自然関連開示とは|ISSBとTNFDの連携が意味することを解説

2026.07.05
TCFD・TNFD

「気候関連開示(TCFD・ISSB)はもう対応した。では自然関連開示は何をすればいいのか」――。この疑問に手がかりを与えるニュースが、最近報じられました。ISSBが、企業はIFRS S2の気候開示に加えて、自然関連のリスク・機会を開示する際にTNFDの指標を活用できると明確にしたのです。義務化ではありませんが、気候と自然という2つの開示の流れが近づく重要な一歩といえます。本記事では、このニュースの意味と、企業への実務的な影響を、一次情報をもとに実務目線で解説します。すでに気候関連開示に取り組んでいる企業ほど、この動きは無関係ではありません。

この記事の目次

自然関連開示とは(おさらい)

まず、自然関連開示とはどんな取り組みなのか、気候関連開示との関係から整理しましょう。

気候だけでなく、自然も

企業のサステナビリティ開示

気候関連開示ISSB・IFRS S1・S2
自然関連開示生物多様性・水・土地など

関心の広がり

気候関連開示が土台となり、自然資本にも開示の範囲が広がってきている

出典:ISSB・TNFDの公開情報をもとにgreenote作成

自然資本のリスク・機会を開示する取り組み

自然関連開示とは、生物多様性・水・土地・海洋といった自然資本に関わるリスクと機会を開示する取り組みです。原材料の調達や生産拠点が生態系に与える影響と、自然の変化が事業に及ぼす影響の両方を、企業が把握し、投資家や社会に伝える動きを指します。

気候変動と同様に、自然資本の損失も企業の持続的な成長に関わる重要なリスクだという認識が広がっている。生物多様性の損失は世界的な課題として位置づけられ、投資家の関心も年々高まっています。

国連の生物多様性条約に基づく2022年の「昆明・モントリオール枠組み」以降、各国政府や金融機関はこの認識を強めている。自然資本を意識した政策・投融資方針が広がり、企業の開示への関心を後押ししています。

気候関連開示から自然関連開示への広がり

この分野は、気候関連開示の後を追う形で発展してきました。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みが浸透し、ISSBのIFRS S1・S2として基準化された。この過程で、同様の考え方を自然資本にも広げようという動きが生まれた。それが、TNFDとはで解説したTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)です。

つまり、自然関連開示は気候関連開示のノウハウを土台にした後発の取り組みだといえる。今回のISSBのニュースは、この2つの流れが接近したことを示す出来事です。

ISSBが示したこと――TNFD指標を自然関連開示に活用できる

今回の動きの核心は、ISSBがTNFDの指標を自社の開示に活用してよいと明確にした点です。何が示されたのかを整理します。

IFRS S2を土台に、TNFD指標を活用できる

IFRS S2 適用企業

気候関連の開示

既存の対応(IFRS S1・S2)。

自然関連の開示

TNFDの指標を参照・活用できる。

TNFD開示そのものを義務化するものではない。既存の気候開示の枠組みを、自然関連にも広げやすくする位置づけ。

出典:ISSB・TNFDの公開情報をもとにgreenote作成

IFRS S2の気候開示とTNFDの関係

ISSBが定めるIFRS S2は、気候関連のリスク・機会の開示を対象とする基準です。ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標という、TCFDと同様の4本柱で構成されている。今回ISSBが明確にしたのは、IFRS S2を適用する企業に関する内容です。気候変動以外の自然関連のリスク・機会を開示したい場合、TNFDが整備した指標を活用してよいという点になる。

ISSBは自然資本全般を扱う基準を新たに作るわけではない。すでにTNFDが積み上げた枠組みを参照可能にする形で、整合性を図った。ゼロから作り直すより、既存の枠組みを生かす合理的な判断だといえます。

「活用できる」は義務化ではない

ここで注意したいのは、「活用できる」は「義務化された」ことを意味しないという点です。IFRS S2はあくまで気候関連開示の基準であり、TNFDに基づく自然関連開示そのものを義務付けるものではありません。

企業が任意でTNFDを開示している場合や、自然関連のリスクが重要だと判断した場合を想定した明確化です。その指標をIFRS S2の開示と整合させやすくなった、というのが正確な理解になる。今後の基準開発の方向性は変わりうるため、最新情報の確認が欠かせません。

TNFDとは何か(おさらい)

TNFDがどんな枠組みなのかを、簡単におさらいします。

TNFDの4本柱とLEAP

ガバナンス
戦略
リスク管理
指標と目標
Locate発見
Evaluate診断
Assess評価
Prepare準備

TCFDの枠組みを土台に、自然資本に特化した評価アプローチを提供する。

出典:TNFD最終提言をもとにgreenote作成

TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)は、2023年9月に最終提言を公表しました。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みを土台にしています。ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標という4つの柱を、自然資本向けに再構成しています。

評価の進め方として示されているのがLEAPというアプローチです。Locate・Evaluate・Assess・Prepareの4語の頭文字を取っています。

自社の事業が自然と接する場所を特定するのが第1段階(Locate)。次に依存や影響を診断する(Evaluate)。続いてリスク・機会を評価し(Assess)、対応を準備する(Prepare)、という4段階です。

このプロセスを通じて、事業拠点が自然に依存・影響を与える度合いや、優先的に対応すべき拠点・活動が明らかになる。詳しい進め方はTNFDとはで解説しています。

なぜ「連携」が必要なのか――気候と自然の重なりと違い

気候と自然は、対象が異なる別の開示テーマです。ただ森林減少のように両方に関わる活動も多く、枠組みどうしの整合性が課題になっていました。

重なりながらも、別のテーマ

気候関連開示ISSB・IFRS S1・S2
GHG排出量・気候リスク
自然関連開示TNFD
生物多様性・水・土地利用
森林減少は気候にも自然にも関わる、など

対象は異なるが、森林や土地利用のように両方に関わるテーマも多い。

出典:ISSB・TNFDの公開情報をもとにgreenote作成

気候(ISSB)と自然(TNFD)の対象の違い

気候関連開示は、GHG排出量や気候変動によるリスクが中心的な対象です。一方、自然関連開示は生物多様性・水・土地利用・生態系サービスなど、より幅広い自然資本を対象にする。対象範囲が異なるため、そもそも別の枠組みとして発展してきました。

ただし、両者は無関係ではありません。森林減少は気候変動と生物多様性の両方に関わるように、テーマが重なる場面は少なくない。だからこそ、開示の枠組みどうしの整合性が問われるようになってきています。

重複する開示負担を避ける狙い

気候と自然、それぞれ別の枠組みで開示を求められる場面が増えています。企業にとって重複した作業や矛盾したデータが生じるリスクがあります。同じような調査や体制を、気候用と自然用で別々に構築するのは非効率です。

今回のISSBの明確化は、この重複を避けるための橋渡しだといえる。既にIFRS S2で構築した開示の体制やデータ収集の仕組みを、自然関連の分野にも展開しやすくする狙いがあります。

たとえば、気候リスクの評価で使ってきたシナリオ分析の手法があります。サプライヤーからのデータ収集ルートも、自然関連のリスク評価に応用できる余地が大きい。まったく別のプロジェクトとして立ち上げるより、既存の体制の拡張として位置づける方が、現実的な進め方になります。

企業への実務的な影響

この動きを受けて、実務上どう対応すればよいのかを考えます。

今できる備え

1

自社にとって自然資本(水・土地・生物多様性等)がどれだけ重要かを把握する。

2

既存の気候関連開示(IFRS S2)の体制・データ収集の仕組みを確認する。

3

TNFDのLEAPアプローチを参考に、段階的に自然関連の視点を広げる。

義務化を待たず早期に把握を進めることが将来の対応負担を軽くする。

出典:ISSB・TNFDの公開情報をもとにgreenote作成

既存の気候開示の枠組みを土台にできる

すでにIFRS S2に基づく気候関連開示に取り組んでいる企業なら、その体制やデータ収集の仕組みがある。これを、自然関連の開示にも生かせる可能性がある。ゼロから別の体制を作る必要はなく、既存の取り組みを土台に視点を広げるという発想が現実的です。

たとえば、サプライチェーンの一次情報を集める仕組みがある。リスク評価の社内プロセスも、気候だけでなく自然関連のリスクに応用できる場面が多い。既存資産の再利用という視点が、実務上の負担を抑えます。

義務化を待たず準備を進める意義

自然関連開示は、現時点では多くの国・地域で任意の取り組みにとどまる。しかし、投資家の関心の高まりや、TNFDとはへの賛同企業の増加を見ると、今後の位置づけが強まる可能性は十分にある。

義務化を待ってから動き出すと、データ収集や体制構築に時間がかかり、対応が後手に回るリスクがある。自社にとって自然資本が重要になりうる事業なら、早めに関連性を把握しておくことが、将来の負担を軽くする一手になります。

原材料を農林水産業や採掘業に依存する企業、水資源への依存度が高い企業などは、特に早期の把握が有効です。逆に、自然資本への依存・影響が明らかに小さい事業であれば、優先度を下げて他のテーマに注力する判断も合理的といえます。

日本・国際的な動向

国際ではISSB・TNFD・CDPの3枠組みが連携を強めています。日本ではSSBJ基準が気候中心の一方、TNFD賛同企業は着実に増えている状況です。

広がる自然関連開示の輪

国際

ISSB(IFRS S1・S2)
TNFD
CDP(自然関連の質問拡充)

日本

SSBJ基準(気候中心)
TNFD賛同企業の増加

制度はまだ発展途上。最新の動向を継続的に確認することが欠かせない。

出典:ISSB・TNFD・SSBJの公開情報をもとにgreenote作成

SSBJ・日本企業の対応状況

日本では、SSBJ(サステナビリティ基準委員会)が、ISSBのIFRS S1・S2に相当する基準を策定している。現時点でSSBJ基準は気候関連開示が中心です。ただ国際的にISSBとTNFDの連携が進んでいます。日本の開示制度にも自然関連の視点が今後広がっていく可能性がある。

一方、日本企業のあいだでは、TNFDとはへの賛同・情報開示に取り組む企業がすでに増えている。制度化を待たず、先行して自然関連のリスク評価に着手する企業が一定数存在するのが現状です。食品・飲料や化学、建設といった、自然資本への依存度が比較的高い業種で、こうした先行対応の動きが目立ちます。業界団体単位でガイダンスを整備する動きも出てきています。

CDPなど他の枠組みとの関係

自然関連の開示を求める枠組みは、TNFDだけではありません。CDPとはも、気候に加えて水・森林といった自然関連の質問書を拡充してきた経緯があります。

このように、複数の枠組みが自然関連の開示を求める方向で動いているのが現状です。企業からすれば、どの枠組みにどう対応するかの整理が、今後ますます重要になってくる。CDPの質問書に回答しながらTNFDにも賛同する、という組み合わせも一般的になりつつあります。両者は評価の視点や質問項目が重なる部分も多く、一方で収集したデータをもう一方の開示にも使い回せる場面が少なくありません。

今回のISSBの明確化も、この整理を助ける一歩だと位置づけられます。複数の枠組みの間で使う指標や用語をできるだけ揃えておくと、開示にかかる作業の重複を減らせます。

自然関連開示をどう捉えるか

自然関連開示は、気候関連開示の後を追う形で発展してきた開示テーマです。生物多様性・水・土地利用などの自然資本に関わるリスク・機会を扱います。今回、ISSBがTNFD指標の活用を認めたことは義務化ではありません。それでも、気候と自然という2つの開示の流れが近づいた重要な出来事だといえる。

企業にとっては、既存の気候開示の体制を土台に、段階的に自然関連の視点を広げていくのが現実的な進め方になる。義務化を待つより、早期に自社にとっての重要性を把握しておくことが将来の負担を軽くします。TNFDの詳しい進め方はTNFDとは、気候関連開示の基礎はGHGプロトコルとはもあわせてご覧ください。

なお本記事は、ISSB・TNFDなどの公開情報をもとに動向を整理したものです。特定の対応方針を推奨するものではありません。基準や指標の詳細は今後も変わりうるため、対応にあたっては最新の一次情報をご確認ください。

あわせて読みたい:「自然版TCFD」の全体像とLEAPアプローチ → TNFDとは|4つの柱・14の開示提言とLEAPアプローチをわかりやすく解説

よくある質問(FAQ)

Q. 自然関連開示とは何ですか?TNFDと何が違いますか?

A. 自然関連開示とは、生物多様性・水・土地・海洋といった自然資本に関わる企業活動のリスクと機会を開示する取り組み全般を指します。TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)は、その自然関連開示を行うための代表的な枠組みの一つで、LEAPアプローチという具体的な評価手法を提供しています。つまり自然関連開示という大きな目的に対し、TNFDはそれを実行するための主要な手段(枠組み)という関係になります。

Q. ISSBが「TNFD指標を活用できる」と言ったのは、TNFD開示が義務化されたということですか?

A. いいえ、義務化ではありません。ISSBが明確にしたのは、IFRS S2(気候関連開示基準)を適用している企業が、気候以外の自然関連のリスク・機会について開示したい場合に、TNFDが整備した指標を参照してよいという点です。あくまで『活用できる』という整合性の確保であり、TNFDに基づく開示自体を義務付けるものではありません。今後の基準開発の動向は変わりうるため、最新情報の確認が必要です。

Q. 企業は今、何をすればいいですか?

A. まずは自社にとって自然資本(水・土地利用・生物多様性など)がどの程度重要なリスク・機会になりうるかを把握することが出発点になります。すでにIFRS S2に基づく気候関連開示に取り組んでいる企業であれば、その体制やデータ収集の仕組みを土台に、TNFDのLEAPアプローチを参考にしながら段階的に自然関連の視点を広げていく進め方が現実的です。義務化を待つのではなく、早期に把握を進めておくことが将来の対応負担を軽くします。

出典・参考(一次情報)

最終更新日:2026年7月5日

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

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greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

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