日本の温室効果ガス排出量の約4割は建築分野が占めています。この分野で、2026年に大きな制度変更が動き出しました。建築物のライフサイクルカーボン(LCCO2)評価制度——資材の製造から解体までのCO2排出を評価する新しい仕組みです。根拠となる法律案が、2026年3月27日に閣議決定されました。
「LCA」「LCCO2」「EPD」「PCR」——制度の説明にはこうした専門用語が次々に出てきますが、実務担当者がまず押さえるべきは「いつから」「誰に」「何が」義務づけられるのかという骨格です。本記事では、国土交通省の公表情報にもとづいて、制度の内容、2028年度開始のロードマップ、そして建材メーカーが対応を迫られる国際規格ISO21930との関係を整理します。
※本記事の制度内容は2026年9月時点で国土交通省が公表した情報にもとづきます。政省令による具体的な対象用途・規模は今後定まるため、実務適用にあたっては最新の公式情報をご確認ください。
この記事の目次
- 1建築物のライフサイクルカーボン評価制度とは
- 資材製造から解体まで――エンボディドカーボンも対象に
- 2026年3月27日、建築物省エネ法改正案が閣議決定
- 2何が義務化されるのか|努力義務と届出義務の2段構え
- 原則は努力義務、建築士には説明の協力義務
- 大規模建築物は着工14日前までに届出義務
- 3ロードマップ|2028年度開始、段階的に対象を拡大
- 4建材のCO2排出量をどう測るか|EPD・PCRとISO21930
- 建材・設備CO2等排出量原単位の整備(主要建材は2027年度まで)
- 国際規格ISO21930とSuMPOの検討会参加
- 5建材・建設・不動産業がいま準備すべきこと
- 6まとめ
- 7よくある質問(FAQ)
建築物のライフサイクルカーボン評価制度とは
国土交通省が中心となり、内閣官房の関係省庁連絡会議で2025年4月に決定した基本構想にもとづき、2028年度を目途に建築物のLCCO2評価の実施を促す制度の開始が目指されています。背景には、我が国全体の温室効果ガス排出量の約4割を建築分野が占めるという事実があります。従来の省エネ基準は、建物の運用時(暖房・冷房・照明など)のエネルギー消費に着目したものでしたが、この制度はライフサイクル全体に目を広げるものです。
資材製造から解体まで――エンボディドカーボンも対象に
制度が評価するのは、建物の運用時に排出されるオペレーショナルカーボンだけではありません。エンボディドカーボン——建材の製造・調達・建設・解体・リサイクルまでの各段階で発生するCO2排出——も含めた、「資材製造から解体まで」の全体を評価対象とします。断熱窓や高効率空調、太陽光発電といった従来の省エネ措置に加えて、グリーン鉄や環境配慮型コンクリート、リサイクル材の活用、既存建築物の活用といった、建材側のCO2削減も評価軸に入ってくる点が、この制度の特徴です。
2026年3月27日、建築物省エネ法改正案が閣議決定
この制度を法的に位置づける「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律の一部を改正する法律案」が、2026年3月27日に閣議決定されました。国土交通省の報道発表によれば、法律名も「建築物のエネルギー消費性能の向上及び脱炭素化の促進に関する法律」に改めるとされています。従来の省エネ性能向上に加え、脱炭素化の促進が法律の目的として明文化される形です。
何が義務化されるのか|努力義務と届出義務の2段構え
今回の法改正で新設される制度は、対象によって義務のレベルが異なる2段構えになっています。
原則は努力義務、建築士には説明の協力義務
国土交通省の報道発表資料によれば、建築主・建築士・建設業者・建築材料等製造等事業者の責務は「努力義務」として位置づけられます。環境への負荷が少ないものを除く建築物の建築にあたっては、ライフサイクルカーボン評価の実施が建築主の努力義務となり、設計を受託した建築士は、これに必要な事項を建築主に説明するなど必要な協力を行うことが位置づけられます。国が、評価の基準となる指針を策定することも法律に明記されます。
大規模建築物は着工14日前までに届出義務
一方、特定用途・一定規模以上の建築物については、より強い義務が課されます。着工の14日前までに、ライフサイクルカーボン評価の結果等を国土交通大臣に届け出ることが、建築主の義務として新設されます。具体的な対象用途・規模は政令で定められる予定ですが、中間とりまとめの参考資料では、5,000㎡以上のオフィスビルの新築・増改築が届出対象の例として、2,000㎡以上の住宅を除く建築物が建築士による説明対象の例として示されています。
ロードマップ|2028年度開始、段階的に対象を拡大
国土交通省の中間とりまとめ(2026年1月28日公表)が示すロードマップは、大きく3つのステップに分かれます。
| ステップ | 時期 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 第1 | ~2027年 | 算定・評価ルールの策定、専門家育成、建材・設備の原単位整備 |
| 第2 | 2028年~ | 届出制度・説明制度・第三者認証・表示制度の開始 |
| 第3 | 2030年代~2050年 | 対象拡充・削減策の段階的強化 |
参考資料には、規模別の排出構造も示されています。5,000㎡以上のオフィスビルは、着工棟数では全体の0.03%(年間約200棟)に過ぎないものの、総排出量の5%を占めるとされ、2,000㎡以上の非住宅建築物は着工棟数の0.66%(年間約3,300棟)で総排出量の30%を占めるとされています。件数は少なくても排出量への影響が大きい大規模建築物から、優先的に制度の対象にする狙いがうかがえます。
建材のCO2排出量をどう測るか|EPD・PCRとISO21930
制度を機能させるうえでの土台になるのが、建材・設備ごとのCO2排出量データです。この整備には、既に確立された国際的な手法が使われます。
建材・設備CO2等排出量原単位の整備(主要建材は2027年度まで)
国土交通省のロードマップは、建材・設備のCO2排出量データについて、「積み上げ型(EPD/CFP)による業界代表データ・個社データの整備」を主要建材については2027年度までに進めるとしています。あわせて、PCR・EPD/CFP作成側の専門家育成や、第三者レビュー側の体制整備も検討事項に挙げられています。つまり、この制度の実効性は、EPD(環境製品宣言)とはで扱った仕組みが、建材分野でどれだけ整備されるかに直結しています。
国際規格ISO21930とSuMPOの検討会参加
建材・建設サービスのEPDについて、国際的な共通ルールを定めているのがISO21930(Sustainability in buildings and civil engineering works — Core rules for environmental product declarations of construction products and services)です。ISO公式サイトの要約によれば、この規格はISO14025を補完する形で、建設製品・建設要素・統合技術システムのEPDに特有の要求事項を定めています。2017年発行・80ページ、2023年の最終レビューで現行版と確認済みで、策定はISO14025等とは異なるISO/TC59/SC17(建築・土木の持続可能性を扱う分科委員会)です。国土交通省の検討会(第3回・2025年7月2日開催)では、ISO14026とはの記事でも扱った日本のEPD運営団体SuMPOから情報提供が行われており、国内の建材CO2データ整備の議論に、EPD運営の実務知見が反映されつつあることがうかがえます。
建材・建設・不動産業がいま準備すべきこと
制度の詳細(対象用途・規模、算定ルール)は今後の政省令で定まるため、現時点で確定的な対応を打つのは時期尚早です。ただし、方向性は既に明らかになっています。建材・設備メーカーは、自社製品のEPD・CFP整備に早期に着手することで、2027年度までの原単位整備の動きに乗りやすくなります。ゼネコン・不動産業は、グリーン購入法などで既に浸透している環境ラベル・認証の考え方を、建築物単位のライフサイクルカーボン評価にも応用する視点を持っておくとよいでしょう。
算定の実務では、ツールの整備も進んでいます。ゼロカーボンビル(LCCO2ネットゼロ)推進会議のもとで開発された「建築物ホールライフカーボン算定ツール(J-CAT)」を、一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター(IBECs)が公開しており、一般建築物・集合住宅向けの「J-CAT-建築」と戸建住宅向けの「J-CAT-戸建」(試行版)があります(使用登録制)。IBECsの公表によれば、2026年9月11日にはLEED認証でのJ-CATの適用も可能になりました。制度開始に先立って、自社物件で試算しておくことが、2028年度への具体的な備えになります。
まとめ
建築物のライフサイクルカーボン(LCCO2)評価制度は、資材製造から解体までの全体を評価対象とする新しい枠組みで、2026年3月27日に法律案が閣議決定され、2028年度の制度開始が目指されています。原則は努力義務ですが、大規模建築物には着工14日前までの届出義務が課されます。制度を支える建材CO2データの整備はEPD・PCRの手法にもとづき、国際規格ISO21930がその共通ルールを提供しています。建材・建設・不動産の各業界にとって、早期の情報収集と準備が今後の対応力を左右します。
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出典・参考資料(一次情報)
リンク先は2026年9月時点で確認した各機関の公開情報です。最新は各公式情報をご確認ください。
国土交通省:
「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律の一部を改正する法律案」を閣議決定(2026年3月27日)/
建築物のライフサイクルカーボンの算定・評価等を促進する制度に関する検討会/
建築物のライフサイクルカーボンの削減に向けた制度のあり方(中間とりまとめ)概要
ISO公式:
ISO21930:2017規格ページ
算定ツール:
IBECs「建築物ホールライフカーボン算定ツール(J-CAT)」
よくある質問(FAQ)
Q. 建築物のライフサイクルカーボン評価は、いつから義務になりますか?
A. 国土交通省のロードマップでは、2028年度を目途に制度が開始される予定です。2026年3月27日には、根拠となる建築物省エネ法の改正法律案が閣議決定されました。具体的な対象用途・規模は今後の政令で定められます。
Q. すべての建築物が届出義務の対象になりますか?
A. いいえ。原則は建築主の努力義務です。着工14日前までの届出が義務となるのは、特定用途・一定規模以上の建築物に限られます。中間とりまとめの参考資料では、5,000㎡以上のオフィスビルの新築・増改築が届出対象の例として示されています。
Q. ISO21930とISO14025はどう違いますか?
A. ISO14025はEPD(環境製品宣言)全般の原則と手順を定める規格です。ISO21930は、ISO14025を補完する形で、建設製品・建設要素・統合技術システムに特有のEPD作成要求事項を定める規格で、策定する分科委員会も異なります(ISO21930はISO/TC59/SC17)。
Q. 建築物LCAは、どのように算定しますか?
A. 建材・設備ごとのCO2排出量原単位に数量を掛けて、資材製造から解体までの各段階の排出量を積み上げるのが基本です。実務向けには、ゼロカーボンビル推進会議のもとで開発され、一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター(IBECs)が公開する算定ツール「J-CAT」(使用登録制)があり、一般建築物・集合住宅向けと戸建住宅向け(試行版)が提供されています。国の算定ルールの詳細は今後の指針で定まる見通しです。