ESG Company Analysis
満員電車は、たしかに大変です。しかし、環境の面から見ると、鉄道はとても優秀な移動手段だ。一度に大勢を運ぶため、一人あたりのCO2は、自動車や飛行機よりずっと少ないからです。その日本最大級の鉄道会社が、JR東日本(東日本旅客鉄道)です。同社は2050年度に、CO2排出量を実質ゼロにすると掲げています。本記事では、JR東日本のESG経営を、ゼロカーボン・チャレンジ2050と水素への挑戦を軸に、公式情報をもとに中立に分析します。
この記事の目次
01
JR東日本のESG経営とは|鉄道という低炭素な移動
まず、JR東日本がどんな企業で、鉄道のESGがなぜ重要なのかを整理しましょう。
大勢を運ぶから、低炭素
鉄道会社の脱炭素は、社会全体の移動の脱炭素に直結する。
出典:JR東日本の公表情報をもとにgreenote作成
首都圏を支える巨大鉄道会社
JR東日本は、首都圏や東日本を中心に、鉄道網を運営する日本最大級の鉄道会社です。毎日、膨大な数の人々の移動を支えている。通勤・通学から旅行まで、多くの人にとって、なくてはならない存在です。
これだけの鉄道を動かすには、当然、大量の電力が必要です。だからこそ、JR東日本がその電力をどう脱炭素するかは、大きな意味を持ちます。一方で、鉄道は電力を使うからこそ、電力さえクリーンにできれば、走行時のCO2をゼロに近づけられる乗り物でもあります。ここに、鉄道の脱炭素の可能性がある。
鉄道はそもそも低炭素
見落とされがちですが、鉄道はそもそも低炭素な移動手段です。理由は、一度に大量の人や物を運べるからです。同じ距離を移動するとき、一人あたりで出るCO2は、自動車や航空機に比べて、格段に少なくなります。
つまり、人々が自動車や飛行機のかわりに鉄道を選ぶこと自体が、社会のCO2削減につながります。JR東日本のESGを考えるうえで、この「鉄道という移動手段の価値」は欠かせません。自社の排出を減らすことと、低炭素な移動を提供すること。その両面が、鉄道会社のESGの土台になる。
02
ゼロカーボン・チャレンジ2050|2050年度にCO2実質ゼロ
JR東日本の脱炭素の長期目標と、その道筋を見ていきます。
2050年度、CO2を実質ゼロへ
2020年策定のゼロカーボン・チャレンジ2050。電力の脱炭素と水素などの新技術を両輪で。
出典:JR東日本の公表情報をもとにgreenote作成
JR東日本の脱炭素を束ねるのが、「ゼロカーボン・チャレンジ2050」です。2020年に策定された、環境の長期目標だ。その中核が、2050年度に、事業活動から出るCO2排出量を実質ゼロにするというものです。カーボンニュートラルの考え方は、関連記事のカーボンニュートラルとはもあわせてご覧ください。
長期の目標だけでは、絵に描いた餅になりかねません。そこでJR東日本は、途中の目標も示しています。2030年度に、CO2排出量を2013年度比で約半減させる、というものです。基準となる2013年度の排出量は、鉄道事業を中心に相当な規模でした。それを、10年あまりで半分にする。決して簡単な目標ではありません。この長期と中期の両方を掲げ、電力の脱炭素と水素などの新技術を両輪で進めていきます。脱炭素の全体像は、関連記事のネットゼロとはもあわせてご覧ください。
03
電力の脱炭素|自営発電所という強み
JR東日本ならではの、電力への取り組みを確認しましょう。
電気を、自前でつくる強み
2050年度には、鉄道事業で使うエネルギーの相当部分を再エネや自営水力でまかなうことをめざす。
出典:JR東日本の公表情報をもとにgreenote作成
JR東日本の脱炭素には、大きな強みがあります。それは、電車を動かす電力を、自社の発電所(自営発電所)でまかなっている点です。多くの企業が電力会社から電気を買うのに対し、JR東日本は自前の発電所を持ちます。だからこそ、その電力の中身を、自らの手で脱炭素していけます。
もともと同社は、自営の水力発電所を持っています。水力は、CO2を出さない再生可能エネルギーです。これに加えて、火力発電の燃料転換などによる脱炭素や、太陽光・風力といった再生可能エネルギーの開発を進めている。公表情報によれば、2050年度には、鉄道事業で使うエネルギーの相当部分を、再エネや自営水力でまかなうことをめざしています。電気を自前でつくれるからこそ、脱炭素を主体的に進められる。ここに、JR東日本らしさがあります。再エネの活用については、関連記事の電化(電化率)とはもあわせてご覧ください。
04
水素への挑戦|日本初の水素ハイブリッド電車HYBARI
電化しにくい路線の脱炭素を担う、水素の取り組みです。
水素で、走る
2027年度末に営業運転をめざす。電化しにくい路線の脱炭素の切り札。
出典:JR東日本の公表情報をもとにgreenote作成
電力の脱炭素だけでは、解決しない課題があります。それが、電線(架線)のない路線です。都市部の電車は架線から電気をとって走りますが、地方のローカル線などには、架線のない区間が多くあります。こうした路線では、これまでディーゼル車が使われ、燃料の軽油からCO2を出してきました。
そこでJR東日本が挑むのが、水素です。同社などが開発したのが、日本初の水素ハイブリッド電車「HYBARI(ヒバリ)」になります。HYBARIは、水素と酸素から電気をつくる燃料電池を動力源とし、走行時にCO2を出しません。JR東日本は、このHYBARIの営業運転を、2027年度末に実現することをめざしています。架線のない路線を走るディーゼル車を、水素で置き換える。電化しにくい路線の脱炭素の切り札として、期待がかかります。水素については、関連記事のグリーン水素とはもあわせてご覧ください。
05
鉄道の価値|モーダルシフトで社会の脱炭素に貢献
自社の削減だけでなく、鉄道という移動手段そのものの価値も見ておきましょう。
移動を、鉄道に切り替える
シフト →
移動や輸送を鉄道に切り替えることで、社会全体のCO2を減らせる。鉄道会社は低炭素な移動の選択肢を提供する。
出典:JR東日本の公表情報をもとにgreenote作成
JR東日本のESGは、自社の排出削減にとどまりません。鉄道という移動手段そのものが、社会の脱炭素に貢献します。カギとなるのが、モーダルシフトです。これは、人の移動や物の輸送を、CO2の多い手段から少ない手段へと切り替えることを指します。
具体的には、自動車や航空機での移動を、鉄道に切り替えること。前述の通り、鉄道は一人・一トンあたりのCO2が格段に少ない移動手段です。そのため、モーダルシフトが進むほど、社会全体のCO2は減っていきます。JR東日本は、自社を脱炭素するだけでなく、低炭素な移動の選択肢を提供することで、社会の脱炭素にも寄与している。もっとも、人口減少や地方路線の維持といった課題もあり、鉄道の価値をどう保つかは、これからの重要なテーマです。だからこそ、鉄道を選ぶことの意味を、あらためて見直したいところです。
06
まとめ|JR東日本のESG経営から学べること
JR東日本の歩みは、インフラ企業が脱炭素にどう向き合うかを、明快に示してくれます。最後に、要点を振り返りましょう。
JR東日本に学ぶ、3つのこと
出典:JR東日本の公表情報をもとにgreenote作成
JR東日本のESG経営を振り返ると、いくつもの学びが見えてきます。
- 首都圏を支える日本最大級の鉄道会社。鉄道は一人あたりのCO2が少ない、低炭素な移動手段
- ゼロカーボン・チャレンジ2050=2050年度にCO2実質ゼロ、2030年度に2013年度比で約半減
- 自営発電所という強み。自営水力に加え、火力の脱炭素や太陽光・風力の開発を進める
- 日本初の水素ハイブリッド電車HYBARI(2027年度末に営業運転へ)で、電化しにくい路線を脱炭素
- モーダルシフトを通じて、鉄道という事業そのものが社会の脱炭素に貢献
JR東日本から学べるのは、自前の強みを生かし、事業そのものの価値も高めるという、二重の脱炭素の姿です。電力を自前でつくれる強みを生かして、主体的に電力を脱炭素する。水素という新技術で、電化しにくい難所を越えようとする。そして、鉄道という低炭素な移動を提供することで、社会全体の脱炭素にも貢献する。自社の削減と、事業を通じた貢献。その両輪を回せることが、インフラ企業ならではの強みだといえます。なお本記事は、特定の企業や投資を推奨するものではありません。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。
FAQ
よくある質問(FAQ)
Q. JR東日本(東日本旅客鉄道)とはどんな企業ですか?
JR東日本は、首都圏や東日本を中心に、鉄道網を運営する日本最大級の鉄道会社です。毎日、膨大な数の人々の移動を支えています。鉄道は多くの電力を使いますが、一人を運ぶあたりのCO2で見れば、自動車や航空機よりずっと少ない、環境にやさしい移動手段です。だからこそ、鉄道会社の脱炭素は、社会全体の移動の脱炭素に大きくかかわります。
Q. ゼロカーボン・チャレンジ2050とは何ですか?
ゼロカーボン・チャレンジ2050は、JR東日本が2020年に策定した環境の長期目標です。2050年度に、事業活動から出るCO2排出量を実質ゼロにすることをめざしています。その途中の目標として、2030年度に、CO2排出量を2013年度比で約半減させることを掲げています。鉄道事業で使う電力の脱炭素と、水素などの新技術の活用を、両輪で進める計画です。
Q. JR東日本の電力の脱炭素はどう進めていますか?
JR東日本の大きな特徴は、電車を動かすための電力を、自社の発電所(自営発電所)でまかなっている点です。もともと水力発電所を持っており、これはCO2を出しません。加えて、火力発電の脱炭素や、太陽光・風力といった再生可能エネルギーの開発を進めています。公表情報によれば、2050年度には、鉄道事業で使うエネルギーの相当部分を、再エネや自営水力でまかなうことをめざしています。
Q. HYBARI(ヒバリ)とは何ですか?
HYBARIは、JR東日本などが開発した、日本初の水素ハイブリッド電車です。水素と酸素から電気をつくる燃料電池を動力源とし、走行時にCO2を出しません。電線(架線)のない路線では、これまでディーゼル車が使われてきましたが、その置き換えが期待されます。JR東日本は、2027年度末にHYBARIの営業運転を実現することをめざしており、電化しにくい路線の脱炭素の切り札と位置づけています。
Q. 鉄道はなぜ脱炭素に役立つのですか?
鉄道は、一度に大量の人や物を運べるため、一人・一トンあたりのCO2排出量が、自動車や航空機に比べて格段に少ない移動手段です。そのため、自動車や飛行機での移動を鉄道に切り替える「モーダルシフト」が進めば、社会全体のCO2を減らせます。JR東日本のような鉄道会社は、自社の排出を減らすだけでなく、人々に低炭素な移動の選択肢を提供することで、社会の脱炭素にも貢献しています。
Q. JR東日本のESG経営から学べることは何ですか?
大きく2つあります。1つ目は、自社の電力を自前でまかなうという強みを生かし、電力の脱炭素と水素の活用を両輪で進めている点です。2つ目は、鉄道という事業そのものが、モーダルシフトを通じて社会の脱炭素に貢献するという視点です。自社の排出削減と、事業を通じた社会への貢献。その両面を持つ点が、インフラ企業ならではの特徴だといえます。なお本記事は特定の投資を推奨するものではありません。
Sources
出典・参考(一次情報)
- JR東日本「環境(Environment)」
- JR東日本「2050年度のCO2排出量「ゼロ」を目指します(ゼロカーボン・チャレンジ2050)」
- JR東日本「ゼロカーボン・チャレンジ2050達成に向けた取り組み」
※ 本記事は上記の一次情報および公開報道をもとにgreenote編集部が整理しています。企業評価や投資判断を目的とするものではありません。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年7月19日