Scope3のなかで、多くの企業にとって最大の排出源になりやすいのが、カテゴリ1「購入した製品・サービス」です。原材料や部品、購入したサービスが「作られるまで」に出したCO2を計上するもので、算定の入り口でありながら、最も手間がかかる難所でもある。本記事では、Scope3とはの全体像をふまえ、カテゴリ1の4つの算定方法と、実際の計算ステップを、環境省グリーン・バリューチェーンプラットフォームやGHGプロトコルの一次情報をもとに、実務目線でわかりやすく解説します。
≡この記事の目次
- 1Scope3カテゴリ1(購入した製品・サービス)とは
- ►カテゴリ1に含まれるもの
- ►なぜ多くの企業で最大の排出源になるのか
- 24つの算定方法の全体像
- ►支出ベース法・平均データ法・ハイブリッド法・サプライヤー別法
- ►精度と手間のトレードオフ
- 3支出ベース法の計算ステップ
- ►購入額を分類し、金額あたり原単位を掛ける
- ►長所と、精度の限界
- 4物量ベース法・ハイブリッド法で精度を上げる
- ►代表製品を分解し、素材・部品ごとに積み上げる
- ►サプライヤーの一次データで置き換える
- 5排出原単位・データはどこから取るのか
- ►環境省の排出原単位データベースとIDEA
- ►LCAデータベースとサプライヤーの一次データ
- 6CDP回答・開示での実務ポイント
- ►評価ステータスと算定方法・一次データ比率の記載
- ►実務で多い方法と、現実的な進め方
- 7カテゴリ1の算定をどう進めるか
- 8出典・参考(一次情報)
Scope3カテゴリ1(購入した製品・サービス)とは
まず、カテゴリ1が何を対象とするのかを整理します。「買ったモノ・サービスが、作られるまでに出したCO2」という発想から入りましょう。
カテゴリ1に含まれるもの
カテゴリ1「購入した製品・サービス」とは、報告年に購入・取得したすべての製品とサービスが、原材料の採取から製造されるまで(cradle-to-gate、いわば「ゲートまで」)に排出したCO2のことです。鉄やアルミ、樹脂などの原材料、購入した部品、さらにコンサルティングや清掃といった購入サービスまで、幅広く対象になる。
ポイントは、これが上流(サプライチェーンのさかのぼった側)の排出だという点です。自社の工場が直接出す排出(Scope1)や、購入電力の排出(Scope2)とは別に、「調達したモノ・サービスに、すでに含まれているCO2」を計上する。GHGプロトコルやGHGプロトコルとはで定義されるScope3の15カテゴリの、最初の一つです。
なぜ多くの企業で最大の排出源になるのか
カテゴリ1が重要なのは、製造業を中心に、Scope3全体のなかで最も大きな割合を占めることが多いからです。多くの製品は、購入した原材料や部品の塊です。その調達段階に膨大なCO2が隠れており、自社の直接排出をはるかに上回ることも珍しくありません。
だからこそ、Scope3の算定は、まずこのカテゴリ1をどう捉えるかが鍵になる。ただし、購入品目は数千〜数万にのぼることもあり、一つひとつの排出量を正確に測るのは容易ではありません。ここに、複数の算定方法が用意されている理由がある。
4つの算定方法の全体像
カテゴリ1の算定には、精度と手間の異なる4つの方法があります。まず全体像をつかみましょう。
4つの算定方法:精度と手間のトレードオフ
精度 粗
支出ベース法
購入額に金額あたりの原単位を掛ける。手軽だが精度は粗い。
平均データ法(物量ベース)
購入した物量に物量あたりの原単位を掛ける。
ハイブリッド法
一次データと二次データを組み合わせる。
精度 高
サプライヤー別法
サプライヤーから個別の製品排出量を入手。最も高精度。
下 ← 手間が小さい/精度が粗い 精度が高い/手間が大きい → 上
まず支出ベース法で全体像をつかみ、排出の大きい重要品目から精度を上げるのが現実的。
出典:GHGプロトコル・環境省の公開情報をもとにgreenote作成
支出ベース法・平均データ法・ハイブリッド法・サプライヤー別法
GHGプロトコルは、カテゴリ1の算定方法を大きく4つに整理しています。第一が支出ベース法。購入した製品・サービスの金額(支出)に、金額あたりの排出原単位を掛ける方法です。第二が平均データ法(物量ベース)。購入した製品の物量(重量や個数)に、物量あたりの平均排出原単位を掛ける方法です。
第三がハイブリッド法。一次データ(サプライヤーの実測値)と二次データ(原単位)を組み合わせる方法で、精度と現実性のバランスを取ります。第四がサプライヤー別法。サプライヤーから製品ごとの排出量データを直接入手する方法で、最も実態に近い一方、サプライヤーの協力とデータ整備が欠かせません。
精度と手間のトレードオフ
この4つは、精度と手間がトレードオフの関係にあります。もっとも手間が小さいのが支出ベース法で、算定の入り口として広く使われる。一方、もっとも精度が高いのがサプライヤー別法ですが、多数のサプライヤーからデータを集める負担は大きい。
現実の実務では、単一の方法だけでなく、複数を組み合わせることがよくあります。実際、CDPに開示された算定方法を見ても、支出ベース法やハイブリッド法が多く使われ、平均データ法と併用する例も目立ちます。まずは全体像を粗くつかみ、排出の大きい重要な品目から精度を上げていく——これが定石です。
支出ベース法の計算ステップ
最初の一歩として使われることが多いのが、支出ベース法です。購入金額から概算する手順を見ていきます。
支出ベース法:購入額から概算する
購入額を分類
調達・会計データから、何にいくら使ったかを品目分類ごとに整理する
原単位を掛ける
分類ごとに、産業連関表にもとづく金額あたり原単位を掛ける
合算する
すべての分類の排出量を足し、カテゴリ1の合計とする
手軽に全体像をつかめる。ただし原単位が業種平均のため、自社の削減努力が反映されにくいのが弱点。
出典:環境省・GHGプロトコルの公開情報をもとにgreenote作成
購入額を分類し、金額あたり原単位を掛ける
支出ベース法の計算は、大きく3ステップです。第一に、購入額を品目・分類ごとに整理します。調達データや会計データをもとに、「原材料にいくら、部品にいくら、サービスにいくら」と支出を分類する。第二に、分類ごとに、金額あたりの排出原単位を掛けます。この原単位は、産業連関表にもとづくもので、後述の環境省データベースなどから入手します。
考え方は、とてもシンプルです。購入額(円)× 金額あたりの排出原単位 = 排出量(kg-CO2e)。たとえば「鉄鋼製品を1,000万円分購入」に、鉄鋼分類の原単位を掛ける、という具合です。第三に、すべての分類の排出量を合算すれば、カテゴリ1の概算値が得られる。会計データさえあれば始められるため、最初の全体像づくりに適した方法です。
長所と、精度の限界
支出ベース法の長所は、とにかく手軽に、網羅的に全体像をつかめることです。購入品目が膨大でも、支出の分類さえできれば概算できます。Scope3算定の第一歩として、多くの企業がここから入ります。
一方で、精度には限界があります。原単位が業種の平均値のため、同じ金額を使えば同じ排出量として計算されてしまう。つまり、自社が低炭素な調達に切り替えても、金額が同じなら数字は変わらないのです。また、価格の変動が排出量に見えてしまう弱点もあります。だからこそ、全体像をつかんだ後は、重要な品目から次の方法へ進みます。
物量ベース法・ハイブリッド法で精度を上げる
より正確に算定するなら、モノの量にもとづく方法です。代表製品を分解して積み上げる考え方を見ていきます。
代表製品を分解し、素材から積み上げる
代表製品を選ぶ
生産量の多い代表的な製品を選定する
部品表・素材構成に分解
使われる素材(鉄・アルミ・樹脂など)の重量を洗い出す
素材ごとに原単位を掛ける
素材の重量に物量あたりのライフサイクル原単位を掛ける
生産台数を掛けて合算
製品1台あたりの排出量に、実際の生産・購入量を掛ける
支出ベース法より精度が高く、軽量化や低炭素素材への切り替えといった削減努力が反映されやすい。
出典:GHGプロトコル・環境省の公開情報をもとにgreenote作成
代表製品を分解し、素材・部品ごとに積み上げる
より精度の高い平均データ法(物量ベース)は、金額ではなくモノの量をもとに計算します。実務でよく取られるのが、代表製品を分解して積み上げるやり方です。まず、生産量の多い代表的な製品を選定します。次に、その製品に使われる素材(鉄・アルミ・樹脂など)の重量を、部品表などから洗い出す。
そして、素材の重量に、物量あたりのライフサイクル原単位を掛けます。計算式は、素材重量(kg)× 物量あたりの排出原単位 = 排出量。これを製品1台あたりで求め、実際の生産・購入台数を掛けて合算します。金額ではなく物量で捉えるため、軽量化や低炭素素材への切り替えといった削減努力が、数字に反映されやすいのが強みです。
サプライヤーの一次データで置き換える
物量ベースをさらに一歩進めたのが、ハイブリッド法です。基本は物量ベースの積み上げで計算しつつ、排出量の大きい重要な部品や素材について、サプライヤーから提供される実測(一次)データに置き換える方法です。すべてを一次データにするのは大変でも、効くところだけ精度を上げる、現実的なアプローチです。
最終的に、すべてをサプライヤーの製品別データでまかなうのがサプライヤー別法ですが、これは多数のサプライヤーの協力とデータ基盤が前提になる。だからこそ、多くの企業はまず物量ベースやハイブリッドで組み立て、一次データの比率を少しずつ高めていくという道をたどります。なお、CDPに開示された実務でも、一次データの比率は総じて低く、多くの企業が二次データ(原単位)を中心に算定しているのが実情です。
排出原単位・データはどこから取るのか
算定の土台になるのが、排出原単位(データベース)です。代表的な入手先を整理します。
原単位はどこから取るか
環境省 排出原単位データベース
グリーン・バリューチェーンプラットフォームで公開。産業連関表にもとづく金額あたり原単位など。
IDEAなど国内LCAデータベース
物量あたりのライフサイクル原単位。素材1kgあたり何kg-CO2eなど。
Ecoinvent・DEFRAなど海外DB
国際的に広く使われるLCA原単位。グローバルな供給網で活用。
サプライヤーの一次データ
サプライヤーから入手する実測値。ハイブリッド法・サプライヤー別法で使う。
どの原単位を使うかで結果が変わる。出典とデータベースの版(バージョン)を必ず記録する。
出典:環境省・GHGプロトコルの公開情報をもとにgreenote作成
環境省の排出原単位データベースとIDEA
支出ベース法や平均データ法では、排出原単位が計算の土台になる。日本での基本は、環境省がグリーン・バリューチェーンプラットフォームで公開する「排出原単位データベース」です。産業連関表にもとづく金額あたりの原単位などを収録しており、支出ベース法はこれを使うのが一般的です(排出量算定の考え方)。
一方、物量ベースで使う物量あたりのライフサイクル原単位には、IDEAなどの国内LCAデータベースがよく用いられます。素材1kgあたり何kg-CO2e、といった係数が整備されており、積み上げ計算に向いています。
LCAデータベースとサプライヤーの一次データ
国際的には、EcoinventやDEFRA(英国環境・食料・農村地域省)といった海外のLCAデータベースも広く使われる。海外拠点やグローバルなサプライチェーンを持つ企業では、これらを組み合わせることもあります。どのデータベースを使うかは、対象品目や求める精度によって選び分けます。
そして、精度を最も高めるのが、サプライヤーから提供される製品ごとの一次データです。ただし、ここで注意したいのが、どの原単位を使うかによって、算定結果が大きく変わるという点です。だからこそ、使った原単位の出典とデータベースの版(バージョン)を必ず記録しておくことが、算定の信頼性を支える。GHGプロトコルの詳細はScope 3 Standardもご確認ください。
CDP回答・開示での実務ポイント
算定した結果を、CDPなどでどう開示するか。実務での押さえどころを整理します。
CDPで記載する主な項目
「関連あり・算定済」「関連あり・未算定」「関連なし」などを選ぶ
算定した排出量(トンCO2e)を記入する
支出ベース法・平均データ法・ハイブリッド法・サプライヤー別法などを選ぶ
一次データの割合と、使った原単位・前提を説明欄に記載する
算定の透明性がカギ。どの方法で、どの原単位を使い、どこまで一次データかを説明できるようにする。
出典:CDP・GHGプロトコルの公開情報をもとにgreenote作成
評価ステータスと算定方法・一次データ比率の記載
算定結果をCDPとはなどで開示する際は、カテゴリごとにいくつかの項目をセットで記載します。まず評価ステータス——「関連あり・算定済」「関連あり・未算定」「関連なし」などを選ぶ。次に排出量(トンCO2e)、そして採用した算定方法(支出ベース法・平均データ法・ハイブリッド法・サプライヤー別法など)を選択します。
さらに重要なのが、一次データの比率(サプライヤーなどから得た実データがどれだけあるか)と、説明欄です。説明欄には、どの原単位を使い、どんな前提で計算したかを記します。ここが、算定の透明性と信頼性を示す肝になります。数字だけでなく、「どう出したか」を説明できることが求められる。
実務で多い方法と、現実的な進め方
CDPに開示された算定方法を見ると、カテゴリ1では支出ベース法・ハイブリッド法・平均データ法が中心で、複数を組み合わせる例も多く見られます。一方、サプライヤーからの一次データの比率は総じて低めで、多くの企業が二次データ(原単位)を土台に算定しているのが実情です。つまり、最初から完璧を目指す必要はない、ということです。
現実的な進め方は、段階的です。まず支出ベース法で全体像をつかみ、排出の大きい重要品目を特定する。次に、その品目を物量ベースやハイブリッド法に切り替えて精度を上げ、少しずつ一次データの比率を高めていく。この積み重ねが、算定の質と、削減につながる打ち手の発見を支えます。責任ある調達ともつながる取り組みです。
カテゴリ1の算定をどう進めるか
Scope3カテゴリ1(購入した製品・サービス)は、購入したモノ・サービスが作られるまでの上流排出を計上するもので、多くの企業でScope3全体の最大の排出源になります。算定方法は、支出ベース法・平均データ法・ハイブリッド法・サプライヤー別法の4つ。精度と手間はトレードオフの関係にあり、原単位は環境省の排出原単位データベースやIDEA、EcoinventやDEFRAなどから入手します。
大切なのは、「まず全体像、次に重要品目の精度」という段階的な進め方です。いきなり全品目を一次データで算定するのは現実的ではありません。支出ベース法で当たりをつけ、排出の大きい品目から物量ベース・ハイブリッドへ深めていく。そして、使った方法と原単位を記録し、説明できるようにしておくこと。これが、CDPなどの開示にも、実際の削減にもつながります。Scope3全体像はScope3とは、開示の基準はGHGプロトコルとはもあわせてご覧ください。ESGの全体像はESG完全ガイドもどうぞ。
購入したモノの向こう側にある、見えないCO2を可視化すること。カテゴリ1の算定は、サプライチェーン全体の脱炭素の出発点です。なお本記事は、環境省・GHGプロトコルなどの公開情報をもとに算定の考え方を整理したものであり、特定のツールや製品を推奨するものではありません。原単位や制度は変わりうるため、算定時は最新の一次情報をご確認ください。
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よくある質問(FAQ)
Q. Scope3カテゴリ1(購入した製品・サービス)には何が含まれますか?
A. 報告年に購入・取得したすべての製品(原材料・部品など)とサービスが、作られるまで(原材料の採取から製造まで=cradle-to-gate)に出した上流のCO2が対象です。自社の直接排出(Scope1)や電力の排出(Scope2)とは別に、調達したモノ・サービスに紐づく排出を計上します。製造業では、このカテゴリ1がScope3全体で最も大きな割合を占めることが少なくありません。
Q. カテゴリ1はどうやって計算しますか?
A. 主に4つの方法があります。(1)購入額に金額あたりの排出原単位を掛ける『支出ベース法』、(2)購入した物量に物量あたりの原単位を掛ける『平均データ法』、(3)一次データと二次データを組み合わせる『ハイブリッド法』、(4)サプライヤーから個別の製品排出量を入手する『サプライヤー別法』です。精度はサプライヤー別法が最も高く、手間は支出ベース法が最も小さくなります。まず支出ベース法で全体像をつかみ、重要な品目から精度を上げるのが現実的です。
Q. 排出原単位はどこから入手すればよいですか?
A. 日本では、環境省がグリーン・バリューチェーンプラットフォームで公開する排出原単位データベース(産業連関表にもとづく金額あたりの原単位などを収録)が基本になります。物量あたりのライフサイクル原単位は、IDEAなどの国内LCAデータベースや、EcoinventやDEFRAといった海外データベースも使われます。どの原単位を使うかで結果が変わるため、出典とデータベースの版を記録しておくことが大切です。本記事は特定のツールや製品を推奨するものではありません。
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出典・参考(一次情報)
- 環境省「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム(サプライチェーン排出量の算定・排出原単位データベース)」
- 環境省「サプライチェーン排出量の算定方法」
- GHG Protocol「Corporate Value Chain (Scope 3) Standard」
最終更新日:2026年7月2日
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。