三菱ケミカルグループのESG経営を分析|化学の脱炭素と原料転換

2026.07.29
サステナビリティ開示

ESG Company Analysis

化学国内

プラスチック、繊維、塗料、薬——。身のまわりの製品の多くは、化学がなければ生まれません。その化学を日本で最大規模に手がけるのが、三菱ケミカルグループです。ところが化学の製造は、鉄鋼と並んで脱炭素が難しい産業とされます。原料も、つくる工程も、CO2と深く結びついているからです。この難題に、同社はどう挑むのでしょうか。本記事では、三菱ケミカルグループのESG経営を、化学の脱炭素と原料転換を軸に、公式情報をもとに中立に分析していきます。

この記事の目次

01

三菱ケミカルのESG経営とは|化学はなぜ減らしにくいか

まず、三菱ケミカルがどんな会社で、化学の脱炭素がなぜ難しいのかを整理しましょう。

暮らしを支える化学の、脱炭素

三菱ケミカルグループ=日本最大の総合化学メーカー
役割プラスチック・機能性材料・医薬品など幅広い化学製品を製造
課題原料も製造工程もCO2と結びつく。鉄鋼と並ぶハード・トゥ・アベイト産業

原料(ナフサ)と工程(クラッカーの高温)の両方がCO2と結びつく。

出典:三菱ケミカルグループの公表情報をもとにgreenote作成

総合化学最大手とKAITEKI経営

三菱ケミカルグループは、日本最大の総合化学メーカーです。プラスチックや機能性材料、医薬品まで、幅広い化学製品を手がけています。私たちの暮らしは、化学製品なしには成り立ちません。その土台を支える存在です。経営の根っこには、「KAITEKI」という独自の考え方があるのです。人・社会・地球環境の心地よさ(快適)の実現を、長期の物差しに据える経営思想です。

ではなぜ、化学の脱炭素は難しいのでしょうか。理由は2つあります。ひとつは原料です。プラスチックなどの多くは、石油から取り出した「ナフサ」を原料につくられます。もうひとつが製造工程です。ナフサを分解して基礎原料をつくる「クラッカー」は、非常に高い熱を必要とし、大量のCO2を出します。燃料としての排出だけでなく、原料と工程の両方がCO2と結びついている。ここに、化学が鉄鋼などと並ぶ「ハード・トゥ・アベイト(削減が困難な)」産業とされる理由があります。

2050年カーボンニュートラル

この難題に対し、三菱ケミカルは明確な目標を掲げています。2050年カーボンニュートラルです。中間目標として、公表情報によれば、2030年度にGHG(温室効果ガス)排出量を2019年度比で29%削減する計画です。そのために、2030年までに約1,000億円を投資するとしています。脱炭素の全体像は、関連記事のカーボンニュートラルとはもあわせてご覧ください。

道筋は、段階的です。まず2030年までは、自家発電設備の燃料転換や再エネ導入、省エネで着実に減らします。そして2030年以降に、より抜本的な技術へと移行していく構想です。次に、その本丸となる3つの道を見ていきましょう。

02

3つの道|燃料・原料・CCS

三菱ケミカルは、3つの方向で製造の脱炭素を進めます。

化学の脱炭素、3つの道

燃料転換自家発電などの燃料を水素・アンモニア・合成メタン(e-methane)へ
原料転換製品の原料をCO2の少ないものへ切り替え、製造工程からの排出(プロセス排出)を減らす
CCS出したCO2を回収して地下に貯留する

燃料・原料・CCSの3つが化学の脱炭素の柱。

出典:三菱ケミカルグループの公表情報をもとにgreenote作成

化学の脱炭素の本丸が、この3つの道です。1つ目が、燃料転換になります。工場の自家発電などで使う燃料を、CO2を出さない水素・アンモニア・合成メタン(e-methane)へ切り替えます。水素の詳しい仕組みは、関連記事のグリーン水素とはもあわせてご覧ください。

2つ目が、原料転換です。これは化学ならではの一手だといえます。製品の原料を、石油から、CO2の少ない・出さないものへ切り替えることで、製造工程そのものから出る排出(プロセス排出)を減らします。そして3つ目が、CCSです。それでも出てしまうCO2を回収し、地下に貯留します。CO2を回収・貯留する考え方は、関連記事の炭素除去(CDR)とはもあわせてご覧ください。燃料・原料・CCS。この3本立てで、化学という難しい産業の脱炭素に挑みます。

03

CO2を原料に|カーボンリサイクル

やっかいもののCO2を、資源として使う発想です。

やっかいものを、資源に変える

CO2+太陽光でつくった水素など
▶
プラスチックポリプロピレンの原料に

アブダビで太陽光と水を使いCO2を原料にする検討をINPEXなどと共同で推進。CO2を入り口で活かすカーボンリサイクル。

出典:三菱ケミカルグループの公表情報をもとにgreenote作成

3つの道と並んで、化学ならではのユニークな挑戦が、カーボンリサイクルです。これは、脱炭素の世界で「やっかいもの」とされるCO2を、逆に原料として使う発想だといえます。石油の代わりに、CO2を使ってプラスチックをつくる。そんな未来の技術です。

象徴的なのが、アブダビでの取り組みです。公表情報によれば、三菱ケミカルは、太陽光と水を使い、CO2を原料にプラスチック(ポリプロピレン)をつくる検討を、INPEXなどと共同で進めています。減らすべき厄介なCO2を、価値ある製品の材料に変える。まさに逆転の発想です。次に見るケミカルリサイクルが製品を「出口」で循環させる取り組みなら、こちらはCO2を「入り口」で活かす取り組みだといえます。

04

ケミカルリサイクル|廃プラを資源に戻す

つくった後の、プラスチックの循環にも取り組みます。

使い終わったプラを、原料へ戻す

使い終わった廃プラスチック
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化学的に分解
▶
ふたたび原料へ/新しいプラスチック製品

一度きりで捨てず、資源として何度も循環させる。サーキュラーエコノミーの実践。

出典:三菱ケミカルグループの公表情報をもとにgreenote作成

脱炭素は、つくる段階だけの話ではありません。三菱ケミカルは、使い終わった後のプラスチックの循環にも力を注いでいます。それが、ケミカルリサイクルです。ふつうのリサイクル(マテリアルリサイクル)が、廃プラを溶かして再成形するのに対し、ケミカルリサイクルは、廃プラを化学的に分解し、ふたたび原料に戻していきます。

この方法なら、汚れや混ざりものがある廃プラでも、質を落とさずに、何度も原料として使えます。石油から新しくつくる分を減らせるため、資源とCO2の両方を節約できます。使い終わったら捨てる「一方通行」から、資源として回し続ける「循環」へ。これは、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の考え方そのものです。つくる時の脱炭素と、使い終わった後の循環。その両面から、化学製品のあり方を変えようとしています。

05

論点|化学のhard-to-abateとコスト

野心的な計画には、乗り越えるべき現実の壁があります。

化学ならではの、3つの壁

プロセス排出高温の製造工程から出る排出は、燃料を変えるだけでは減らしきれない
原料の化石依存製品の原料が石油。原料転換やCO2原料化はまだ開発・実証の段階
コストと時間水素やCCS、新技術には莫大な費用がかかり普及に時間

素材産業ゆえ社会全体に波及。技術のめどと実現の難しさの両面を見る。是非を断定しない。

出典:三菱ケミカルグループの公表情報および公開報道をもとにgreenote作成

三菱ケミカルの計画は野心的ですが、その実現には、乗り越えるべき現実の壁も存在します。ここは、技術の可能性だけでなく、課題も冷静に見ておく必要があるでしょう。壁は大きく3つです。1つ目が、プロセス排出です。高温の製造工程から出る排出は、燃料を変えるだけでは減らしきれず、原料や製法そのものの転換が欠かせません。2つ目が、原料の化石依存という問題なのです。製品の原料が石油である以上、原料転換やCO2の原料化が鍵ですが、それらはまだ開発・実証の段階にあります。

そして3つ目が、コストと時間です。水素やCCS、新しい製法には、莫大な費用がかかります。脱炭素な化学製品は割高になりがちで、その価格を市場が受け入れるかも問われます。技術のめどは少しずつ立ちつつありますが、本格的な普及には、まだ時間がかかります。化学は素材産業ゆえ、その脱炭素は、あらゆる製品を通じて社会全体に波及します。だからこそ、技術への期待と、実現の難しさの両面を、冷静に見ておくことが大切です。なお本記事は、特定の企業や投資を推奨するものではありません。

人的資本(S)|ジョブ型人事と化学プラントの保安

三菱ケミカルグループは、日本の大手製造業では先行してジョブ型人事制度を本格導入し、年功から職務・成果ベースへの転換を進めたとされます。KAITEKI経営の下、健康経営(グループに医薬事業を持つ強み)も推進しています。

化学業のSの土台はプラントの保安防災です。高経年設備の維持と保安人材の育成は、国内化学産業共通の課題として同社も重点投資を続けています。

ガバナンス(G)|外国人CEOの登用と事業ポートフォリオ改革

同社は2021年に日本の大手化学で初の外国人社長(ジョンマーク・ギルソン氏)を外部招聘し、石油化学事業の分離検討など大胆なポートフォリオ改革を進めた後、2024年に日本人社長へ引き継いだとされます。トップ人事のグローバル化と継承の実例です。

指名委員会等設置会社として社外取締役が指名・報酬を握る統治形態を取り、祖業も聖域にしない事業再編を規律づけています。

06

まとめ|三菱ケミカルのESG経営から学べること

三菱ケミカルの挑戦は、社会を支える素材を、いかに脱炭素にするかという重い問いへの、多面的な答えを見せてくれます。最後に、要点を振り返りましょう。

三菱ケミカルに学ぶ、3つのこと

多面的に攻める燃料・原料・CCSの3つの道で製造を脱炭素
CO2を資源にカーボンリサイクルでCO2を原料に変える逆転の発想
出口も循環ケミカルリサイクルで廃プラを原料に戻す

出典:三菱ケミカルグループの公表情報・公開報道をもとにgreenote作成

三菱ケミカルグループのESG経営を振り返ると、いくつもの学びが見えてきます。

  • 日本最大の総合化学メーカー。原料も工程もCO2と結びつくハード・トゥ・アベイト産業
  • 2050年カーボンニュートラル(2030年度に2019年度比でGHG29%削減、約1,000億円投資)
  • 3つの道=燃料転換(水素・アンモニア)/原料転換でプロセス排出削減/CCS
  • カーボンリサイクル=CO2を原料にプラスチックをつくる(アブダビでINPEX等と共同検討)
  • ケミカルリサイクルで廃プラを原料に戻す。⚠️プロセス排出・原料の化石依存・コストの壁は残る

三菱ケミカルから学べるのは、難しい課題ほど、一つの手ではなく多面的に攻めるということです。燃料・原料・CCSの3つの道に加え、CO2を原料に変え、廃プラを循環させる。入り口から出口まで、あらゆる角度から脱炭素に挑んでいます。同じ素材産業でも、専門化学の積水化学とはまた違った、総合化学ならではのアプローチが見てとれます。もっとも、プロセス排出やコストという壁は、依然として高いままです。理想と現実の両面を見すえることが、企業のESGを深く理解する助けになるでしょう。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。

FAQ

よくある質問(FAQ)

Q. 三菱ケミカルグループとはどんな会社ですか?

三菱ケミカルグループは、日本最大の総合化学メーカーです。プラスチックや機能性材料、医薬品など、幅広い化学製品を手がけます。私たちの身のまわりの製品の多くは、化学がなければつくれません。一方で、化学の製造は大量のエネルギーとCO2を伴うため、その脱炭素は鉄鋼と並ぶ大きな課題です。経営の考え方として「KAITEKI」を掲げているのが特徴です。

Q. なぜ化学は脱炭素が難しいのですか?

理由は2つあります。1つ目は、原料です。プラスチックなどの多くは、石油から取り出したナフサを原料につくられます。2つ目は、製造工程です。ナフサを分解して基礎原料をつくる「クラッカー」は、非常に高い熱を必要とし、大量のCO2を出します。燃料としての排出だけでなく、原料と製造工程の両方がCO2と結びついています。だから化学は、鉄鋼などと並ぶ「ハード・トゥ・アベイト(削減が困難な)」産業とされます。

Q. 三菱ケミカルの脱炭素目標はどうなっていますか?

三菱ケミカルグループは、2050年のカーボンニュートラルをめざしています。中間目標として、公表情報によれば、2030年度にGHG(温室効果ガス)排出量を2019年度比で29%削減する計画です。2030年までに約1,000億円を投資するとしています。まず自家発電の燃料転換や省エネで削減を進め、2030年以降に、より抜本的な技術へと移行していく道筋を描いています。

Q. 化学の「原料転換」とは何ですか?

製品の原料を、石油から、CO2を出さない・少ないものへ切り替える取り組みです。三菱ケミカルは、燃料を水素やアンモニア、合成メタン(e-methane)に変える「燃料転換」に加え、この「原料転換」によって、製造工程そのものから出る排出(プロセス排出)を減らそうとしています。あわせて、出したCO2を回収・貯留するCCSも進めます。燃料・原料・CCSの3つが、化学の脱炭素の柱です。

Q. カーボンリサイクルとケミカルリサイクルの違いは何ですか?

カーボンリサイクルは、CO2そのものを「原料」として使う取り組みです。三菱ケミカルは、アブダビで太陽光と水を使い、CO2を原料にプラスチック(ポリプロピレン)をつくる検討を、INPEXなどと共同で進めています。一方、ケミカルリサイクルは、使い終わった廃プラスチックを化学的に分解し、ふたたび原料に戻す取り組みです。CO2を入り口で活かすのがカーボンリサイクル、製品を出口で循環させるのがケミカルリサイクル、と整理できます。

Q. 三菱ケミカルのESG経営から学べることは何ですか?

大きく2つあります。1つ目は、燃料・原料・CCSという複数の道を組み合わせ、さらにCO2を原料に使うなど、化学ならではの多面的な脱炭素に挑む姿勢です。2つ目は、つくる段階だけでなく、廃プラの循環まで見すえる視点です。もっとも、プロセス排出や原料の化石依存、コストという壁は依然として高く、実現には時間がかかります。理想と現実の両面を見ることが大切です。なお本記事は特定の投資を推奨するものではありません。

Sources

出典・参考(一次情報)

※ 本記事は上記の一次情報および公開報道をもとにgreenote編集部が整理しています。企業評価や投資判断を目的とするものではありません。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

編集責任

greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年7月12日

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