Scope3カテゴリ11(販売した製品の使用)の算定方法|直接・間接の使用段階排出と計算ステップを実務目線で解説

2026.07.02
Scope3

自動車、エンジン、家電——。使うときにエネルギーを消費する製品をつくる企業では、Scope3の排出量の大半が、じつは製品が売られた後の「使用段階」に集中します。これがカテゴリ11「販売した製品の使用」です。製造業にとって最重要でありながら、「前提の置き方」で結果が何倍にも変わる難所でもある。本記事では、Scope3カテゴリ1に続き、カテゴリ11の直接・間接の区別と計算ステップを、環境省グリーン・バリューチェーンプラットフォームやGHGプロトコルの一次情報をもとに、実務目線で解説します。

この記事の目次

Scope3カテゴリ11(販売した製品の使用)とは

まず、カテゴリ11が何を対象とするのかを整理します。「売った製品が、使われるあいだに出すCO2」という発想から入りましょう。

カテゴリ11に含まれるもの

カテゴリ11「販売した製品の使用」とは、報告年に販売した製品が、その生涯(使用期間)を通じて使われるときに排出するGHGのことです。たとえば自動車なら、購入した人がその車を廃車まで走らせるあいだに出す排出。エンジンや電気製品も同じで、「売って終わり」ではなく、その先の使用まで含めて責任範囲と捉えます。

ポイントは、これが下流(サプライチェーンの売った先)の排出だという点です。Scope3とはで扱った15カテゴリのうち、上流の代表がカテゴリ1(購入した製品・サービス)なら、下流の代表がこのカテゴリ11にあたります。自社が直接出すわけではないものの、自社製品が世に出たことで生じる排出を、可視化します。

なぜ製造業で最大級の排出源になるのか

カテゴリ11が決定的に重要なのは、使用時にエネルギーを大量に消費する製品を扱う製造業では、Scope3全体で最大の排出源になることが多いからです。自動車を例にとれば、その製造よりも、何年も走り続けるあいだに燃やす燃料の排出のほうが、はるかに大きくなります。

だからこそ、こうした企業にとって、カテゴリ11の算定は脱炭素戦略の核心です。製品をどれだけ省エネ・電動化できるかが、そのまま巨大な排出量を左右します。一方で、まだ世に出ていない「これから起きる使用」を見積もるため、算定には特有の難しさがある。その鍵が、次に見る「直接・間接の区別」と「前提の置き方」です。

直接使用と間接使用の区別

カテゴリ11は、直接使用と間接使用の2つに分かれます。まず、この区別を押さえましょう。

直接使用と間接使用

算定は必須

直接使用段階排出

製品を使うときに燃料や電力を直接消費する製品。自動車・エンジン・電気製品など。

算定は任意(推計)

間接使用段階排出

使用時に間接的にエネルギーを必要とする製品。調理を要する食品、洗濯を要する衣類など。

使用時にエネルギーを直接消費する製品を扱う企業は、まず直接使用段階排出が算定の中心になる。

出典:GHGプロトコル・環境省の公開情報をもとにgreenote作成

直接使用段階排出(燃料・電気を直接消費する製品)

カテゴリ11の中心が、直接使用段階排出です。これは、製品を使うときに、燃料や電力を直接消費する製品の排出を指します。ガソリンを燃やす自動車、燃料で動くエンジン、電力を使う家電やIT機器などが典型です。使えば使うほど、はっきりとCO2が出る——。因果関係が明確なため、この直接使用段階排出は、算定が必須とされる。

使用時にエネルギーを消費する製品をつくる企業にとって、算定の主戦場はここです。次章以降で見る計算も、この直接使用段階排出が中心になる。製品の省エネ性能を上げれば、この排出は直接下がる——。削減努力が数字に反映されやすい領域でもあります。

間接使用段階排出(間接的にエネルギーを要する製品)

もう一つが、間接使用段階排出です。これは、製品そのものは燃料・電力を消費しないものの、使うために間接的にエネルギーを必要とする製品の排出を指します。たとえば、調理が必要な食品(加熱に伴う排出)、洗濯が必要な衣類(洗濯機の電力)などです。製品の使い方によって排出が生じる、間接的なケースです。

間接使用段階排出は、使い方の想定が難しく、算定は任意(推計)とされることが多いのが実情です。すべての製品に無理に当てはめる必要はありません。まずは影響の大きい直接使用段階排出をしっかり算定し、間接使用段階排出は自社製品の特性に応じて検討する、という順序が現実的です。

基本の計算式と算定ステップ

直接使用段階排出の計算は、シンプルな掛け算の組み合わせです。基本式とステップを見ていきます。

使用段階排出の基本式

販売台数

報告年に売った量

×

生涯使用量

生涯走行距離・生涯稼働時間など

×

使用あたりエネルギー

燃費・消費電力など

×

排出係数

燃料・電力の係数

使用段階の排出量

生涯にわたる想定使用量を使うのがポイント。販売した製品が使われ続ける将来の排出を、いま見積もる。

出典:GHGプロトコル・環境省の公開情報をもとにgreenote作成

販売台数×生涯使用量×使用あたり排出量

直接使用段階排出の基本式は、いくつかの要素の掛け算です。おおまかには、販売台数(量)×製品1台あたりの生涯使用量×使用あたりのエネルギー消費×エネルギーの排出係数、という形になる。順に考えると分かりやすい。まず、報告年に売った台数。次に、その製品が生涯にどれだけ使われるか(生涯走行距離や生涯の稼働時間など)。

そして、1回・1単位の使用でどれだけエネルギーを使うか(燃費や消費電力)。最後に、そのエネルギーの排出係数を掛ける。この積み重ねで、「売った製品が生涯に出す排出量」を見積もる。カテゴリ1が「すでに買ったモノ」の排出だったのに対し、カテゴリ11は「これから使われる」未来の排出を、いま推計する点が特徴です。

燃料を使う製品・電気を使う製品の計算例

具体的な形にすると、製品のタイプで式が変わる。燃料を使う製品(自動車など)なら、販売台数 × 生涯走行距離 × 燃費(単位距離あたりの燃料消費)× 燃料の排出係数。たとえば「生涯走行距離を◯万km、燃費を△、と想定して掛ける」といった具合です(数値はあくまで例で、実際は自社製品や公的な前提を用います)。

一方、電気を使う製品(家電など)なら、販売台数 × 生涯使用時間 × 消費電力 × 電力の排出係数、という形になる。電力の排出係数は、使われる地域・国のグリッド係数を用いるのが一般的です。なお、自動車では走行だけでなく、エアコンの冷媒が生涯にわたり漏れる分などを加える例もあります。製品の特性に応じて、何を含めるかを設計します。

前提の置き方が結果を大きく左右する

カテゴリ11の難しさは、計算式よりも「前提」にある。想定しだいで結果が何倍にも変わる。

前提しだいで、結果は何倍にも変わる

生涯寿命

何年・何kmまで使うか

使用強度

年間走行距離・年間稼働時間

使用地域の排出係数

電力グリッド係数など

使用段階の排出量

同じ製品でも、寿命や使用量の想定を変えれば結果は大きく動く。だからこそ前提を根拠とともに明示し、感度を意識する

出典:GHGプロトコル・環境省の公開情報をもとにgreenote作成

生涯寿命と使用強度の想定

カテゴリ11の本質的な難しさは、計算式そのものよりも、「前提をどう置くか」にある。式に入れる生涯使用量は、まだ起きていない未来の使用の想定だからです。とりわけ効くのが、製品の生涯寿命(何年、何kmまで使われるか)と、使用強度(年間の走行距離や稼働時間)です。

たとえば、ある製品の想定寿命を10年とするか15年とするかで、生涯排出量は1.5倍に変わる。年間使用量の想定も同様です。つまり、同じ製品・同じ販売台数でも、前提しだいで結果は何倍にも動く。ここを恣意的に置けば、数字はいくらでも小さく見せられてしまう。カテゴリ11の信頼性は、この前提の妥当性にかかっています。

前提を明示し、感度を意識する

だからこそ、カテゴリ11では、使った前提を根拠とともに明示することが決定的に重要です。生涯寿命・年間使用量・使用地域の電力係数などを、「どんな根拠で、いくつに設定したか」を示す。業界標準や公的な想定値があれば、それを用いるのが望ましい。前提の透明性が、そのまま算定の信頼性になる。

あわせて意識したいのが、感度です。前提を変えると結果がどれだけ動くかを把握しておけば、数字の幅を正しく理解できます。カテゴリ11は「唯一の正解」が出るものではなく、前提に基づく合理的な推計です。だからこそ、精緻さを装うより、前提を開示し、一貫した方法で継続的に算定することが、実務では価値を持ちます。

原単位・データはどこから取るのか

使用段階の算定に使う、燃費や排出係数などのデータの入手先を整理します。

使うデータはどこから

自社が握る強み

自社の製品性能データ

燃費・消費電力など、自社が最もよく知る一次データ。販売台数も自社データ。

公的な係数

エネルギーの排出係数

燃料・電力の係数。環境省の排出原単位DBや各国の電力グリッド係数

要・根拠

生涯使用量の前提

想定寿命・年間走行距離など。業界標準や公的な想定値、過去実績を用いる。

製品の性能は自社データ、係数と前提は公的な根拠を使い分ける。使ったデータと前提は必ず記録する。

出典:環境省・GHGプロトコルの公開情報をもとにgreenote作成

製品の性能データと排出係数

カテゴリ11のデータは、大きく3種類です。第一に、自社の製品性能データ。燃費や消費電力といった、自社が最もよく知っている情報で、これは貴重な一次データです。販売台数も、自社の販売実績から得られます。カテゴリ11は、この点でカテゴリ1と違い、中心的なデータを自社で握っている強みがあります。

第二に、エネルギーの排出係数。燃料の排出係数や、電力のグリッド係数(地域・国ごとの1kWhあたりの排出量)を用いる。日本の係数は環境省がグリーン・バリューチェーンプラットフォームで公開する排出原単位データベースなどから、海外分は各国の公表値から入手します。

環境省・GHGプロトコルのガイダンス

第三が、前述の生涯使用量の前提です。想定寿命や年間使用量は、業界標準や公的な想定値、自社の過去実績などを根拠に設定します。ここは各社の判断が入る部分なので、根拠を残すことが特に大切です。

算定の方法論そのものは、GHGプロトコルのScope 3 Standardと、その技術ガイダンスに沿って進めます。日本語では、環境省のグリーン・バリューチェーンプラットフォームが、15カテゴリごとの算定の考え方を示しています。製品の性能は自社データ、係数と前提は公的な根拠、と使い分け、使ったデータと前提を必ず記録しておくことが、信頼できる算定の土台です。

CDP回答・開示での実務ポイント

算定結果を、CDPなどでどう開示するか。カテゴリ11ならではの押さえどころを整理します。

カテゴリ11の開示で押さえること

1

直接・間接を分けて記載する

直接使用段階排出(必須)と間接使用段階排出(任意)を区別して開示する

2

前提を説明欄に明記する

生涯寿命・年間使用量・使用地域の電力係数など、使った前提と根拠を書く

3

算定方法と一次データの扱い

燃料ベース・平均製品法などを選び、製品性能は自社データ、使用量は想定である点を示す

カテゴリ11は前提に基づく推計。透明性こそが信頼性を生む。

出典:CDP・GHGプロトコルの公開情報をもとにgreenote作成

直接・間接を分け、前提を説明する

カテゴリ11をCDPとはなどで開示する際は、まず直接使用段階排出と間接使用段階排出を分けて記載します。多くの企業は、必須である直接使用段階排出を中心に開示し、間接分は該当する場合に推計を添えます。そして、他のカテゴリと同様に、評価ステータス・排出量・算定方法を記す。

カテゴリ11でとりわけ重要なのが、説明欄での前提の明記です。生涯寿命を何年とし、年間使用量をいくつと想定し、どの地域の電力係数を使ったか——。この前提こそが結果を左右するため、根拠とともに丁寧に説明することが、開示の質を決める。数字の大小よりも、「どう見積もったか」を説明できるかが問われます。

実務で多い方法と現実的な進め方

CDPに開示された算定方法を見ると、カテゴリ11では燃料ベースの方法や平均製品法などが用いられ、直接・間接に分けて算定している例が見られます。特徴的なのは、サプライヤーからの一次データの比率が非常に低いことです。これは当然で、使用段階の排出は未来の使用の想定にもとづくため、実測の一次データにはなじみません。製品性能は自社データ、使用量は前提という構造だからです。

現実的な進め方は、まず主力製品の直接使用段階排出から算定することです。販売台数の多い代表製品について、生涯使用量の前提を置いて計算し、全体像をつかむ。そのうえで、前提の妥当性を高め、対象製品を広げていく。カテゴリ11は、製品の省エネ・電動化という削減策と直結するため、算定は責任ある調達や製品設計の改善にもつながります。

カテゴリ11の算定をどう進めるか

Scope3カテゴリ11(販売した製品の使用)は、販売した製品が生涯にわたって使われるときの排出を計上するもので、使用時にエネルギーを消費する製品を扱う製造業では、Scope3最大の排出源になることが多いカテゴリです。直接使用段階排出(必須)と間接使用段階排出(任意)に分かれ、基本式は「販売台数×生涯使用量×使用あたりエネルギー×排出係数」。製品性能は自社データ、係数や前提は公的な根拠を使い分けます。

最も大切なのは、「前提の置き方」と「その透明性」です。生涯寿命や使用強度の想定しだいで結果は大きく動くため、根拠を明示し、一貫した方法で継続的に算定することが、信頼される開示につながります。そして、カテゴリ11は製品の省エネ・電動化という、企業の本業での脱炭素と最も強く結びつくカテゴリでもあります。Scope3の全体像はScope3とは、上流の代表はカテゴリ1(購入した製品・サービス)もあわせてご覧ください。ESGの全体像はESG完全ガイドもどうぞ。

売った製品が、その先で出す排出まで見据えること。カテゴリ11の算定は、製品を通じた脱炭素の責任を映す鏡です。なお本記事は、環境省・GHGプロトコルなどの公開情報をもとに算定の考え方を整理したものであり、特定のツールや製品を推奨するものではありません。係数や前提、制度は変わりうるため、算定時は最新の一次情報をご確認ください。

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よくある質問(FAQ)

Q. Scope3カテゴリ11(販売した製品の使用)には何が含まれますか?

A. 報告年に販売した製品が、その生涯(使用期間)にわたって使われるあいだに出すCO2などが対象です。使用時に燃料や電力を直接消費する製品(自動車・エンジン・電気製品など)の『直接使用段階排出』と、使用時に間接的にエネルギーを要する製品(調理を要する食品、洗濯を要する衣類など)の『間接使用段階排出』に分かれます。使用時のエネルギー消費が大きい製品を扱う製造業では、Scope3全体で最大の排出源になることが多いカテゴリです。

Q. カテゴリ11はどうやって計算しますか?

A. 直接使用段階排出は、基本的に『販売台数 × 製品1台あたりの生涯使用量 × 使用あたりのエネルギー消費 × 排出係数』で求めます。たとえば燃料を使う製品なら『販売台数×生涯走行距離×燃費×燃料の排出係数』、電気製品なら『販売台数×生涯使用時間×消費電力×電力の排出係数』です。生涯にわたる想定を使うため、製品の想定寿命や年間使用量(走行距離・稼働時間)といった前提の置き方が、結果を大きく左右します。

Q. カテゴリ11で気をつけることは何ですか?

A. 最大のポイントは『前提の置き方』です。製品の想定寿命や使用強度をどう見積もるかで、排出量は何倍にも変わります。そのため、使った前提(寿命年数・年間走行距離や稼働時間・使用地域の電力係数など)を、根拠とともに明示することが欠かせません。CDPなどの開示でも、直接・間接を分け、どんな前提でどう計算したかを説明できるようにしておくことが重要です。本記事は特定のツールや製品を推奨するものではありません。

出典・参考(一次情報)

最終更新日:2026年7月2日

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

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greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

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