日本郵船(NYK)のESG経営を分析|海運の脱炭素とアンモニア・風

2026.07.23
サステナビリティ開示

ESG Company Analysis

海運国内

わたしたちが使うものの多くは、海を渡ってやってきます。その物流を支えるのが、海運です。しかし巨大な船を動かすには、大量の燃料が要ります。電気自動車のようにバッテリーで動かすのは、まだ難しい。では、海運はどうやって脱炭素をめざすのでしょうか。日本郵船(NYK)が選んだ道は、船の燃料を変え、さらに「風」の力まで呼び戻すことでした。本記事では、日本郵船のESG経営を、海運の脱炭素とアンモニア・風を軸に、公式情報をもとに中立に分析していきます。

この記事の目次

01

日本郵船のESG経営とは|海運の脱炭素という難題

まず、日本郵船がどんな会社で、海運の脱炭素がなぜ難しいのかを整理しましょう。

海から、世界の物流を脱炭素へ

日本郵船 NYK=日本を代表する海運会社 外航海運が主力
役割原油・LNG・鉄鉱石・自動車・コンテナなど世界の物流を船で支える
目標外航海運事業で2050年ネット・ゼロエミッション

世界の物流を担うほど排出も大きい。だから海運の脱炭素は重要。

出典:日本郵船の公表情報をもとにgreenote作成

世界の物流を支える外航海運

日本郵船(NYK)は、日本を代表する海運会社です。とりわけ、国と国のあいだで大量のものを運ぶ「外航海運」を主力とします。原油やLNG、鉄鉱石、自動車、コンテナなど、暮らしと産業に欠かせない品々を、船で世界中に届けているのです。まさに、世界の物流を根っこで支える存在です。

その一方で、海運はCO2排出が多い分野でもあります。巨大な船が、燃料を大量に消費しながら、世界の海を絶えず行き交うためです。世界の物流を担うほど、その排出も大きくなるのです。だからこそ、海運の脱炭素は、世界全体の脱炭素にとっても重要な意味を持ちます。

2050年ネットゼロへ

この難題に対し、日本郵船は明確な目標を掲げています。外航海運事業において、2050年までにGHG(温室効果ガス)排出のネット・ゼロエミッションを達成する、という長期目標です。2022年には、この2050年ネットゼロの実現に向けた新しいブランドも策定しました。脱炭素の全体像は、関連記事のネットゼロとはもあわせてご覧ください。

ただし、海運の脱炭素には、独特の難しさがあります。大きな船で長い距離を確実に航海するには、電気自動車のようにバッテリーだけで動かすことが、いまはできません。こうした技術的に難しい分野は、「ハード・トゥ・アベイト(削減が困難な)」領域と呼ばれます。航空と並ぶ、その代表格が海運です。ではどう減らすのか。鍵になるのが、次に見る燃料転換なのです。

02

燃料転換|LNGからアンモニア・水素へ

海運の脱炭素の中心は、船の燃料を変えることです。

燃料を、CO2ゼロへ近づける

移行期LNG(液化天然ガス)燃料船。従来の重油よりCO2が少ない橋渡し
その先アンモニア・水素を燃料とする船。燃やしてもCO2を出さないゼロエミッション燃料

アンモニア燃料船は2026年度の就航をめざし開発中。国のグリーンイノベーション基金も支援。

出典:日本郵船の公表情報をもとにgreenote作成

海運を脱炭素にする、最大の鍵。それが燃料転換です。電気で動かせないなら、燃料そのものを、CO2を出さないものに変えていく。日本郵船は、これを段階的に進めています。まず移行期の燃料として、LNG(液化天然ガス)燃料船を投入しています。従来の重油に比べ、CO2排出が少ない「橋渡し」の燃料です。

そしてその先に見据えるのが、アンモニアや水素を燃料とする船です。これらは、燃やしてもCO2を出さないゼロエミッション燃料です。公表情報によれば、日本郵船は、アンモニアを燃料とするエンジンを積んだ輸送船の開発を進め、2026年度の就航をめざしています。国のグリーンイノベーション基金の支援も受けています。水素の可能性については、関連記事のグリーン水素とはもあわせてご覧ください。重油からLNGへ、そしてアンモニア・水素へ。この燃料の切り替えが、海運の脱炭素の背骨だといえます。

03

風の力|帆が現代によみがえる

海運ならではの、ユニークな取り組みです。

風を、もう一度動力に

Wind Challenger=風の力を推進力に使う技術
仕組み船に大きな硬い帆(硬翼帆)を立て、風を受けて船を前に進める
効果エンジンの負担を減らし、燃料の消費とCO2を抑える

昔の帆船の知恵を最新技術でよみがえらせた、海運ならではの一手

出典:日本郵船の公表情報をもとにgreenote作成

燃料転換と並んで、海運ならではのユニークな取り組みがあります。風の力の活用です。かつて船は、帆に風を受けて進んでいました。その古い知恵を、最新の技術でよみがえらせようというのです。その代表が、日本郵船なども取り組む「Wind Challenger」と呼ばれます。

仕組みは、意外なほどシンプルです。船に大きな硬い帆(硬翼帆)を立て、風を受けて船を前に進めます。風という無料で無尽蔵の力を使えば、その分、エンジンの負担が減ります。結果として、燃料の消費とCO2を抑えられるわけです。最先端の燃料開発の一方で、風という原点に立ち返る。この新旧の組み合わせが、海運の脱炭素の面白さであり、日本郵船の工夫が光るところだといえます。

04

洋上風力など|運ぶだけでなくつくる

日本郵船は、再生可能エネルギー事業にも広がっています。

運ぶ会社から、つくる会社へも

海運で培った海の知見・船の技術を活かす
洋上風力建設や作業を支える船(SEP船など)で洋上風力発電に参画
広がり再生可能エネルギー関連の事業へ

ものを運ぶだけでなく、脱炭素なエネルギーをつくり支える側にも回る

出典:日本郵船の公表情報をもとにgreenote作成

日本郵船の脱炭素は、自社の船を変えることだけにとどまりません。再生可能エネルギー事業にも、活動を広げています。とりわけ注目されるのが、洋上風力発電への関わりです。海の上に風車を建てる洋上風力は、まさに海運が長年培ってきた、海の知見や船の技術が活きる分野になります。

たとえば、風車の建設や作業を支える特殊な船などを通じて、洋上風力発電を支える役割を担います。ものを運ぶだけでなく、脱炭素なエネルギーをつくり、支える側にも回るわけです。洋上風力そのものについては、関連記事の洋上風力・浮体式風力とはもあわせてご覧ください。海の会社ならではの強みを、脱炭素の新しい事業へとつなげる。ここにも、日本郵船らしさが表れているといえます。

05

陸海空の対比|運輸3分野の脱炭素

鉄道・航空・海運を並べると、それぞれの道が見えてきます。

陸・海・空、それぞれの脱炭素

共通=いずれも電動化が難しく、2050年ネットゼロをめざす
陸 鉄道電化と自営再エネ、水素車両。もともと低炭素な大量輸送
空 航空SAF(持続可能な航空燃料)と省燃費機材
海 海運燃料転換(LNGからアンモニア・水素へ)と風力推進

同じ運輸でも分野ごとに鍵となる技術は異なる。優劣ではない

出典:各社の公表情報をもとにgreenote作成

同じ「運輸」でも、脱炭素の道は分野ごとに異なります。これまで取り上げた鉄道・航空と、海運を並べてみましょう。3分野に共通するのは、いずれも電動化が難しく、2050年ネットゼロという高い目標をめざす点です。しかし、鍵となる技術は、それぞれ違います。

陸の鉄道(JR東日本)は、電化と自営の再エネ、水素車両が中心です。そもそも一人あたりのCO2が少ない、低炭素な大量輸送という強みもあります。空の航空(ANAJALは、SAF(持続可能な航空燃料)と省燃費機材が柱です。そして海の海運(日本郵船)は、LNGからアンモニア・水素への燃料転換と、風力推進が鍵になるのです。同じ運輸でも、分野ごとに答えは違う。どれが優れているという話ではありません。それぞれの現場に合った脱炭素が模索されているのです。なお本記事は、特定の企業や投資を推奨するものではありません。

船員の安全と福祉(S)|海のサプライチェーンを支える人

海運のSの主役は船員(シーファーラー)です。日本郵船は、フィリピンに自前の商船大学(NYK-TDG Maritime Academy)を設立して海技者を育成するなど、世界の船員の確保・育成に長期投資してきたとされます。コロナ禍で顕在化した船員交代問題では、船員の人権・福祉が国際的なESG課題として注目されました。

船上の安全管理や陸上勤務との人材交流、女性船員・陸上社員の活躍推進など、「海と陸」双方の人的資本強化が同社のSの柱です。

ガバナンス(G)|カルテルの教訓とコンプライアンス

同社のGを語るうえで欠かせないのが、自動車船の運賃カルテルをめぐり2014年に独占禁止法違反で課徴金を受けた経験です。以降、競争法コンプライアンスの徹底と内部通報制度の強化を進め、業界全体の教訓となったとされます。

現在は独立社外取締役を含む取締役会と指名・報酬の各委員会が監督し、脱炭素(アンモニア燃料船等)への大型投資判断を規律づけています。コーポレートガバナンス・コードが求める「攻めと守り」を両輪で問われる典型例です。

06

まとめ|日本郵船のESG経営から学べること

日本郵船の歩みは、最先端の技術と昔ながらの知恵を組み合わせる、しなやかな発想を見せてくれます。最後に、要点を振り返りましょう。

日本郵船に学ぶ、3つのこと

燃料を変えるLNGからアンモニア・水素へ段階的に転換し、2050年ネットゼロへ
風を呼び戻すWind Challengerで帆の知恵を最新技術でよみがえらせる
知見を広げる海の技術を洋上風力など再エネ事業にも活かす

出典:日本郵船の公表情報をもとにgreenote作成

日本郵船のESG経営を振り返ると、いくつもの学びが見えてきます。

  • 世界の物流を支える外航海運大手。外航海運事業で2050年ネットゼロを掲げる
  • 脱炭素の中心は燃料転換=移行期のLNGから、アンモニア・水素のゼロエミッション燃料船へ(2026年度就航めざす)
  • Wind Challenger=硬翼帆で風を推進力に。帆の知恵を最新技術でよみがえらせる
  • 洋上風力など再エネ事業にも参入=海の知見を活かし、つくり支える側にも
  • 鉄道・航空・海運の陸海空で、鍵となる技術は異なる(優劣ではない)

日本郵船から学べるのは、最先端の技術と、昔ながらの知恵を組み合わせるしなやかさです。アンモニアや水素という最新の燃料開発の一方で、帆という原点に立ち返る。難しい課題ほど、一つの正解に固執せず、あらゆる手を柔軟に組み合わせる姿勢が効いてきます。もっとも、アンモニアなど新燃料の量・コスト・安全性の確立には、まだ時間がかかります。高い目標と、その実現の難しさ。その両面を見つめることが、企業のESGを深く理解する助けになります。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。

FAQ

よくある質問(FAQ)

Q. 日本郵船(NYK)とはどんな会社ですか?

日本郵船(NYK)は、日本を代表する海運会社です。とりわけ、国と国のあいだで大量のものを運ぶ「外航海運」を手がけます。原油やLNG、鉄鉱石、自動車、コンテナなど、世界の物流を船で支えています。海運は世界の貿易を担う一方で、CO2排出も多く、しかも電動化が難しい分野のため、その脱炭素の進め方が注目されています。

Q. 日本郵船の脱炭素目標はどうなっていますか?

日本郵船グループは、外航海運事業において、2050年までにGHG(温室効果ガス)排出のネット・ゼロエミッションを達成する長期目標を掲げています。2022年には、この2050年ネットゼロの実現に向けた新しいブランドも策定しました。船の燃料を切り替えることを中心に、段階的に排出を減らしていく計画です。

Q. 海運の脱炭素はなぜ難しいのですか?

大きな船で、長い距離を、確実に航海する必要があるためです。航空機と同じく、電気自動車のようにバッテリーだけで動かすのは、現状では困難です。こうした技術的に脱炭素が難しい分野は「ハード・トゥ・アベイト(削減が困難な)」領域と呼ばれます。海運はその代表格で、電動化ではなく、燃料そのものを変える「燃料転換」が脱炭素の中心になります。

Q. アンモニアや水素の燃料船とは何ですか?

燃やしてもCO2を出さない、次世代の船の燃料です。日本郵船は、まず移行期の燃料として、CO2の少ないLNG(液化天然ガス)燃料船を投入しています。その先に見据えるのが、アンモニアや水素を燃料とする船です。公表情報によれば、アンモニアを燃料とするエンジンを積んだ輸送船の開発を進め、2026年度の就航をめざしています。国のグリーンイノベーション基金の支援も受けています。

Q. 「Wind Challenger」とは何ですか?

Wind Challengerは、日本郵船なども取り組む、風の力を推進力に使う技術です。船に大きな硬い帆(硬翼帆)を立て、風を受けて船を前に進めます。昔の帆船の知恵を、最新の技術でよみがえらせたものです。エンジンの負担を減らし、燃料の消費とCO2を抑えられます。海運ならではの、ユニークな脱炭素の一手だといえます。

Q. 日本郵船のESG経営から学べることは何ですか?

大きく2つあります。1つ目は、電動化が難しい分野でも、燃料転換・風力・機材の工夫など複数の手を組み合わせ、着実に進める姿勢です。2つ目は、船をつくる会社や国、他の海運会社と連携し、業界全体で脱炭素に挑む発想です。もっとも、アンモニアなど新燃料の量・コスト・安全性の確立という課題は残ります。理想と現実の両面を見ることが大切です。なお本記事は特定の投資を推奨するものではありません。

Sources

出典・参考(一次情報)

※ 本記事は上記の一次情報および公開報道をもとにgreenote編集部が整理しています。企業評価や投資判断を目的とするものではありません。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。

この記事の著者

greenote編集部

ESG・サステナビリティ専門メディア 編集部

官公庁・国際機関・企業の一次情報に基づき、ESG・環境情報・サステナビリティ開示・IRの実務に役立つ解説を、出典を明記して発信しています。各記事は編集部が一次情報との整合を確認のうえ作成しています。詳しくは編集方針・運営者情報をご覧ください。

編集責任

greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

最終更新日:2026年7月23日

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