発電所を新しく建てなくても、「発電所」を生み出す方法があります。各地に点在する蓄電池やEV、自家発電をネットワークでつなぎ、まとめて動かせば、全体として一つの発電所と同じ働きをするからです。これがVPP、すなわち仮想発電所と呼ばれる仕組みです。
VPPとは、分散型エネルギーリソース(DER)をIoTで束ねて統合制御し、一つの発電所のように機能させる仕組みを指します。需要側の協力で需給を整えるデマンドレスポンス(DR)とともに、再エネ時代の電力システムを支える新しい担い手です。
本記事では、VPPの基本から、DRの種類、両者を市場につなぐアグリゲーター、需給調整市場などでの活躍、そして2026年度の低圧リソース参入解禁やDR readyといった最新動向までを、わかりやすく解説します。電力・エネルギーを学ぶ特集の需要側編として、お役に立てれば幸いです。
VPP(仮想発電所)の仕組み
点在する小さなリソースを束ねて、一つの発電所のように動かす
家庭用蓄電池
充放電を瞬時に切替
EV
走る蓄電池
太陽光発電
屋根の上の電源
自家発電設備
工場・ビル
給湯機・空調
使い方を調整
系統用蓄電池
大型の電池
束ねられる設備を分散型エネルギーリソース(DER)と呼びます。一つひとつは小さくても、束になれば発電所並みの力になります。
≡目次
- 1VPPとは|仮想発電所の仕組み
- ►VPP(仮想発電所)とは
- ►束ねられる分散型エネルギーリソース(DER)
- ►なぜいま注目されるのか
- 2デマンドレスポンス(DR)とは
- ►DRとは|需要側が需給調整に参加する
- ►下げDRと上げDR
- ►報酬を受け取るインセンティブ型
- 3アグリゲーターとは|束ねて市場につなぐ
- ►特定卸供給事業者として制度化
- ►リソースを束ねて価値に変える
- ►ERABガイドラインの強化
- 4VPP・DRが活躍する市場
- ►需給調整市場での調整力提供
- ►容量市場・卸電力市場での活用
- ►2026年度から家庭用蓄電池など低圧リソースが参入
- 5家庭にも広がるVPP・DR
- ►家庭用蓄電池・EV・給湯機が戦力に
- ►DR ready要件とは
- ►DR補助金と今後の展望
- 6まとめ|需要側が電力システムを支える時代へ
VPPとは|仮想発電所の仕組み
まずは、VPPという言葉の意味と、何を束ねているのか、なぜいま注目されるのかを押さえましょう。
VPP(仮想発電所)とは
VPPは、バーチャルパワープラントの略称で、日本語では仮想発電所と訳されます。その名のとおり、実体としての大きな発電所は存在しません。
代わりにあるのは、各地に散らばる小さなエネルギー設備の群れです。これらを通信でつなぎ、まとめて遠隔制御することで、全体として発電所と同等の機能を生み出します。一つひとつは小さくても、束になれば大きな力になる。VPPの発想は、とてもシンプルです。
束ねられる分散型エネルギーリソース(DER)
VPPが束ねる設備を、分散型エネルギーリソース(DER)と呼びます。その顔ぶれは、実に多彩です。
代表格は、蓄電池です。家庭用から系統用の大型まで、充放電を瞬時に切り替えられる柔軟さが武器になります。走る蓄電池ともいえるEV、工場やビルの自家発電設備、太陽光発電も加わります。さらに、エコキュートのような給湯機や空調といった「電気を使う側」の設備も、使い方を調整することでリソースになり得ます。
なぜいま注目されるのか
背景にあるのは、再生可能エネルギーの拡大です。太陽光や風力は天候で出力が揺れるため、その変動を吸収する調整力が、これまで以上に必要となっています。
従来、調整力の主役は火力発電でした。しかし、脱炭素を進めるうえで、火力への依存は減らしていかなければなりません。そこで白羽の矢が立ったのが、需要側に眠る無数のリソースです。電力系統の仕組みは、関連記事の電力系統とは|発電から送配電・小売の仕組みと同時同量もあわせてご覧ください。
デマンドレスポンス(DR)とは
VPPと並んで需要側の主役となるのが、デマンドレスポンス(DR)です。電気の「使い方」を変えることが、立派な需給調整になります。
DRとは|需要側が需給調整に参加する
デマンドレスポンスとは、需要家が電気の使用パターンを変化させ、電力の需給バランスに貢献する取り組みです。
電気の需給調整といえば、従来は発電側、つまり供給を増減させるのが当たり前でした。DRはその発想を逆転させます。使う側が協力すれば、発電所を追加で動かさなくても需給は整う。需要側を「資源」として活用する点に、DRの新しさがあります。
デマンドレスポンス(DR)の2つの方向
需要側が「使い方」を変えて需給バランスに貢献する
↓
下げDR
需給ひっ迫時に使用を減らす・空調の設定を調整
・生産ラインをシフト
・蓄電池から放電
↑
上げDR
再エネが余るときに使用を増やす・蓄電池やEVに充電
・給湯機の沸き上げ
・余剰の昼間に稼働を寄せる
要請に応じた需要家が報酬を受け取るインセンティブ型や、時間帯別料金でうながす電気料金型があります。
下げDRと上げDR
DRには、大きく二つの方向があります。一つは、需給がひっ迫したときに使用を減らす下げDRです。空調の設定変更や生産ラインのシフト、蓄電池からの放電などが該当します。
もう一つが、上げDRです。こちらは逆に、電気をあえて多く使います。意外に思えるかもしれませんが、太陽光の発電が余る昼間には、電気を使うことこそが系統への貢献になるのです。蓄電池やEVへの充電、給湯機の稼働などを余剰の時間帯に寄せる。再エネが増えるほど、上げDRの出番は広がっていきます。
報酬を受け取るインセンティブ型
DRへの参加には、見返りがあります。代表的なのが、要請に応じて使用を調整した需要家に報酬を支払う、インセンティブ型と呼ばれる方式です。
電力会社の節電プログラムに参加し、ひっ迫時の要請に応じてポイントを受け取る。そんな経験をお持ちの方もいるのではないでしょうか。あれもDRの一形態です。ほかに、時間帯別の電気料金で行動をうながす、電気料金型という方式もあります。需要家にとっては、電気代の節約と収入の両面でメリットを得られる仕組みです。
アグリゲーターとは|束ねて市場につなぐ
家庭の蓄電池ひとつでは、市場で取引するには小さすぎます。小さなリソースを集めて価値に変える存在が、アグリゲーターです。
特定卸供給事業者として制度化
アグリゲーターは、いまや法律に位置づけられた事業者です。2022年4月施行の改正電気事業法で、特定卸供給事業者というライセンス(届出制)として制度化されました。
これにより、アグリゲーターは電力システムの正式なプレーヤーとなりました。電気事業の担い手が、発電・送配電・小売の3部門だけだった時代から、一歩進んだことになります。需要側のリソースを束ねるビジネスは、ERAB(エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス)と呼ばれ、国も育成を後押ししています。
リソースを束ねて価値に変える
アグリゲーターの役割は、階層構造で整理できます。需要家と直接契約してリソースを束ねるのが、リソースアグリゲーターです。
そして、複数のリソースアグリゲーターを取りまとめ、電力市場や電力会社と直接取引するのが、アグリゲーションコーディネーターです。家庭の蓄電池一台は数kWにすぎません。しかし、何千台も束ねれば、市場で戦える規模のまとまった調整力になります。小さな力を集めて価値に変える。アグリゲーターは、VPPの司令塔といえる存在です。
ERABガイドラインの強化
アグリゲーターが扱うのは、需要家の設備とデータです。それだけに、信頼性の確保が欠かせません。
国が定めるERABに関するガイドラインは、改訂を重ねながら、データ連携のルール、サイバーセキュリティ対策、需要家保護の3点を強化してきました。遠隔制御の誤作動や情報漏えいを防ぎ、需要家が安心してリソースを預けられる環境を整える。市場の拡大と信頼性の確保を、両輪で進めている段階です。
VPP・DRが活躍する市場
束ねられたリソースは、どこで価値を発揮するのでしょうか。活躍の場と、2026年度の大きな変化を見ていきます。
需給調整市場での調整力提供
VPP・DRの主戦場のひとつが、需給調整市場です。瞬時の需給バランスを保つ調整力を取引するこの市場で、束ねられたリソースは発電所と並んで応札できます。
特に蓄電池は、指令への反応が速く、最も要件の厳しい商品にも対応できる有力株です。需給調整市場の仕組みは、関連記事の需給調整市場とは|調整力の5つの商品区分と取引の仕組みでくわしく解説しています。
容量市場・卸電力市場での活用
活躍の場は、需給調整市場にとどまりません。将来の供給力を確保する容量市場では、ひっ迫時の発動指令に応じて需要を減らす電源、いわゆる発動指令電源としてDRが参加しています。
また、束ねた電気を卸電力市場で売買して収益を得る道もあります。複数の市場を組み合わせ、リソースの価値を最大限に引き出すのが、アグリゲーターの腕の見せどころです。容量市場は容量市場とは|将来の供給力を確保する仕組みと4年前オークション、卸市場は電力市場とは|JEPXのスポット市場・価格の決まり方と高騰の理由もあわせてご覧ください。
VPP・DRが活躍する3つの市場
束ねたリソースの価値を、複数の市場で引き出す
↓ ↓ ↓
家庭用蓄電池などの低圧・小規模リソースも需給調整市場に参入可能に
市場には最低入札量があるため、家庭のリソースはアグリゲーターが多数束ねて参加します。
2026年度から家庭用蓄電池など低圧リソースが参入
そして2026年度、大きな節目が訪れました。需給調整市場に、家庭用蓄電池などの低圧・小規模リソースが参入できるようになったのです。
これまで参入の中心は、工場の自家発電や大型蓄電池といった、まとまった規模のリソースでした。市場には最低入札量の要件があるため、家庭の小さなリソースは、アグリゲーターが多数束ねて基準を満たす形で参加します。一般家庭の蓄電池が、束になって系統の安定を支える。VPPの理念が、いよいよ家庭レベルまで実装される段階に入ったといえます。
家庭にも広がるVPP・DR
VPP・DRはもはや、企業だけの話ではありません。家庭の機器が系統を支える時代の最新動向を整理します。
家庭用蓄電池・EV・給湯機が戦力に
家庭には、思いのほか多くのリソースが眠っています。太陽光とセットの蓄電池、ガレージのEV、深夜に沸き上げる給湯機。いずれも、充電や稼働のタイミングを調整できる機器です。
一台一台の調整力はわずかでも、全国の家庭を合わせれば、その潜在量は無視できない規模になります。再エネの余剰を家庭の機器で吸収し、ひっ迫時には家庭の蓄電池から放電する。そんな分散協調型の電力システムが、現実のものになりつつあります。
家庭のリソースが系統を支える
蓄電池・EV・給湯機が、VPP・DRの戦力に
家庭用蓄電池
再エネ余剰を充電し、ひっ迫時に放電
EV
走る蓄電池。充電タイミングを調整
ヒートポンプ給湯機
沸き上げ時間をシフト
機器が遠隔制御によるDRに対応できる状態のこと。経済産業省が蓄電池・給湯機・EV充電の3分野で整備を進めており、補助金や需給調整市場参入の条件になる見通しです。
DR対応の家庭用蓄電池への補助金には申請が殺到。家庭と系統が双方向につながる動きが加速しています。
DR ready要件とは
家庭のリソースを活用するうえで、鍵を握るのが機器側の対応です。そこで経済産業省が整備を進めているのが、DR readyという要件です。
DR readyとは、機器が遠隔制御によるデマンドレスポンスに対応できる状態を指します。対象として検討が進むのは、家庭用蓄電池、ヒートポンプ給湯機、EV充電設備の3分野です。この要件は、補助金の申請条件や、小規模リソースが需給調整市場へ参入する際の条件にもなっていく見通しです。最初からDR対応の機器が普及すれば、つなぐだけでVPPに参加できる世界が近づきます。
DR補助金と今後の展望
国は、DR対応機器の普及を補助金でも後押ししています。DRに対応した家庭用蓄電池の導入を支援する事業には申請が殺到し、2026年度分は予算満了で受付を終えるほどの活況となりました。
家庭側の関心の高さは、もはや明らかです。今後は、EVの充放電(V2G)も含め、家庭と系統が双方向につながる動きが加速していくでしょう。V2Gについては、特集の次の記事でくわしく取り上げます。
まとめ|需要側が電力システムを支える時代へ
VPP・DRは、需要側のリソースを電力システムの戦力に変える仕組みです。最後に、要点を振り返りましょう。
- VPP(仮想発電所)とは、蓄電池・EV・自家発電などのDERをIoTで束ね、一つの発電所のように制御する仕組みである
- DRは需要側が使い方を変えて需給に貢献する取り組みで、ひっ迫時の下げDRと再エネ余剰時の上げDRがある
- 束ねて市場につなぐアグリゲーターは、2022年の改正電気事業法で特定卸供給事業者として制度化された
- 活躍の場は需給調整市場・容量市場・卸電力市場に広がり、2026年度からは家庭用蓄電池など低圧リソースも需給調整市場に参入した
- 経産省は機器側のDR ready要件を整備中で、補助金とあわせて家庭のリソース活用が加速している
発電所を増やすだけが、電力の安定への道ではありません。需要側の無数のリソースが束になり、系統を支える。VPP・DRは、脱炭素と安定供給を両立させる、これからの電力システムの中核といえるでしょう。再エネ電力の調達は再生可能エネルギー調達とPPAとは|調達手法の種類と企業の選び方、ESG・脱炭素の全体像はESGとは|意味・E/S/G・情報開示・投資まで完全ガイドもあわせてご覧ください。