ESGデータガバナンスとは|監査に耐えるサステナビリティ情報の管理体制を解説

2026.07.11
CSRD・ISSB

サステナビリティ開示が義務化に向かうなか、企業の担当者を悩ませているのが「そのESGデータ、本当に監査に耐えられますか?」という問いです。表計算ソフトに手作業で集めた数字では、第三者の保証に通用しません。そこで急速に重要性を増しているのがESGデータガバナンスです。ESGデータガバナンスとは、GHG排出量や人的資本などのESG関連データを、正確性・追跡可能性を保って収集・管理・報告するための体制・プロセス・システムの総称です。本記事では、この考え方が求められる背景、ESGデータ特有の難しさ、構成要素、そして参照される枠組みを、公的機関や実務ガイダンスをもとに整理します。

この記事の目次

ESGデータガバナンスとは(おさらい)

まず、ESGデータガバナンスがどのような考え方なのか、財務データの内部統制との対比で整理しましょう。

財務の統制を、ESGデータにも

財務データ内部統制(ICFR/J-SOX)で正確性・証跡を担保
同じ考え方を広げる
ESGデータGHG排出量・エネルギー・人的資本・サプライチェーンにも同じ規律=ESGデータガバナンス

収集→管理→報告を、正確性・完全性・追跡可能性・一貫性を保って行う方針・体制・プロセス・システムの総称。

出典:各種実務ガイダンスをもとにgreenote作成(確立した唯一の定義はなく一般的な整理)

ESGデータを信頼できる形で管理する枠組み

ESGデータガバナンスとは、企業のESG(環境・社会・ガバナンス)に関するデータ――GHG排出量、エネルギー使用量、人的資本、サプライチェーン情報など――を、正確性・完全性・追跡可能性・一貫性を保って収集・管理・報告するための、方針・体制・プロセス・システムの総称です。

ただし、これは比較的新しい実務概念で、確立した唯一の定義があるわけではありません。複数の実務ガイダンスに共通する要素として、一般に「データオーナーの明確化」「一貫した定義」「検証手続き」「全社ガバナンスとの統合」などが挙げられます。目的は、開示するESG情報をステークホルダーが信頼でき、意思決定に使え、グリーンウォッシュを防げるようにすることです。

財務の内部統制(ICFR)をESGに広げる発想

ESGデータガバナンスを理解する鍵は、財務データの内部統制(ICFR:財務報告に係る内部統制、日本のいわゆるJ-SOX)との対比にあります。財務データは、数字の正確性や証跡を担保する内部統制の仕組みのもとで、監査に耐える形で管理されてきました。

ESGデータガバナンスは、この財務報告で培われた規律を、非財務のESGデータにも広げようという発想です。「なぜESGデータだけ、根拠が曖昧なまま開示してよいのか」――開示の要求水準が上がるにつれ、この問いが避けられなくなりました。財務諸表を作るのと同じ厳格さで、ESGデータもそろえる時代に入りつつあるのです。

なぜいまESGデータガバナンスが重要なのか

背景にあるのは、サステナビリティ開示の義務化と、第三者保証への要求の高まりです。

開示の義務化が、データの統制を要求する

開示の義務化・標準化
ISSB(IFRS S1/S2)・ESRS(CSRD)・SSBJ
財務諸表並みの信頼性+
第三者保証が要求される
開示するだけでなく
監査・保証に耐えるデータをそろえる
=ESGデータガバナンス

従来の表計算での分散管理は、出所が曖昧で監査に耐えにくかった

出典:IFRS財団・金融庁等の公開情報をもとにgreenote作成

「開示するだけ」から「監査に耐えるデータ」へ

ISSBとはで解説したIFRS S1・S2、CSRDに基づくESRS、日本のSSBJ基準など、サステナビリティ開示の義務化・標準化が世界で進んでいます。IFRS S1は、企業がサステナビリティ関連のリスクと機会を監視・管理するために用いるガバナンス・統制・手続きの開示を求め、サステナビリティ情報の数値や前提を財務諸表とできる限り整合させることも求めています。IFRS S1・S2は2024年1月1日以降に開始する事業年度から適用されます。

これにより、企業は「開示すればよい」段階から、「監査・保証に耐えるデータをそろえる」段階へと移行を迫られています。従来、ESGデータは表計算ソフトやメールで分散管理され、出所が曖昧・手作業でミスが起きやすい・検証の証跡がないといった課題を抱えがちでした。要求水準が上がった今、こうした状態のままでは通用しません。

第三者保証が求める信頼性

開示データの信頼性を外部から裏づけるのが、サステナビリティ情報の第三者保証です。日本でもSSBJが2025年3月に基準を公表し、金融庁で第三者保証制度の導入が検討されています。報道等によれば、保証水準は当初「限定的保証」から始まり、義務化の当初はScope1・2のGHG排出量やガバナンス・リスク管理の開示が保証範囲となる方向で議論されています(制度は検討段階で変わりえます)。

保証を受けるには、保証人(監査法人等)が検証できるだけの証跡と統制がなければなりません。裏を返せば、しっかりしたESGデータガバナンスは、保証への対応(保証準備、assurance readiness)を自然に満たす土台になります。保証対応は、付け焼き刃ではなく、日々のデータ統制の積み重ねの結果として達成されるものなのです。

ESGデータ特有の難しさ

財務データと同じようにはいかない、ESGデータならではの難しさがあります。

財務データと同じようにはいかない

観点財務データESGデータ
データ源経理システムに集約工場・拠点・サプライヤーに広く分散
算定勘定科目など標準体系GHGプロトコル・各種原単位・Scope3の推計など多様
性質金額中心見積り・前提・定性情報が多い
体系成熟(長い歴史)標準体系が未成熟で発展途上

特にScope3は、正確な数字は出せても監査可能な形にしにくいと指摘される。

出典:大手会計事務所等の解説をもとにgreenote作成

ESGデータガバナンスが財務並みに一筋縄でいかないのは、ESGデータに固有の難しさがあるからです。第一に、データ源が社内外に広く分散しています。経理システムに集約される財務データと違い、ESGデータは各工場・拠点・そしてサプライヤーに散らばっています。第二に、算定方法や単位が多様です。GHGプロトコルや各種の排出原単位、Scope3の推計など、統一された「勘定科目」のような共通体系がまだ成熟していません。

第三に、見積り・前提・定性情報が多いことです。金額中心の財務データと異なり、ESGデータは算定の前提の置き方で数字が変わります。とりわけScope3は、サプライヤーへの依頼やERPからの抽出、表計算を組み合わせて集計されることが多く、「正確な数字は出せても、監査可能な形にはなりにくい」と指摘されます。こうした難しさゆえに、財務以上に意識的なデータガバナンスが必要になります。

ESGデータガバナンスの主な構成要素

確立した唯一の型はありませんが、複数の実務ガイダンスに共通する6つの要素を整理します。

ESGデータガバナンスの6つの要素

1
ガバナンス体制と役割分担データオーナー/スチュワードの明確化・経営や監査委員会の関与
2
方針と定義測定範囲・算定方法・メタデータの定義集
3
収集・検証プロセスと内部統制監査証跡(audit trail)の保持
4
ITシステム/データ基盤単一の情報源(single source of truth)に集約
5
データ品質管理正確性・完全性・適時性のチェック
6
第三者保証への対応保証準備(assurance readiness)

唯一の型はないが、複数の実務ガイダンスに共通する要素

出典:各種実務ガイダンスをもとにgreenote作成

複数の実務ガイダンスに共通して挙げられる構成要素は、大きく6つに整理できます。第一にガバナンス体制と役割分担――データオーナーやデータスチュワードを明確にし、経営や監査委員会が関与すること。第二に方針と定義――何を、どの範囲で、どの算定方法で測るのかを定めた定義集(メタデータ)を整えること。第三に収集・検証プロセスと内部統制――誰がいつどう集めたかをたどれる監査証跡(audit trail)を保持することです。

第四にITシステム・データ基盤――データを単一の情報源(single source of truth)に集約し、財務ソフトのように照合できるようにすること。第五にデータ品質管理――正確性・完全性・適時性を継続的にチェックすること。第六に第三者保証への対応――保証を受けられる状態(保証準備)を整えることです。これら6要素は独立したものではなく、体制・ルール・仕組みが一体となって初めて機能します。

参照される枠組み――COSOとGHGプロトコル

ESGデータガバナンスを組み立てる際に参照される、代表的な枠組みを紹介します。

参照される2つの枠組み

COSO ICSR(2023年3月・COSOが公表)

サステナビリティ報告に係る内部統制。財務で広く使われるCOSOの内部統制フレームワーク(5つの構成要素・17の原則)をサステナビリティ報告に適用。実装すれば第三者保証の土台が整う。

GHGプロトコルのデータ品質5原則

GHG排出量のデータ品質を支える5つの原則(透明性=前提・方法・データ源を十分開示/一貫性=経年比較のため同一手法)。

関連性完全性一貫性正確性透明性

財務報告の内部統制(ICFR)で培われた知見を、非財務のESGデータに広げる方向

出典:COSO・GHGプロトコルの公開情報をもとにgreenote作成

ESGデータガバナンスの構築で参照される代表的な枠組みが2つあります。1つ目は、COSO(トレッドウェイ委員会支援組織委員会)が2023年3月に公表した「サステナビリティ報告に係る内部統制(ICSR)」の適用ガイダンスです。財務報告で広く使われてきたCOSOの内部統制の統合的フレームワーク(5つの構成要素・17の原則)を、サステナビリティ報告に適用する考え方を示したもので、実装すれば第三者保証を可能にする土台が整うとされます。財務の内部統制の「共通言語」をESGに持ち込める点で、実務上の拠りどころになっています。

2つ目は、GHGプロトコルのデータ品質に関する5原則です。関連性・完全性・一貫性・正確性・透明性から成り、透明性は前提・方法・データ源を十分に開示すること、一貫性は経年比較のため同一の手法を用いることと位置づけられています。いずれの枠組みも、財務報告の内部統制(ICFR)で培われた知見を非財務のESGデータに広げる、という共通の方向性を持っています。なお、保証の基準や保証プロセスの詳細は、第三者保証の記事をご参照ください。

取り組みのステップと課題

どこから着手し、何が難所になるのか。実務の進め方を整理します。

進め方と難所

取り組みのステップ

1現状把握(データの棚卸し)
2体制と定義の整備
3システム/データ基盤の導入
4内部統制と証跡の構築
5第三者保証への対応

主な課題

部門横断の体制構築の難しさ
ITコスト
サプライヤーデータの入手
スキル人材の不足・基準変更への追随

内部監査部門がESGデータの品質・ガバナンスの成熟に果たす役割も重要。

出典:各種実務ガイダンスをもとにgreenote作成

取り組みは一般に、①現状把握(どんなESGデータをどこで持っているかの棚卸し)→②体制と定義の整備→③システム・データ基盤の導入→④内部統制と証跡の構築→⑤第三者保証への対応、という段階で語られます。いきなり完璧な仕組みを目指すのではなく、組織の準備状況を評価し、段階的(フェーズド)に進めるアプローチが現実的だとされます。

一方で課題も多く残ります。部門横断の体制構築の難しさ(サステナビリティ・経理・情報システム・各拠点の連携)、ITコストサプライヤーからのデータ入手、そしてスキルを持つ人材の不足や、基準変更への継続的な追随です。ここで、財務報告の統制を担ってきた内部監査部門が、ESGデータの品質・ガバナンスの成熟に重要な役割を果たすと指摘されています。ESGデータガバナンスは、サステナビリティ部門だけの仕事ではなく、全社的な取り組みなのです。

ESGデータガバナンスをどう捉えるか

ESGデータガバナンスは、GHG排出量などのESGデータを、正確性・追跡可能性を保って収集・管理・報告する体制・プロセス・システムの総称です。財務報告の内部統制(ICFR)で培われた規律を、非財務のESGデータに広げるという発想が根底にあります。ISSBやSSBJによる開示の義務化と第三者保証の要求が高まるなか、「開示するだけ」から「監査に耐えるデータをそろえる」への移行が、企業に迫られています。

その実現には、ガバナンス体制・定義・内部統制・データ基盤・品質管理・保証対応という要素を、COSOのICSRガイダンスやGHGプロトコルのデータ品質原則を参照しながら組み立てることが有効です。ESG担当者にとっての要点は、ESGデータガバナンスが「開示のための事務作業」ではなく、財務と同格の統制対象になったという認識です。データの信頼性は、脱炭素やサステナビリティの取り組みそのものの信頼性に直結します。地道なデータ統制こそが、これからのサステナビリティ経営を支える基盤になります。

なお本記事は、IFRS財団・COSO・GHGプロトコル・金融庁などの公開情報および大手会計事務所の解説をもとに整理したものです。ESGデータガバナンスには確立した唯一の定義はなく、本記事は複数ソースに共通する要素を一般化したものです。SSBJの保証制度は検討段階で今後変わりえます。特定のベンダー・製品を推奨するものではありません。最新の状況は一次情報をご確認ください。

よくある質問(FAQ)

Q. ESGデータガバナンスとは何ですか?

A. 企業の環境・社会・ガバナンス(ESG)に関するデータ(GHG排出量、エネルギー使用量、人的資本、サプライチェーン情報など)を、正確性・完全性・追跡可能性・一貫性を保って収集・管理・報告するための、方針・体制・プロセス・システムの総称です。確立した唯一の定義はありませんが、財務データに対する内部統制(ICFR)と同じような規律を、非財務のESGデータにも適用しようという考え方だと一般に整理されます。開示したESG情報が信頼でき、第三者保証や監査に耐えられるようにすることが目的です。

Q. なぜESGデータガバナンスが必要になったのですか?

A. ISSB(IFRS S1・S2)やCSRDに基づくESRS、日本のSSBJといったサステナビリティ開示の基準化・義務化が進み、開示するデータに財務諸表並みの信頼性と第三者保証が求められるようになったためです。従来、ESGデータは表計算ソフトなどで分散管理され、出所が曖昧だったり手作業のミスが起きやすかったりして、監査に耐えにくいという課題がありました。「開示すればよい」段階から「監査・保証に耐えるデータをそろえる」段階へと要求水準が上がったことで、データを統制する仕組みが不可欠になっています。

Q. 何を参考にESGデータガバナンスを整えればよいですか?

A. 代表的な参照枠組みとして、COSO(トレッドウェイ委員会支援組織委員会)が2023年に公表した「サステナビリティ報告に係る内部統制(ICSR)」の適用ガイダンスがあります。財務報告で広く使われてきたCOSOの内部統制フレームワーク(5つの構成要素・17の原則)を、サステナビリティ報告に応用する考え方です。また、GHG排出量についてはGHGプロトコルのデータ品質5原則(関連性・完全性・一貫性・正確性・透明性)が参考になります。財務報告の内部統制で培われた考え方を、非財務のESGデータに広げるのが基本的な方向性です。

出典・参考(一次情報)

最終更新日:2026年7月11日

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

編集責任

greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

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