IPCC第6次評価報告書(AR6)の要点|1.5℃目標と必要な削減をわかりやすく解説

2026.06.14
気候変動

「人間活動が地球を温暖化させてきたことは、疑う余地がない」。科学者たちが、ここまで踏み込んだ表現を使ったことはありませんでした。気候変動をめぐる世界の議論は、いまやこの一文を出発点にしています。その根拠となっているのが、IPCCの第6次評価報告書(AR6)です。

IPCC第6次評価報告書(AR6)とは、世界中の気候科学の到達点をとりまとめた、国連の包括的な評価報告書です。2021〜2022年の3つの作業部会報告書と、2023年3月の統合報告書からなり、各国の政策の科学的な土台です。

本記事では、IPCCと評価報告書の仕組みから、AR6が示した温暖化の現状、1.5℃に抑えるために必要な削減、残された時間とリスク、そして企業・実務への示唆までを、最新情報をふまえてわかりやすく解説します。

目次

IPCC・評価報告書とは

まずは、IPCCと評価報告書の位置づけを押さえましょう。なぜこの報告書が世界の基準になるのかが見えてきます。

IPCCとは|気候科学の到達点をまとめる

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、気候変動に関する科学的知見を評価する、国連の組織です。世界中の科学者が発表した膨大な研究を専門家が評価し、その時点での到達点をとりまとめます。

特徴は、IPCC自身が新しい研究を行うのではなく、既存の研究を「評価」する点にあります。各国政府が参加し、報告書は政府の承認を経て公表されます。だからこそ、その内容は政策や国際交渉の揺るがぬ土台として扱われます。気候科学における、最も権威ある声といえる存在です。

評価報告書(AR)と第6次(AR6)

IPCCは、数年ごとに「評価報告書(Assessment Report、略してAR)」を公表してきました。これまでに6回公表されており、最新が第6次評価報告書、すなわちAR6です。

ARは、その時点で得られている気候科学の知見を集大成したものです。回を重ねるごとに、観測データの蓄積と科学の進展を反映し、表現はより確実なものになってきました。AR6は、現時点で最も信頼できる気候変動の総合的な評価として位置づけられています。世界のエネルギー見通しは、関連記事のWorld Energy Outlook 2025の要点|IEAの世界エネルギー見通しもあわせてご覧ください。

3つの作業部会と統合報告書

AR6は、3つの作業部会(ワーキンググループ)の報告書から構成されます。第1作業部会が「自然科学的根拠」、第2作業部会が「影響・適応・脆弱性」、第3作業部会が「気候変動の緩和」を担当します。これらは2021年から2022年にかけて順次公表されました。

そして2023年3月、3つの報告書の要点を集約した「統合報告書」が公表されました。これがAR6の総まとめにあたります。本記事で紹介する数値の多くは、この統合報告書の政策決定者向け要約が出典です。

IPCC AR6の構成

世界中の研究を評価し、各国政策の科学的土台になる

第1作業部会

自然科学的根拠

2021年

第2作業部会

影響・適応・脆弱性

2022年

第3作業部会

気候変動の緩和

2022年

↓ 3つを集約 ↓

統合報告書(SYR)2023年3月公表|AR6の総まとめ

IPCCは新たな研究はせず、世界中の研究を「評価」します。政府承認を経て公表され、信頼性が高いのが特徴です。

出典:IPCC第6次評価報告書(AR6)の構成をもとに作成

AR6が示した地球温暖化の現状

AR6は、温暖化の現状をこれまでになく強い表現で示しました。中心的なメッセージを整理しましょう。

人間活動による温暖化は「疑う余地がない」

AR6の最も重い一文が、「人間の影響が大気・海洋・陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」という記述です。過去の報告書では「可能性が極めて高い」といった表現でしたが、AR6では断定に近い言い方へと踏み込みました。

これは、科学的な証拠が積み重なり、もはや議論の余地がない段階に達したことを意味します。温暖化が人間活動によるものかどうか、という問いには、科学はすでに明確な答えを出しているのです。

すでに約1.1℃上昇

AR6は、具体的な数字も示しています。世界平均気温は、2011〜2020年の期間で、産業革命前(1850〜1900年)と比べて、すでに約1.1℃上昇しました。

1.1℃という数字は、小さく聞こえるかもしれません。しかし地球全体の平均としては、極めて大きな変化です。すでに世界各地で、熱波や豪雨、干ばつといった異常気象が頻発し、その影響が現れ始めています。温暖化は、遠い未来の話ではありません。

1.5℃到達が目前に

さらにAR6は、このままのペースでは、1.5℃の到達が目前に迫っていると警告します。パリ協定が努力目標として掲げる1.5℃は、もはや遠い境界線ではなくなりつつあります。

1.5℃と2℃では、リスクの大きさが大きく異なるとされています。だからこそ、1.5℃に抑えることの意味は重いのです。残された猶予が小さいという事実は、AR6が発する最も切迫したメッセージのひとつです。気候変動リスクの全体像は、関連記事の気候変動リスクとは|物理的リスクと移行リスクもあわせてご覧ください。

1.5℃に抑えるために必要なこと

1.5℃目標を達成するには、何が必要なのでしょうか。AR6が示した具体的な道筋を見ていきましょう。

1.5℃に必要な削減の道筋

世界の温室効果ガス排出量(2019年比)

2025年より前

ピーク

排出を頭打ちにし、減少へ転じる

2030年まで

−43%

2019年比で約4割削減

2035年まで

−60%

2019年比で約6割削減

2050年代初頭

ネットゼロ

CO2排出を正味ゼロに

残された時間はわずか。この10年の削減が決定的です。多くの国の「2050年カーボンニュートラル」も、この科学的要請と重なります。

出典:IPCC AR6統合報告書(2023年)政策決定者向け要約

2030年に43%・2035年に60%削減(2019年比)

AR6は、1.5℃に抑える経路に必要な削減量を、数字で明示しました。世界の温室効果ガス排出量を、2019年比で2030年までに約43%、2035年までに約60%削減する必要がある、というものです。

これは、極めて野心的な目標です。世界の排出量は、まだ十分に減少に転じていません。それを10年あまりで半分近くまで減らす。AR6が示すのは、現状の延長では到底届かない、急激な転換の必要性です。科学的根拠に基づく目標は、関連記事のSBTとは|科学的根拠に基づく削減目標もあわせてご覧ください。

排出を2025年より前にピークアウト

削減のためには、まず排出量が「増え続ける」状態を止めなければなりません。AR6は、世界の温室効果ガス排出量を、遅くとも2025年より前にピークアウト(頭打ち)させる必要があると指摘しました。

ピークを過ぎてから減少に転じる、その折り返し地点を、もう待ったなしの時期に設定したのです。排出を増やし続けながら、後で一気に減らす、という選択肢は残されていません。早く動くほど、その後の削減は現実的になります。

2050年代初頭にCO2ネットゼロ

そして最終的な到達点が、CO2排出量の正味ゼロ(ネットゼロ)です。AR6は、1.5℃に抑えるには、CO2排出量を2050年代初頭に正味ゼロにする必要があるとしています。

正味ゼロとは、排出量から吸収・除去量を差し引いて、実質的にゼロにすることです。多くの国が掲げる「2050年カーボンニュートラル」は、まさにこの科学的要請と重なります。カーボンニュートラルの全体像は、関連記事のカーボンニュートラルとは|2050年目標と脱炭素社会への道筋もあわせてご覧ください。

残された時間と「現状維持」のリスク

対策を先送りすると、何が起きるのでしょうか。残された時間と、行動しない場合のリスクを整理しましょう。

カーボンバジェット(残された排出量)

AR6が示す重要な概念に、カーボンバジェットがあります。これは、ある気温目標に抑えるために、世界が今後排出できるCO2の総量、いわば「炭素の予算」です。

1.5℃に抑えるためのカーボンバジェットは、すでに大きく残っていません。排出を続けるほど、この予算は急速に減っていきます。予算を使い切れば、1.5℃の達成は不可能になります。まさに時間との闘いといえるでしょう。

現行政策のままでは約3.2℃の見通し

では、いまのままだとどうなるのでしょうか。AR6は、各国が表明済みの政策のままでは、21世紀末に世界平均気温が約3.2℃上昇する見通しだと示しました。

1.5℃や2℃という目標と、この3.2℃という見通しの隔たりは、あまりにも大きいものです。表明された目標や政策だけでは、到底足りないのが実情です。このギャップを埋めるための、対策の抜本的な強化が求められています。

温暖化が進むほど悪化するリスク

AR6が繰り返し強調するのが、温暖化の程度が大きくなるほど、リスクが増大するという点です。0.1℃の違いが、被害の大きさを左右します。

熱波、豪雨、干ばつ、海面上昇。これらの気候リスクと、それに伴う損失・損害は、気温の上昇とともに深刻化します。しかも、いったん超えると後戻りが難しい「転換点」の存在も指摘されています。だからこそ、わずかでも上昇を抑える努力に、大きな意味があるのです。

企業・実務への示唆

AR6は、企業にとっても重要な意味を持ちます。実務にどうつながるかを整理します。

1.5℃目標と整合する経営目標へ(SBT)

AR6が示す1.5℃の道筋は、企業の脱炭素目標の科学的な根拠になります。ここで重要になるのが、SBT(科学的根拠に基づく目標)です。SBTは、まさにこうした科学と整合する削減目標を、企業に求める仕組みです。

「なんとなく」の目標ではなく、科学が要請する水準に合わせて、自社の削減目標を設定する。AR6は、その目標設定の前提となる科学的な土台を与えます。企業の気候目標は、科学とつながってこそ説得力を持ちます。

移行リスク・物理的リスクへの備え

AR6の知見は、企業のリスク管理にも直結します。気候変動がもたらすリスクは、大きく2つに分けられます。脱炭素に向けた政策や市場の変化による移行リスクと、災害などによる物理的リスクです。

3.2℃の世界では、物理的リスクが深刻化します。一方で、急速な脱炭素が進めば、移行リスクが顕在化します。どちらのシナリオでも、企業は影響を受けます。AR6の科学的知見を踏まえ、両面のリスクに備える必要があるでしょう。

この10年の行動が決定的

AR6が発する最大のメッセージは、この10年間の行動が決定的だということです。2030年、2035年という近い将来の数値目標は、いますぐ動き始めなければ間に合いません。

企業にとっても、これは他人事ではありません。気候対策は、もはや遠い将来への備えではなく、いま取り組むべき経営課題です。科学が示す時間軸の厳しさを直視し、できることから着実に進める。その積み重ねが、企業の持続性を支えます。サステナビリティ経営の全体像は、関連記事のサステナビリティ経営とは|ESGを統合する考え方と進め方もあわせてご覧ください。

企業が備える2つの気候リスク

AR6の知見は、リスク管理に直結する

移行リスク脱炭素に向けた変化

政策・規制・市場・技術が脱炭素へ動くことで生じるリスク。急速な脱炭素が進むほど顕在化する。

例:炭素価格・規制強化・市場の変化・評判

物理的リスク気候災害などの影響

気候変動による直接的な被害のリスク。3.2℃の世界では、より深刻化する。

例:熱波・豪雨や洪水・干ばつ・海面上昇

どちらのシナリオでも企業は影響を受けます。両面への備えが欠かせません。

出典:IPCC AR6の知見と気候関連リスクの分類をもとに作成

まとめ|科学が示す「いま」の重み

IPCC第6次評価報告書(AR6)は、気候変動に関する科学の到達点を示す、最も重要な報告書です。最後に、要点を振り返りましょう。

  • AR6は、IPCCの3作業部会の報告書と2023年の統合報告書からなる、現時点で最新の包括的な気候評価である
  • 人間活動による温暖化は「疑う余地がない」とされ、世界平均気温はすでに約1.1℃上昇。1.5℃到達が目前に迫る
  • 1.5℃に抑えるには、世界の排出量を2019年比で2030年に約43%・2035年に約60%削減し、2025年前にピークアウト、2050年代初頭にCO2ネットゼロが必要
  • カーボンバジェットは残りわずか。現行政策のままでは約3.2℃の見通しで、温暖化が進むほどリスクは増大する
  • 企業には、1.5℃と整合する目標(SBT)と、移行・物理の両リスクへの備えが求められ、この10年の行動が決定的である

AR6が突きつけるのは、科学が示す「いま」の重みです。残された時間は長くありません。けれども、必要な対策の方向は、科学によって明確に示されています。その科学を直視し、行動につなげること。それが、企業にも社会にも問われています。ESG・サステナビリティの全体像はESGとは|意味・E/S/G・情報開示・投資まで完全ガイドもあわせてご覧ください。greenoteでは、ESG・サステナビリティ開示の実務情報を、これからもお届けしていきます。

出典・参考(一次情報)

※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。

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最終更新日:2026年6月21日

この記事の著者

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