飛行機での出張、毎日の電車通勤——。従業員の移動からも、CO2は出ています。これを計上するのが、Scope3のカテゴリ6「出張」と、カテゴリ7「雇用者の通勤」です。どちらも人の移動が対象で、算定の考え方が共通するため、本記事ではまとめて扱う。Scope3カテゴリ4(輸送・配送 上流)などに続くシリーズの一環として、出張・通勤の対象範囲と計算ステップを、環境省グリーン・バリューチェーンプラットフォームやGHGプロトコルの一次情報をもとに、実務目線で解説します。
≡この記事の目次
- 1Scope3カテゴリ6・7(出張・通勤)とは
- ►従業員の移動に伴う排出
- ►カテゴリ6(出張)とカテゴリ7(通勤)の区別
- 2カテゴリ6(出張)の算定
- ►対象は航空・鉄道・自動車・宿泊
- ►距離ベース法と支出ベース法
- 3カテゴリ7(通勤)の算定
- ►平均データ法(アンケート)が中心
- ►在宅勤務(テレワーク)の扱い
- 4計算の考え方――移動距離×交通モード別係数
- ►基本式と計算ステップ
- ►交通モードで係数が変わる
- 5データはどこから取るのか
- ►出張の旅費データ・通勤アンケート
- ►交通モード別の排出原単位
- 6CDP回答・開示での実務ポイント
- ►算定方法と対象範囲の記載
- ►実務で多い方法と現実的な進め方
- 7カテゴリ6・7の算定をどう進めるか
- 8出典・参考(一次情報)
Scope3カテゴリ6・7(出張・通勤)とは
まず、カテゴリ6と7が何を対象とするのかを整理します。「従業員の移動に伴う排出」という共通点から入りましょう。
従業員の移動に伴う排出
カテゴリ6とカテゴリ7は、いずれも従業員が移動することに伴う排出を対象にします。人が飛行機や電車、自動車で移動すれば、その分の燃料や電力が使われ、CO2が出る。自社の設備からの排出(Scope1・2)とは別に、「働く人の移動」に紐づく排出を、サプライチェーンの一部として計上するわけです。
一台の社用車が出す排出はScope1ですが、従業員が公共交通や自家用車で移動する分は、自社が直接管理していないため、Scope3のカテゴリ6・7に入ります。Scope3とはの15カテゴリのうち、この2つは「人の移動」という切り口で共通しており、算定の考え方もよく似ています。だから、まとめて理解するのが効率的です。
カテゴリ6(出張)とカテゴリ7(通勤)の区別
2つの違いは、移動の種類です。カテゴリ6は「出張」——従業員が業務のために行う、航空機・鉄道・自動車での移動や、出張中の宿泊が対象です。展示会への出張、拠点間の移動などが典型例です。一方、カテゴリ7は「通勤」——従業員が自宅と勤務地の間を移動する分が対象になる。
ざっくり言えば、出張は「非日常」の移動、通勤は「日常」の移動、と整理すると分かりやすいでしょう。どちらも、移動の距離と手段(交通モード)に応じて排出量が決まる点は同じです。以下では、それぞれの算定を見たうえで、共通する計算の考え方を整理します。
カテゴリ6(出張)の算定
まず、カテゴリ6の出張から見ていきます。対象範囲と、主な算定方法を整理します。
カテゴリ6:出張の算定
対象
主な算定方法
距離ベース法(主流)
移動距離に交通モード別の排出原単位を掛ける。
支出ベース法
旅費(交通費)に金額あたりの原単位を掛ける。まず概算したい場合。
活動量は旅行代理店や旅費精算のデータから得られることが多い。宿泊の排出を含めることも推奨される。
出典:GHGプロトコル・環境省の公開情報をもとにgreenote作成
対象は航空・鉄道・自動車・宿泊
カテゴリ6「出張」の対象は、従業員が業務で移動する際の交通です。具体的には、航空機・鉄道・自動車(レンタカーやタクシーなど)での移動が中心になる。さらに、出張中の宿泊(ホテル)に伴う排出を含めることも推奨されています。出張に伴って発生する移動と滞在を、幅広くとらえる考え方です。
とくに、航空機による移動は、単位距離あたりの排出が大きいため、出張の多い企業では、航空分がカテゴリ6の大半を占めることも珍しくありません。まずは、自社の出張でどの交通手段が多いかを把握することが、算定の出発点になる。
距離ベース法と支出ベース法
カテゴリ6の主な算定方法は、2つです。第一が距離ベース法。移動距離に、交通モード別の排出原単位を掛ける方法で、実務ではこれが広く使われる。旅行代理店のデータなどから、「どこからどこまで、何で移動したか」が分かれば、比較的正確に算定できます。第二が支出ベース法。旅費(交通費)に、金額あたりの排出原単位を掛ける方法で、まず概算したいときに使います。
CDPに開示された算定方法を見ても、カテゴリ6では距離ベース法が突出して多くなっています。出張データは、旅行代理店や旅費精算のシステムから得やすいためです。まずは主要な移動手段について距離ベース法で算定し、必要に応じて精度を高めていくのが現実的です。
カテゴリ7(通勤)の算定
次に、カテゴリ7の通勤です。従業員の自宅と職場の往復が対象で、アンケートが鍵になります。
カテゴリ7:通勤の算定
従業員へのアンケート
↓ 把握する
(電車・バス・自動車・自転車・徒歩)
実務ではアンケートにもとづく平均データ法が広く使われる。通勤が減れば排出も下がる。
出典:GHGプロトコル・環境省の公開情報をもとにgreenote作成
平均データ法(アンケート)が中心
カテゴリ7「通勤」の対象は、従業員が自宅と勤務地の間を移動する分です。ここで課題になるのが、通勤の実態は、会社が直接は持っていないという点です。誰が、どの交通手段で、どれだけの距離を通っているか——。これを把握するために、実務では従業員へのアンケートが広く使われます。
アンケートで、交通手段(電車・バス・自動車・自転車・徒歩など)や通勤距離、通勤日数を尋ね、その結果に平均的な排出原単位を掛ける。これが平均データ法です。CDPに開示された算定方法を見ても、カテゴリ7では平均データ法が最も多く、距離ベース法がこれに続きます。全従業員に聞くのが難しければ、サンプル調査から全体を推計する方法もとられます。
在宅勤務(テレワーク)の扱い
近年、カテゴリ7で論点になっているのが、在宅勤務(テレワーク)の扱いです。在宅勤務が広がると、通勤の移動そのものは減る一方、自宅での電力などのエネルギー使用が増えます。GHGプロトコルでは、この在宅勤務時のエネルギー使用に伴う排出を、カテゴリ7に含めて算定することも任意で認められています。
含めるかどうかは、各社の判断です。含める場合は、在宅勤務の日数や、1日あたりの想定エネルギー使用量といった前提を置いて推計し、その前提を明示します。いずれにせよ、働き方の変化が、そのままカテゴリ7の排出に反映される点は、押さえておきたいポイントです。通勤の削減や、公共交通の利用促進は、カテゴリ7を減らす取り組みになります。
計算の考え方――移動距離×交通モード別係数
カテゴリ6・7に共通する計算の基本を整理します。人の移動を、距離とモードでとらえます。
人の移動を、距離とモードでとらえる
(出張の距離/通勤距離×日数) × 交通モード別の排出原単位 = 排出量
同じ距離でも、交通モードで排出量は大きく変わる(1人・1kmあたりのイメージ)
距離とモードが分かれば計算できる。近距離の鉄道への切り替えやオンライン会議が削減策になる。
出典:環境省・GHGプロトコルの公開情報をもとにgreenote作成(棒の長さは大小関係のイメージ)
基本式と計算ステップ
カテゴリ6・7の計算は、根っこが同じです。基本式は、移動距離 × 交通モード別の排出原単位 = 排出量。出張なら「出張1回ごとの移動距離」、通勤なら「1人あたりの通勤距離 × 通勤日数 × 人数」を、移動距離として使います。そこに、交通手段ごとの原単位を掛けて、合算するわけです。
ステップにすると、第一に活動量(距離とモード)を把握し、第二にモード別の原単位を掛け、第三に合算する、という流れです。カテゴリ4(輸送)が「モノの移動」をトンキロでとらえたのに対し、カテゴリ6・7は「人の移動」を距離でとらえる——。対象は違っても、「距離 × モード別係数」という骨格は共通しています。
交通モードで係数が変わる
ここでも重要なのが、交通モード(交通手段)によって、原単位が大きく変わるという点です。同じ距離を移動するのでも、航空機は、鉄道やバスよりはるかに多くのCO2を出す。一般に、1人・1kmあたりの排出は「航空 > 自動車 > 鉄道・バス」の順とされます。
この違いは、削減のヒントにもなります。出張なら、近距離を航空機から鉄道に切り替える、オンライン会議で出張自体を減らす。通勤なら、公共交通や自転車の利用を促す、在宅勤務を活用する——。カテゴリ6・7は、移動手段の選択が、そのまま排出量に効くカテゴリなのです。だからこそ、算定の際はモードを分けて捉えることが大切になります。
データはどこから取るのか
出張・通勤それぞれの活動量データと、排出係数の入手先を整理します。
使うデータはどこから
出張の旅費データ
旅行代理店や旅費精算システムから、移動区間・交通手段・距離・宿泊数を把握する。
通勤アンケート
従業員へのアンケートから、交通手段・通勤距離・通勤日数を把握。サンプル調査から推計することも。
交通モード別の排出原単位(公的)
航空・鉄道・自動車などモード別の係数。環境省のグリーン・バリューチェーンプラットフォームの排出原単位DBなど。
活動量は自社の旅費・アンケート、原単位は公的な根拠。使った前提と係数を記録する。
出典:環境省・GHGプロトコルの公開情報をもとにgreenote作成
出張の旅費データ・通勤アンケート
活動量の集め方は、出張と通勤で異なります。カテゴリ6(出張)は、旅行代理店のデータや、旅費精算システムのデータが中心です。多くの企業では、出張の手配や経費精算の記録から、「どの区間を、何で移動し、何泊したか」を把握できる。比較的、活動量をとらえやすいのが出張です。
一方、カテゴリ7(通勤)は、前述のとおり従業員へのアンケートが基本です。通勤の交通手段や距離、日数を尋ね、集計する。全員が難しければ、代表的なサンプルから全体を推計します。近年は、こうした通勤・出張のデータ収集を支援するツールも増えていますが、まずは既存の旅費データやアンケートから始めるのが実務的です。
交通モード別の排出原単位
活動量(距離)に掛ける、交通モード別の排出原単位は、公的なデータベースから入手します。日本では、環境省がグリーン・バリューチェーンプラットフォームで公開する排出原単位データベースに、旅客の交通モード別の原単位などが示されています。海外出張の分は、各国や国際機関の公表値を用います。
ここでも、どの原単位を、いつの版で使ったかを記録することが欠かせません。方法論はGHGプロトコルのScope 3 Standardに沿って進めます。活動量は自社の旅費・アンケート、原単位は公的な根拠、と使い分けるのが基本です。通勤アンケートの前提(サンプルの取り方など)も、あわせて記録しておきます。
CDP回答・開示での実務ポイント
算定結果を、CDPなどでどう開示するか。カテゴリ6・7の押さえどころを整理します。
カテゴリ6・7の開示で押さえること
算定方法を選ぶ
距離ベース法・平均データ法・支出ベース法などから、使った方法を選択する
対象範囲と前提を説明する
出張は宿泊を含めたか、通勤はアンケートの取り方や在宅勤務を含めたかなど、範囲と前提を明示する
活動量と原単位を記載する
移動距離やアンケート結果などの活動量と、使ったモード別原単位の出典・版を記す
どの範囲を、どんな前提と方法で算定したかを説明できることが信頼性につながる。
出典:CDP・GHGプロトコルの公開情報をもとにgreenote作成
算定方法と対象範囲の記載
カテゴリ6・7をCDPとはなどで開示する際は、他のカテゴリと同様に、評価ステータス・排出量・算定方法(距離ベース法・平均データ法・支出ベース法など)を記す。カテゴリ6・7でとくに説明したいのが、対象範囲と前提です。出張なら宿泊を含めたかどうか、通勤ならアンケートの取り方や、在宅勤務を含めたかどうか。範囲を明確にすることが、開示の質を高める。
活動量(移動距離やアンケート結果)と、使ったモード別原単位の出典・版も記載します。とくに通勤は、アンケートという推計が入るため、どんな前提で全体を推計したかを説明できるようにしておくと、信頼性が高まります。
実務で多い方法と現実的な進め方
CDPに開示された算定方法を見ると、カテゴリ6(出張)では距離ベース法、カテゴリ7(通勤)では平均データ法(アンケート)が中心です。両者とも、サプライヤーからの一次データというより、自社が集める活動量(旅費データ・アンケート)を土台に、公表の原単位を掛ける構造になっています。
現実的な進め方は、まず出張から着手することです。旅費データが比較的そろっているため、距離ベース法で算定しやすい。通勤は、アンケートの設計・実施に手間がかかるため、年1回の調査などで無理なく続けられる仕組みをつくるのがコツです。カテゴリ6・7は排出量としては大きくない企業も多いものの、従業員が関わるため、社内の脱炭素意識を高める入り口にもなります。
カテゴリ6・7の算定をどう進めるか
Scope3カテゴリ6(出張)とカテゴリ7(通勤)は、どちらも従業員の移動に伴う排出を計上するもので、基本は「移動距離 × 交通モード別の排出原単位」で求めます。出張は旅行代理店・旅費データを使った距離ベース法、通勤は従業員アンケートにもとづく平均データ法が主流です。航空機など、交通モードで排出係数が大きく変わる点が共通のポイントで、在宅勤務の扱いはカテゴリ7の論点になります。
大切なのは、出張・通勤それぞれで活動量をどう集めるかを決め、無理なく続けられる仕組みにすることです。まず旅費データのそろう出張から着手し、通勤は定例のアンケートで把握する。オンライン会議やモーダルシフト、公共交通の促進は、そのまま削減にもつながります。Scope3の全体像はScope3とは、モノの輸送はカテゴリ4(輸送・配送 上流)もあわせてご覧ください。ESGの全体像はESG完全ガイドもどうぞ。
働く人の移動に宿る、CO2。カテゴリ6・7の算定は、従業員一人ひとりを巻き込みながら、脱炭素を身近な行動につなげる取り組みでもある。なお本記事は、環境省・GHGプロトコルなどの公開情報をもとに算定の考え方を整理したものであり、特定のツールや製品を推奨するものではありません。係数や制度は変わりうるため、算定時は最新の一次情報をご確認ください。
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よくある質問(FAQ)
Q. Scope3カテゴリ6とカテゴリ7は何が違いますか?
A. どちらも従業員の移動に伴う排出ですが、対象が異なります。カテゴリ6は、従業員が業務のために行う『出張』(航空機・鉄道・自動車での移動や宿泊)が対象です。カテゴリ7は、従業員が『自宅と勤務地の間を移動する通勤』が対象です。出張は非日常の移動、通勤は日常の移動、と整理すると分かりやすいでしょう。算定の考え方は共通で、移動距離に交通モード別の排出係数を掛けるのが基本です。
Q. カテゴリ6・7はどうやって計算しますか?
A. 基本は『移動距離 × 交通モード別の排出原単位』です。カテゴリ6(出張)は、旅行代理店や旅費精算のデータから移動距離を把握する距離ベース法が主流で、旅費から概算する支出ベース法もあります。カテゴリ7(通勤)は、従業員へのアンケートで交通手段や通勤距離を把握し、平均的な原単位を掛ける平均データ法が広く使われます。航空・鉄道・自動車といった交通モードで排出係数が大きく変わる点が共通のポイントです。
Q. 在宅勤務(テレワーク)はどう扱いますか?
A. 在宅勤務が広がるなか、在宅勤務時のエネルギー使用(自宅での電力など)に伴う排出を、カテゴリ7に含めて算定することも任意で認められています。ただし、必須ではなく、含める場合は前提(在宅日数や1日あたりの想定エネルギーなど)を明示することが大切です。通勤が減れば通勤分の排出は下がるため、働き方の変化がカテゴリ7に反映される点も押さえておきましょう。本記事は特定のツールや製品を推奨するものではありません。
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出典・参考(一次情報)
- 環境省「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム(サプライチェーン排出量の算定・排出原単位データベース)」
- 環境省「サプライチェーン排出量の算定方法」
- GHG Protocol「Corporate Value Chain (Scope 3) Standard」
最終更新日:2026年7月3日
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。