グリーンスチールとは|水素還元製鉄・電炉化と鉄鋼業の脱炭素をわかりやすく解説

2026.06.20
気候変動

自動車、建物、橋、機械——私たちの社会を支える素材、それが鉄です。その鉄をつくる鉄鋼業は、実は世界のCO2排出の約7〜8%を占める、最大級の排出産業の一つでもあります。この「鉄の脱炭素」をかなえるのが、グリーンスチールです。

本記事では、なぜ鉄鋼業のCO2排出が多いのかという基本から、水素還元製鉄・電炉化といった製法転換、欧州と日本の最新動向、そしてコストや市場の課題までを、できるだけわかりやすく整理します。

目次

グリーンスチールとは

グリーンスチールとは、製造時のCO2排出を大幅に削減してつくられた鉄鋼のことです。鉄そのものの性能が変わるわけではなく、「どうやってつくったか」が従来と大きく異なる点が特徴です。

グリーンスチールの定義

ポイントは、製造プロセスそのものです。従来の鉄づくりは、鉄鉱石を石炭由来のコークスで「還元」してCO2を大量に排出してきました。これに対しグリーンスチールは、水素による還元、電炉の活用、再生可能エネルギーの利用などによって、その排出を抑えた鉄鋼を指します。

ただし、「どこまで減らせばグリーンか」という統一された定義は、まだ整備の途上です。削減率や算定方法をめぐる基準づくりが、各国や業界団体で進行中です。現時点では「製造時のCO2を大きく減らした鉄鋼」という広い意味で用いられる言葉だと理解しておくとよいでしょう。

鉄鋼の脱炭素が重要な理由

鉄鋼は、あらゆる産業の土台となる基礎素材です。だからこそ、その脱炭素は社会全体の脱炭素に直結します。鉄の排出を減らせなければ、自動車や建設、インフラといった川下産業も「サプライチェーンの排出」を減らせません。

加えて、鉄鋼は単一産業として極めて大きなCO2排出源です。ここを変えることのインパクトは計り知れません。鉄鋼の脱炭素は、いわば「難しいが避けて通れない」課題なのです。鉄鋼業は、削減が難しい産業(hard-to-abate)の代表格です。

なぜ鉄鋼業はCO2を多く出すのか

グリーンスチールを理解するには、まず「従来の鉄づくりがなぜCO2を出すのか」を知っておく必要があるでしょう。鍵を握るのは、鉄鉱石から鉄を取り出す「還元」という化学反応です。

コークス還元と水素還元の違い

出てくるのは「CO2」か「水」か

従来の高炉法(コークス還元)

鉄鉱石(酸化鉄)コークス(炭素C)CO2(大量)

水素還元製鉄

鉄鉱石(酸化鉄)水素(H₂)水(H₂O)

還元剤を水素に替えると、出るのはCO2ではなく水。グリーン水素を使えば製鉄のCO2を大幅に削減できます。

出典:各種公開情報をもとにgreenote作成

高炉とコークス(還元)の仕組み

鉄鉱石は、鉄と酸素が結びついた酸化鉄です。ここから鉄を取り出すには、酸素を引き剥がす「還元」が欠かせません。従来の高炉法では、石炭を蒸し焼きにした「コークス」を還元剤として使います。

このとき、コークスの炭素(C)が鉄鉱石の酸素(O)と結びつき、CO2となって排出されます。つまりCO2は、燃料を燃やすからだけでなく、鉄を取り出す化学反応そのものから発生するのです。ここが、電化や省エネだけでは鉄鋼のCO2をゼロにしにくい根本的な理由といえます。

産業部門でも最大級の排出源

高炉は一度火を入れると長期間止められず、大量の原料とエネルギーを消費し続けます。1基あたりの規模も巨大です。結果として、鉄鋼業は産業部門のなかでも突出した排出源です。

日本でも、鉄鋼業は産業部門のCO2排出の大きな割合を占めます。だからこそ、各国の脱炭素戦略において鉄鋼は最重要分野の一つに数えられ、技術開発と政策支援が集中的に投じられているのです。

グリーンスチールの主な製法(3つの転換)

鉄鋼の脱炭素には、大きく3つの道筋があります。どれか一つではなく、各社が条件に応じて組み合わせて進めているのが実情です。

グリーンスチールの3つの製法転換

鉄鋼の脱炭素に向けた3つの道筋

水素還元製鉄

仕組み

水素で鉄鉱石を還元(DRI)し、電炉で製鋼

排出

大幅削減(グリーン水素ならほぼゼロも)

位置づけ

本命。ただし水素の確保が前提

電炉化

仕組み

鉄スクラップを電気で溶かして再生

排出

高炉より大幅に低い(電力次第)

位置づけ

今すぐ使える現実解。スクラップ量に制約

高炉のCO2削減

仕組み

高炉に水素を一部吹き込む・CO2を分離回収(CCUS)

排出

部分的に削減

位置づけ

既存設備を活かす移行策(つなぎ)

どれか一つではなく、各社が条件に応じて組み合わせて進めています。

出典:各種公開情報をもとにgreenote作成

①水素還元製鉄(水素直接還元+電炉)

もっとも本命視されているのが、水素還元製鉄です。コークスの代わりに水素で鉄鉱石を還元する方式で、化学反応で出るのはCO2ではなく水(H2O)です。再生可能エネルギー由来のグリーン水素を使えば、製鉄プロセスのCO2を劇的に減らせるのが最大の魅力でしょう。

具体的には、水素で還元した「直接還元鉄(DRI)」を電炉で溶かして鋼にする組み合わせが主流です。欧州の先行プロジェクトでは、この方式が商業規模で実用化されつつあります。課題は、大量のグリーン水素をいかに安く確保するかという一点に集約されます。

②電炉化(鉄スクラップの活用)

電炉化は、鉄スクラップ(鉄くず)を電気で溶かして鋼を再生する方式です。高炉のように鉄鉱石を還元する必要がないため、CO2排出を大幅に抑えられます。電力を再エネにすれば、さらにクリーンになるでしょう。

電炉は「いま使える現実解」として注目されますが、万能ではありません。原料となる良質なスクラップの量には限りがあり、高級鋼の製造には技術的な工夫も必要です。それでも、高炉から電炉への転換は、多くの製鉄会社にとって当面の有力な選択肢です。

③高炉のCO2削減(CCUS・水素の一部活用)

既存の高炉を一気に置き換えるのは容易ではありません。そこで、高炉を使い続けながら排出を減らす移行的なアプローチも有望視されます。高炉に水素を一部吹き込んで還元剤の一部を置き換えたり、排出されるCO2を分離・回収(CCUS)したりする手法です。CCUSについてはCCS(CO2回収・貯留)とはもあわせてご覧ください。

この方式は削減幅こそ部分的なものの、巨額の既存設備を活かせる利点があります。本命の水素還元へ移行するまでの「つなぎ」として、現実的な役割を担うとみられるでしょう。

世界のグリーンスチールの動向

グリーンスチールは、もはや実験室の話ではありません。とくに欧州では、商業規模のプロジェクトが実現に近づいています。

欧州が先行(Stegra・HYBRIT)

象徴的な存在が、スウェーデンのStegra(旧H2 Green Steel)です。再生可能エネルギー由来の水素による直接還元(DRI)と電炉を組み合わせ、世界初の商業規模グリーンスチール工場を2026年に立ち上げる計画です。2030年までに年間500万トンの生産を目指し、ETSのベンチマーク比で温室効果ガスを約87%削減できる見込みです(Midrex)。

同じくスウェーデンのHYBRITは、鉄鋼大手SSAB、鉱山会社LKAB、電力会社Vattenfallの共同事業として、パイロットプラントで水素還元製鉄を実証しました。北欧が先行する背景には、豊富な再生可能エネルギーと水力由来の安い電力があります。

大手の挑戦と投資判断の難しさ

世界最大級の鉄鋼メーカーであるArcelorMittalも、欧州やカナダで水素製鉄を推進してきました。一方で、約30億ユーロのEU補助を確保しながらも、最終的な投資判断は慎重に先送りされていると報じられています(Canary Media)。

この慎重さこそ、グリーンスチールの難しさの表れです。技術は見えてきたものの、グリーン水素のコストや電力価格、需要の不確実性といった事業環境が、巨額投資の判断を一段と難しくしているのです。世界の鉄鋼脱炭素は、いま期待と現実のはざまにあります。

日本の鉄鋼業の脱炭素とGX

日本の鉄鋼業も、グリーンスチールへの転換に本腰を入れています。高炉大手を中心に、技術開発と設備転換が動き始めました。

日本の鉄鋼業 脱炭素ロードマップ

短期は電炉転換、中長期は水素還元へ

〜2030年

電炉転換と削減技術

主に高炉から電炉への転換。所内水素を活用した高炉水素還元やCO2分離回収などで、製鉄プロセスのCO2を30%以上削減する技術の実装をめざす。

2030〜2050年

水素還元の本格実装

高炉水素還元や水素による還元鉄製造など、鉄鉱石還元のGX技術を本格実装し、2050年カーボンニュートラルへ。

グリーンイノベーション基金「製鉄プロセスにおける水素活用」

国費負担額 上限4,499億円で支援

出典:経済産業省・政府資料をもとにgreenote作成

日本製鉄・JFE・神戸製鋼の取り組み

日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所といった大手が、こぞってグリーンスチールに注力中です。製鉄プロセスの転換候補としては、水素還元製鉄・直接還元製鉄・電炉化の3つが挙げられます(経済産業省)。

たとえば日本製鉄は、当面は高炉からの電炉転換を主要な選択肢としつつ、2030年から2050年に向けては高炉水素還元や水素による還元鉄製造といった鉄鉱石還元のGX技術の本格実装を見据える構えです。各社はすでに、グリーンスチールに相当する製品の販売にも乗り出しました。鉄の脱炭素は、計画から実装の段階へと移りつつあります。

グリーンイノベーション基金と2030年目標

こうした転換を、政府も強力に後押ししています。2030年までには、所内水素を活用した高炉水素還元やCO2分離回収などにより、製鉄プロセスからのCO2排出を30%以上削減する技術の実装が目標に掲げられました(内閣官房 GX実行会議資料)。

財政支援も大規模です。政府はグリーンイノベーション基金の「製鉄プロセスにおける水素活用」事業で、国費負担額4,499億円を上限とする大規模な支援を行います。鉄鋼の脱炭素は、日本のGX(グリーントランスフォーメーション)戦略の中核の一つに据えられているのです。GX全体の長期戦略はGX2040ビジョンとはで解説しています。

グリーンスチールの課題と展望

期待は大きい一方、グリーンスチールの普及には現実的なハードルも残るのが実情です。冷静に課題を見ておきましょう。

コスト・水素・電力という壁

最大の壁はコストです。水素還元には大量のグリーン水素が要りますが、その調達コストはまだ高い水準にあります。電炉化や水素製造には膨大な再エネ電力も欠かせません。つまりグリーンスチールの実現は、安いグリーン水素と再エネ電力をいかに確保できるか次第です。

裏を返せば、鉄鋼の脱炭素はエネルギー転換と一体だということです。水素サプライチェーンや再エネの拡大が進まなければ、グリーンスチールも普及しません。鉄鋼一産業の問題にとどまらない、横断的な課題なのです。

需要創出とCBAM・グリーン市場

技術とコストに加えて、もう一つ鍵を握るのが「需要」です。割高なグリーンスチールも、自動車メーカーなどの川下企業が選んで購入すれば、市場が育ちます。実際、脱炭素を重視する企業が、グリーンスチールの調達を表明する動きが広がりました。

政策面では、EUのCBAM(炭素国境調整措置)が追い風になると期待されています。輸入鉄鋼に炭素コストを課すことで、CO2排出の多い鉄鋼の価格競争力が下がり、相対的にグリーンスチールが選ばれやすくなるという理屈です。CBAMの詳細はCBAM(炭素国境調整措置)とはもあわせてご覧ください。

まとめ|グリーンスチールは産業脱炭素の試金石

グリーンスチールは、製造時のCO2を大幅に減らした鉄鋼です。鉄鋼業のCO2が多いのは、鉄鉱石をコークスで還元する化学反応そのものに原因があり、これを変えるには水素還元製鉄・電炉化・高炉のCO2削減という製法転換が必要です。

欧州ではStegraやHYBRITが商業化・実証で先行し、日本でも高炉大手とGX政策が連携し、2030年代の本格転換をめざす段階に入りました。コストやグリーン水素・電力、需要創出といった課題は重いものの、鉄という基礎素材の脱炭素は、産業全体の脱炭素を占う試金石です。エネルギーと需要の両面から、社会全体で支えていくことが求められます。脱炭素の全体像はカーボンニュートラルとはもあわせてご覧ください。

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ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年6月20日

この記事の著者

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