EVも、データセンターも、太陽光発電も——。脱炭素を支える技術の多くは、「電気を使う」「電気を変換する」ことで成り立っています。その電力変換のたびに、エネルギーは少しずつ失われています。このロスを減らす、地味だが重要な部品がパワー半導体です。とくにSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)を使った次世代パワー半導体に、いま大きな注目が集まっています。
本記事では、次世代パワー半導体とは何かを、できるだけかみ砕いて解説します。電気を変換・制御する仕組み、SiCとGaNという新材料の違いと使い分け、EVやデータセンターでの用途、そして課題までを順に見ていきましょう。電化が進む分野とあわせて、EV充電インフラとスマート充電とはやデータセンターの電力問題とはも読むと、つながりがつかめます。
≡この記事の目次
パワー半導体とは
まず、パワー半導体をひとことで整理します。「電気を変換・制御する、電力の関所」という発想から入りましょう。
パワー半導体をひとことで言うと
パワー半導体とは、電気の電圧や周波数を変えたり、交流と直流を変換したり、電流をオン・オフしたりして、電力を効率よく制御するための半導体です。同じ半導体でも、パソコンやスマホのCPUが「情報を計算する」のに対し、パワー半導体は電気そのものを扱う点が大きく違います。
イメージは、電気の「関所」です。発電所から家庭や工場、機器に届くまでに、電気は何度もかたちを変えます。そのたびに登場し、電圧や向きを整えるのがパワー半導体。扱う電力が大きいぶん、いかにロスを少なく変換できるかが、何より重要になります。
なぜ脱炭素に効くのか――「縁の下の省エネ」
電気は、つくられてから使われるまでに、変換のたびに少しずつ失われます。この変換ロスを、次世代パワー半導体は大きく減らせます。つまり、社会のあらゆる場所で、こっそり省エネを効かせる技術なのです。
しかも、その効果は電化が進むほど大きくなります。EVが増え、再生可能エネルギーが広がり、データセンターが膨らむ——。電力を変換する機会が増えるほど、ロスを減らすパワー半導体の価値が高まる。脱炭素の主役ではないけれど、主役たちを足元から支える「縁の下の省エネ」。それが、パワー半導体の本質です。
仕組み――電気を変換・制御する
電気は、つくられてから使われるまでに、何度も「かたち」を変えています。その変換を担うのがパワー半導体です。
電気を変換するたびに、パワー半導体が働く
直流(DC)の変換
(スイッチング)
電気は使われるまでに何度も変換される。そのロスを減らすのがパワー半導体。
出典:NEDO グリーンイノベーション基金事業「次世代デジタルインフラの構築」の公表内容をもとにgreenote作成
電力変換という仕事(AC・DC・電圧・周波数)
パワー半導体の主な仕事は、電力変換です。たとえば、コンセントの交流(AC)を機器が使う直流(DC)に変えたり、その逆を行ったり。電圧を高くしたり低くしたり、モーターを回すために周波数を調整したりもします。
EVを例にとると、バッテリーの直流を、モーターを回すための交流に変換するのがインバーターで、その心臓部にパワー半導体が使われている。スマホの充電器も、太陽光発電のパワーコンディショナーも、中身はパワー半導体。電気を使う機器のほとんどに、必ず入っているといっても過言ではありません。
変換ロスをいかに減らすか
問題は、変換のたびにエネルギーが失われることです。多くは熱として逃げていきます。電気を1回変換するごとの損失はわずかでも、社会全体で何十億回と繰り返されれば、膨大なムダになります。
そこで効いてくるのが、パワー半導体の性能です。同じ変換でも、ロスの少ないパワー半導体を使えば、捨てられる電気を減らせる。発熱も抑えられ、冷却の手間や装置の大きさも小さくできます。この「ロスの少なさ」を一段引き上げる切り札が、次に見る次世代材料なのです。
次世代材料――SiCとGaN
性能のカギを握るのが、半導体の材料です。長く使われてきたシリコンに代わる、新しい材料が登場している。
シリコンから、SiC・GaNへ
シリコン(Si)
長年の主役。安価で実績が豊富。ただし損失や耐圧に限界。
SiC(炭化ケイ素)
高い電圧・大きな電流に強い。低損失。
GaN(窒化ガリウム)
高速でスイッチングできる。小型化に強い。
どちらが上ではなく、得意分野で使い分ける。
出典:NEDO グリーンイノベーション基金事業「次世代デジタルインフラの構築」の公表内容をもとにgreenote作成
シリコンの限界とSiC・GaN
パワー半導体には、長らくシリコン(Si)が使われてきました。安価で実績も豊富です。しかし、扱える電圧やロスの少なさには、材料としての限界が見えてきました。
そこで登場したのが、SiC(炭化ケイ素)とGaN(窒化ガリウム)です。これらは、シリコンより高い電圧に耐え、電力の損失が少なく、高速でスイッチングできるという優れた性質を持ちます。同じ仕事をより少ないロスで、より小さく軽くこなせる——。だからこそ「次世代」と呼ばれ、各国・各社が開発にしのぎを削っているのです。
SiCとGaNの棲み分け
では、SiCとGaNはどう違うのでしょうか。ざっくり言うと、得意分野が異なります。SiCは、高い電圧と大きな電流を扱うのが得意。EVの駆動用インバーターや急速充電器、鉄道といった、パワーが要る用途に向きます。
一方のGaNは、高速でスイッチングできるのが強み。比較的低い電圧で、スマートフォンの充電器やサーバー、通信機器など、小型・高効率が求められる用途に向きます。両者は競合する部分もありますが、基本は「どちらが上」ではなく、得意分野での棲み分けが進むとみられる。
用途――EV・データセンター・再エネ
次世代パワー半導体は、電化が進む分野でこそ価値を発揮します。代表的な用途を見ていきましょう。
電化が進む分野でこそ、活きる
EV(電気自動車)
駆動用インバーターや急速充電に。変換ロスを減らし、電費の向上に貢献。
データセンター
サーバー電源や無停電電源(UPS)に。AI時代の省エネと発熱抑制。
再生可能エネルギー
太陽光のパワーコンディショナーなどで、変換効率を高める。
産業・鉄道・家電
モーターや電源の高効率化に幅広く活用。
電力を変換する場所が増えるほど、省エネ効果が広がる。
出典:NEDO グリーンイノベーション基金事業「次世代デジタルインフラの構築」の公表内容をもとにgreenote作成
EV――電費を伸ばす心臓部
もっとも注目される用途が、EV(電気自動車)です。バッテリーの電気をモーターの動きに変えるインバーターにSiCを使うと、変換ロスが減り、電費(ガソリン車の燃費にあたる電気の効率)が向上します。一説には1割ほど改善するともいわれ、同じ電池でより長く走れるようになります。
EVは、車体の軽量化や航続距離が競争力を左右します。だからこそ、ロスが少なく小型なSiCの価値が高い。実際、先進的なEVから採用が広がり、いまや次世代パワー半導体の最大の市場の一つになりました。
データセンターと再生可能エネルギー
データセンターも、重要な用途です。生成AIの普及で電力需要が急増するなか、サーバーの電源や無停電電源(UPS)に次世代パワー半導体を使えば、変換ロスと発熱を抑え、省エネにつながります。電力問題に直面するデータセンターにとって、効率改善は切実なテーマです。
再生可能エネルギーでも活躍します。太陽光発電の直流を交流に変えるパワーコンディショナーなどに使えば、せっかくつくった電気をムダなく送り出せます。さらに産業用モーターや鉄道、家電まで——。電気を変換するあらゆる場所が、次世代パワー半導体の活躍の舞台なのです。
課題と展望
大きな期待の一方で、本格普及には解くべき課題も残る。日本の立ち位置とあわせて見ていきます。
コストと量産
最大の課題は、コストです。SiCやGaNは、シリコンに比べて材料も製造も高くつくのが現状。省エネのメリットがコスト増を上回るかが、採用の分かれ目になります。
技術面では、安定した量産が課題です。半導体は、材料の土台となる基板を大きくする(大口径化)ほど効率よくつくれますが、SiC・GaNはこれが難しい。不良品を減らす歩留まりの向上や、設計・実装のノウハウも欠かせません。これらを一つずつ解決し、安く・大量に・安定してつくれるようにすることが、普及への道です。
国が置いた目標値|損失50%減で、コストはSi並みに
「省エネになる」「でも高い」——ここまでの話を、国はどんな数字で引き受けているのか。NEDOのグリーンイノベーション基金事業の目標が、その答えになっています。
掲げられているのは「2030年までに50%以上の損失低減と、従来のSiパワー半導体と同等のコストを達成する」という一文です。ここが読みどころで、目標が「損失」と「コスト」の二本立てになっています。性能だけ上げても普及しない。Siと同じ値段まで下げることが、はじめから目標に組み込まれているということです。
しかも条件の付き方が正確です。事業計画の別の箇所では「次世代パワー半導体を使った変換器等の損失を50%以上低減及び量産時に従来のSiパワー半導体と同等のコストを達成」と書かれています。「量産時に」という限定が入っている点が実務的で、前の章で触れた「量産でコストを下げる」という道筋が、そのまま国の目標の前提になっているわけです。
市場の見方も示されています。パワー半導体の市場全体は2020年の約3.2兆円から、2030年には約5兆円へ。この成長率をもとに2050年の規模が推計されています。
そして需要の内訳を、この事業は使用電力容量の3区分で整理しています。中容量帯は自動車の電動化、大容量帯は再生可能エネルギーなどの電力系統、小容量帯はデータセンター用電源。本記事で用途として挙げたEV・再エネ・データセンターは、扱う電力の大きさで並べ替えると、そのまま容量帯の3区分になる——整理の軸として覚えておくと見通しがよくなります。
データセンターについては、前提として置かれた数字が生々しいです。消費電力量は国内で2019年14TWh→2030年18TWh→2050年43TWh、世界で200TWh→252TWh→612TWhと見込まれています。そのうえで「消費エネルギーのうち電源が占める損失は25%」と仮定し、そこを半分に減らす効果を見積もる、という組み立てです。電源の損失が全体の4分の1を占めるなら、データセンターの電力問題にパワー半導体が効く理屈もはっきりします。
日本の強みと政策
では日本はどこに賭けているのか。国の事業計画を見ると、投資先がはっきり書かれています。NEDOのグリーンイノベーション基金事業「次世代デジタルインフラの構築」は、次世代グリーンパワー半導体の開発として①化合物材料(SiC、GaN)を用いた革新的なデバイス・モジュールの開発と②大口径SiCウェハの開発の2つを掲げています。前の章で「基板の大口径化が難しい」と書きましたが、その難所そのものが国の開発テーマとして名指しされているわけです。
事業の規模も具体的です。このプロジェクトの予算上限は1,836.1億円。パワー半導体だけでなく、光電融合技術でデータセンターを2021年度の普及機と比べて35%以上省エネ化する開発、エッジコンピューティングで消費電力量を40%削減する開発も同じプロジェクトに束ねられています。脱炭素とデジタル化(GX×DX)を一つの事業として扱う設計です。計画は動いていて、研究開発・社会実装計画は2026年3月に改定されました。
なお、市場や競争の状況は動きが速く、本記事は特定の企業・銘柄の優劣を断定するものではありません。
課題
コスト。SiCやGaNはシリコンに比べ、材料も製造も高くつく。
対応・ポイント
省エネのメリットがコスト増を上回るかが採用の分かれ目。量産でコストを下げる。
課題
安定した量産。基板の大口径化が難しく、歩留まり向上や設計・実装ノウハウも必要。
対応・ポイント
課題を一つずつ解決し、安く・大量に・安定して製造。日本はGaN等で先行、GI基金で後押し。
市場や競争の状況は動きが速く、特定の企業・銘柄の優劣を断定するものではありません。
パワー半導体をどう捉えるか
次世代パワー半導体(SiC・GaN)は、電気を変換するときのロスを減らし、社会全体の省エネを足元から支える技術です。SiCは高耐圧・大電流、GaNは高速スイッチングと得意分野で棲み分け、EV・データセンター・再生可能エネルギーといった電化が進む分野でこそ力を発揮します。一方で、コストや量産といった課題も、まだ小さくありません。
大切なのは、パワー半導体を「単なる電子部品」ではなく、「電化社会のロスを減らし、脱炭素とデジタル化を足元から支える基盤技術」として捉えることでしょう。EVも再エネもデータセンターも、突き詰めれば「電気をいかにムダなく変換するか」にかかっています。その答えの一つが、ここにあります。発電や蓄電を含む次世代の脱炭素技術の全体像は次世代エネルギー技術まるわかりガイドもご覧ください。
縁の下で、静かに電気のムダを削る。次世代パワー半導体は、目立たないけれど、脱炭素を底から支える重要な技術なのです。なお本記事は、特定の技術・事業・金融商品への投資を推奨するものではなく、技術の現在地と展望を中立に整理したものです。
よくある質問(FAQ)
Q. パワー半導体は、ふつうの半導体(CPUなど)と何が違うのですか?
A. 役割が違います。パソコンやスマホのCPUなどは、情報を計算・処理するための半導体です。一方パワー半導体は、電気そのものを変換・制御するための半導体で、電圧を変えたり、交流と直流を変換したり、電流をオン・オフしたりします。いわば『電力の関所』。電気を扱う量が大きいため、効率(損失の少なさ)がとても重要になります。
Q. SiCとGaNは、どちらが優れているのですか?
A. 用途しだいで、一概には言えません。SiC(炭化ケイ素)は高い電圧と大きな電流に強く、EVの駆動や急速充電、鉄道などに向きます。GaN(窒化ガリウム)は高速のスイッチングが得意で、スマートフォンの充電器やサーバーなど比較的低い電圧の用途に強みがあります。両者は競合する部分もありますが、基本的には得意分野で棲み分けが進むとみられています。
Q. パワー半導体は、なぜ脱炭素に関係するのですか?
A. 電気は、つくられてから使われるまでに何度も変換され、そのたびに少しずつ失われます。次世代パワー半導体を使うと、この変換ロスを減らせるため、社会全体の省エネにつながります。EV・データセンター・再生可能エネルギーなど電化が進む分野が増えるほど、効果は大きくなります。いわば『縁の下の省エネ技術』です。
出典・参考(一次情報)
※上記は本記事の目標値・市場規模・需要の区分および図の記述の根拠です。研究開発・社会実装計画は改定されるため、最新の目標と進捗はプロジェクトページでご確認ください。本記事は2026年9月時点の公表情報に基づく解説です。
最終更新日:2026年6月28日
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greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
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