社の実態と乖離がないかです。労働時間の上限、通報窓口の設置、二次サプライヤーへの展開など、同意すれば「守っている」と表明したことになります。現状できていない項目があるなら、署名の前に社内で把握しておく必要があります。

ふたつ目はできない項目があるときの伝え方です。黙って署名して後から発覚するより、「この項目は現時点で未整備だが、いつまでにこう対応する」と先に伝えたほうが取引関係は傷みません。買い手側も是正を前提に運用しているので、未整備の申告そのものが取引の打ち切り理由になることは通常ありません。

みっつ目は誰が承認するかです。規範への同意は事実上の契約上の約束になるため、調達担当者の判断だけで返すべき文書ではありません。法務と人事、必要なら経営レベルの確認を通す社内手順を決めておくと、次に別の取引先から同じ依頼が来たときに速く回せます。

なお、同じ内容を繰り返し問われるのが実情なので、一度整えた回答と根拠資料はまとめて保管しておくと効きます。第三者評価を受けていれば、その結果の共有で個別対応を省ける場合もあります。

よくある5つの失敗

① 英文をそのまま配る

現場の担当者が読めない言語で配れば、内容は伝わりません。規範は読ませて守らせる文書なので、翻訳は形式ではなく実効性の問題です。

② 「努める」だけで判定できない

確認の段になって、順守しているかを誰も判断できなくなります。禁止事項は禁止と書きます。

③ 契約に紐づいていない

配布だけでは、守らなくても契約上は何も起きません。同意の取得か契約条項への組み込みがないと、規範は掲示物で終わります。

④ 一次サプライヤーで止まる

重大な人権・環境リスクは、二次以降や原材料の段階に多く潜みます。「取引先にも同じ要求を伝えること」を規範の中で求めるのが定石です。

⑤ 是正の道筋がない

問題が見つかったときの手順を決めていないと、報告を受けた側が動けず、結果として「見ないことにする」圧力がかかります。

まとめ|文書ではなく運用が本体

サプライヤー行動規範は、取引先に守ってほしい基準を明示する文書です。土台には国連指導原則とILOの中核的労働基準、そして日本政府のガイドラインを置きます。労働分野は2022年に5分野10条約へ変わったので、古い規範を流用している場合は労働安全衛生の項目を確認してください。

章立ては人権・労働・環境・倫理・管理体制・協力事項が標準形です。書くときは「努める」で濁さず、禁止と要求と推奨を書き分けること。相手の言語で配ることも、形式ではなく実効性の問題です。

そして最も大事なのは、作ったあとに契約・確認・是正の3点を回すことです。規範があるかどうかではなく、それが運用されているかを問われます。着手で止まっている場合は、経済産業省の実務参照資料と作業シートから始めるのが最も抵抗が少ない入口になります。

よくある質問(FAQ)

Q. 調達方針とサプライヤー行動規範は、両方必要ですか?

A. 役割が違うので、両方あるのが自然です。調達方針は自社の姿勢を示す文書で、主語は自社です。サプライヤー行動規範は取引先に守ってほしい基準を示す文書で、主語は相手です。方針だけがある状態では「考え方はわかるが、うちは何をすればいいのか」が伝わりません。逆に規範だけでは、自社がなぜそれを求めるのかの説明が抜けます。

Q. 中小企業でも作る必要がありますか?

A. 取引先から求められる立場であっても、自社が買う側でもある場合は必要になります。規制やガイドラインはサプライチェーンの連鎖として要求が流れる設計なので、「うちは規模が小さいから対象外」という線引きは働きません。ただし大企業と同じ分量は要りません。経済産業省が2023年4月に公表した実務参照資料にはExcelの作業シートまで付いているので、これまで着手していなかった企業はここから始めるのが早道です。

Q. どこまでのサプライヤーに適用しますか?

A. 適用範囲は「直接取引のある一次サプライヤー」から始めるのが一般的です。ただし重大なリスクは二次以降や原材料の段階に潜むことが多いため、規範の中で「自社の取引先にも同等の要求を伝えること」を求める形で連鎖させるのが定石です。最初から全階層を直接管理しようとすると、たいてい途中で止まります。

Q. 違反が見つかったら取引を止めるべきですか?

A. いいえ、まず是正が原則です。国連指導原則の考え方では、取引の停止は最後の手段とされています。関係を切れば問題は自社の視界から消えますが、現地の労働者の状況が改善するわけではなく、むしろ悪化することもあります。期限を切った是正計画を求め、進捗を確認し、改善の意思が見られない場合に初めて取引の見直しを検討するという順序です。

出典・参考(一次情報)

※制度・ガイドラインは改定されます。本記事は2026年9月時点の公表情報に基づく解説です。実務判断の際は一次情報の最新版をご確認ください。

🌱 次に読むなら。
調達の全体像 → 責任ある調達とは/取引先評価 → EcoVadisとは/人権の進め方 → 人権デューデリジェンス

最終更新日:2026年9月2日

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

編集責任

greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

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