取引先だから、銀行だから、昔からの付き合いだから——。そんな理由で、日本企業は長年、値上がりを狙うわけでもない他社の株式を大量に持ち合ってきた。これが政策保有株式です。しかし近年、資本効率やガバナンスの観点から見直しが求められ、その売却は過去最大の水準に達しています。本記事では、政策保有株式の意味と問題点、コーポレートガバナンス・コードや開示のルール、そして縮減が進む理由を、金融庁・東京証券取引所などの一次情報をもとに、わかりやすく解説します。なお本記事は制度の解説であり、特定の銘柄や投資を推奨するものではありません。
ガバナンス改革の全体像はコーポレートガバナンス・コードとはもあわせてご覧ください。
≡この記事の目次
政策保有株式とは
まず、政策保有株式をひとことで整理します。「純投資ではない目的で持つ株式」という発想から入りましょう。
政策保有株式をひとことで言うと
政策保有株式とは、ひとことで言えば、上場会社が、純投資以外の目的で保有する上場株式のことです。純投資とは、値上がり益や配当といった投資リターンそのものを狙う保有のこと。政策保有株式は、そうではなく、取引関係の維持・強化といった、事業上・経営上の目的で持つ株式を指します。
有価証券報告書の開示上は、政策保有株式は2つに分けられます。一つが、純投資目的以外で保有する「特定投資株式」。もう一つが、信託契約などに基づいて議決権を行使する権限を持つ「みなし保有株式」です。かつて日本で広く行われてきた「株式持ち合い」の多くも、この政策保有株式にあたります。「儲けるため」ではなく「関係のため」に持つ株——。それが、政策保有株式の本質です。
純投資との違い
政策保有株式を理解する鍵は、純投資との違いにある。純投資であれば、株価が上がらなかったり、配当が少なかったりすれば、売却するのが自然な判断です。リターンを最大化することが目的だからです。ところが、政策保有株式は違う。リターンが低くても、保有し続けることが少なくありません。
なぜなら、その保有の目的が、取引関係の維持といった「別のもの」にあるからです。株を持ち合うことで、相手企業との関係を安定させ、取引を円滑にする。株主総会では、経営陣に友好的な議決権を投じてくれる「安定株主」にもなる。つまり、政策保有株式は、純粋な投資判断とは異なる論理で保有される。この点が、後で述べる問題の出発点になる。
なぜ政策保有株式は持たれてきたのか
政策保有株式には、日本企業ならではの歴史的な背景がある。「株式持ち合い」という慣行から見ていきます。
株式を持ち合う関係
安定株主になる
総会で経営陣に友好的に議決権を行使してくれる。
取引関係を維持・強化
相手を長期的なパートナーとして重視するメッセージに。
互いに株式を持ち合うことで関係を安定させてきた。これが日本企業に広がった株式持ち合い。
出典:金融庁・東京証券取引所の公開情報をもとにgreenote作成
株式持ち合いと安定株主
政策保有株式が広がった背景には、日本特有の「株式持ち合い」という慣行がある。これは、企業どうしが互いに相手の株式を保有し合うことです。銀行と取引先企業、あるいは取引関係にある事業会社どうしが、株式を持ち合ってきた。その大きな狙いの一つが、「安定株主」の確保です。
安定株主とは、株価の変動などに左右されず、経営陣を支持し続けてくれる株主のことです。株式を持ち合った相手企業は、株主総会で経営陣の方針に友好的な議決権を投じてくれる。これにより、経営陣は、株主からの厳しい要求や、買収の脅威にさらされにくくなります。かつては、こうした安定株主を確保することが、安定した経営につながると考えられてきたのです。
取引関係の維持・強化という目的
もう一つの目的が、取引関係の維持・強化です。相手企業の株式を保有することは、「あなたの会社を長期的なパートナーとして重視しています」というメッセージになる。株式を持ち合うことで、取引先との結びつきを強め、継続的なビジネスにつなげようとしてきました。
たとえば、メインバンクが融資先企業の株式を持つ、部品メーカーと完成品メーカーが持ち合う、といった関係です。こうした保有は、短期的なリターンよりも、長期的な関係を重視する、日本的な経営慣行の一つでした。しかし、時代が変わり、資本効率や株主への説明責任が強く問われるようになると、この「関係のための保有」に、厳しい目が向けられるようになったのです。
政策保有株式の何が問題なのか
近年、政策保有株式は「見直すべきもの」として問題視されています。その理由を整理します。
見直しを迫られる理由
資本効率の低下
リターンが低くても保有を続け、資金が有効に活用されない。ROEなどを押し下げる。
経営規律の弛緩
安定株主に支えられ、経営を監視する緊張感が薄れる。なれ合いを生みやすい。
株主軽視
関係維持を優先し、一般株主の利益や資本の効率が後回しになりかねない。
持ち続けること自体が、資本効率とガバナンスの両面から問われている。
出典:金融庁・東京証券取引所の公開情報をもとにgreenote作成
資本効率の低下
政策保有株式の第一の問題が、資本効率の低下です。企業が保有する資産には、本来、それに見合うリターンが期待されます。ところが、政策保有株式は、投資リターンが低くても関係維持のために持ち続けられる。その結果、多額の資金が、十分に稼がない資産として会社の貸借対照表に積み上がることになる。
これは、ROE(自己資本利益率)などの資本効率の指標を押し下げる要因になります。同じ資本を、成長投資や株主還元に振り向ければ、より高いリターンを生めたかもしれない。「稼ぐ力」を弱めているのではないか——。投資家からは、こうした厳しい問いが向けられます。限られた資本をいかに効率的に使うかが問われる時代に、政策保有株式は逆風にさらされているのです。
経営規律の弛緩と株主軽視
第二の問題が、経営規律の弛緩です。前述のとおり、政策保有株式は「安定株主」を生みます。経営陣にとって、いつも味方をしてくれる株主がいることは、一見ありがたい。しかし裏を返せば、経営を厳しくチェックする緊張感が薄れることを意味します。持ち合った企業どうしが、互いの経営に口を出さない「なれ合い」に陥りやすいのです。
これは、株主軽視にもつながります。安定株主に支えられた経営陣が、一般株主の利益や資本効率を後回しにしてしまえば、コーポレートガバナンスの根幹が揺らぎます。本来、株主による監視は、経営を規律づける重要な仕組みです。政策保有株式は、その仕組みを内側から弱めかねない。だからこそ、ガバナンス改革のなかで、見直しが強く求められるようになったのです。取締役会の実効性評価とあわせて捉えると、その意義が見えてきます。
ルール――コーポレートガバナンス・コードと開示
政策保有株式に見直しを迫っているのが、コーポレートガバナンス・コードと、開示ルールの強化です。
説明と検証を求める
コーポレートガバナンス・コード 原則1-4
有価証券報告書での開示強化
保有目的やその効果、銘柄ごとの保有状況(特定投資株式・みなし保有株式)などの開示が段階的に強化された。
ただ持つのではなく、なぜ持つのかを検証し、説明することが求められている。
出典:金融庁・東京証券取引所の公開情報をもとにgreenote作成
コーポレートガバナンス・コード原則1-4
政策保有株式に、正面から見直しを求めているのが、コーポレートガバナンス・コードの原則1-4です。この原則は、政策保有株式について、上場会社に主に3つのことを求めています。第一に、縮減に関する方針・考え方を開示すること。第二に、毎年、取締役会で、個別の政策保有株式について保有の適否を検証すること。
そして第三に、政策保有株式に係る議決権行使の基準を作り、開示することです。とくに、2018年6月の改訂で、この原則の内容は強化されました。ポイントは、「持つなら、その合理性を説明せよ」という姿勢です。取引関係があるからと漫然と持ち続けるのではなく、保有によって得られる便益とリスクが、資本コストに見合っているかを、企業自身に検証させる。こうして、政策保有株式に「説明責任」を課したのです。
有価証券報告書での開示強化
コーポレートガバナンス・コードと並んで、見直しを後押ししてきたのが、有価証券報告書での開示強化です。金融庁は、開示のルールを段階的に強化し、政策保有株式について、より詳しい情報の開示を企業に求めてきました。保有の目的や、その効果を具体的に説明することも、そこに含まれます。
具体的には、政策保有株式の銘柄ごとの保有状況——特定投資株式やみなし保有株式について、銘柄名や貸借対照表の計上額、保有目的などが開示されます。個別に開示すべき銘柄数も拡大されてきました。こうして、投資家は、その企業がどんな株式を、なぜ、どれだけ持っているかを、以前よりずっと詳しく知ることができるようになった。開示による「見える化」が、縮減への圧力を高めているのです。
なぜいま縮減が進むのか
近年、政策保有株式の売却が加速しています。その背景にある、複数の圧力を整理します。
縮減を後押しする力
投資家
スチュワードシップに沿って対話。保有の多い企業の経営トップの選任に反対することも。
東京証券取引所
資本コストや株価を意識した経営を要請。
開示ルール
有価証券報告書での開示強化で保有が見えやすくなった。
↓
複数の圧力が重なり、近年は売却額が過去最大の水準に達したと報じられている。
出典:金融庁・東京証券取引所の公開情報をもとにgreenote作成
投資家と東証からの要請
政策保有株式の縮減を、強く後押ししているのが、投資家からの要請です。スチュワードシップ・コードに沿って、機関投資家は投資先企業と対話し、議決権を行使します。近年は、政策保有株式が多い企業に対して、経営トップの選任議案に反対するといった、厳しい姿勢を示す投資家も増えました。「非効率な保有をやめ、資本を有効に使ってほしい」という圧力です。
これに加え、東京証券取引所による要請も大きな力になっています。東証は、上場会社に対し、資本コストや株価を意識した経営を求めてきました。政策保有株式は、まさにその文脈で見直しの対象になります。投資家と市場運営者の双方から、政策保有株式に厳しい視線が注がれている——。これが、いま縮減が加速している大きな理由です。
縮減・売却の加速
こうした複数の圧力を受けて、企業による政策保有株式の縮減・売却は、近年はっきりと加速しています。多くの企業が、縮減の数値目標を掲げ、保有株式を計画的に売却するようになった。なかには、政策保有株式をゼロにする方針を打ち出す企業もあります。長年続いてきた株式持ち合いの解消が、大きく進んでいるのです。
実際、政策保有株式の売却額は、過去最大の水準に達したと報じられています。売却で得た資金は、成長投資や株主還元に振り向けられることが期待されます。もっとも、縮減のスピードや程度は企業によってさまざまで、依然として多くの政策保有株式を抱える企業も残ります。「持ち合いの時代」から「見直しの時代」へ——。日本企業のガバナンスは、大きな転換点を迎えています。
企業と投資家にとっての意味
政策保有株式の見直しは、企業と投資家の双方に、何を意味するのでしょうか。両者の視点から整理します。
二つの視点から
企業に求められること
保有の目的と合理性を、資本コストに照らして検証する。合理性を説明できない株式は縮減し、資金を成長や還元に振り向ける。
投資家が注目すること
政策保有株式の規模と縮減の方針・実績。保有の説明が納得できるか。対話や議決権行使を通じて確認する。
企業は説明責任を、投資家は監視を。両者の対話が、見直しを前に進める。
出典:金融庁・東京証券取引所の公開情報をもとにgreenote作成
企業に求められる検証と説明
政策保有株式の見直しは、企業に明確な宿題を課します。それは、保有する株式の一つひとつについて、「なぜ持つのか」を、資本コストに照らして検証することです。取引関係があるという理由だけでは、もはや十分ではありません。その保有によって得られる便益が、資本コストに見合っているかを、取締役会で真剣に議論することが求められる。
そのうえで、合理性を説明できない株式は、縮減の対象になります。そして、売却で得た資金を、成長投資や株主還元に振り向けていく。企業に問われているのは、「持つ理由を、株主に堂々と説明できるか」という一点です。説明できない保有は、手放す。この規律を持てるかどうかが、企業のガバナンスの質を映し出します。役員報酬などと並ぶ、ガバナンス改革の重要なテーマです。
投資家が注目するポイント
一方、投資家にとって、政策保有株式は企業を見る重要な物差しの一つになっています。まず注目されるのが、政策保有株式の規模です。純資産などに比べて過大な政策保有株式を抱えていないか。そして、縮減の方針と、その実績が伴っているか。目標を掲げるだけでなく、実際に減らしているかが問われます。
さらに、企業が示す保有の合理性の説明が、納得できるものかも、重要な着眼点です。投資家は、企業との対話や、株主総会での議決権行使を通じて、こうした点を確認していきます。政策保有株式への姿勢は、その企業が株主と真剣に向き合っているかを示すシグナルとして読み取られる。なお、これらはあくまで一般的な着眼点であり、個別の投資判断は、ご自身の責任と最新の情報にもとづいて行う必要があります。
政策保有株式をどう捉えるか
政策保有株式とは、上場会社が純投資以外の目的で保有する上場株式であり、日本の株式持ち合いの慣行に根ざしてきました。資本効率の低下や経営規律の弛緩といった問題から、コーポレートガバナンス・コード原則1-4や有価証券報告書での開示強化が見直しを促し、投資家や東証の要請も重なって、近年は縮減・売却が過去最大の水準まで加速しています。
大切なのは、政策保有株式を、単なる「善か悪か」で捉えないことでしょう。問われているのは、「その保有に、株主に説明できるだけの合理性があるか」です。合理性のない保有を手放し、資本を有効に使う。その規律を持てるかどうかが、企業のガバナンスの本気度を映し出します。政策保有株式の縮減は、日本企業のガバナンス改革が本物かどうかを測る、一つの試金石なのです。コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードとあわせて捉えると、全体像が見えてきます。ESGの全体像はESG完全ガイドもご覧ください。
「関係のために持つ」時代から、「持つ理由を説明する」時代へ。政策保有株式をめぐる動きは、日本企業が株主と向き合い直す、コーポレートガバナンスの静かな変革を映しているのです。なお本記事は制度を中立に整理したものであり、特定の銘柄や投資を推奨するものではありません。最新の内容は金融庁や東京証券取引所などの公表資料でご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 政策保有株式とは何ですか?
A. 上場会社が、値上がり益や配当を狙う純投資ではなく、取引関係の維持・強化など事業上の目的で保有する上場株式のことです。かつて日本企業の間で広く行われてきた「株式持ち合い」の多くも、これに含まれます。有価証券報告書の開示では、特定投資株式とみなし保有株式に分けて示されます。
Q. なぜ政策保有株式は問題視されるのですか?
A. 投資リターンが低くても保有し続けることが多く、企業の資本効率(ROEなど)を低下させる一因になります。また、互いに株式を持ち合うことで「安定株主」となり、経営を監視する緊張感が薄れ、経営規律が緩むおそれも指摘されます。こうした点から、コーポレートガバナンス・コードは縮減の方針や保有の検証を求めています。
Q. 政策保有株式はなぜ近年減っているのですか?
A. コーポレートガバナンス・コードによる縮減の要請や有価証券報告書での開示強化に加え、機関投資家との対話や議決権行使、東京証券取引所による資本コストを意識した経営の要請などが重なり、企業が保有の見直しを進めているためです。近年は売却額が過去最大の水準に達したと報じられています。
政策保有株の次に見るべき論点
- ガバナンスの指針は?
→ コーポレートガバナンス・コードとは|5つの基本原則 - 監督する人は誰?
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出典・参考(一次情報)
- 金融庁「コーポレートガバナンス・コード」
- 東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2021年6月版)」
- 東京証券取引所 上場会社向けナビゲーションシステム「原則1-4「政策保有株式」に該当する株式」
最終更新日:2026年7月1日
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
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