サムスン電子(Samsung)のESG経営を分析|二段階ネットゼロと半導体

2026.07.27
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ESG Company Analysis

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スマホも、テレビも、そして半導体も。サムスン電子は、そのすべてを世界規模で手がける総合電機の巨人です。前回のTSMCが半導体づくりに専念する会社なら、サムスンは半導体もつくりつつ、自社ブランドの製品まで届ける会社。だからこそ、その脱炭素は一筋縄ではいきません。同社は、部門ごとに時期を分けた「二段階のネットゼロ」を選びました。本記事では、サムスン電子のESG経営を、二段階ネットゼロと半導体を軸に、公式情報をもとに中立に分析していきます。

この記事の目次

01

サムスンのESG経営とは|総合電機の巨人

まず、サムスンがどんな会社で、その脱炭素がなぜ二段階なのかを整理しましょう。

家電も半導体も、両方つくる

サムスン電子=韓国を代表する総合電機メーカー
DX(デバイス・エクスペリエンス)スマホ・テレビ・家電など消費者向け
DS(デバイス・ソリューションズ)メモリなどの半導体

消費者向けブランドと世界最大級の半導体、両方を持つ。

出典:サムスン電子の公表情報をもとにgreenote作成

DX(家電・スマホ)とDS(半導体)

サムスン電子は、韓国を代表する総合電機メーカーです。その事業は、大きく2つに分かれます。ひとつがDX(デバイス・エクスペリエンス)で、スマートフォンやテレビ、家電などの消費者向け製品を扱います。もうひとつがDS(デバイス・ソリューションズ)で、メモリなどの半導体を手がけます。

この2部門の性格は、まったく別物です。DXは、私たちがよく知る「サムスン」のブランド製品。一方DSは、世界最大級のメモリ半導体をつくる、いわば縁の下の力持ちです。そして脱炭素の観点では、この2つは負荷の大きさが大きく異なります。半導体をつくるDSは、電力やガスの負荷がとりわけ重いのです。この違いが、次に見る「二段階のネットゼロ」につながっているのです。

二段階のネットゼロ

サムスンは、2022年に発表した「新環境戦略」で、脱炭素の目標を掲げました。特徴的なのが、その二段階の設計です。公表情報によれば、まず消費者向けのDX部門は、2030年までにScope1・2のネットゼロをめざします。そして、半導体を含む全社では、2050年までにネットゼロを達成する計画です。脱炭素の全体像は、関連記事のネットゼロとはもあわせてご覧ください。

なぜ、時期を分けたのでしょうか。答えは、部門ごとの難しさの違いにあるといえます。負荷の軽いDXは早く、負荷の重い半導体(DS)を含む全社は時間をかけて。無理に全社一律の目標を掲げるのではなく、現実に即して段階を分ける。この割り切りが、サムスンの脱炭素の出発点になっています。

02

新環境戦略|7兆ウォン超の投資

サムスンは、大規模な投資で環境課題に挑みます。

負荷に応じて、時期を分ける

新環境戦略(2022)=二段階のネットゼロ
DX部門2030年家電・スマホ。Scope1・2ネットゼロ
全社(DS含む)2050年半導体は負荷が重く時間をかける

全社一律でなく、現実に即して段階を分ける割り切り。

出典:サムスン電子の公表情報をもとにgreenote作成

サムスンの本気度は、投資額に表れています。公表情報によれば、新環境戦略のもとで、2030年までに環境関連へ7兆ウォンを超える投資を行う計画です。掛け声だけでなく、大きな資金を投じて課題に挑む姿勢が示されています。

その使いみちは、実に多様です。半導体の製造で出るプロセスガス(温室効果ガス)の削減水の節約、電子廃棄物(e-waste)の回収拡大、そして汚染物質の削減などです。ここで注目したいのは、対象がCO2だけにとどまらない点です。水や資源、汚染といった、幅広い環境課題に同時に取り組む。総合電機として多様な事業を持つサムスンだからこそ、環境への向き合い方も総合的になっているのだといえます。

03

RE100と韓国の壁|再エネの制約

サムスンの脱炭素には、地理的な難しさがあります。

大きな投資で、幅広く

2030年までに環境関連へ7兆ウォン超を投資
プロセスガスの削減(半導体製造の温室効果ガス処理)
水の節約
電子廃棄物(e-waste)の回収拡大
汚染物質の削減

CO2だけでなく、水や資源、汚染まで幅広い環境課題に取り組む。

出典:サムスン電子の公表情報をもとにgreenote作成

サムスンの脱炭素には、事業構造だけでなく、地理的な難しさもあります。同社は、事業で使う電力を100%再エネにする枠組みRE100に加盟しています。海外拠点については、韓国以外の市場で、5年以内に電力を再エネでまかなう計画を掲げています。

ところが、本拠地の韓国こそが、大きな壁です。韓国は、再生可能エネルギーの供給や送電網に制約が大きく、必要な量の再エネを確保しにくいのが現実です。工場が集中する母国で再エネが足りないというのは、深刻な課題です。じつはこれは、台湾を拠点とするTSMCとまったく同じ構図になります。東アジアの電力事情が、この地域の製造業の脱炭素に、共通の壁として立ちはだかっているのです。

04

半導体の環境負荷|プロセスガスと水

半導体部門(DS)は、独特の環境課題を抱えます。

半導体ならではの、重い負荷

半導体部門(DS)の環境課題
プロセスガス製造工程で使う強力な温室効果ガス。除害処理が必要
電力と水装置やクリーンルームを24時間稼働。ウェハー洗浄に大量の水

この負荷ゆえ、DSを含む全社のネットゼロは2050年と時間をかける。

出典:サムスン電子の公表情報をもとにgreenote作成

サムスンの脱炭素が二段階になる最大の理由が、半導体部門(DS)の環境負荷の重さです。半導体づくりには、独特の課題があります。ひとつが、プロセスガスです。製造工程では、強力な温室効果ガスを使うことがあり、その除害処理が欠かせません。CO2以外の温室効果ガス対策が、半導体では重要になるのです。

加えて、電力の負荷も重くのしかかります。装置やクリーンルームを24時間動かすため電力を大量に消費し、ウェハーの洗浄には大量の水を使います。プロセスガス、電力、水。この三重の負荷が、半導体部門の脱炭素を難しくしています。だからこそサムスンは、DSを含む全社のネットゼロを、2030年ではなく2050年と、時間をかけて設定しているわけです。半導体の環境負荷の重さを、正直に目標へ反映させた形だといえます。

05

TSMCとの対比|半導体2社の道

半導体の二大巨頭を並べると、それぞれの違いが見えてきます。

同じ半導体でも、形が違う

共通=世界的な半導体メーカー。東アジア(韓国・台湾)の再エネ制約という同じ壁
サムスン半導体(DS)に加え、スマホ・家電(DX)も自社ブランドで手がける総合電機。DX2030・全社2050の二段階
TSMC他社の半導体を専門につくるファウンドリに特化。RE100を2040年に前倒し

事業構造の違いが目標の立て方にも表れる。優劣ではない

出典:各社の公表情報をもとにgreenote作成

半導体の二大巨頭、サムスンとTSMCを並べてみましょう。両社に共通するのは、世界的な半導体メーカーであること、そして東アジア(韓国・台湾)の再エネ制約という、同じ壁に直面していることです。しかし、その事業の形は大きく異なるといえます。

TSMCは、他社が設計した半導体を専門につくるファウンドリに特化しています。一方サムスンは、半導体(DS)に加えて、スマホや家電(DX)も自社ブランドで手がける総合電機です。この違いは、脱炭素の目標にも表れます。専業のTSMCがRE100を2040年に前倒しするのに対し、多様な事業を持つサムスンはDX2030・全社2050の二段階を選びました。どちらが優れているという話ではありません。事業構造の違いが、目標の立て方の違いになって表れているのです。同業を並べて見ることで、それぞれの戦略がより深く理解できます。なお本記事は、特定の企業や投資を推奨するものではありません。

人的資本と労働安全(S)|半導体現場の安全と和解の歴史

Samsung電子のSを語るうえで避けて通れないのが、半導体工場の職業病問題(白血病等)をめぐる長年の係争と2018年の包括和解です。和解にもとづき補償と再発防止の枠組みを整え、外部機関による作業環境の検証を受け入れたとされます。負の歴史に向き合った事例として記憶されるべきプロセスです。

現在はグローバルサプライチェーンの労働・人権基準(RBA行動規範等)に沿った管理を進め、サステナビリティレポートで労働安全指標を開示。人権デューデリジェンスが制度化される時代、同社の経験は業界全体の教訓となっています。

ガバナンス(G)|財閥統治からの脱皮とコンプライアンス委員会

韓国財閥(チェボル)特有の複雑な株式持ち合いと創業家支配は、Samsungのガバナンス上の長年の論点です。経営トップの贈賄事件を経て、2020年に外部有識者による「サムスン準法(コンプライアンス)監視委員会」を設置し、創業家の経営関与や労組対応を外部の目で監督する体制を敷いたとされます。

「無労組経営」の方針転換(労働組合の容認)も同時期の大きな変化です。ガバナンス改革が企業価値評価(いわゆるコリア・ディスカウントの解消)に直結する構図は、日本のガバナンス改革とも重なります。

06

まとめ|サムスンのESG経営から学べること

サムスンの歩みは、多様な事業を持つ巨大企業が、現実に即して脱炭素を設計する難しさと工夫を見せてくれます。最後に、要点を振り返りましょう。

サムスンに学ぶ、3つのこと

現実に即して段階を分ける負荷の軽いDXは2030、重い半導体を含む全社は2050
幅広く取り組むCO2だけでなくプロセスガス・水・e-wasteにも7兆ウォン超を投資
地理の壁を直視韓国の再エネ制約という現実を隠さない

出典:サムスン電子の公表情報・公開報道をもとにgreenote作成

サムスン電子のESG経営を振り返ると、いくつもの学びが見えてきます。

  • 韓国の総合電機DX(家電・スマホ)DS(半導体)の2部門を持つ
  • 二段階のネットゼロ=負荷の軽いDXは2030年、半導体を含む全社は2050年
  • 新環境戦略=2030年までに環境へ7兆ウォン超を投資(プロセスガス・水・e-waste・汚染物質)
  • RE100加盟も、本拠地韓国の再エネ制約が壁(台湾のTSMCと同じ構図)
  • TSMCとは事業構造が異なる=専業ファウンドリ vs 総合電機(優劣ではない)

サムスンから学べるのは、多様な事業を持つ企業ほど、現実に即して脱炭素を設計する必要があるということです。全社一律の格好いい目標ではなく、部門ごとの難しさに応じてDX2030・全社2050と割り切る。CO2だけでなく、プロセスガスや水まで幅広く投資する。韓国の再エネ制約という壁を隠さない。この正直さと現実感は、多くの企業にとって参考になるはずです。理想と現実の両面を見すえることが、企業のESGを深く理解する助けになります。なお、同じ電機業界のソニー村田製作所のESG経営も、あわせてご覧ください。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。

FAQ

よくある質問(FAQ)

Q. サムスン電子(Samsung)とはどんな会社ですか?

サムスン電子は、韓国を代表する総合電機メーカーです。事業は大きく2つに分かれます。ひとつが「DX(デバイス・エクスペリエンス)」で、スマートフォン・テレビ・家電などの消費者向け製品を扱います。もうひとつが「DS(デバイス・ソリューションズ)」で、メモリなどの半導体を手がけます。世界最大級のメモリ半導体メーカーであり、同時にスマホや家電の世界的ブランドでもある点が特徴です。

Q. サムスンの脱炭素目標はどうなっていますか?

サムスンは、2022年に発表した「新環境戦略」で、二段階のネットゼロを掲げています。まず、消費者向け製品を扱うDX部門は、2030年までにScope1・2のネットゼロをめざします。そして、半導体を含む全社では、2050年までにネットゼロを達成する計画です。半導体部門は電力やガスの負荷が大きいため、達成に時間がかかることが、この段階差に表れています。

Q. サムスンの新環境戦略とは何ですか?

新環境戦略は、2022年にサムスンが発表した環境の長期方針です。公表情報によれば、2030年までに環境関連へ7兆ウォンを超える投資を行う計画です。使いみちは、半導体の製造で出るプロセスガスの削減、水の節約、電子廃棄物(e-waste)の回収拡大、汚染物質の削減など多岐にわたります。ネットゼロと並行して、水や資源、汚染といった幅広い環境課題に取り組む点が特徴です。

Q. なぜサムスンのRE100は難しいのですか?

サムスンはRE100(事業の電力を100%再エネにする枠組み)に加盟し、韓国以外の海外拠点では、5年以内に電力を再エネでまかなう計画です。しかし、本拠地である韓国は、再生可能エネルギーの供給や送電網に制約が大きく、必要な量の再エネを確保しにくいのが現実です。台湾を拠点とするTSMCと同じく、東アジアの電力事情が、脱炭素の大きな壁になっています。

Q. サムスンとTSMCは何が違いますか?

どちらも世界的な半導体メーカーですが、事業の形が異なります。TSMCは、他社の半導体を専門につくる「ファウンドリ」に特化しています。一方サムスンは、半導体(DS)に加えて、スマホや家電(DX)も自社ブランドで手がける総合電機です。脱炭素でも、TSMCがRE100を2040年に前倒しするのに対し、サムスンはDX2030・全社2050の二段階です。事業構造の違いが、目標の立て方にも表れています。

Q. サムスンのESG経営から学べることは何ですか?

大きく2つあります。1つ目は、事業部門ごとの難しさに応じて、DX2030・全社2050という現実的な二段階の目標を立てる考え方です。2つ目は、CO2だけでなく、プロセスガスや水、e-wasteといった幅広い環境課題に、大規模な投資で取り組む姿勢です。もっとも、半導体部門の負荷や韓国の再エネ制約という課題は残ります。理想と現実の両面を見ることが大切です。なお本記事は特定の投資を推奨するものではありません。

Sources

出典・参考(一次情報)

※ 本記事は上記の一次情報および公開報道をもとにgreenote編集部が整理しています。企業評価や投資判断を目的とするものではありません。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

編集責任

greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年7月12日

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