猛暑、豪雨、干ばつ。気候変動の影響は、もはや遠い未来の話ではなく、いま私たちの目の前で起きている。排出を減らす努力を続けても、これまでに出したCO2の影響で、ある程度の気温上昇は避けられません。だからこそ必要になるのが、気候変動適応です。原因を断つ「緩和」と、影響に備える「適応」。この2つは、気候対策の両輪だとされます。本記事では、気候変動適応とは何か、緩和との違い、なぜ必要なのか、7つの分野、そして気候変動適応法までを、環境省などの情報をもとにわかりやすく整理します。
≡この記事の目次
気候変動適応とは(おさらい)
まず、気候変動適応がどのような取り組みで、緩和とどう違うのかを整理しましょう。
原因を断つか、影響に備えるか
緩和
温室効果ガスの排出削減や吸収源の拡大で、気候変動の原因に対処する。省エネ・再エネなど。
適応
すでに起きている、避けられない気候変動の影響に備える。熱中症対策・治水など。
緩和と適応は対立せず、気候対策の車の両輪。
出典:環境省の情報をもとにgreenote作成
避けられない影響に備える
気候変動適応とは、すでに現れている、あるいは中長期的に避けられない気候変動の影響に対して、自然や社会のあり方を調整し、被害を防いだり軽くしたりする取り組みのことです。ときには、変化を逆に好機として活かす取り組みも含まれる。
具体例を挙げると、わかりやすいでしょう。猛暑に備えた熱中症対策、豪雨に備えた治水、高温に強い農作物の品種への切り替え。これらはすべて適応にあたります。気候変動を止めることではなく、その影響とうまく付き合っていく。それが適応の考え方です。
緩和と適応の違い
適応をより深く理解するには、緩和との違いを押さえるのが近道になります。緩和とは、温室効果ガスの排出削減や、森林などの吸収源の拡大によって、気候変動の「原因」そのものに対処する取り組みです。省エネや再生可能エネルギーの導入が、その代表になります。
一方の適応は、すでに起きている、あるいは避けられない気候変動の「影響」に備える取り組みです。つまり、緩和が原因に、適応が結果に働きかける。この2つは、どちらか一方で足りるものではありません。車の両輪として、同時に進める必要がある。緩和の全体像は、関連記事のカーボンニュートラルとはもあわせてご覧ください。
なぜ適応が必要なのか
排出削減を進めても、なぜ適応が欠かせないのでしょうか。その理由を見ていきます。
緩和だけでは、間に合わない
出典:環境省の情報をもとにgreenote作成
適応が欠かせない理由は、はっきりしています。それは、たとえ世界が排出削減を進めても、これまでに排出された温室効果ガスの影響で、一定の気温上昇は避けられないと考えられているからです。大気中に蓄積したCO2は、すぐには消えません。その影響は、これから数十年にわたって続きます。
しかも、影響はすでに現れている。記録的な猛暑、線状降水帯による豪雨、農作物への被害。こうした変化は、緩和だけでは対応できません。緩和は、いわば未来の悪化を食い止める取り組みです。それに対して適応は、いま目の前で起きている被害に手を打つ取り組みになります。両方があってはじめて、気候変動に立ち向かえるのです。
適応策の主な分野
適応策は、暮らしや産業の幅広い分野におよびます。代表的な7つの分野を整理します。
暮らしのあらゆる場面に関わる
日本の気候変動適応計画が示す主な分野。
出典:環境省の情報をもとにgreenote作成
適応策は、特定の分野にとどまりません。日本の気候変動適応計画では、主に7つの分野が示されている。まず、農業・林業・水産業です。高温による品質低下や不作への対応が課題になる。次に、水環境・水資源、そして自然生態系です。水質の変化や生きものの分布の変化に向き合う。
とりわけ身近なのが、自然災害・沿岸域、いわゆる防災の分野です。豪雨や高潮、海面上昇への備えが求められる。さらに、猛暑による熱中症などの健康分野、事業活動への影響に対応する産業・経済活動、そしてインフラや暮らしに関わる国民生活・都市生活まで。適応は、私たちの生活のあらゆる場面に関わっているのです。
気候変動適応法と適応計画
日本の適応を支えるのが、気候変動適応法と、それにもとづく計画や情報基盤です。
法・計画・情報の3つで支える
気候変動適応法(2018年)=適応策の法的位置づけを明確化。国・自治体・事業者・国民が連携。
適応計画=国が気候変動適応計画を策定。都道府県や市町村も地域適応計画づくりに努める。
A-PLAT=国立環境研究所の気候変動適応センターが運営する情報プラットフォーム。
出典:環境省・国立環境研究所の情報をもとにgreenote作成
気候変動適応法(2018年)
日本の適応の土台となるのが、気候変動適応法です。2018年に制定されました。この法律によって、それまで明確でなかった適応策の法的な位置づけが、はっきりと定められたのです。国、地方公共団体、事業者、国民。それぞれが連携し、協力して適応を進める仕組みが整えられました。
適応を「努力」から「制度」へと引き上げた点に、この法律の意義があります。緩和に比べて後回しにされがちだった適応が、国の政策として正面から扱われるようになりました。
適応計画とA-PLAT
適応法にもとづき、国は気候変動適応計画を策定している。前述の7分野ごとに、進めるべき施策を定めたものです。さらに、都道府県や市町村も、地域の実情に応じた地域気候変動適応計画の策定に努めることとされている。
そして、これらを情報の面から支えるのがA-PLAT(気候変動適応情報プラットフォーム)です。国立環境研究所の気候変動適応センターが運営し、気候変動の影響予測や適応の事例など、幅広い情報を発信している。自治体や企業が適応に取り組む際の、心強い拠りどころになっています。
適応策の具体例
適応策は、身近なところでも進んでいます。分野ごとの具体例を見てみましょう。
すでに始まっている備え
農業
高温に強い品種への切り替え、栽培時期の調整。
防災
堤防や排水施設の整備、ハザードマップの活用。
健康
熱中症の予防、暑さ指数(WBGT)の情報提供。
都市
緑化や日除けによる、街なかの暑さ対策。
出典:環境省・A-PLATの情報をもとにgreenote作成
適応策は、決して抽象的な話ではありません。すでに、さまざまな現場で具体的に進んでいる。農業分野では、高温でも品質が落ちにくい品種への切り替えや、栽培時期の調整が行われています。米や果物で、こうした取り組みが広がっています。
防災分野では、堤防や排水施設の整備に加え、ハザードマップを活用した避難の備えが進みます。健康分野では、熱中症を防ぐための暑さ指数(WBGT)の情報提供が、いまや夏の風物詩になりました。都市では、街路樹による緑化や、日除けの設置で、街なかの暑さをやわらげる工夫も見られる。こうした一つひとつが、着実な適応の積み重ねです。自然の力を活かした対策は、関連記事のNbS(自然を活用した解決策)とはもあわせてご覧ください。
適応を進めるうえでの課題
適応には、乗り越えるべき課題もあります。主なものを整理します。
備えの難しさ
予測の不確実性
将来の気候変動の予測は幅があり、どこまで備えるかの判断が難しい。
費用と時間
堤防整備などに、多額の費用と長い時間がかかる。
不適応を避ける
備えが不十分だったり、かえって別のリスクを高めることを避ける。
出典:環境省の情報をもとにgreenote作成
適応の道のりは、平坦ではありません。第一の課題が、予測の不確実性です。将来の気候がどう変わるかには、幅があります。どこまで、どのように備えるべきか。その判断は、簡単ではありません。過大でも過小でもいけない、難しいさじ加減が求められます。
第二が、費用と時間です。堤防やインフラの整備には、多額の費用と長い年月がかかります。優先順位をつけて、計画的に進めなければなりません。そして第三が、不適応を避けることです。専門的には、不適応(マルアダプテーション)と呼ばれます。ある備えが、かえって別のリスクを高めてしまうことです。適応は、緩和とのバランスもとりながら、慎重に進める必要がある。
まとめ|適応は緩和と並ぶ気候対策の「両輪」
気候変動適応は、避けられない影響に備える、もう一つの気候対策です。最後に、要点を振り返りましょう。
- 気候変動適応とは、避けられない気候変動の影響に対し、被害を防止・軽減する取り組み。緩和と対になる
- 緩和は原因(GHG排出)に、適応は影響に働きかける。両者は気候対策の車の両輪
- 排出削減を進めても一定の温暖化は避けられないため、適応が欠かせない
- 分野は農業・水・自然生態系・防災・健康・産業・国民生活の7つ。具体例は高温耐性品種・治水・熱中症対策など
- 気候変動適応法(2018年)で法的に位置づけ。国の適応計画と、A-PLATが情報面から支える
気候変動への対応は、原因を減らすだけでは完結しません。すでに変わりつつある気候と、どう賢く付き合っていくか。その視点が、これからの社会にはますます求められます。緩和で未来を守り、適応で今を守る。この両輪をそろえて回すことが、気候変動の時代を生き抜く鍵になります。ESG・脱炭素の最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。
よくある質問(FAQ)
Q. 気候変動適応とは何ですか?
A. 気候変動適応とは、すでに現れている、あるいは中長期的に避けられない気候変動の影響に対して、自然や社会のあり方を調整し、被害を防いだり軽くしたりする取り組みのことです。たとえば、猛暑に備えた熱中症対策や、豪雨に備えた治水、高温に強い農作物の品種への切り替えなどが該当します。気候変動の原因を減らす「緩和」と対になる、もう一つの気候対策です。
Q. 緩和と適応の違いは何ですか?
A. 緩和は、温室効果ガスの排出削減や吸収源の拡大によって、気候変動の「原因」そのものに対処する取り組みです。省エネや再生可能エネルギーの導入がこれにあたります。一方の適応は、すでに起きている、あるいは避けられない気候変動の「影響」に備える取り組みです。両者は対立するものではなく、車の両輪として、同時に進める必要があるとされています。
Q. なぜ適応が必要なのですか?
A. たとえ世界が排出削減(緩和)を進めても、これまでに排出された温室効果ガスの影響で、一定の気温上昇は避けられないと考えられているからです。すでに猛暑や豪雨などの影響は現れています。緩和だけでは、いま起きている被害には対応できません。だからこそ、影響に備える適応が、緩和と並んで欠かせない対策と位置づけられています。
Q. 適応策にはどんな分野がありますか?
A. 適応策は幅広い分野におよびます。日本の気候変動適応計画では、主に7つの分野が示されています。農業・林業・水産業、水環境・水資源、自然生態系、自然災害・沿岸域(防災)、健康、産業・経済活動、そして国民生活・都市生活です。猛暑対策から治水、農作物の品種改良、感染症対策まで、私たちの暮らしのあらゆる場面に関わります。
Q. 気候変動適応法とは何ですか?
A. 気候変動適応法は、日本で適応策を推進するために2018年に制定された法律です。これにより、適応策の法的な位置づけが明確になり、国・地方公共団体・事業者・国民が連携して取り組む仕組みが整えられました。国は気候変動適応計画を定め、都道府県や市町村も地域気候変動適応計画の策定に努めます。国立環境研究所の気候変動適応センターが、情報基盤を担っています。
Q. 適応を進めるうえでの課題は何ですか?
A. 主な課題は3つあります。1つ目は、将来の気候変動の予測に不確実性があり、どこまで備えるべきかの判断が難しいことです。2つ目は、堤防の整備などに多額の費用と時間がかかることです。3つ目は、適応が不十分だったり、かえって別のリスクを高めてしまう「不適応(マルアダプテーション)」を避ける必要があることです。緩和とのバランスをとりながら、計画的に進めることが求められます。
出典・参考(一次情報)
- 環境省「気候変動適応法」
- 国立環境研究所 気候変動適応センター「気候変動適応とは(A-PLAT)」
- 環境省「気候変動への適応(緩和と適応の2つの対策)」
※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。
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サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年7月15日