CSRDとは|EUの開示指令とオムニバス簡素化・日本企業への影響を解説

2026.06.15
CSRD・ISSB

サステナビリティ開示の世界で、最も先を行ってきたのがEUです。その中核をなす制度が、CSRD(企業サステナビリティ報告指令)です。ただし2025年以降、この制度は「簡素化」という大きな見直しのただ中にあります。日本企業にも関わる話だけに、最新の姿を正しく押さえておきたいところです。

本記事では、CSRDの概要とその最大の特徴であるダブルマテリアリティ、2025年のオムニバスによる簡素化、そして日本企業への影響までを整理します。世界の基準ISSBはISSBとは、日本のSSBJはSSBJ基準とはもあわせてご覧ください。

目次

CSRDとは|EUのサステナビリティ開示指令

EUは、サステナビリティ開示で世界をリードしてきました。その中核がCSRDです。まずは概要を押さえましょう。

NFRDを置き換えた包括的な開示制度

CSRDは、Corporate Sustainability Reporting Directive(企業サステナビリティ報告指令)の略称です。EUにおける、サステナビリティ情報の開示制度を指します。それまでのNFRD(非財務情報開示指令)を置き換え、対象企業を大きく広げました。

ねらいは、サステナビリティ情報の質と比較可能性を高めることです。投資家や社会が、企業の環境・社会への取り組みを、信頼できる形で把握できるようにする。CSRDは、その土台として設計された制度です。

ESRS(欧州基準)に基づいて開示する

CSRDのもとで、企業はESRS(欧州サステナビリティ報告基準)に従って開示します。ESRSは、何を・どう開示するかを定めた、詳細な基準です。気候変動はもちろん、汚染、水、生物多様性、自社の従業員、サプライチェーンの労働者まで、幅広いテーマを扱います。

開示にあたっては、第三者による保証も求められます。さらに、機械が読み取れるデジタル形式でのタグ付けも必要です。情報の信頼性と使いやすさを、制度として担保する仕組みになっています。

最大の特徴|ダブルマテリアリティ

CSRDを理解する鍵が、ダブルマテリアリティです。ここがISSBやSSBJとの大きな違いになります。

ダブルマテリアリティ(二重重要性)

CSRDは2つの視点の両方を開示する

外 → 企業

財務的重要性

サステナ課題が企業の財務(業績・価値)に与える影響

企業 → 外

インパクト重要性

企業の活動が環境・社会に与える影響

ISSB・SSBJは財務的重要性が中心(単一重要性)。CSRDは両面=ダブルマテリアリティです。

出典:EU・EFRAG等の公開情報をもとにgreenote作成

財務的重要性とインパクト重要性

ダブルマテリアリティとは、重要性を2つの視点から判断する考え方です。一つは「財務的重要性」。サステナビリティ課題が、企業の業績や価値に与える影響を見ます。たとえば、気候変動が事業のリスクやコストにどう響くか、という視点です。

もう一つが「インパクト重要性」です。こちらは逆向きで、企業の活動が環境や社会に与える影響を見ます。自社の事業が、気候や人権にどんな影響を及ぼしているか。CSRDは、この両方の開示を求めます。

ISSB(単一重要性)との違い

ここが、ほかの基準との分かれ目です。世界共通基準のISSB(IFRS S1/S2)や、それを基礎とする日本のSSBJ基準は、主に「財務的重要性」に焦点を当てます。投資家にとっての判断材料を重視する、いわば単一重要性の立場です。

これに対しCSRDは、財務だけでなく、企業が外に与える影響まで開示させます。つまり、見る範囲が広いのです。この違いを理解しておくと、各基準の性格がつかみやすくなります。

第三者保証とデジタル開示

CSRDの開示は、書いて終わりではありません。開示した情報には、第三者による保証が求められます。当初は限定的保証から始まり、信頼性を外部のチェックで担保します。

さらに、開示はデジタル形式でタグ付けされます。機械が読み取れる形にすることで、情報の比較や分析がしやすくなります。質・信頼性・使いやすさを、制度として作り込んでいるのが、CSRDの特徴です。

オムニバスによる簡素化(2025年〜)

CSRDは、いま大きく揺れています。2025年のオムニバス・パッケージで、適用範囲と時期が見直されました。

オムニバスによるCSRD簡素化(2025年〜)

適用範囲を絞り、時期を延期

適用範囲

従業員1000人超

一定の売上規模を伴う企業へ引き上げ

対象企業

約8割が除外

現在のCSRD対象のうち(見込み)

適用時期

延期

「ストップ・ザ・クロック」で後続を延期

ESRS(欧州基準)自体も簡素化の方向。制度はなお最終化の途上です。

出典:欧州委員会・EFRAG・ジェトロ等をもとにgreenote作成

ストップ・ザ・クロックで適用を延期

2025年2月、欧州委員会は「オムニバス(簡素化)パッケージ」の第1弾を発表しました。報告の負担が重すぎるという声を受けた、大きな方針転換です。その第一歩が「ストップ・ザ・クロック」指令でした。

これは、まだ報告が始まっていない後続のウェーブについて、適用開始を遅らせる措置です。企業に準備の時間を与え、簡素化後の基準にあわせられるようにする。時計の針をいったん止める、という発想です。

従業員1000人超へ、対象の約8割が除外

より本質的な変更が、適用範囲の見直しです。対象となる基準が、従業員1000人超(一定の売上規模を伴う)へと引き上げられました。これにより、現在のCSRD適用対象企業の、実に約8割が対象から外れる見込みです。

ねらいは、中堅・中小企業の負担軽減です。一方で、開示される情報が減ることへの懸念もあります。簡素化と情報の充実、その間でEUは難しいバランスを取ろうとしています。

ESRSの簡素化

基準そのものも、見直されます。開示の詳細を定めるESRSも、簡素化される方向です。EFRAG(欧州財務報告諮問グループ)が2025年12月に技術的な助言を提出し、改訂案は2026年半ばまでに最終化される見込みです。

2025年12月には三者協議で暫定合意に至り、官報掲載は2026年3月頃と見込まれています。発効後、EU加盟国は12か月以内に国内法化します。制度はなお最終化の途上にあり、今後の動きを注視する必要があります。

日本企業への影響

CSRDは、EUの制度でありながら、日本企業にも関係します。どんな企業が、いつから対象になるのでしょうか。

EU子会社を持つ企業

まず関係するのが、EU域内に子会社を持つ日本企業です。その子会社が、CSRDの適用対象となる規模であれば、対応が必要になります。子会社単位での報告が求められるため、現地の体制づくりが欠かせません。

オムニバスによって対象が絞られたとはいえ、規模の大きな子会社は引き続き対象です。自社のEU拠点が該当するかどうか、早めの確認が肝心です。

非EU親会社(第三国ルール)

見落とされやすいのが、日本の親会社そのものが対象になるケースです。非EUの企業であっても、EU域内の純売上が15億ユーロ以上で、EU内に一定規模の子会社や支店がある場合、「第三国ルール」の対象となります。

この場合、グループ全体のサステナビリティ情報を、CSRDに沿って報告することが求められます。EUでの事業規模が大きい日本企業にとっては、見過ごせない論点です。

適用時期と「待ち」のリスク

では、いつからでしょうか。オムニバスによる延期を踏まえると、こうした非EU企業の報告は、2027年度分を2028年に行う想定です。一見、まだ先のように思えます。

けれども、CSRDの開示は準備に時間がかかります。ダブルマテリアリティの評価、ESRSに沿ったデータ収集、第三者保証への対応。これらを整えるには、年単位の助走が要ります。「簡素化されたから待とう」と構えるのは、かえってリスクになりかねません。

ISSB・SSBJとの関係|開示の三本柱

CSRDは、世界の開示基準の一つです。ISSB・SSBJとあわせて、全体像のなかで位置づけましょう。

サステナビリティ開示の三本柱

世界・日本・EUの基準を比較する

ISSB
IFRS S1/S2

地域:世界共通
(グローバルベースライン)

単一重要性

SSBJ基準

地域:日本
(ISSBを基礎)

単一重要性

CSRD
ESRS

地域:EU

ダブルマテリアリティ

骨格は共通しつつ、重要性の考え方と適用地域が異なる。相互運用性を高める取り組みも進んでいます。

出典:ISSB・SSBJ・EU(ESRS)の公開情報をもとにgreenote作成

グローバルベースラインと地域基準

3つの関係は、こう整理できます。ISSB(IFRS S1/S2)は、世界共通の土台となる「グローバルベースライン」です。日本のSSBJ基準は、このISSBを基礎にした地域基準です。いずれも、財務的重要性を中心とする単一重要性の立場を取ります。

一方、EUのCSRD(ESRS)は、ダブルマテリアリティを採り、より広い範囲の開示を求めます。世界・日本・EUで、それぞれの基準が並び立つ。それが、いまの開示の地図です。

相互運用性(インターオペラビリティ)

基準が分かれると、複数地域で事業を行う企業は、何度も似た開示をすることになりかねません。そこで重視されるのが、相互運用性(インターオペラビリティ)です。基準どうしの整合性を高め、一度の作業で複数の基準に対応できるようにする取り組みを指します。

ISSBとEUの間でも、共通点を整理し、重複を減らす動きが進んでいます。完全に同じにはならなくても、橋を架けることはできる。その努力が、企業の負担を和らげます。

企業に求められる構え

では、企業はどう構えればよいのでしょうか。鍵は、共通の土台を固めることです。どの基準も、ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標という骨格や、排出量などのデータを土台にします。ここをしっかり整えれば、複数の基準にも応用が効きます。

そのうえで、自社がどの基準の対象になるかを見極める。世界・日本・EUの動きを追いながら、必要な開示を組み立てていく。マテリアリティの考え方はマテリアリティ(重要課題)とは、サプライチェーン排出はScope3とはもあわせてご覧ください。

まとめ|CSRDは揺れつつも開示の基準軸

CSRDは、簡素化で揺れながらも、世界のサステナビリティ開示の基準軸であり続けています。最後に、要点を振り返りましょう。

  • CSRDとは、EUのサステナビリティ開示制度。NFRDを置き換え、ESRS(欧州基準)に基づいて開示する
  • 最大の特徴はダブルマテリアリティ(財務的重要性+インパクト重要性)。ISSB・SSBJの単一重要性との大きな違い
  • 2025年のオムニバスで簡素化。適用は延期され、対象は従業員1000人超へ絞られ、約8割が除外見込み
  • 日本企業も、EU子会社や第三国ルール(EU売上15億ユーロ以上)で対象になり得る。報告は2028年(FY2027)の想定

CSRDは、簡素化の途上にあり、なお動いています。けれども、ダブルマテリアリティという考え方や、開示の充実という方向性は、世界の潮流の一部です。制度の変化を追いながら、共通の土台を固めておく。それが、揺れる時代を乗り切る企業の構えだといえます。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。

参考(出典):欧州委員会(オムニバス簡素化パッケージ)、EFRAG(ESRS)、日本貿易振興機構(ジェトロ)ほか

出典・参考(一次情報)

※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。

編集責任

greenote編集責任者

サステナビリティ実務・編集統括

ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。

無料ダウンロード:実務で使えるテンプレート

「CSRD(ESRS)/ ISSB 対応チェックリスト」を無料で配布しています。ESRSとIFRS S1・S2への対応状況を基準ごとに点検できます。

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最終更新日:2026年6月21日

この記事の著者

greenote編集部

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