JR東日本のESG経営を分析|ゼロカーボン・チャレンジ2050と水素

2026.07.19
サステナビリティ開示

ESG Company Analysis

鉄道国内

満員電車は、たしかに大変です。しかし、環境の面から見ると、鉄道はとても優秀な移動手段だ。一度に大勢を運ぶため、一人あたりのCO2は、自動車や飛行機よりずっと少ないからです。その日本最大級の鉄道会社が、JR東日本(東日本旅客鉄道)です。同社は2050年度に、CO2排出量を実質ゼロにすると掲げています。本記事では、JR東日本のESG経営を、ゼロカーボン・チャレンジ2050と水素への挑戦を軸に、公式情報をもとに中立に分析します。

この記事の目次

01

JR東日本のESG経営とは|鉄道という低炭素な移動

まず、JR東日本がどんな企業で、鉄道のESGがなぜ重要なのかを整理しましょう。

大勢を運ぶから、低炭素

JR東日本 = 首都圏や東日本を中心に鉄道網を運営する、日本最大級の鉄道会社
一人を運ぶあたりのCO2は、自動車や航空機よりずっと少ない

鉄道会社の脱炭素は、社会全体の移動の脱炭素に直結する。

出典:JR東日本の公表情報をもとにgreenote作成

首都圏を支える巨大鉄道会社

JR東日本は、首都圏や東日本を中心に、鉄道網を運営する日本最大級の鉄道会社です。毎日、膨大な数の人々の移動を支えている。通勤・通学から旅行まで、多くの人にとって、なくてはならない存在です。

これだけの鉄道を動かすには、当然、大量の電力が必要です。だからこそ、JR東日本がその電力をどう脱炭素するかは、大きな意味を持ちます。一方で、鉄道は電力を使うからこそ、電力さえクリーンにできれば、走行時のCO2をゼロに近づけられる乗り物でもあります。ここに、鉄道の脱炭素の可能性がある。

鉄道はそもそも低炭素

見落とされがちですが、鉄道はそもそも低炭素な移動手段です。理由は、一度に大量の人や物を運べるからです。同じ距離を移動するとき、一人あたりで出るCO2は、自動車や航空機に比べて、格段に少なくなります。

つまり、人々が自動車や飛行機のかわりに鉄道を選ぶこと自体が、社会のCO2削減につながります。JR東日本のESGを考えるうえで、この「鉄道という移動手段の価値」は欠かせません。自社の排出を減らすことと、低炭素な移動を提供すること。その両面が、鉄道会社のESGの土台になる。

02

ゼロカーボン・チャレンジ2050|2050年度にCO2実質ゼロ

JR東日本の脱炭素の長期目標と、その道筋を見ていきます。

2050年度、CO2を実質ゼロへ

2013年度CO2排出量の基準
2030年度2013年度比で約半減(中間目標)
2050年度CO2排出量を実質ゼロ

2020年策定のゼロカーボン・チャレンジ2050。電力の脱炭素と水素などの新技術を両輪で。

出典:JR東日本の公表情報をもとにgreenote作成

JR東日本の脱炭素を束ねるのが、「ゼロカーボン・チャレンジ2050」です。2020年に策定された、環境の長期目標だ。その中核が、2050年度に、事業活動から出るCO2排出量を実質ゼロにするというものです。カーボンニュートラルの考え方は、関連記事のカーボンニュートラルとはもあわせてご覧ください。

長期の目標だけでは、絵に描いた餅になりかねません。そこでJR東日本は、途中の目標も示しています。2030年度に、CO2排出量を2013年度比で約半減させる、というものです。基準となる2013年度の排出量は、鉄道事業を中心に相当な規模でした。それを、10年あまりで半分にする。決して簡単な目標ではありません。この長期と中期の両方を掲げ、電力の脱炭素と水素などの新技術を両輪で進めていきます。脱炭素の全体像は、関連記事のネットゼロとはもあわせてご覧ください。

03

電力の脱炭素|自営発電所という強み

JR東日本ならではの、電力への取り組みを確認しましょう。

電気を、自前でつくる強み

JR東日本は、電車用の電力を自社の発電所でまかなう
自営水力発電もともと保有し、CO2を出さない
火力発電の脱炭素燃料の転換などを検討
太陽光・風力再生可能エネルギーの開発を推進

2050年度には、鉄道事業で使うエネルギーの相当部分を再エネや自営水力でまかなうことをめざす。

出典:JR東日本の公表情報をもとにgreenote作成

JR東日本の脱炭素には、大きな強みがあります。それは、電車を動かす電力を、自社の発電所(自営発電所)でまかなっている点です。多くの企業が電力会社から電気を買うのに対し、JR東日本は自前の発電所を持ちます。だからこそ、その電力の中身を、自らの手で脱炭素していけます。

もともと同社は、自営の水力発電所を持っています。水力は、CO2を出さない再生可能エネルギーです。これに加えて、火力発電の燃料転換などによる脱炭素や、太陽光・風力といった再生可能エネルギーの開発を進めている。公表情報によれば、2050年度には、鉄道事業で使うエネルギーの相当部分を、再エネや自営水力でまかなうことをめざしています。電気を自前でつくれるからこそ、脱炭素を主体的に進められる。ここに、JR東日本らしさがあります。再エネの活用については、関連記事の電化(電化率)とはもあわせてご覧ください。

04

水素への挑戦|日本初の水素ハイブリッド電車HYBARI

電化しにくい路線の脱炭素を担う、水素の取り組みです。

水素で、走る

HYBARI = 日本初の水素ハイブリッド電車
仕組み水素と酸素から電気をつくる燃料電池を動力源とし、走行時にCO2を出さない
役割電線のない路線で、これまで使われてきたディーゼル車の置き換えが期待される

2027年度末に営業運転をめざす。電化しにくい路線の脱炭素の切り札。

出典:JR東日本の公表情報をもとにgreenote作成

電力の脱炭素だけでは、解決しない課題があります。それが、電線(架線)のない路線です。都市部の電車は架線から電気をとって走りますが、地方のローカル線などには、架線のない区間が多くあります。こうした路線では、これまでディーゼル車が使われ、燃料の軽油からCO2を出してきました。

そこでJR東日本が挑むのが、水素です。同社などが開発したのが、日本初の水素ハイブリッド電車「HYBARI(ヒバリ)」になります。HYBARIは、水素と酸素から電気をつくる燃料電池を動力源とし、走行時にCO2を出しません。JR東日本は、このHYBARIの営業運転を、2027年度末に実現することをめざしています。架線のない路線を走るディーゼル車を、水素で置き換える。電化しにくい路線の脱炭素の切り札として、期待がかかります。水素については、関連記事のグリーン水素とはもあわせてご覧ください。

05

鉄道の価値|モーダルシフトで社会の脱炭素に貢献

自社の削減だけでなく、鉄道という移動手段そのものの価値も見ておきましょう。

移動を、鉄道に切り替える

自動車・航空機一人や一トンあたりのCO2が多い
モーダル
シフト →
鉄道一人や一トンあたりのCO2が少ない

移動や輸送を鉄道に切り替えることで、社会全体のCO2を減らせる。鉄道会社は低炭素な移動の選択肢を提供する。

出典:JR東日本の公表情報をもとにgreenote作成

JR東日本のESGは、自社の排出削減にとどまりません。鉄道という移動手段そのものが、社会の脱炭素に貢献します。カギとなるのが、モーダルシフトです。これは、人の移動や物の輸送を、CO2の多い手段から少ない手段へと切り替えることを指します。

具体的には、自動車や航空機での移動を、鉄道に切り替えること。前述の通り、鉄道は一人・一トンあたりのCO2が格段に少ない移動手段です。そのため、モーダルシフトが進むほど、社会全体のCO2は減っていきます。JR東日本は、自社を脱炭素するだけでなく、低炭素な移動の選択肢を提供することで、社会の脱炭素にも寄与している。もっとも、人口減少や地方路線の維持といった課題もあり、鉄道の価値をどう保つかは、これからの重要なテーマです。だからこそ、鉄道を選ぶことの意味を、あらためて見直したいところです。

06

まとめ|JR東日本のESG経営から学べること

JR東日本の歩みは、インフラ企業が脱炭素にどう向き合うかを、明快に示してくれます。最後に、要点を振り返りましょう。

JR東日本に学ぶ、3つのこと

自前の強みを生かす自営発電所を持ち、電力の脱炭素を主体的に進める
新技術で難所を越える水素HYBARIで、電化しにくい路線を脱炭素
事業自体が貢献モーダルシフトで、社会の脱炭素にも寄与

出典:JR東日本の公表情報をもとにgreenote作成

JR東日本のESG経営を振り返ると、いくつもの学びが見えてきます。

  • 首都圏を支える日本最大級の鉄道会社。鉄道は一人あたりのCO2が少ない、低炭素な移動手段
  • ゼロカーボン・チャレンジ2050=2050年度にCO2実質ゼロ、2030年度に2013年度比で約半減
  • 自営発電所という強み。自営水力に加え、火力の脱炭素や太陽光・風力の開発を進める
  • 日本初の水素ハイブリッド電車HYBARI(2027年度末に営業運転へ)で、電化しにくい路線を脱炭素
  • モーダルシフトを通じて、鉄道という事業そのものが社会の脱炭素に貢献

JR東日本から学べるのは、自前の強みを生かし、事業そのものの価値も高めるという、二重の脱炭素の姿です。電力を自前でつくれる強みを生かして、主体的に電力を脱炭素する。水素という新技術で、電化しにくい難所を越えようとする。そして、鉄道という低炭素な移動を提供することで、社会全体の脱炭素にも貢献する。自社の削減と、事業を通じた貢献。その両輪を回せることが、インフラ企業ならではの強みだといえます。なお本記事は、特定の企業や投資を推奨するものではありません。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。

FAQ

よくある質問(FAQ)

Q. JR東日本(東日本旅客鉄道)とはどんな企業ですか?

JR東日本は、首都圏や東日本を中心に、鉄道網を運営する日本最大級の鉄道会社です。毎日、膨大な数の人々の移動を支えています。鉄道は多くの電力を使いますが、一人を運ぶあたりのCO2で見れば、自動車や航空機よりずっと少ない、環境にやさしい移動手段です。だからこそ、鉄道会社の脱炭素は、社会全体の移動の脱炭素に大きくかかわります。

Q. ゼロカーボン・チャレンジ2050とは何ですか?

ゼロカーボン・チャレンジ2050は、JR東日本が2020年に策定した環境の長期目標です。2050年度に、事業活動から出るCO2排出量を実質ゼロにすることをめざしています。その途中の目標として、2030年度に、CO2排出量を2013年度比で約半減させることを掲げています。鉄道事業で使う電力の脱炭素と、水素などの新技術の活用を、両輪で進める計画です。

Q. JR東日本の電力の脱炭素はどう進めていますか?

JR東日本の大きな特徴は、電車を動かすための電力を、自社の発電所(自営発電所)でまかなっている点です。もともと水力発電所を持っており、これはCO2を出しません。加えて、火力発電の脱炭素や、太陽光・風力といった再生可能エネルギーの開発を進めています。公表情報によれば、2050年度には、鉄道事業で使うエネルギーの相当部分を、再エネや自営水力でまかなうことをめざしています。

Q. HYBARI(ヒバリ)とは何ですか?

HYBARIは、JR東日本などが開発した、日本初の水素ハイブリッド電車です。水素と酸素から電気をつくる燃料電池を動力源とし、走行時にCO2を出しません。電線(架線)のない路線では、これまでディーゼル車が使われてきましたが、その置き換えが期待されます。JR東日本は、2027年度末にHYBARIの営業運転を実現することをめざしており、電化しにくい路線の脱炭素の切り札と位置づけています。

Q. 鉄道はなぜ脱炭素に役立つのですか?

鉄道は、一度に大量の人や物を運べるため、一人・一トンあたりのCO2排出量が、自動車や航空機に比べて格段に少ない移動手段です。そのため、自動車や飛行機での移動を鉄道に切り替える「モーダルシフト」が進めば、社会全体のCO2を減らせます。JR東日本のような鉄道会社は、自社の排出を減らすだけでなく、人々に低炭素な移動の選択肢を提供することで、社会の脱炭素にも貢献しています。

Q. JR東日本のESG経営から学べることは何ですか?

大きく2つあります。1つ目は、自社の電力を自前でまかなうという強みを生かし、電力の脱炭素と水素の活用を両輪で進めている点です。2つ目は、鉄道という事業そのものが、モーダルシフトを通じて社会の脱炭素に貢献するという視点です。自社の排出削減と、事業を通じた社会への貢献。その両面を持つ点が、インフラ企業ならではの特徴だといえます。なお本記事は特定の投資を推奨するものではありません。

Sources

出典・参考(一次情報)

※ 本記事は上記の一次情報および公開報道をもとにgreenote編集部が整理しています。企業評価や投資判断を目的とするものではありません。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

編集責任

greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年7月19日

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