未来の予測は、当たることもあれば、外れることもあります。けれども、外れ方にこそ学びがあります。EVの普及をめぐるIEA(国際エネルギー機関)の見通しは、その典型例です。結論から言えば、IEAの予測は控えめで、現実はそれを次々と追い越してきたのです。
本記事は、IEA「Global EV Outlook」の2020年版から2026年版までを並べ、見通しがどう変わったかを“答え合わせ”する読み物です。最新版の要点はGlobal EV Outlook 2026の要点、2035年に向けた長期見通しはEVは2035年にどこまで普及する?もあわせてご覧ください。
≡目次
- 1なぜ「予測の答え合わせ」をするのか
- ►毎年更新される、権威ある見通し
- ►予測と現実のギャップから学ぶ
- 22030年の見通しは、毎年引き上げられた
- ►2022年版「約20%」から2025年版「40%超」へ
- ►なぜ予測は上振れし続けたのか
- 3現実が予測を追い越した
- ►実績は2020年の4.4%から2025年の25%へ
- ►3年前の「2030年予測」を、2025年に突破
- ►EV30@30という目標の今
- 4論調の変化:懐疑から「不可逆」へ
- ►2020年=野心的な目標としてのEV
- ►2023〜2024年=主流化の確認
- ►2026年=焦点は2035年、そして「不可逆」へ
- 5予測はなぜ控えめだったのか
- ►政策・中国・電池コストの三つの力
- ►長期見通しの正しい読み方
- ►企業が備えるべきこと
- 6まとめ|予測は控えめ、現実は前倒し
なぜ「予測の答え合わせ」をするのか
未来予測は、当たり外れだけが大事なのではありません。予測と現実のずれにこそ、学びがあります。まずは、その意味を確認しましょう。
毎年更新される、権威ある見通し
IEAは毎年、「Global EV Outlook」というレポートを公表しています。世界のEV市場を網羅し、各国の政策や企業の戦略の土台となる、権威ある資料です。各年版には、その時点での将来見通しが、シナリオごとに示されています。
なかでもよく参照されるのが、「現行政策シナリオ(STEPS)」です。これは、すでに実施・表明された政策だけを前提とする、いわば手堅い見通しです。この同じ指標を毎年並べれば、IEAの予測がどう変わってきたかを、客観的に追うことができます。
予測と現実のギャップから学ぶ
なぜ、過去の予測を振り返るのでしょうか。それは、予測と現実のギャップに、構造変化のヒントが隠れているからです。予測が外れたなら、その理由を問うことで、見落としていた力学が見えてきます。
EVの普及は、まさにその好例です。IEAほどの専門機関でさえ、その速さを読み切れませんでした。では、どれほど外れたのか。具体的な数字で見ていきましょう。
2030年の見通しは、毎年引き上げられた
IEAの2030年見通しは、版を重ねるたびに上方修正されてきました。その軌跡を追います。
2030年のEV販売シェア見通しは、版ごとに上方修正
IEA各年版の見通し(現行政策シナリオ・乗用車)
同じ「2030年」の見通しが、わずか3年ほどで約2倍に。現実の普及が想定を上回り続けたためです。
出典:IEA, Global EV Outlook 2022〜2025(CC BY 4.0)をもとにgreenote作成(STEPS・2030年)
2022年版「約20%」から2025年版「40%超」へ
数字が、その軌跡をはっきりと示します。IEAの現行政策シナリオにおける、2030年のEV販売シェア見通しを並べてみましょう。2022年版では、約20%。それが2023年版で35%、2024年版で約40%、そして2025年版では40%を超える水準へと、毎年引き上げられています。
同じ「2030年」という未来を見ているのに、その姿は年々大きくふくらむばかり。わずか3年ほどで、見通しは2倍に膨らんだ計算です。これほど短期間で上方修正が続くのは、異例だといえます。
なぜ予測は上振れし続けたのか
理由は、現実の普及が想定を上回り続けたからです。IEAの見通しは、その時点の政策を前提とします。ところがEVをめぐっては、各国の政策がさらに強化され、市場も予想を超えて拡大しました。前提そのものが、毎年塗り替えられたのです。
つまり上方修正は、IEAの予測が甘かったというより、現実が速すぎたことの裏返しだといえます。その「速さ」を、次に実績で確かめましょう。
現実が予測を追い越した
見通しの引き上げ以上に驚くのが、現実のスピードです。実績は、過去の予測を次々と追い越しました。
現実が予測を追い越した(世界EV販売シェア)
棒=実績の販売シェア/オレンジ点線=2022年版が見込んだ2030年
2020
2021
2022
2023
2024
2025
2025年の実績25%は、3年前の2022年版が描いた2030年の姿(約20%)をすでに突破しています。
出典:IEA Global EV Data Explorer(実績)/Global EV Outlook 2022(CC BY 4.0)をもとにgreenote作成
実績は2020年の4.4%から2025年の25%へ
実際の普及ペースは、目を見張るものでした。IEAのデータによると、世界の新車に占めるEV(乗用車)の販売シェアは、2020年にわずか4.4%。それが2021年に9.3%、2022年に15%、2023年に18%、2024年に21%、そして2025年には25%へと駆け上がっています。
5年で、シェアは約6倍に。4台に1台がEVという水準は、2020年の時点では、まだ遠い未来の話に思えたはずです。普及は、坂を転がるように加速しました。
3年前の「2030年予測」を、2025年に突破
ここに、この記事のいちばんの驚きがあります。2025年の実績である25%は、2022年版のGlobal EV Outlookが現行政策シナリオで描いた2030年の見通し、約20%を、すでに上回っているのです。
つまり、わずか3年前に「2030年の姿」として描かれた水準を、現実は5年も前倒しで超えてしまいました。予測が現実に追い越される——EVの世界では、それが実際に起きたのです。
EV30@30という目標の今
象徴的なのが、EV30@30という国際キャンペーンです。これは、二輪・三輪を除くすべての車種で、2030年までにEVのシェア30%を目指す取り組みを指します。2020年版のレポートでは、これは野心的な目標として紹介されていました。
ところが足元のペースを踏まえれば、この30%という水準は、もはや射程に入りつつあります。かつて「高い目標」とされた数字が、現実味を帯びてきた。この変化こそ、EV普及の速さを物語っています。
論調の変化:懐疑から「不可逆」へ
数字だけでなく、レポートの語り口も変わりました。EVをめぐる空気の変化を読み取ります。
レポートの論調の変化
「野心的な目標」から「不可逆な長期トレンド」へ
2020年ごろ
野心的な目標
EV30@30など。普及はこれから、という段階
2023〜2024年
主流化の確認
政策と価格の両面で普及が加速
2026年
不可逆な長期トレンド
焦点は2035年へ。エンジン車は2017年のピークに戻らない
論調は、期待や懐疑から「既定路線の確認」へと変わりました。
出典:IEA, Global EV Outlook 2020〜2026(CC BY 4.0)をもとにgreenote作成
2020年=野心的な目標としてのEV
レポートを読み比べると、語り口の変化に気づきます。2020年版では、EVはまだ「これから普及を目指す」存在でした。EV30@30のような目標が、野心的なものとして掲げられていた時期です。普及の主役は政策の後押しであり、EVが当たり前になる未来は、まだ確定していなかったのです。
2023〜2024年=主流化の確認
風向きが変わったのが、2023年から2024年にかけてです。この頃のレポートは、EVの主流化を、政策と価格の両面から確認する論調になります。価格競争力が高まり、各国の規制も強まったことで、EVは「来るかどうか」ではなく「どれだけ速いか」を語る対象へと変わりました。
2026年=焦点は2035年、そして「不可逆」へ
そして最新の2026年版では、見通しの焦点が2030年から2035年へと移ったのです。新車に占めるEVシェアは2035年に約50%、中国や欧州では9割超に達すると見込まれています。エンジン車の販売は2017年のピークに戻らない、とも明言されました。EVシフトは、もはや「不可逆な長期トレンド」として描かれています。論調は、期待や懐疑から、既定路線の確認へと変わったのです。
予測はなぜ控えめだったのか
予測が現実に追い越された理由は、どこにあるのでしょうか。三つの力と、見通しの読み方を整理します。
政策・中国・電池コストの三つの力
第一に、各国の政策強化です。CO2規制や購入支援が次々と打ち出され、EVの普及を後押し。第二に、中国市場の急拡大です。世界最大の市場が、価格競争力のあるEVを大量に供給し、普及を一気に押し上げました。第三に、バッテリーコストの低下です。電池が安くなるほど、EVは買いやすくなります。
これら三つの力が、想定を超えて重なり合いました。IEAの見通しは「現在の政策」を前提とするため、その後に強化される政策や技術進歩を、完全には織り込めません。予測が控えめになったのには、こうした構造的な事情もある、というわけです。
長期見通しの正しい読み方
ここから、長期見通しの読み方が見えてきます。シナリオは、未来を断定する予言ではありません。「いまの前提が続けば、こうなる」という条件付きの地図です。前提が変われば、結果も変わります。
だからこそ、一つの数字を鵜呑みにするのは危険です。むしろ、複数のシナリオの幅を見て、上振れ・下振れの可能性をともに意識すること。それが、見通しと賢く付き合うコツだといえます。
企業が備えるべきこと
企業にとっての教訓は、明快です。構造変化のスピードは、しばしば想定を上回りがちです。EVの普及がそうだったように、変化は予測より速く訪れることもあります。
ならば、計画を固定的に組むのは得策ではありません。変化の幅を見据え、柔軟に対応できる体制を持つこと。サプライチェーンや投資の判断でも、上振れシナリオへの備えが効いてきます。脱炭素の全体像は脱炭素・カーボンニュートラルとは?完全ガイドもあわせてご覧ください。
まとめ|予測は控えめ、現実は前倒し
IEA「Global EV Outlook」の変遷は、EV普及の物語そのものでした。最後に、要点を振り返りましょう。
- 2030年のEV販売シェア見通し(現行政策)は、2022年版の約20%から2025年版の40%超へと、版ごとに上方修正された
- 実際のEVシェアは2020年の4.4%から2025年の25%へ急拡大。2025年の実績が、2022年版の2030年予測をすでに突破
- レポートの論調は、「野心的な目標」から「不可逆な長期トレンド」へと変化した
- 予測を上回った背景には、政策・中国・電池コストという三つの力があった
予測は控えめで、現実は前倒しでした。この事実は、EVシフトの勢いを何より雄弁に物語っています。同時に、長期見通しとどう向き合うべきかも教えてくれます。変化は、しばしば私たちの予想より速い。その前提に立って戦略を描くことが、これからますます重要になるはずです。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。
参考(出典):IEA「Global EV Outlook」各年版(2020〜2026)、および IEA Global EV Data Explorer(IEA, CC BY 4.0)
出典・参考(一次情報)
※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年6月20日