スチュワードシップ・コードとは|2025年改訂のポイントとガバナンス・コードとの違いを解説

2026.06.13
ESG投資

「物言う株主」という言葉を、ニュースで見かけることが増えました。その背景には、機関投資家の行動を方向づける一つの指針がうかがえます。それが、スチュワードシップ・コードです。投資家が企業とどう向き合うべきか。その原則は、いま何を求めているのでしょうか。

スチュワードシップ・コードとは、機関投資家が投資先企業との建設的な対話などを通じて、企業の持続的成長を促し、顧客・受益者のリターン拡大を目指すための行動原則です。日本では金融庁が2014年に策定し、2025年には5年ぶりの改訂が行われました。

本記事では、コードの意味とスチュワードシップ責任から、よく混同されるコーポレートガバナンス・コードとの違い、8つの原則、そして協働エンゲージメントを重視する2025年改訂のポイントまで、最新情報をふまえてわかりやすく解説します。

スチュワードシップ責任の好循環

対話を通じて、企業と受益者の双方に価値を生む

1

顧客・受益者が資金を託す

年金加入者などの資産を、機関投資家が預かって運用します。

2

機関投資家が企業に働きかける

投資先企業との建設的な対話(エンゲージメント)と議決権行使を行います。

3

企業が持続的に成長する

対話を経営に活かし、企業価値が中長期で高まります。

4

リターンが受益者に還元される

中長期的な投資リターンの拡大が、顧客・受益者に返ります。

4から1へ。生まれたリターンが次の運用の原資となり、対話の好循環が回り続けます。

出典:金融庁「責任ある機関投資家」の諸原則(日本版スチュワードシップ・コード)

目次

スチュワードシップ・コードとは|責任ある機関投資家の原則

まずは、スチュワードシップ・コードという言葉の意味と、その根底にある考え方を押さえましょう。ここを理解すると、後の論点が見通しやすくなるはずです。

スチュワードシップ・コードとは

スチュワードシップ・コードは、正式には「責任ある機関投資家」の諸原則と呼ばれます。年金基金や運用会社といった機関投資家が、投資先企業の価値向上のために果たすべき役割を、原則の形で示したものです。

「スチュワードシップ」とは、もともと他人から預かった財産を責任を持って管理する、執事のような役割を指す言葉です。機関投資家が運用するお金は、もとをたどれば年金加入者などの大切な資産です。その資産を預かる立場として、投資先企業に適切に向き合う責任がある。この考え方が、コードの土台にあるのです。

スチュワードシップ責任とは|対話で企業価値を高める

コードの核心にあるのが、スチュワードシップ責任という考え方です。これは、機関投資家が投資先企業との「目的を持った対話」などを通じて、企業の持続的成長を促し、最終的に顧客・受益者の中長期的なリターン拡大を図る責任を指します。

ポイントは、ただ株式を保有するだけにとどまらない点です。株主として企業をよく理解し、必要に応じて対話で働きかける。こうした建設的な対話を、エンゲージメントと呼びます。短期の株価ではなく、長期的な企業価値の向上に投資家が関与する。そこに、このコードのねらいが見えてきます。

法的拘束力はない|プリンシプルベースの原則

スチュワードシップ・コードに、法律のような強制力はありません。細かなルールを一律に課すのではなく、原則(プリンシプル)を示すプリンシプルベースのアプローチを採っています。

受け入れを表明した機関投資家は、各原則を実施するか、実施しない場合はその理由を説明する「コンプライ・オア・エクスプレイン」の考え方で対応します。形式的に守ることが目的ではありません。それぞれの投資家が、自らの状況に応じて趣旨を実質的に活かすことが期待されています。受け入れを表明した機関投資家の一覧は、金融庁が公表しています。

コーポレートガバナンス・コードとの違い|2つのコードは車の両輪

スチュワードシップ・コードと名前のよく似たものに、コーポレートガバナンス・コードがあります。混同されがちですが、両者は対象も役割も異なります。違いを整理しましょう。

2つのコードは「車の両輪」

投資家側と企業側が、対話を通じて噛み合う

投資家側

スチュワードシップ・コード

対象=機関投資家

責任ある投資家として、対話で企業に規律と成長を促す行動原則。

企業側

コーポレートガバナンス・コード

対象=上場企業

透明で公正な経営と、実効的なコーポレートガバナンスを実現する行動原則。

↑ 建設的な対話(エンゲージメント) ↓

2つのコードが対話でつながり、企業価値の向上を目指します。

どちらか一方では前に進みません。両輪がそろってこそ、持続的な企業価値向上が実現します。

出典:金融庁・東京証券取引所の各コードをもとに作成

対象が違う|投資家側と企業側

両者の最大の違いは、誰に向けた原則かという点にあります。スチュワードシップ・コードは、機関投資家、つまり投資する側に向けた行動原則です。一方コーポレートガバナンス・コードは、上場企業、つまり投資される側に向けた行動原則です。

コーポレートガバナンス・コードは、2015年に東京証券取引所と金融庁が中心となって策定しました。取締役会のあり方や株主の権利、情報開示など、企業が実効的なガバナンスを実現するための原則を示しています。企業統治の基本的な枠組みは、関連記事のコーポレートガバナンス・コードとは|5つの基本原則と改訂のポイントもあわせてご覧ください。

それぞれが目指すもの

スチュワードシップ・コードが目指すのは、機関投資家が責任ある投資家として行動し、対話を通じて企業に規律と成長を促すことです。投資家の側から、企業をよりよくしていく力が期待されています。

これに対しコーポレートガバナンス・コードは、企業自身が透明で公正な経営を行い、持続的に成長する仕組みを整えることを目指します。一方が投資家の行動を、もう一方が企業の行動を方向づける。両者は、別々の主体に異なる規律を求めているのです。

両輪で実現する持続的な企業価値向上

この2つのコードは、しばしば「車の両輪」と表現されます。投資家側のスチュワードシップ・コードと、企業側のコーポレートガバナンス・コード。この2つが噛み合うことで、はじめて前に進むという意味です。

投資家が建設的な対話を仕掛け、企業がそれに誠実に応える。その往復を通じて、企業の持続的な成長と、中長期的な企業価値の向上が実現されます。どちらか一方だけでは、効果は限られます。両輪がそろってこそ、日本企業全体のガバナンス改革が進む。そうした設計思想が、2つのコードには込められています。

8つの原則|機関投資家に求められること

スチュワードシップ・コードは、8つの原則で構成されています。何が求められているのか、流れに沿って押さえましょう。

スチュワードシップ・コードの8原則

原則1〜7は機関投資家、原則8はサービス提供者向け

1

方針の策定・公表|スチュワードシップ責任をどう果たすかの方針を定め、公表する

2

利益相反の管理|利益相反を適切に管理する明確な方針を持つ

3

投資先の状況把握|投資先企業の状況を的確に把握する

4

建設的な対話|「目的を持った対話」で認識を共有し、改善に努める

5

議決権行使と結果公表|行使方針を持ち、その結果を公表する

6

顧客・受益者への報告|活動状況を定期的に報告する

7

実力の具備|対話や判断を適切に行うための専門性と体制を備える

8

サービス提供者の行動|議決権行使助言会社などが、質を高め適切に行動する

原則1〜7=機関投資家原則8=議決権行使助言会社などのサービス提供者

出典:金融庁「責任ある機関投資家」の諸原則(日本版スチュワードシップ・コード)

原則1〜4|方針・利益相反・状況把握・対話

前半の原則は、対話に臨むまでの土台を定めます。原則1は、スチュワードシップ責任をどう果たすかの方針を策定し、公表することを求めます。原則2は、運用機関が抱えやすい利益相反を適切に管理する方針を持つことです。

原則3は、投資先企業の状況を的確に把握すること。そして原則4が、コードの中心ともいえる、建設的な「目的を持った対話」を通じて企業と認識を共有し、課題の改善に努めることです。対話の質が、スチュワードシップ活動の成否を分けます。

原則5〜7|議決権行使・報告・実力

後半は、行動と説明責任に関わります。原則5は、議決権の行使について明確な方針を持ち、その行使結果を公表することです。賛否の理由を含めて開示する流れが、近年強まっています。

原則6は、顧客・受益者に対して、スチュワードシップ活動の状況を定期的に報告することです。預かった資産の運用者として、説明責任を果たす必要があります。原則7は、これらの活動を適切に行うための実力を備えること。深い企業理解にもとづいて対話や判断ができる、専門性と体制が問われます。

原則8|議決権行使助言会社などのサービス提供者

原則8は、少し性格が異なります。2020年の改訂で加わった、機関投資家向けのサービス提供者に向けた原則です。具体的には、議決権行使助言会社や、年金運用コンサルタントなどが対象です。

これらのサービス提供者は、機関投資家の判断に大きな影響を与えます。だからこそ、利益相反を適切に管理し、サービスの質を高めて行動することが求められます。原則1〜7が機関投資家向け、原則8がサービス提供者向け。この構成を押さえておくと、コードの全体像がつかみやすくなります。

2025年の第三次改訂|何が変わったのか

スチュワードシップ・コードは、固定されたものではありません。2017年、2020年に続き、2025年6月には5年ぶりの第三次改訂が確定しました。最新の改訂で何が重視されたのかを確認します。

5年ぶりの改訂の背景

コードは2014年の策定以来、おおむね数年ごとに見直されてきました。企業と投資家の対話が一定程度根づいてきた一方で、その対話を形式から実質へと深める課題が残っていました。

2025年の改訂は、こうした問題意識を背景にしています。対話を「やっているか」から、「実のある成果につながっているか」へ。スチュワードシップ活動の質を一段引き上げることが、改訂の通底するテーマとなりました。

協働エンゲージメントの格上げ

最も注目される変更が、協働エンゲージメントの位置づけの引き上げです。協働エンゲージメントとは、複数の機関投資家が連携して、同じ企業に対話を行うことを指します。1社では動かしにくい課題も、投資家が束になれば声が届きやすくなります。

2025年改訂では、この協働エンゲージメントが「重要な選択肢である」と明確に位置づけられました。あわせて、エンゲージメントに際して、投資先企業に自らの株式の保有状況を説明することも盛り込まれています。対話の実効性を高める方向への、踏み込んだ見直しといえます。

サステナビリティ考慮とコードのスリム化

サステナビリティの考慮も、引き続き重視されています。機関投資家は、運用戦略に応じて、投資先企業のサステナビリティ(ESG要素を含む中長期の持続可能性)を考慮した対話や判断を行うことが求められます。ESGを投資の意思決定に組み込む流れと、軌を一にする内容です。ESG投資の広がりは、関連記事のESG投資とは|手法と市場の広がりもあわせてご覧ください。

もう一つの特徴が、コード全体のスリム化です。年月を経て積み重なった指針を整理し、本当に重要な事項を際立たせる狙いです。情報を増やすのではなく、本質に絞り込む。成熟期に入ったコードの、新しい段階を示す改訂です。

機関投資家・企業に求められる実務

コードを踏まえ、投資家と企業はそれぞれ何をすべきでしょうか。実務のポイントを整理します。

機関投資家|対話と議決権行使の質を高める

機関投資家にまず求められるのは、対話と議決権行使のを高めることです。形だけの対話や、画一的な議決権行使では、コードの趣旨に応えたことになりません。投資先をよく理解し、課題に即した対話を重ねる姿勢が問われます。

議決権行使では、その結果を個別の議案ごとに公表する動きが定着しつつあります。なぜその判断をしたのか、理由とともに開示することで、活動の透明性が高まっていきます。協働エンゲージメントという選択肢も視野に入れ、限られた人員でいかに実効性を出すかが、これからの課題です。

企業側|対話を企業価値向上に活かす

企業の側にも、対応が求められます。機関投資家からの対話は、ときに耳の痛い指摘を含みます。しかし、それを単なる外圧と捉えるか、企業価値向上のヒントと捉えるかで、得られるものは大きく変わります。

大切なのは、投資家との対話を、自社の経営を磨く機会として活かすことです。投資家が何を懸念し、何を期待しているのか。建設的な対話の中から、自社の課題や成長の種を見いだす。受け身ではなく、対話を経営に取り込む姿勢が、長期的な信頼につながります。

アセットオーナー・プリンシプルとの関係

近年は、資金の流れの「上流」にも目が向けられています。その表れが、金融庁が2024年8月に公表したアセットオーナー・プリンシプルです。アセットオーナーとは、年金基金や保険会社など、最終的な資金の出し手を指します。

運用会社にスチュワードシップ責任を求めるだけでなく、その運用を委託するアセットオーナー自身にも、責任ある行動を促す。そうすることで、資金の流れ全体でスチュワードシップ活動の質を底上げするねらいです。スチュワードシップ・コードとアセットオーナー・プリンシプルは、車の両輪を支える土台として、相互に補い合う関係といえるでしょう。

まとめ|対話を通じて持続的成長を促す

スチュワードシップ・コードは、機関投資家が対話を通じて企業の成長を促すための行動原則です。最後に、要点を振り返りましょう。

  • スチュワードシップ・コードとは、機関投資家が建設的な対話などを通じて企業価値向上と受益者のリターン拡大を目指す「責任ある機関投資家」の原則である
  • 機関投資家向けのこのコードと、企業向けのコーポレートガバナンス・コードは、対話でつながる「車の両輪」の関係にある
  • コードは8つの原則からなり、原則1〜7が機関投資家向け、原則8が議決権行使助言会社などのサービス提供者向けである
  • 2025年の第三次改訂では、協働エンゲージメントが重要な選択肢として格上げされ、サステナビリティ考慮の重視とコードのスリム化が図られた
  • 実務では、投資家は対話と議決権行使のを、企業は対話を経営に活かす姿勢を高めることが求められる。アセットオーナー・プリンシプルが資金の上流からこれを後押しする

スチュワードシップ・コードは、投資家と企業が対立する道具ではありません。建設的な対話を通じて、ともに持続的な成長を目指すための共通言語です。ESG・サステナビリティの全体像はESGとは|意味・E/S/G・情報開示・投資まで完全ガイドもあわせてご覧ください。greenoteでは、ESG・サステナビリティ開示の実務情報を、これからもお届けしていきます。

出典・参考(一次情報)

※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。

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サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年6月20日

この記事の著者

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