ESG Company Analysis
「このジャケットを買わないで」。かつて、自社の製品にそう呼びかけた企業があります。アウトドアブランドのパタゴニア(Patagonia)です。売上を追うのが常識のビジネスの世界で、同社は正反対のことを言い続けてきた。そして2022年、創業者は会社そのものを手放し、「地球が唯一の株主」だと宣言します。本記事では、目標や数値だけでは測れない、パタゴニアのパーパス経営を、公式情報をもとに中立に分析します。
この記事の目次
01
パタゴニアのESG経営とは|地球を救うためのビジネス
まず、パタゴニアがどんな企業で、そのESG経営が何を掲げているのかを整理しましょう。
ビジネスの目的を、問い直す
アウトドアブランドでありながら、環境問題に強くコミットする。
出典:Patagoniaの公表情報をもとにgreenote作成
アウトドア用品の世界的ブランド
パタゴニアは、アメリカ発祥の、アウトドア用品・アパレルの世界的ブランドです。登山やサーフィン、クライミングなどの愛好家に、長く支持されてきた。丈夫で機能的な製品づくりに、定評があります。
しかし、パタゴニアを特別な存在にしているのは、製品の質だけではありません。環境問題への、強いコミットメントです。同社は、自らを「アクティビスト企業」と位置づけ、事業を通じて環境を守ることを、経営の根幹に据えている。ファッション産業全体の環境負荷は、関連記事のサステナブルファッションとはもあわせてご覧ください。
ミッションを中心に据える
その姿勢を、もっとも端的に表すのが、同社のミッションです。パタゴニアは、「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」と掲げている。ビジネスは目的ではなく、地球を救うための「手段」だ。そう言い切っているのです。
この言葉は、単なるスローガンではありません。後で見るように、パタゴニアは所有の仕組みまで変えて、この言葉を実行に移した。多くの企業が、利益の追求を第一に置くなかで、その順序を逆転させる。ここに、パタゴニアのESG経営の出発点があります。
02
地球が唯一の株主|2022年の所有権移転
パタゴニアを象徴するのが、2022年に行われた前代未聞の決断です。
地球が、唯一の株主
事業に再投資されない利益は、地球環境を守るために使われる。
出典:Patagoniaの公表情報をもとにgreenote作成
2022年9月、パタゴニアは世界を驚かせた。創業者のイヴォン・シュイナード氏と家族が、保有する会社の全株式を手放したのです。しかも、高値で売却したわけでも、株式を公開したわけでもありません。株式を、2つの新しい組織に譲り渡した。
ひとつが、パタゴニア・パーパス・トラストです。議決権のある株式を持ち、会社の価値観が守られるよう見張る役割を担います。もうひとつが、ホールドファスト・コレクティブという非営利団体です。会社の大半を保有し、環境危機と闘う活動に取り組みます。この仕組みにより、事業に再投資されない利益は、すべて地球環境を守るために使われることになりました。その額は、年間およそ1億ドルにのぼると見込まれています。「地球が唯一の株主」。この言葉は、こうして現実のものになりました。なお、この所有形態は税制上の側面も指摘されますが、同社は「目的」を最優先した結果だと説明しています。企業の所有と統治の考え方は、関連記事のコーポレートガバナンスとはもあわせてご覧ください。
03
1% for the Planet|売上の1%を地球へ
所有権移転より前から続く、パタゴニアの寄付の仕組みを見ていきます。
利益ではなく、売上の1%
利益ではなく売上の1%だから、業績が悪い年でも寄付を続ける強い約束。
出典:Patagoniaの公表情報をもとにgreenote作成
所有権の移転は、突然の思いつきではありません。その根には、長年つづく寄付の文化があります。パタゴニアは、1985年から、売上の1%を草の根の環境団体に寄付してきました。そして2002年には、この考え方を他社にも広げるため、「1% for the Planet」という団体を共同で設立します。
ここで注目したいのが、「利益の1%」ではなく「売上の1%」だという点です。利益は、赤字の年にはゼロになります。しかし売上は、事業を続けるかぎり生まれます。つまり、業績が悪い年でも、寄付を止めない。この約束は、環境への貢献を「余裕があればやること」ではなく、「事業のコスト」として組み込む、強い意志の表れです。
04
Worn Wear|「買わない」をすすめる会社
つくって売るだけでなく、製品を長く使うことを積極的にすすめています。
長く使うことを、すすめる
新品を売るより、すでにある製品を長く使うことをすすめる逆説的な取り組み。
出典:Patagoniaの公表情報をもとにgreenote作成
パタゴニアの逆説的な姿勢が、もっともよく表れているのがWorn Wear(ウォーンウェア)です。これは、製品を長く使い続けるための取り組みになります。壊れた製品を修理し、使わなくなった製品を下取りして、手入れした中古品を再販する。新品を売ることよりも、すでにある製品を長く使うことを、積極的にすすめている。循環型の考え方は、関連記事のサーキュラーエコノミーとはもあわせてご覧ください。
象徴的なのが、2011年に出した「このジャケットを買わないで」という広告です。自社の売れ筋商品を挙げ、「本当に必要でなければ買わないで」と呼びかけた。企業が、自ら消費を抑えるよう促す。常識では考えられない行動です。しかしパタゴニアは、大量生産・大量消費こそが環境負荷の根本にあると考え、その矛盾から目をそらしません。必要なものを、長く使う。この価値観を、顧客とともに育てようとしている。買い方そのものを問い直す姿勢は、関連記事のエシカル消費とはもあわせてご覧ください。
05
素材とアクティビズム|言葉と行動を一致させる
原材料の選択から社会への働きかけまで、姿勢を貫いています。
言葉を、行動で裏づける
掲げた理念を、原材料の選択から社会への働きかけまで一貫させる。
出典:Patagoniaの公表情報をもとにgreenote作成
パタゴニアは、理念を掲げるだけでなく、それを行動で裏づけてきました。まず、素材です。同社は早くから、環境負荷の大きい従来の綿花栽培を見直し、オーガニックコットンへの切り替えを進めた。あわせて、ペットボトルなどを再生したリサイクル素材も積極的に使っている。環境や社会に配慮した企業を認証するB Corpの認証も取得しています。
もうひとつが、アクティビズム(社会運動)です。パタゴニアは、環境保護を求める草の根の活動を資金面で支え、時には自然を守るための訴訟にも関わってきた。ビジネスの枠を超えて、社会そのものに働きかける。掲げた理念を、原材料の選択から社会への働きかけまで、一貫させる。この徹底ぶりが、パタゴニアへの信頼を支えています。
06
まとめ|パタゴニアのESG経営から学べること
パタゴニアの歩みは、ESG経営のもうひとつのかたちを、私たちに示してくれます。最後に、要点を振り返りましょう。
パタゴニアに学ぶ、3つのこと
出典:Patagoniaの公表情報をもとにgreenote作成
パタゴニアのESG経営を振り返ると、いくつもの学びが見えてきます。
- アウトドアブランドでありながら、「地球を救うためにビジネスを営む」をミッションに掲げる
- 2022年に創業者が全株式を手放し、「地球が唯一の株主」へ。利益を地球環境に還元する仕組みに
- 1% for the Planetで、1985年から売上の1%を環境団体へ寄付(利益ではなく売上)
- Worn Wearで修理・下取り・再販を進め、「このジャケットを買わないで」と消費に疑問を投げかける
- オーガニックコットンやリサイクル素材、B Corp認証、アクティビズムで、言葉と行動を一致させる
パタゴニアから学べるのは、ESGを「数値目標」ではなく「事業の目的そのもの」として捉える視点です。多くの企業がCO2削減の目標値を競うなか、パタゴニアは所有の仕組みまで変えて、利益を地球に還元する構造をつくりました。もっとも、同社は非上場で、標準化された排出データの開示が限られるという側面もあります。目標と数値による経営と、目的と仕組みによる経営。どちらか一方が正解というわけではありません。しかしパタゴニアは、後者にも大きな可能性があることを、行動で示している。なお本記事は、特定の投資を推奨するものではありません。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。
FAQ
よくある質問(FAQ)
Q. パタゴニア(Patagonia)とはどんな企業ですか?
パタゴニアは、アメリカ発祥の、アウトドア用品・アパレルの世界的ブランドです。登山やサーフィンなどの愛好家に支持されてきました。同時に、環境問題に強くコミットする企業としても知られます。「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」というミッションを掲げ、環境を経営の中心に据えている点が、大きな特徴です。
Q. 「地球が唯一の株主」とはどういう意味ですか?
2022年、創業者のイヴォン・シュイナード氏と家族は、保有するパタゴニアの全株式を、新たに設けた2つの組織に譲渡しました。会社の価値観を守るための「パタゴニア・パーパス・トラスト」と、環境危機と闘う非営利団体「ホールドファスト・コレクティブ」です。これにより、事業に再投資されない利益は、地球環境を守るために使われる仕組みになりました。「地球が唯一の株主」とは、この決断を象徴する言葉です。
Q. 1% for the Planetとは何ですか?
1% for the Planetは、企業が売上の1%を環境保護のために寄付する取り組みです。パタゴニアは1985年から、売上の1%を草の根の環境団体に寄付してきました。そして2002年には、この考え方を広げるため、1% for the Planetという団体を共同で設立しました。利益ではなく「売上」の1%を約束する点が特徴で、業績が悪い年でも寄付を続ける、強いコミットメントを表しています。
Q. Worn Wearとは何ですか?
Worn Wear(ウォーンウェア)は、パタゴニア製品を長く使い続けるための取り組みです。製品の修理や、使わなくなった製品の下取り・再販などを行っています。新品を売ることよりも、すでにある製品を長く使うことをすすめる、逆説的な取り組みです。かつて「このジャケットを買わないで」という広告を出したこともあり、大量消費に疑問を投げかける姿勢を、一貫して示しています。
Q. パタゴニアはなぜ「買わないで」とすすめるのですか?
パタゴニアは、モノを大量につくり、大量に売って、大量に捨てることこそが、環境負荷の根本にあると考えています。だからこそ、本当に必要なものだけを買い、修理しながら長く使うことをすすめます。売上の最大化と、環境負荷の削減は、しばしば対立します。その矛盾から目をそらさず、「買わない」選択まで含めて顧客に提案する。ここに、同社の一貫した姿勢が表れています。
Q. パタゴニアのESG経営から学べることは何ですか?
最大の学びは、ESGを「数値目標」だけでなく「事業の目的そのもの」として捉えている点です。多くの企業がCO2削減の目標値を競うなか、パタゴニアは所有の仕組みまで変えて、利益を地球に還元する構造をつくりました。一方で、同社は非上場で、標準化された排出データの開示は限られるという側面もあります。目標と数値による経営と、目的と仕組みによる経営。パタゴニアは、後者の可能性を示す存在だといえます。
Sources
出典・参考(一次情報)
- Patagonia「Ownership(所有について)」
- Patagonia Works「Patagonia’s Next Chapter: Earth is Now Our Only Shareholder(2022年発表)」
- Patagonia「Activism and environmental responsibility(環境への責任)」
※ 本記事は上記の一次情報および公開報道をもとにgreenote編集部が整理しています。企業評価や投資判断を目的とするものではありません。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年7月19日