日本航空(JAL)のESG経営を分析|日本初の実質ゼロ宣言とSAF

2026.07.22
サステナビリティ開示

ESG Company Analysis

航空国内

飛行機の脱炭素は、クルマよりずっと難しい——。前にANAの記事でも触れたこの難題に、日本でいち早く高い目標を掲げたのが日本航空(JAL)です。2020年、JALは日本の航空会社として初めて「2050年にCO2実質ゼロ」を宣言しました。電気で飛べない大きな航空機を、どうやって脱炭素にするのか。本記事では、日本航空のESG経営を、日本初の実質ゼロ宣言とSAFを軸に、公式情報をもとに中立に分析していきます。

この記事の目次

01

JALのESG経営とは|日本初の実質ゼロ宣言

まず、JALがどんな会社で、航空の脱炭素がなぜ難しいのかを整理しましょう。

空の脱炭素に、いち早く

日本航空 JAL=日本を代表する航空会社
先進性2020年に日本の航空会社で初めて2050年CO2実質ゼロを宣言
難しさ航空は電動化が難しいハード・トゥ・アベイト領域

難しい分野に、いち早く正面から向き合う。

出典:日本航空の公表情報をもとにgreenote作成

航空の脱炭素という難題

日本航空(JAL)は、日本を代表する航空会社のひとつです。国内線・国際線で、多くの人やものを運んでいます。その一方で、航空は電動化が難しい分野でもあります。大きな機体を長い距離飛ばすには、軽くて大きなエネルギーを出せる燃料が要ります。電気自動車のようにバッテリーを積むと、重くなりすぎて飛べません。

このように技術的に脱炭素が難しい分野は、「ハード・トゥ・アベイト(削減が困難な)」領域と呼ばれます。航空はその代表格です。だからこそ、簡単な近道はありません。JALは、この難題に対し、日本の航空会社の中でいち早く、正面から向き合ってきた一社になります。

2050年実質ゼロと2030年10%削減

JALの姿勢を象徴するのが、その先進性です。2020年、JALは日本の航空会社として初めて、2050年にCO2排出を実質ゼロにする目標を掲げました。国内の同業に先んじた宣言でした。翌2021年には、長期ビジョン「JAL Vision 2030」も発表しています。

遠い将来の目標だけではありません。中間地点として、2030年度に、CO2排出量を2019年度比で10%削減する計画も掲げています。JALは、これを世界の航空会社の中でも野心的な目標だとしています。脱炭素の全体像は、関連記事のカーボンニュートラルとはもあわせてご覧ください。高い目標を、早くから掲げる。その姿勢が、JALのESG経営の出発点にあります。

02

3本柱|省燃費機材・運航の工夫・SAF

JALは、3つの柱を組み合わせて脱炭素を進めます。

3つの柱で、CO2を減らす

省燃費機材への更新燃費の良い最新鋭の航空機へ入れ替え
日々の運航での工夫効率的な飛び方で燃料の無駄を減らす
SAF持続可能な航空燃料の開発促進と活用

この3つを組み合わせて、2050年の実質ゼロをめざす。

出典:日本航空の公表情報をもとにgreenote作成

では、JALはどうやって実質ゼロをめざすのでしょうか。掲げるのが、3本柱です。1つ目が、省燃費機材への更新になります。燃費の良い最新鋭の航空機に入れ替えることで、そもそもの消費燃料を減らします。2つ目が、日々の運航での工夫です。効率的な飛び方や地上での運用の改善で、燃料の無駄をなくします。

そして3つ目が、SAF(持続可能な航空燃料)の開発促進と活用です。CO2を大きく減らせる新しい燃料を、増やしていきます。機材、運航、燃料。この3つを組み合わせて、少しずつ、しかし着実に排出を減らしていく。一つの手段に頼らないのが、JALの現実的な戦略です。次に、その中でも特徴的な2つを詳しく見ていきましょう。

03

省燃費機材|2050年削減の半分を担う

JALがとりわけ重視するのが、機材の更新です。

新しい機体で、燃費を大きく改善

2050年までの100%削減(2019年比)のうち
約50%を最新鋭の省燃費機材で削減

新しい航空機は古い機材より燃費が大きく改善。入れ替えるだけでCO2を大きく減らせる。

出典:日本航空の公表情報をもとにgreenote作成

3本柱の中でも、JALがとりわけ重視するのが、省燃費機材への更新です。ここには、はっきりした理由があります。公表情報によれば、JALは2050年までの100%削減(2019年比)のうち、約50%を最新鋭の省燃費機材の活用によって削減できると見込んでいます。つまり、削減の半分は機材の入れ替えで実現しようという計画です。

なぜ、それほど効くのでしょうか。新しい航空機は、古い機材に比べて、燃費が大きく改善されているためです。同じ距離を飛んでも、消費する燃料が少なくて済みます。だから、機体を新しく入れ替えるだけでも、CO2を大きく減らせるのです。派手さはありませんが、確実に効く一手だといえます。SAFのような新燃料がまだ十分に広がらない中で、いま着実にできる削減として、機材更新は大きな意味を持ちます。

04

SAF|業界で挑む切り札

残りを埋める切り札が、持続可能な航空燃料です。

切り札のSAF、業界で挑む

SAF=持続可能な航空燃料 ライフサイクルでCO2を大きく削減
意義機材と運航では減らしきれない分を埋める切り札
協力ライバルのANAと共同でSAFの現状と課題のレポートを策定

供給量とコストが課題。業界全体で需要をまとめ普及を後押しする。

出典:日本航空の公表情報および公開報道をもとにgreenote作成

機材と運航だけでは、実質ゼロには届きません。その残りを埋める切り札が、SAF(持続可能な航空燃料)です。廃食用油やバイオマスなどを原料とし、ライフサイクル全体でCO2を大きく減らせる燃料になります。SAFそのものの仕組みは、関連記事のSAF(持続可能な航空燃料)とはもあわせてご覧ください。

ただし、SAFには供給量とコストという課題があります。まだ生産量が限られ、価格も高いのが現状です。そこでJALは、一社だけで抱え込まず、業界全体で取り組む道を選びました。象徴的なのが、ライバルであるANAとの協力です。両社は、SAFの現状と課題をまとめた共同レポートを策定しています。競い合う相手とも、脱炭素という共通の課題では手を組む。業界で需要をまとめ、供給の拡大を後押しする。その姿勢が、SAFの普及を前に進める力になります。なお本記事は、特定の企業や投資を推奨するものではありません。

05

ANAとの対比|航空2社の脱炭素

日本の航空2社を並べると、それぞれの個性が見えてきます。

同じゴールへ、それぞれの力点

共通=2050年CO2実質ゼロ。SAFが鍵で共同レポートも策定
JAL日本で最も早く実質ゼロを宣言。省燃費機材を削減の大きな柱に(2050年の約50%)
ANASAF・運航改善・新型機材・市場メカニズムの4つのアプローチ

アプローチの違いであり、優劣ではない

出典:各社の公表情報をもとにgreenote作成

同じ日本の航空大手でも、脱炭素への向き合い方には、それぞれの個性が表れます。ここで、ANAと比べてみましょう。両社に共通するのは、2050年のCO2実質ゼロという大きなゴール、そしてSAFを鍵と位置づける点です。実際、SAFの現状と課題については、共同でレポートを策定するなど、協力もしています。

一方で、力点には違いも見えます。JALは、日本で最も早く実質ゼロを宣言し、省燃費機材を削減の大きな柱に据えます(2050年削減の約50%)。これに対しANAは、SAF・運航改善・新型機材・市場メカニズムという4つのアプローチを掲げます。どちらが優れているという話ではありません。同じゴールへ、それぞれの強みで向かっているのです。競争と協調の両面を持つ点も、航空業界の脱炭素の特徴だといえます。ちなみに、同じ運輸でも鉄道は事情が異なります。あわせてJR東日本のESG経営もご覧ください。

人的資本と多様性(S)|客室乗務員出身の女性社長という象徴

JALのSを象徴するのが、2024年に客室乗務員出身の鳥取三津子氏が社長に就任したことです。大手航空会社で客室乗務員出身かつ女性の社長は日本初とされ、現場からトップへの登用は同社の人材観を体現しています。女性管理職比率の目標設定や、パイロット・整備士など専門職の女性進出支援も継続しています。

2010年の経営破綻後に全社員へ浸透させた「JALフィロソフィ」は、人材育成を経営再生の中核に据えた人的資本経営の先行事例として、今も語り継がれています。

ガバナンス(G)|破綻と再生が磨いた統治

2010年の会社更生法適用という日本を代表する経営破綻から、稲盛和夫氏主導の改革を経て再上場を果たしたJALにとって、ガバナンスは「二度と破綻しない」ための生命線です。部門別採算制度(アメーバ経営)による経営の見える化が、統治の実効性を支えてきたとされます。

現在は指名・報酬委員会と独立社外取締役が経営を監督する体制のもと、TCFD開示やSAF調達など気候対応の監督も取締役会マターとなっています。破綻経験企業のガバナンス再生ストーリーとして学ぶ価値の高い事例です。

06

まとめ|JALのESG経営から学べること

JALの歩みは、難しい分野でこそ、早く動き、現実的な手を積み重ねる大切さを教えてくれます。最後に、要点を振り返りましょう。

JALに学ぶ、3つのこと

早く動く日本の航空会社で初めて2050年実質ゼロを宣言
現実解を積む省燃費機材・運航の工夫・SAFの3本柱を組み合わせる
業界で挑むライバルANAともSAFで協力し普及を後押し

出典:日本航空の公表情報をもとにgreenote作成

日本航空のESG経営を振り返ると、いくつもの学びが見えてきます。

  • 日本の航空会社で初めて2050年CO2実質ゼロを宣言(2020年)。長期ビジョン「JAL Vision 2030」
  • 中間目標=2030年度に2019年度比10%削減(世界の航空会社でも野心的と自負)
  • CO2削減の3本柱=省燃費機材への更新・日々の運航の工夫・SAF
  • 省燃費機材が大きな柱=2050年削減の約50%を最新鋭機材で
  • SAFは切り札。ライバルのANAとも共同レポートを策定し、業界で普及を後押し

JALから学べるのは、難しい分野でこそ、早く動き、現実的な手を積み重ねることの大切さです。派手な一発の解決策はなくても、機材・運航・燃料という地道な手を組み合わせれば、着実に前へ進めます。ライバルとも手を組むしなやかさも、示唆に富みます。もっとも、切り札のSAFには供給量とコストという壁が残ります。高い目標と、その実現の難しさ。その両面を見つめることが、企業のESGを深く理解する助けになります。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。

FAQ

よくある質問(FAQ)

Q. 日本航空(JAL)とはどんな会社ですか?

日本航空(JAL)は、日本を代表する航空会社のひとつです。国内線・国際線の航空輸送を手がけています。脱炭素の分野では先進的で、2020年に日本の航空会社として初めて、2050年にCO2排出を実質ゼロにする目標を掲げました。航空は電動化が難しい分野のため、その脱炭素の進め方が注目されています。

Q. JALの脱炭素目標はどうなっていますか?

JALは、2050年にCO2排出を実質ゼロにすることをめざしています。中間目標として、2030年度に、CO2排出量を2019年度比で10%削減する計画です。JALは、これを世界の航空会社の中でも野心的な目標だとしています。2021年には、長期ビジョン「JAL Vision 2030」も発表し、脱炭素を経営の柱のひとつに据えています。

Q. JALのCO2削減「3本柱」とは何ですか?

JALは、3つの柱で脱炭素を進めます。1つ目は「省燃費機材への更新」で、燃費の良い最新鋭の航空機に入れ替えます。2つ目は「日々の運航での工夫」で、効率的な飛び方などで燃料の無駄を減らします。3つ目は「SAF(持続可能な航空燃料)の開発促進と活用」です。この3つを組み合わせて、2050年の実質ゼロをめざします。

Q. 省燃費機材はどれくらい効果がありますか?

JALは、2050年までの100%削減(2019年比)のうち、約50%を最新鋭の省燃費機材の活用によって削減できると考えています。新しい航空機は、古い機材に比べて燃費が大きく改善されているため、機材を入れ替えるだけでもCO2を大きく減らせます。機材更新を削減の大きな柱に据えている点が、JALの特徴のひとつです。

Q. JALとANAの脱炭素は何が違いますか?

両社とも、2050年のCO2実質ゼロをめざし、SAFを鍵と位置づける点は共通します。実際、SAFの現状と課題については共同でレポートを策定するなど、協力もしています。違いは力点にあります。JALは日本で最も早く実質ゼロを宣言し、省燃費機材を削減の大きな柱に据えます。一方ANAは、SAF・運航改善・新型機材・市場メカニズムという4つのアプローチを掲げます。どちらが優れているというより、アプローチの違いです。

Q. JALのESG経営から学べることは何ですか?

大きく2つあります。1つ目は、電動化が難しい分野でも、日本で最も早く高い目標を掲げ、機材・運航・燃料という現実的な手段を組み合わせて進める姿勢です。2つ目は、ANAと競い合うだけでなく、SAFのように業界共通の課題では協力する発想です。もっとも、SAFの供給量やコストという課題は残ります。理想と現実の両面を見ることが大切です。なお本記事は特定の投資を推奨するものではありません。

Sources

出典・参考(一次情報)

※ 本記事は上記の一次情報および公開報道をもとにgreenote編集部が整理しています。企業評価や投資判断を目的とするものではありません。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

編集責任

greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年7月22日

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