Scope3カテゴリ15(投資)の算定方法|ファイナンスド・エミッションとPCAF・帰属係数の計算ステップを実務目線で解説

2026.07.04
Scope3

銀行の融資、投資家の株式・債券——。お金を投じた先の企業が出すCO2も、投じた側の排出としてとらえる考え方があります。それが、Scope3のカテゴリ15「投資」、いわゆるファイナンスド・エミッション(投融資排出)です。自社のオフィスや工場の排出とはけた違いに大きくなりやすく、金融機関の脱炭素の本丸ともいえる領域になる。本記事では、カテゴリ15の考え方と計算を、環境省グリーン・バリューチェーンプラットフォームやGHGプロトコル、そして業界標準のPCAFの一次情報をもとに、実務目線で解説します。

この記事の目次

Scope3カテゴリ15(投資)とは

まず、カテゴリ15が何を対象とするのかを整理します。「投融資に伴う排出」という視点から入りましょう。

投資に伴う排出(ファイナンスド・エミッション)

カテゴリ15は、報告する企業の投融資(株式投資・債券・融資・プロジェクトファイナンスなど)を通じて、投資先・融資先が出す排出を対象にします。銀行がある企業に融資すれば、その資金で行われる事業の排出の一部を、融資した銀行の排出として計上する。投資家が株式を持てば、その企業の排出の一部を、投資家の排出としてとらえる。これがファイナンスド・エミッション(投融資排出)です。

自社が直接出す排出(Scope1・2)でも、仕入れや製品を通じた排出(他のScope3カテゴリ)でもなく、「お金を通じてつながる先」の排出を見る——。ここがカテゴリ15の独特な点です。Scope3とは15カテゴリの最後を占め、もっとも下流に位置する、金融ならではのカテゴリだといえます。

主に金融機関が対象になる

カテゴリ15が関わるのは、主に銀行・保険会社・資産運用会社・投資会社といった金融機関です。投融資を事業の柱とするこれらの企業にとって、投融資先の排出は避けて通れない。一方、事業会社でも、自動車ローンなどの金融子会社を持つ場合は、カテゴリ15が関わることがあります。

逆に、投融資を主な事業としない一般の事業会社では、カテゴリ15を「関連なし」と判断し、理由を説明することも少なくありません。実際、開示データを見ても、金融事業を持たない企業の多くが関連なしとしている。だからこそ、まず自社にとってカテゴリ15が関連するかを見極めることが、出発点になります。

なぜ重要か――金融機関で最大級の排出源

カテゴリ15は、金融機関にとって特別な意味を持ちます。なぜそこまで重視されるのかを整理します。

金融機関の排出の大半は、投融資先から

自社の排出Scope1・2オフィスの電力など
投融資に伴う排出カテゴリ15ファイナンスド・エミッション
けた違いに大きい

金融機関では投融資排出が自社の事業排出をけた違いに上回ることが多い。脱炭素の本質は投融資先の脱炭素

出典:GHGプロトコル・PCAFの公開情報をもとにgreenote作成(棒の長さは大小関係のイメージ)

事業排出をはるかに上回る

金融機関がカテゴリ15を重視する理由は、その規模の大きさにある。銀行や運用会社が自社のオフィスで使う電力などの排出(Scope1・2)は、事業の性質上、それほど大きくありません。しかし、その金融機関が融資・投資した先の企業群が出す排出を合計すると、自社の事業排出をけた違いに上回ることが多い。

つまり、金融機関にとっての脱炭素は、自社の省エネ以上に、投融資先の脱炭素をどう促すかが本質になります。カーボンニュートラルを掲げる金融機関ほど、この巨大なカテゴリ15と向き合わざるをえない。だからこそ、まず自社の投融資排出がどれだけあるかを「測る」ことが、あらゆる取り組みの出発点になるわけです。

ネットゼロ目標との関係

カテゴリ15は、金融機関のネットゼロ目標とも直結します。近年、多くの金融機関が2050年ネットゼロなどの目標を掲げ、GFANZ(Glasgow Financial Alliance for Net Zero)のような国際的な枠組みに参加してきました。こうした目標は、自社の排出だけでなく、投融資ポートフォリオ全体の排出(=カテゴリ15)を対象にするのが通例です。

目標を掲げ、進捗を管理するには、まず投融資排出を測れなければならない。測れないものは、減らせないからです。だから、ファイナンスド・エミッションの算定は、金融機関の脱炭素戦略の土台として位置づけられます。もっとも、こうした目標や枠組みの動向は変化しうるため、最新の状況は一次情報で確認する必要があります。

PCAFという業界標準

カテゴリ15の算定で事実上の基準になっているのが、PCAFです。GHGプロトコルとの関係を整理します。

枠組みはGHGプロトコル、実務手引きはPCAF

枠組み(何を計上するか)

GHGプロトコル Scope3基準

カテゴリ15(投資)の枠組みを定める。何を投融資排出として計上するかを示す。

実務手引き(どう計算するか)

PCAF 金融業界向けのGHG算定・報告基準

資産クラスごとの具体的な計算式とデータ品質の評価方法を詳細に示す。GHGプロトコルと整合し認定されている。

PCAFは金融機関主導の国際的なパートナーシップ。ファイナンスド・エミッションの事実上の業界標準

出典:GHGプロトコル・PCAFの公開情報をもとにgreenote作成

PCAFとは

ファイナンスド・エミッションを算定するうえで、事実上の業界標準となっているのが、PCAF(Partnership for Carbon Accounting Financials)です。PCAFは、金融機関が主導する国際的なパートナーシップで、投融資排出の測り方をそろえるために設立されました。その成果が、「The Global GHG Accounting and Reporting Standard for the Financial Industry(金融業界向けの世界的なGHG算定・報告基準)」です。

この基準は、上場株式・社債、事業性融資、プロジェクトファイナンス、不動産、自動車ローンといった資産クラスごとに、具体的な算定方法とデータの扱いを詳しく定めています。世界中の多くの金融機関がこれを採用しており、カテゴリ15を算定するなら、まず参照すべき手引きになる。

GHGプロトコルとの関係

PCAFとGHGプロトコルは、対立するものではなく、補完し合う関係です。GHGプロトコルのScope3基準は、カテゴリ15として「何を計上するか」という枠組みを定めます。一方、PCAFは、その枠組みのもとで「どう計算するか」という具体的な手順を、資産クラスごとに詳細に示す。PCAFの基準は、GHGプロトコルと整合し、GHGプロトコルからも認定されています。

イメージとしては、GHGプロトコルが大枠のルールブック、PCAFが金融業界向けの実務マニュアル、という関係です。だから、カテゴリ15に取り組む金融機関は、GHGプロトコルで全体像を押さえたうえで、PCAFに沿って実際の算定を進めるのが一般的だ。

計算の考え方――帰属(アトリビューション)係数

カテゴリ15の計算の核が、帰属係数です。投資先の排出を、どれだけ自社に割り当てるかを考えます。

投資先の排出を、投じた割合で自社に割り当てる

投資先の排出量 × 帰属係数
(自社の投融資額 ÷ 投資先の企業価値)
自社に計上する
排出量

帰属係数=自社の投融資額 ÷ 投資先の企業価値(EVIC など)

例:ある企業の価値の1%に相当する額を投融資 → その企業の排出量の1%を自社のカテゴリ15に計上

企業価値の基準にはEVIC(現金を含む企業価値)などを用いる。資産クラスごとに算定式が定められている。

出典:GHGプロトコル・PCAFの公開情報をもとにgreenote作成

帰属係数=投融資額÷企業価値

カテゴリ15の計算の核となるのが、帰属(アトリビューション)係数という考え方です。投資先・融資先の排出量すべてを計上するのではなく、自社の投融資に対応する分だけを、自社の排出として割り当てる。基本の式は、投資先の排出量 × 帰属係数。そして帰属係数は、自社の投融資額 ÷ 投資先の企業価値(や総資産)で表されます。

たとえば、ある企業の価値の1%に相当する額を投融資しているなら、その企業の排出量の1%を自社のカテゴリ15に計上する、というイメージです。企業価値の基準としては、PCAFではEVIC(現金を含む企業価値)などが用いられる。「投じた割合に応じて、排出も引き受ける」——この考え方が、ファイナンスド・エミッションの土台になります。

資産クラスごとに算定する

帰属係数の考え方は共通ですが、具体的な計算は資産クラスごとに異なります。PCAFは、上場株式・社債、事業性融資と非上場株式、プロジェクトファイナンス、商業用不動産、住宅ローン、自動車ローンといった資産クラスごとに、それぞれの算定式と、企業価値・貸出残高などの使い方を定めている。

たとえば、上場株式なら企業のEVIC、住宅ローンなら物件価値、自動車ローンなら車両の価値、というように、分母に使う「価値」の取り方が資産クラスで変わる。だから実務では、自社のポートフォリオを資産クラスごとに整理し、それぞれに対応した方法で算定していくことになります。まずは、排出が大きく、データの得やすい資産クラスから着手するのが現実的です。

データと算定の質

投資先の排出データをどう集め、その質をどう示すか。カテゴリ15ならではのデータの考え方を整理します。

使ったデータの質を、スコアで示す

投資先の排出データの入手

投資先の
実際の排出量
(実測)
実データが得にくいほど、業種平均などの推計を使う
業種平均・
売上あたりの
推計(概算)

PCAFのデータ品質スコア

1高精度
2実測寄り
3中間
4推計寄り
5概算
実測ベース=高評価概算ベース=低評価

実データが得にくいため推計も使う。使ったデータの質をスコアで開示し、年々実測比率を高めていく。

出典:PCAF・GHGプロトコルの公開情報をもとにgreenote作成(スコアの向きはイメージ)

投資先の排出データの入手

カテゴリ15で最大の難所が、投資先・融資先の排出データの入手です。理想は、投資先が開示している実際の排出量(実測ベース)を使うこと。しかし、すべての投資先が排出量を開示しているわけではなく、とくに中小企業や非上場企業では得にくい。そこで実務では、業種の平均原単位や、売上・資産あたりの排出原単位から推計する方法も併用されます。

つまり、カテゴリ15のデータには、投資先の実測値から、業種平均による概算まで、大きな幅があります。ポートフォリオが数百・数千社に及ぶこともある金融機関にとって、すべてを実測値でそろえるのは現実的でない。得られる範囲で最良のデータを使い、足りない部分は推計で補うのが基本だ。

PCAFのデータ品質スコア

データの精度に幅があるからこそ、PCAFはデータ品質スコアという仕組みを設けています。これは、算定に使ったデータの質を、精度の高い実測ベースを高評価、業種平均などの概算ベースを低評価として、段階的に評価するものです。スコアを併せて開示することで、その排出量が、どれくらい確かなデータにもとづくかを、読み手に伝えられる。

このスコアには、改善を促すという狙いもあります。まずは概算でも算定を始め、データ品質スコアを開示し、年を追って実測データの比率を高めていく——。カテゴリ15は、完璧なデータを待つのではなく、測りながら質を上げていくという考え方が根づいているのが特徴です。方法論はGHGプロトコルのScope 3 StandardとPCAF基準に沿って進めます。

CDP回答・開示での実務ポイント

算定結果を、CDPなどでどう開示するか。カテゴリ15の押さえどころを整理します。

カテゴリ15の開示で押さえること

1

関連性を判断する

投融資を事業とするか、金融子会社を持つかなどから、関連ありか関連なしかを判断し理由を説明する

2

算定方法とPCAF準拠を記す

投資先固有法・平均データ法などの算定方法と、PCAFなどの基準に沿ったこと、対象の資産クラスを示す

3

データ品質を開示する

実測か推計か、PCAFのデータ品質スコアなど、使ったデータの質をあわせて示す

どの資産クラスを、どんなデータと方法で算定したかを説明できることが信頼性につながる。

出典:CDP・PCAF・GHGプロトコルの公開情報をもとにgreenote作成

算定方法とデータ品質の記載

カテゴリ15をCDPとはなどで開示する際は、まず関連性の判断から始まります。投融資を事業とするか、金融子会社を持つかなどを踏まえ、関連ありか関連なしかを判断し、関連なしならその理由を説明する。関連ありなら、評価ステータス・排出量・算定方法(投資先固有法・平均データ法など)を記します。あわせて、PCAFなどの基準に沿ったことや、対象とした資産クラスも示す。

カテゴリ15でとくに大切なのが、データ品質の開示です。実測ベースか推計ベースか、PCAFのデータ品質スコアはどうか——。投資先データに幅があるカテゴリだからこそ、どんなデータと方法で算定したかを説明できることが、開示の信頼性を左右します。

実務で多い方法と現実的な進め方

CDPに開示された算定方法を見ると、カテゴリ15では投資先固有法(投資先ごとの排出データを使う方法)が中心で、平均データ法がこれに続きます。実測に近いデータを優先しつつ、得られない部分を推計で補う、という実態がうかがえる。一方、投融資を事業としない企業では、「関連なし」として理由を説明するケースが多くを占めます。

現実的な進め方は、金融機関であれば、まず自社のポートフォリオを資産クラスごとに整理し、PCAFに沿って、排出が大きくデータの得やすいところから算定することです。最初から完璧を目指すより、データ品質スコアを開示しながら、徐々に精度を高めていくのが定石になる。事業会社は、金融子会社の有無などから関連性を見極め、関連が薄ければ理由を説明して除外します。

カテゴリ15の算定をどう進めるか

Scope3カテゴリ15(投資)は、自社の投融資を通じて投資先・融資先が出す排出(ファイナンスド・エミッション)を計上するもので、主に金融機関が対象になります。金融機関では、この投融資排出が自社の事業排出をけた違いに上回るため、脱炭素の本丸として重視される。計算は、投資先の排出量に帰属係数(投融資額÷企業価値など)を掛ける考え方が核で、業界標準のPCAFが資産クラスごとの具体的な方法とデータ品質の評価を定めています。

大切なのは、まず自社にとってカテゴリ15が関連するかを見極め、関連するなら資産クラスごとに、得られる最良のデータで算定を始めること。完璧なデータを待つのではなく、データ品質スコアを開示しながら精度を高めていくのが定石です。Scope3の全体像はScope3とは、算定の枠組みはGHGプロトコル、金融の脱炭素はサステナブルファイナンスもあわせてご覧ください。ESGの全体像はESG完全ガイドもどうぞ。

お金を通じてつながる、CO2。カテゴリ15の算定は、投融資という金融の営みが、実体経済の排出とどうつながっているかを可視化する試みでもある。なお本記事は、環境省・GHGプロトコル・PCAFなどの公開情報をもとに算定の考え方を整理したものであり、特定の金融商品や投資判断を推奨するものではありません。基準や制度は変わりうるため、算定時は最新の一次情報をご確認ください。

よくある質問(FAQ)

Q. Scope3カテゴリ15(投資)は、どんな企業が算定するのですか?

A. 主に、銀行・保険会社・資産運用会社・投資会社といった金融機関が対象です。カテゴリ15は、自社の投融資(株式投資・債券・融資・プロジェクトファイナンスなど)を通じて、投資先・融資先が出す排出を計上するものだからです。事業会社でも、自動車ローンなどの金融子会社を持つ場合は関わることがあります。一方、投融資を主な事業としない企業では、カテゴリ15を『関連なし』と判断し、理由を説明することも少なくありません。

Q. ファイナンスド・エミッションはどうやって計算しますか?

A. 基本は『投資先の排出量 × 帰属係数』です。帰属係数は、自社の投融資額を投資先の企業価値(PCAFではEVIC=現金を含む企業価値など)や総資産で割ったもので、投資先の排出のうち自社が負担する割合を表します。たとえば、ある企業の価値の1%に相当する額を投融資していれば、その企業の排出量の1%を自社のカテゴリ15に計上します。上場株式・融資・不動産・自動車ローンなど、資産クラスごとにPCAFが具体的な算定式を定めています。

Q. なぜカテゴリ15が金融機関で重視されるのですか?

A. 金融機関では、投融資を通じた排出(ファイナンスド・エミッション)が、自社のオフィスや事業活動から出る排出(Scope1・2)を、けた違いに上回ることが多いためです。金融機関の脱炭素は、自社の省エネよりも、投融資先の脱炭素をどう促すかが本質になります。そのため、ネットゼロを掲げる金融機関にとって、カテゴリ15の算定は目標設定と進捗管理の土台になります。本記事は特定の金融商品や投資判断を推奨するものではありません。

無料・登録不要

算定は、テンプレートで手を動かせます

Scope3の15カテゴリを一覧で整理し、活動量を入れると排出量が自動計算されるExcelシートを無料で配布しています。まず概算を出すところから始められます。

Excelテンプレートを見る

GHG算定・情報開示の実務支援も行っています → サービス・料金

出典・参考(一次情報)

最終更新日:2026年7月4日

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

編集責任

greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

関連記事

目次