EVや再生可能エネルギーの普及を支えるのが、蓄電池です。その主役はリチウムイオン電池ですが、リチウムやコバルトは産地が限られ、価格も乱高下します。そこで注目されるのが、海水や岩塩からとれるありふれたナトリウムを使ったナトリウムイオン電池。資源の制約が少なく、安全で安いと期待される、次世代電池の有力候補です。
本記事では、ナトリウムイオン電池とは何かを、できるだけかみ砕いて解説します。リチウムイオン電池との違い、資源やコスト・安全面の強み、エネルギー密度という課題と向いている用途、そして実用化の動向までを順に見ていきましょう。電池技術の全体像は、全固体電池とはや半固体電池とはとあわせて読むと、つながりがつかめます。
≡この記事の目次
ナトリウムイオン電池とは
まず、ナトリウムイオン電池をひとことで整理します。「リチウムを、ありふれたナトリウムに置き換えた電池」という発想から入りましょう。
ナトリウムイオン電池をひとことで言うと
ナトリウムイオン電池(SIB)とは、リチウムイオン電池の「リチウム」を、ナトリウムに置き換えた電池です。充電・放電のたびに、イオンが電池の中を行き来して電気を蓄え・取り出す——。この基本の仕組みは、スマホやEVでおなじみのリチウムイオン電池とほとんど同じ。違うのは、主役のイオンと、使う材料です。
ナトリウムは、食塩(塩化ナトリウム)でおなじみの、ごくありふれた元素。海水や岩塩から、いくらでも手に入る。「希少なリチウムの代わりに、身近なナトリウムで電池をつくれないか」——。そんな発想から生まれたのが、ナトリウムイオン電池です。
なぜいま注目されるのか――資源の制約
リチウムイオン電池は優秀ですが、弱点もあります。原料のリチウムやコバルトは、産地が特定の国に偏り、価格が大きく動くこと。EVや蓄電池の需要が急増するなか、「資源を安定して確保できるか」が、世界共通の課題になっています。
ここでナトリウムが効いてきます。地球上に豊富で、特定地域に偏らないナトリウムなら、資源の不安が小さい。脱炭素のために電池を大量に必要とする時代だからこそ、資源の制約が少ない電池への期待が高まっているのです。
仕組み――リチウムイオンとの違い
基本の仕組みは、おなじみのリチウムイオン電池とほとんど同じです。何が同じで、何が違うのかを見ていきましょう。
リチウムを、ナトリウムに置き換える
充電・放電でイオンが正極と負極を行き来する(基本の仕組みはリチウムイオンと同じ)
リチウムイオン電池
主役はリチウム(希少)。負極の集電体は銅箔。
ナトリウムイオン電池
主役はナトリウム(豊富)。安価なアルミ箔が使える。
仕組みはほぼ同じ。違うのは主役のイオンと材料。
出典:資源エネルギー庁・NEDOの公開情報をもとにgreenote作成
基本はリチウムイオン電池と同じ
ナトリウムイオン電池の動作は、リチウムイオン電池とそっくりです。充電すると、イオンが正極から負極へ移動し、放電すると逆に戻る。このイオンの行き来で、電気を蓄えたり取り出したりします。
仕組みが似ているのは、大きな利点です。リチウムイオン電池で培われた製造ノウハウや設備を、活かしやすいからです。まったく新しい電池をゼロからつくるより、量産への道が近い。これも、ナトリウムイオン電池が現実的な選択肢とされる理由の一つです。
材料の違い(ナトリウムとアルミ集電体)
違いは、使う材料にあります。主役のイオンがリチウムからナトリウムに変わるだけでなく、周辺の材料も変わる。象徴的なのが、集電体(電気を集める金属の箔)です。
リチウムイオン電池では、負極側に銅箔を使います。ところがナトリウムは、アルミニウムと合金化しないという性質があるため、ナトリウムイオン電池では、より安価なアルミ箔を集電体に使えます。さらに、高価なコバルトなどの希少金属を使わない構成にもしやすい。こうした材料の違いが、次に見る「コストの安さ」につながっていきます。
強み――資源・コスト・安全・低温
ナトリウムイオン電池の魅力は、リチウムイオン電池が抱える弱点を、別の角度から補える点にあります。
ナトリウムイオン電池の4つの強み
資源が豊富
海水や岩塩からとれ、産地が偏らない。調達の不安が小さい。
コストを抑えやすい
安価なアルミ箔を使え、コバルトなどの希少金属に頼らない。
安全性が高い
熱暴走が起きにくく、発火・爆発のリスクを抑えやすい。
低温に強い
氷点下でも性能を保ちやすい(-20度で容量9割以上との報告)。
リチウムイオン電池の弱点を、別の角度から補える。
出典:資源エネルギー庁・NEDOの公開情報をもとにgreenote作成
資源が豊富で、安くつくれる
最大の強みは、資源とコストです。ナトリウムは地球上にありふれ、産地も偏りません。原料の調達に不安が少なく、価格も安定しやすい。さらに、安価なアルミ箔を使え、コバルトなどの希少金属に頼らない構成にできるため、電池そのものを安くつくれる可能性があります。
大量の蓄電池が必要になる脱炭素の時代に、「安く・大量に・安定してつくれる」ことは、決定的な価値を持ちます。資源とコストの両面で、ナトリウムイオン電池は大きな潜在力を秘めているのです。
安全性が高く、低温に強い
性能面の強みもあります。一つは安全性。ナトリウムイオン電池は、一般に熱暴走(電池が自ら発熱して暴走する現象)が起きにくく、異常時の発熱も比較的少ないとされ、発火や爆発のリスクを抑えやすいと考えられています。
もう一つが、低温への強さです。リチウムイオン電池は寒さに弱い面がありますが、ナトリウムイオン電池は氷点下でも性能を保ちやすい。報告では、マイナス20度でも容量の9割以上を保てるとされます。寒冷地や、屋外の定置用蓄電などで、心強い特性だといえます。
課題と用途――エネルギー密度と定置用
万能ではありません。最大の弱点と、それゆえに向く用途を整理します。
弱点はエネルギー密度。だから使い分ける
ナトリウムは重い(原子量およそ23)/リチウムは軽い(およそ7)→ 同じ容量だとナトリウムは重く大きくなりやすい
リチウムイオンが向く
長距離EV・スマホなど。軽さと容量が重要な用途。
ナトリウムイオンが向く
定置用蓄電(電力系統・再エネ・家庭用)、街乗り中心の廉価EV。重さの制約がゆるい用途。
置き換えではなく、用途で使い分け・補完。
出典:資源エネルギー庁・NEDOの公開情報をもとにgreenote作成
弱点はエネルギー密度(重い・大きい)
最大の課題は、エネルギー密度が低いことです。エネルギー密度とは、同じ重さや体積あたりに、どれだけ多くの電気を蓄えられるかの指標。ナトリウムは、リチウムより重い元素です(原子量はナトリウムが約23、リチウムが約7)。
そのため、同じ容量を蓄えようとすると、電池が重く、大きくなりやすい。これは、軽さと航続距離が命の長距離EVなどでは、大きな不利になります。ナトリウムイオン電池が「リチウムイオン電池の完全な置き換え」になりにくいのは、この弱点があるからです。
だから定置用蓄電・廉価EVに向く
弱点の裏返しで、向いている用途もはっきりしています。重さや大きさの制約が比較的ゆるい使い道なら、エネルギー密度の低さは大きな問題になりません。
その代表が、定置用の蓄電池です。電力系統や再生可能エネルギーをためる大型蓄電、家庭用蓄電など、据え置きで使うなら多少重くてもよい。安全で安く低温に強いナトリウムイオン電池は、ここで真価を発揮します。実際、定置用蓄電が最大の用途になると見込まれています。加えて、街乗り中心の廉価なEVも有力な使い道。安さと安全性を活かし、用途を選んで広がっていくのです。
動向と展望
実用化は、すでに始まっています。世界と日本の動きを見ていきましょう。
中国CATLが先行
実用化をリードするのは、中国です。世界最大の電池メーカーCATLは、ナトリウムイオン電池の量産を進め、2025年には新ブランドの製品を発表しました。報告では、マイナス40度でも高い容量を保ち、長い充放電サイクル寿命をうたうなど、性能面でも急速に進化しています。
中国勢が先行する背景には、資源の安定確保とコスト競争力という戦略があります。定置用蓄電や街乗り向けEVを中心に、ナトリウムイオン電池の搭載が現実に広がりつつある——。これが、いまの世界の状況です。
日本の動きと使い分け
日本も、手をこまねいているわけではありません。電池メーカーや材料メーカーが研究開発を進め、全固体型のナトリウムイオン電池などで、独自の強みを出そうとする動きもあります。材料技術に強みを持つ日本に、勝機があるとの見方もある。
大切なのは、ナトリウムイオン電池を「リチウムイオン電池に勝つか負けるか」で捉えないことです。両者は得意分野が違い、用途で使い分け・補完し合う関係。なお、市場や技術の状況は動きが速く、本記事は特定の企業・銘柄の優劣や投資を推奨するものではありません。
ナトリウムイオン電池をどう捉えるか
ナトリウムイオン電池は、ありふれたナトリウムを使い、資源の制約が少なく、安全で安く、低温に強い蓄電池です。エネルギー密度ではリチウムイオン電池に劣るものの、定置用蓄電や廉価なEVなど、重さの制約がゆるい用途でこそ力を発揮します。リチウムイオン電池を置き換えるのではなく、得意分野で補い合う——。そんな関係が見えてきます。
大切なのは、この電池を「リチウムの劣化版」と見るのではなく、「資源とコストの壁を越え、蓄電の裾野を広げる選択肢」として捉えることでしょう。脱炭素には、EVから電力系統まで、膨大な量の蓄電池が要ります。その需要を、限られた資源だけでまかなうのは簡単ではありません。多様な電池の選択肢があることが、脱炭素を現実にします。蓄電や発電を含む次世代の脱炭素技術の全体像は次世代エネルギー技術まるわかりガイドもご覧ください。
ありふれた塩から、電気をためる。ナトリウムイオン電池は、資源の制約という大きな壁に、現実的な答えを示す注目の技術なのです。なお本記事は、特定の技術・事業・金融商品への投資を推奨するものではなく、技術の現在地と展望を中立に整理したものです。
よくある質問(FAQ)
Q. ナトリウムイオン電池は、リチウムイオン電池を置き換えるのですか?
A. 完全に置き換えるというより、用途で『使い分け・補完』が進むとみられています。ナトリウムイオン電池は資源が豊富で安く、安全性が高く低温に強い一方、エネルギー密度(同じ重さあたりに蓄えられる電気の量)はリチウムイオン電池に劣ります。そのため、軽さが要る長距離EVはリチウムイオン、重さの制約がゆるい定置用蓄電などはナトリウムイオン、といった棲み分けが想定されます。
Q. ナトリウムイオン電池は、なぜ安全といわれるのですか?
A. 一般に、熱暴走(電池が自ら発熱して暴走する現象)が起きにくく、異常時の発熱量も比較的少ないとされるためです。発火や爆発に至るリスクを抑えやすいと考えられています。加えて、氷点下の低温でも性能を保ちやすいという特徴もあり、寒冷地や定置用などで利点になります。ただし、安全性は構成や使い方にもよるため、絶対に事故が起きないという意味ではありません。
Q. ナトリウムイオン電池は、もう実用化されているのですか?
A. はい、実用化が始まっています。中国のCATLなどが量産を進め、定置用蓄電や街乗り向けEVなどでの採用が広がりつつあります。日本企業も材料や全固体型などで開発を進めています。ただし、市場や技術の状況は変化が速く、本記事は特定の企業・銘柄の優劣や投資を推奨するものではなく、技術の現在地を中立に整理したものです。
最終更新日:2026年6月28日
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greenote編集責任者
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