脱炭素と、AIがもたらす電力需要の急増。この二つを背景に、いま世界で原子力が改めて見直されています。なかでも注目を集めるのが、安全性や使いやすさを高めた次世代原子力です。小さな原子炉「SMR」を筆頭に、その姿は従来のイメージとは大きく異なる存在。
本記事では、次世代原子力とは何かを、できるだけかみ砕いて、そして期待と課題の両面から中立に解説します。SMRの仕組み、革新炉や核融合の種類、脱炭素で注目される理由、そして見過ごせない課題までを順に見ていきましょう。エネルギー政策の全体像である第7次エネルギー基本計画とはやGX2040ビジョンとはとあわせて読むと、位置づけが見えてきます。
≡この記事の目次
次世代原子力とは
まず、次世代原子力をひとことで整理します。「安全性や使いやすさを高めた、新しいタイプの原子炉の総称」という発想から入りましょう。
次世代原子力をひとことで言うと
次世代原子力とは、従来の大型原子炉の課題を見直し、安全性・柔軟性・建設のしやすさを高めた新しい原子炉の総称です。特定の一つの技術を指すのではなく、小型のSMRから、高温の熱を生む高温ガス炉、さらに先の核融合まで、幅広い技術を含みます。
共通する狙いは、「より安全に、より扱いやすく」。事故への備えを設計段階から組み込み、建設の難しさやコストの読みにくさといった、従来型の弱点を克服しようとする試み。再エネと並ぶ脱炭素電源として、その役割が問い直されているのです。
従来の原子力との違い
従来の原子力発電所は、100万kW級の大型炉が主流でした。出力が大きく効率的な一方、建設に長い年月と巨額の費用がかかり、安全対策も大がかりになります。一度つくると、需要に合わせて柔軟に増減させにくいという弱点も抱えます。
次世代原子力は、この前提を見直します。小さくして工場でつくる、自然の力で安全を保つ、高い熱をほかの用途に使う——。発想の転換によって、従来型が抱えてきた課題に答えようとしているのです。なかでも世界の関心が最も高いのが、次に見るSMR。
SMR(小型モジュール炉)とは
次世代原子力の中心として、世界で最も注目されているのがSMR(小型モジュール炉)です。その特徴を見ていきます。
大きな一基から、小さなモジュールへ
従来の大型炉とSMRのちがい
従来の大型炉
100万kW級
建設に長い年月と巨額の費用。現地で大規模に建設する。柔軟な増減はしにくい。
SMR(小型モジュール炉)
おおむね30万kW以下
主要部を工場でモジュール生産し現地で組み立てる。建設期間の短縮・段階的な増設を狙う。
小さく分けて工場でつくることで、建設のしやすさとコスト管理を高める狙いです。
出典:IAEA・資源エネルギー庁の公開情報をもとにgreenote作成
小さく、工場でつくる
SMR(Small Modular Reactor)とは、その名のとおり小型のモジュール式原子炉です。電気出力は、従来の大型炉が100万kW級なのに対し、おおむね30万kW以下と小規模になります。
最大の特徴が、「工場でつくる」という発想です。原子炉の主要部分を、工場で規格化されたモジュールとして製造し、それを現地へ運んで組み立てます。現地で一から大規模に建設する従来型に比べ、建設期間を短縮し、コストを管理しやすくなると期待されています。需要に合わせて、必要な数だけ段階的に増やせる柔軟さも持ちます。
受動的安全という考え方
SMRのもう一つの鍵が、「受動的安全」という設計思想です。これは、電源やポンプが失われても、自然の力だけで原子炉を冷やし続けられるようにする考え方を指します。
従来は、緊急時にポンプを動かして冷却水を循環させる必要がありました。これに対し受動的安全では、水の自然な対流や重力といった物理現象を使って、人や電源の操作に頼らず炉を冷やします。福島第一原発の事故が、電源喪失による冷却機能の停止で深刻化した教訓を踏まえた設計です。もっとも、こうした設計でリスクがゼロになるわけではない点には、留意が必要です。
SMR以外の革新炉と核融合
次世代原子力は、SMRだけではありません。用途や仕組みの異なる革新炉、さらにその先の核融合まで、その幅は広い。
次世代原子力の主なタイプ
目的に応じて多様な炉型が開発されている
SMR(小型モジュール炉)
小さく工場でつくる。柔軟に増設でき、世界で最も注目される。
高温ガス炉
700〜950度の高い熱を生み、発電だけでなく水素製造にも使える。
高速炉
使用済み燃料を有効活用し、放射性廃棄物を減らせる可能性。
核融合研究段階
太陽と同じ原理。燃料が豊富で高レベル廃棄物が少ないとされるが、実用化はこれから。
小型化・高温・廃棄物低減・究極の発電と、狙いはさまざまです。
出典:IAEA・資源エネルギー庁の公開情報をもとにgreenote作成
高温ガス炉・高速炉という革新炉
SMRと並ぶ革新炉として、まず挙がるのが高温ガス炉。これは、700〜950度という非常に高い熱を生み出せる炉です。その熱は発電に使えるのはもちろん、水素の製造など、電気以外の用途にも活かせます。電気をつくるグリーン水素とはの新たな手段として期待される側面もあります。
もう一つが、高速炉。これは、使用済み核燃料に含まれる物質を燃料として再び使える可能性を持つ炉で、うまく活用できれば、放射性廃棄物の量を減らせると期待される存在。ただし、いずれの革新炉も技術的な難しさやコストの課題を抱えており、実用化に向けた研究開発の途上にあります。
さらに先にある核融合
そして、最も野心的なのが核融合です。これは、いまの原子力発電(核分裂)とは逆に、軽い原子核どうしを融合させてエネルギーを取り出す技術で、太陽が輝くのと同じ原理になります。
核融合は、燃料が海水などから豊富に得られ、高レベルの放射性廃棄物が少ないとされ、究極のエネルギーとも呼ばれます。一方で、超高温・超高圧の状態を安定して保つことが極めて難しく、実用化はまだ研究段階です。ITER(国際熱核融合実験炉)をはじめ、世界中で開発が進められていますが、商用化までには長い時間がかかると見られているのが現状。
脱炭素での期待――なぜ今注目されるのか
再エネが主役になる時代に、なぜ原子力が改めて注目されるのでしょうか。脱炭素と需要の両面から見ていきます。
天候に左右されない脱炭素電源
最大の理由が、運転時に二酸化炭素をほとんど出さないことです。これは再エネと共通する強みですが、原子力には別の特徴もあります。天候や時間帯に左右されず、安定して発電し続けられる点です。
太陽光や風力は、お天気しだいで出力が変動します。その変動を補い、いつでも一定量を供給できる電源として、原子力にベースロード(土台となる安定電源)の役割が期待される面があります。再エネと競うのではなく、変動する再エネを支える脇役として、脱炭素の組み合わせの一つに数えられているのです。
AI・データセンターの電力需要
近年、この議論を一気に加速させたのが、AIとデータセンターの急成長です。生成AIの普及などで、データセンターが消費する電力は世界的に急増の一途。膨大で、かつ途切れさせられない電力をどう確保するかが、大きな課題になりました。
そこで白羽の矢が立ったのが、安定電源である原子力、とりわけ機動的に設置できるSMRです。実際、海外ではテクノロジー企業がSMRによる電力の調達に動く例も出てきました。脱炭素と、爆発的なデジタル需要。この二つが、次世代原子力への関心を押し上げる追い風になっているのです。
見過ごせない課題
期待が高まる一方で、原子力には乗り越えるべき重い課題。両面を冷静に見ることが欠かせません。
期待と課題の両面を見る
推進でも反対でもなく、冷静に評価する
期待
運転時にCO2をほぼ出さない
天候に左右されない安定電源
再エネの変動を補える
AI・データセンターの需要に応えうる
高温熱や廃棄物低減などの新しい可能性
課題
初号機のコストが高い(量産効果は未実証)
安全規制への対応
放射性廃棄物の最終処分が長期の未解決課題
立地をめぐる社会的合意
核セキュリティ
どちらか一方ではなく、両面を踏まえて評価することが大切です。
出典:IAEA・資源エネルギー庁・OECD/NEAの公開情報をもとにgreenote作成
安全性・コスト・放射性廃棄物
第一に、安全性。受動的安全などで向上が図られているとはいえ、原子力である以上、事故のリスクや厳格な規制対応はつきもの。設計だけでなく、運用や立地の地質まで含めた総合的な評価が欠かせません。
第二に、コスト。SMRは量産による低減が期待されますが、最初の数基は割高になりがちで、量産効果はまだ実証されていません。第三が、最も重い放射性廃棄物の問題。使用済み核燃料や高レベル放射性廃棄物を、どこに、どう安全に最終処分するか。これは数万年単位の管理を要する、いまだ世界共通の未解決課題です。次世代炉でも、この宿題が完全に消えるわけではありません。
社会的合意と時期の不確実性
技術以外の課題も小さくない。原子力施設の立地には、地域の理解と社会的合意が不可欠です。過去の事故の記憶もあり、安全への信頼をどう築くかは、技術だけでは解けない問いになります。
加えて、時期の不確実性という問題も。多くの次世代炉は、商用化が2030年代以降に見込まれる開発・実証の段階で、計画どおり進むとは限りません。脱炭素の選択肢として期待される一方で、いつ、どれだけ、どのコストで実現するかは、まだ見通しにくいのが実情です。期待先行で語らず、課題を直視する姿勢が求められます。
次世代原子力をどう捉えるか
次世代原子力は、SMRや革新炉によって従来型の弱点を克服し、脱炭素と安定供給の両立をめざす技術群です。天候に左右されない電源として再エネを補い、AI時代の電力需要に応えうる可能性を秘めています。一方で、安全性・コスト・放射性廃棄物・社会的合意という重い課題は、依然として残されたままです。
大切なのは、次世代原子力を「脱炭素の切り札」と過度に持ち上げることも、「危険なだけの技術」と切り捨てることもせず、「期待と課題の両面を踏まえて、冷静に評価する対象」として捉えることでしょう。再エネ、蓄電、そして原子力。どれか一つに頼るのではなく、それぞれの長所と課題を見極めて組み合わせる視点が欠かせません。電力システム全体の地図は電力システムまるわかりガイドや次世代エネルギー技術ガイドもご覧ください。
エネルギーの選択に、簡単な正解はありません。次世代原子力をどう位置づけるかは、私たちの社会が、安全・コスト・脱炭素のあいだで何を重んじるかを映す問いでもあるのです。なお本記事は、原子力の推進・反対のいずれの立場にも立たず、また特定の技術・事業・金融商品への投資を推奨するものでもなく、現在地と論点を中立に整理したものです。
よくある質問(FAQ)
Q. SMRは、普通の原子力発電所と何が違うのですか?
A. 大きな違いは「小ささ」と「つくり方」です。SMR(小型モジュール炉)は、従来の大型炉(100万kW級)に対し、電気出力がおおむね30万kW以下と小型です。主要な部分を工場でモジュールとして製造し、現地で組み立てるため、建設期間の短縮やコスト管理がしやすく、需要に応じて段階的に増やせると期待されています。また、電源が失われても自然の力で冷却を続ける『受動的安全』を取り入れた設計が多いのも特徴です。
Q. 次世代原子力は、安全なのですか?
A. 受動的安全など、安全性を高める設計思想が取り入れられており、従来炉より安全性の向上を目指しています。ただし、原子力である以上、事故のリスクや、放射性廃棄物の処分、厳格な規制対応といった課題がなくなるわけではありません。安全性は設計だけでなく、運用や規制、立地の地質なども含めて総合的に評価されるものです。本記事は推進・反対のいずれの立場にも立たず、期待と課題の両面を中立に整理しています。
Q. 次世代原子力は、いつごろ普及するのですか?
A. 多くの炉型は、商用化が2030年代以降に見込まれる開発・実証の段階で、時期は確定していません。海外では一部で建設や契約の動きがありますが、コストや規制、社会的合意などの不確実性が大きいのが現状です。日本もGXや第7次エネルギー基本計画のもとで開発を進めていますが、本記事は特定の時期や事業の成否を断定するものではありません。
最終更新日:2026年6月27日
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