ESG Company Analysis
脱炭素は、一社でがんばるだけでは足りません。取引先も、業界も、社会も動かす必要があります。そこでAmazonは、自ら旗を立てました。「The Climate Pledge(気候変動対策の誓約)」です。2040年までにネットゼロを達成する。パリ協定より10年も早いこの約束に、Amazonは最初に署名し、いまでは世界中の企業を巻き込んでいます。本記事では、AmazonのESG経営を、The Climate Pledgeと2040年ネットゼロを軸に、公式情報と公開報道をもとに中立に分析していきます。
この記事の目次
01
AmazonのESG経営とは|The Climate Pledge
まず、Amazonがどんな会社で、その脱炭素の旗印は何かを整理しましょう。
業界を巻き込む、脱炭素の旗
物流・小売・クラウドと、排出源が多様なのが特徴。
出典:Amazonの公表情報をもとにgreenote作成
2040年ネットゼロという約束
Amazonは、ネット通販・物流・クラウド(AWS)などを手がける巨大企業です。その脱炭素の旗印が、自ら創設した「The Climate Pledge(気候変動対策の誓約)」になります。掲げる目標は、明快です。2040年までに、事業全体でネットゼロを達成する。パリ協定が掲げる2050年より、10年も前倒しの高い目標です。脱炭素の全体像は、関連記事のネットゼロとはもあわせてご覧ください。
なぜ、これほど野心的なのでしょうか。裏を返せば、それだけAmazonの事業が大きく、排出も多いということです。その排出源は、ほかのIT企業とは少し違います。次に、その特徴を見てみましょう。
物流・小売・クラウドの多様な排出源
Googleなどが主にデータセンターの電力に向き合うのに対し、Amazonの排出源は、より多様です。理由は、その事業の幅広さにあります。世界中に張りめぐらせた物流網、無数の商品を扱う小売、そして巨大なデータセンターを動かすクラウド(AWS)。この3つが、それぞれ大きな排出を生みます。
とりわけ特徴的なのが、物流です。荷物を家まで届ける配送車、商品を保管する倉庫、世界をまたぐ輸送。ネット通販の巨人ならではの、この物流の排出は、ほかのIT企業にはない大きな課題になります。だからこそAmazonの脱炭素は、データセンターだけでなく、配送のEV化など、幅広い現場に及びます。多様な排出源にどう向き合うか。それが、Amazonのテーマです。
02
The Climate Pledge|自社だけでなく業界を巻き込む
Amazonの脱炭素を象徴する、独自の枠組みです。
一社から、みんなの約束へ
自社の目標にとどまらず、業界や社会を巻き込むプラットフォームをつくった。
出典:Amazonの公表情報をもとにgreenote作成
Amazonの脱炭素で、もっとも特徴的なのが、このThe Climate Pledgeという枠組みです。2019年、AmazonはGlobal Optimismとともに、これを立ち上げました。署名した企業は、2040年までにネットゼロをめざす、という誓約です。Amazonは、その最初の署名企業となりました。
注目したいのは、これが自社だけの目標ではない点です。The Climate Pledgeは、いまや世界中の多くの企業が参加する、大きなプラットフォームに育っています。一社でいくらがんばっても、社会全体の脱炭素は進みません。ならば、同じ志を持つ企業を束ねる「場」をつくろう。この発想こそ、Amazonの脱炭素の真骨頂だといえます。自社の努力と、業界を動かす仕組みづくり。その両輪で、脱炭素を前に進めようとしています。なお本記事は、特定の企業や投資を推奨するものではありません。
03
再エネ最大の買い手|2023年に100%達成
電力の脱炭素では、世界最大級の実績を持ちます。
電力は、世界最大級の買い手
出典:Amazonの公表情報をもとにgreenote作成
大きな目標を掲げるだけでなく、Amazonは電力の脱炭素で、着実な実績も上げています。同社は、世界最大級の企業向け再生可能エネルギーの購入者として知られます。数多くの風力・太陽光の発電プロジェクトを支援し、自社で使う電気を、再エネでまかなってきました。
その成果は、目標の前倒しという形で表れています。公表情報によれば、Amazonは当初、事業で使う電力を100%再エネにする目標を2030年としていました。ところが、これを前倒しし、2023年に達成したのです。以降、電力使用量を100%再エネでマッチングした状態が続いています。自社が使うだけでなく、支援を通じて社会全体の再エネを増やす。この規模の大きさが、Amazonの強みのひとつです。再エネの枠組みは、関連記事のRE100とはもあわせてご覧ください。
04
物流のEV化|Rivianの電気配送車10万台
Amazonならではの取り組みが、配送の電動化です。
最後の1マイルを、電気で
ネット通販の最後の1マイルを担う配送は、Amazonならではの大きな排出源。
出典:Amazonの公表情報をもとにgreenote作成
Amazonならではの取り組みが、物流のEV化です。ネット通販では、荷物を家まで届ける配送が欠かせません。その配送車を、ガソリン車から電気自動車(EV)へと切り替えているのです。象徴的なのが、新興EVメーカーRivianへの発注です。その数、なんと10万台。過去最大級のEV配送車の発注になります。
計画によれば、Amazonは2030年までにこの10万台を走らせ、年間で数百万トン規模のCO2削減を見込んでいます。ネット通販の「最後の1マイル」を担う配送は、Amazonにとって大きな排出源です。だからこそ、そこを電動化する意義は大きいといえます。電動化の考え方は、関連記事の電化とはもあわせてご覧ください。データセンターの電力だけでなく、街を走る配送車まで。事業の隅々に脱炭素を広げるのが、Amazonの流儀です。
05
AIとGAFAM|共通の逆風の中で
AmazonのESGも、AIという逆風の中にあります。
巨大IT共通の、AIという逆風
アプローチは違うが、AIと事業拡大による排出増は共通の論点。優劣ではない。
出典:各社の公表情報をもとにgreenote作成
高い目標を掲げるAmazonですが、大きな逆風の中にもあります。AIです。ここは、明るい面だけでなく、厳しい現実も冷静に見ておく必要があります。Amazonのクラウド事業AWSは、世界のAIを支える巨大なデータセンター群を運用しています。AIの利用が増えるほど、その電力消費と排出も増えます。加えて、物流や小売の拡大も、排出を押し上げます。
この構図は、ほかのGAFAMも同じです。Googleは電力を毎時間カーボンフリーにする24/7 CFE、Appleは製品とサプライチェーン、Microsoftはカーボンネガティブ、MetaはScope3と水と、力点はそれぞれ違います。しかし、AIと事業拡大による排出増と、掲げた目標をどう両立するかは、各社に共通する大きな論点です。どれが優れているという話ではありません。それぞれのアプローチと、実際の排出実績の両方を見ることが大切です。
人的資本と労働環境(S)|賃金・教育投資と物流現場の課題
Amazonは米国で最低時給15ドル(現在は平均でさらに高水準)をいち早く導入し、従業員のスキルアップに12億ドル規模を投じる「Career Choice」(学費支援)を展開しているとされます。物流という労働集約型の巨大雇用主として、賃金と教育への投資は同社のSの看板です。
一方で、倉庫の労働負荷・安全性や労働組合結成をめぐる対立は継続的に報じられており、投資家からも労働環境に関する株主提案が繰り返し提出されています。光と影の両面を見ることが、同社のS評価では欠かせません。ウェルビーイング経営の観点からも注目される事例です。
ガバナンス(G)|創業者退任後の統治と株主との対話
創業者ジェフ・ベゾスがCEOを退いた後も、「Day 1」の企業文化とリーダーシップ原則が経営の規律として機能しているとされます。取締役会は多様なバックグラウンドの社外取締役で構成され、労働環境・気候変動に関する株主提案への対応が毎年の焦点です。
巨大プラットフォーマーとして独占禁止・税務など規制リスクも多く、Gの評価はコンプライアンス体制と規制当局との関係も含めて見る必要があります。
06
まとめ|AmazonのESG経営から学べること
Amazonの歩みは、自社を超えて業界を動かす力と、巨大企業ゆえの難しさの両方を見せてくれます。最後に、要点を振り返りましょう。
Amazonに学ぶ、3つのこと
出典:Amazonの公表情報・公開報道をもとにgreenote作成
AmazonのESG経営を振り返ると、いくつもの学びが見えてきます。
- ネット通販・物流・クラウドの巨大企業。旗印は自ら創設したThe Climate Pledge(2040年ネットゼロ=パリ協定より10年前倒し)
- 自社だけでなく、多くの企業を巻き込む枠組みをつくった点が個性
- 世界最大級の再エネ購入者=再エネ100%目標を前倒しし2023年に達成
- 物流のEV化=Rivianに電気配送車10万台を発注、2030年までに展開
- ⚠️AWS・AIと事業拡大による排出増が課題=GAFAM共通の論点
Amazonから学べるのは、自社の目標を超えて、業界全体を動かす「場」をつくるという発想です。The Climate Pledgeのように、同じ志の企業を束ねれば、一社では届かない大きな変化を生めます。配送のEV化のように、事業の特性に根ざした具体策も見どころです。もっとも、AWSや物流の急拡大は、その挑戦を難しくもしています。掲げた目標だけでなく、実際の排出実績と、その開示まで見ること。それが、企業のESGを深く理解する助けになります。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。
FAQ
よくある質問(FAQ)
Q. AmazonのESG経営の特徴は何ですか?
Amazonは、ネット通販・物流・クラウド(AWS)などを手がける巨大企業です。脱炭素の旗印が、自ら創設した「The Climate Pledge(気候変動対策の誓約)」です。これは、2040年までに事業全体でネットゼロを達成するという約束で、パリ協定の2050年より10年も前倒しの目標になります。自社だけでなく、多くの企業を巻き込む枠組みをつくった点が特徴です。
Q. The Climate Pledgeとは何ですか?
The Climate Pledgeは、2019年にAmazonとGlobal Optimismが立ち上げた、気候変動対策の誓約です。署名企業は、2040年までにネットゼロをめざします。Amazonはその最初の署名企業となりました。いまでは世界中の多くの企業が参加しています。自社の目標にとどまらず、業界や社会を巻き込むプラットフォームをつくったことが、Amazonの脱炭素の大きな特徴です。
Q. Amazonの再エネの取り組みはどうなっていますか?
Amazonは、世界最大級の企業向け再生可能エネルギーの購入者として知られます。公表情報によれば、当初2030年としていた「事業で使う電力を100%再エネにする」目標を前倒しし、2023年に達成しました。これで、電力使用量を100%再エネでマッチングした状態が続いています。数多くの風力・太陽光プロジェクトを支援し、社会全体の再エネ拡大にも貢献しています。
Q. Amazonの物流のEV化とは何ですか?
Amazonは、荷物を届ける配送車を電気自動車(EV)に切り替えています。象徴的なのが、新興EVメーカーRivianへの、10万台という過去最大級のEV配送車の発注です。2030年までに10万台を走らせ、年間で数百万トン規模のCO2削減を見込みます。ネット通販の「最後の1マイル」を担う配送は、Amazonならではの大きな排出源であり、その電動化は重要な一手です。
Q. AIはAmazonの脱炭素にどう影響していますか?
大きな影響があります。Amazonのクラウド事業AWSは、世界のAIを支える巨大なデータセンター群を運用しています。AIの利用が増えるほど、その電力消費と排出も増えます。加えて、物流や小売の拡大も排出を押し上げます。再エネ100%やEV化で対策を進める一方、事業の急拡大と2040年ネットゼロをどう両立するかは、GoogleやMicrosoftとも共通する論点です。
Q. AmazonのESG経営から学べることは何ですか?
大きく2つあります。1つ目は、The Climate Pledgeのように、自社の目標を超えて、業界全体を動かす枠組みをつくる発想です。2つ目は、物流のEV化のように、自社の事業特性に根ざした具体的な対策を進める姿勢です。もっとも、AWSや物流の急拡大に伴う排出増という課題は残ります。掲げた目標だけでなく、実際の排出実績と開示の両面を見ることが大切です。なお本記事は特定の投資を推奨するものではありません。
Sources
出典・参考(一次情報)
- Amazon「Sustainability(サステナビリティ)」
- Amazon「The Climate Pledge」
- Amazon「Climate solutions / 電気配送車などの取り組み」および各種公開報道
- Amazon|Workplace(労働環境・賃金・教育)
※ 本記事は上記の一次情報および公開報道をもとにgreenote編集部が整理しています。企業評価や投資判断を目的とするものではありません。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年7月12日