SSBJ基準とは|適用スケジュール・開示項目・ISSBとの違いを実務者向けに解説

2026.06.02
CSRD・ISSB

「SSBJ基準という言葉は聞くものの、いつから・どの企業が・何を開示するのか整理しきれていない」。ESGやIRの現場では、そうした声をよく耳にします。

SSBJ基準とは、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が定めた日本版のサステナビリティ開示基準を指します。2025年3月に最初の基準が公表され、上場企業が有価証券報告書でサステナビリティ情報を開示するための土台になりました。国際基準であるISSBのIFRS S1・S2をベースにしている点が、その特徴です。

本記事では、SSBJ基準の全体像とISSB基準との関係を整理します。あわせて時価総額別の適用スケジュール、開示が求められる項目、ESG・IR担当者が今から着手すべき実務ステップまでを順に解説します。変化の速いテーマですが、実務の判断に使える形へまとめました。お役に立てれば幸いです。

SSBJ基準の全体像
国際基準 ISSB(IFRS S1・S2)をベースに、日本の制度へ整合
SSBJ基準(日本版サステナビリティ開示基準)
共通ルール

適用基準

サステナビリティ開示をどう適用するかの全体ルールを定める。

S1相当

一般開示基準

サステナビリティ全般のリスクと機会を開示対象とする。

S2相当

気候関連開示基準

気候変動の開示とGHG排出量(Scope1〜3)を扱う。

この記事の目次

目次

SSBJ基準とは|日本のサステナビリティ開示基準の基礎

SSBJ基準とは、日本のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が策定した、サステナビリティ情報の開示ルールです。2025年3月に「適用基準」と2つのテーマ別基準が公表され、上場企業の制度開示を支える基盤として整いました。まずは策定主体と全体像を押さえましょう。

SSBJの正式名称と設立の経緯

SSBJとは、英語の「Sustainability Standards Board of Japan」の頭文字をとった呼称です。日本語ではサステナビリティ基準委員会と訳します。会計基準の設定を担う公益財団法人財務会計基準機構(FASF)のもとに、2022年7月に設立された組織です。

設立の狙いは、国際的なサステナビリティ開示基準づくりに日本が主体的に関わる点にありました。後述するISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が世界共通の基準を整えるなか、日本の制度や実務に整合した基準を国内で開発する役割を担います。会計の世界で企業会計基準委員会(ASBJ)が果たす機能の、サステナビリティ版と捉えると分かりやすいでしょう。

2025年3月に公表された3つの基準

SSBJは2025年3月に、3つの基準を最終確定して公表しました。EY Japanの速報解説でも、この公表が日本のサステナビリティ開示にとって大きな節目だと評価されました。内訳は次のとおりです。

ひとつ目がユニバーサル基準「サステナビリティ開示基準の適用」で、サステナビリティ開示基準をどのように適用するかという全体ルール(テーマ別基準に共通する土台)を定めます。ふたつ目がテーマ別基準第1号の「一般開示基準」で、サステナビリティ全般の開示要求を扱います。三つ目がテーマ別基準第2号の「気候関連開示基準」で、気候変動に特化した開示を定める内容です。この3点セットが、SSBJ基準の骨格を形づくります。

SSBJが2025年3月に公表した3つの基準
SSBJが公表した3基準と対応するIFRS基準・概要の一覧
基準対応するIFRS基準概要
適用基準—(共通ルール)サステナビリティ開示の全体的な適用ルール
テーマ別基準第1号
一般開示基準
IFRS S1 相当サステナビリティ全般のリスクと機会の開示
テーマ別基準第2号
気候関連開示基準
IFRS S2 相当気候変動に関する開示とGHG排出量(Scope1〜3)

SSBJ基準が開発された目的

SSBJ基準の目的は、投資家が企業のサステナビリティ情報を比較・評価できるよう、開示の質と国際的な整合性を高めることにあります。これまで日本企業のサステナビリティ情報は、統合報告書やサステナビリティ報告書など任意の媒体で開示されてきました。

任意開示には自由度がある一方で、企業ごとに様式や粒度がばらつくという課題が残っていました。投資家からは「企業間で比較しづらい」という指摘が続いていたのです。SSBJ基準は、こうした情報をひとつの物差しで整理し、有価証券報告書という制度開示の枠組みに乗せる役割を担います。財務情報と同じ土俵で、サステナビリティ情報を語れるようにする試みと言えるでしょう。

SSBJ基準とISSB基準(IFRS S1・S2)の関係|何がどう対応するか

SSBJ基準は、国際基準であるISSBのIFRS S1・S2を土台に開発された日本版の基準です。基本的な構造や考え方を共有しつつ、日本の制度に合わせた調整を施した基準です。両者の対応関係を理解すれば、SSBJ基準の位置づけを正しくつかめます。

ISSBとIFRS S1・S2とは

ISSBとは、国際会計基準を担うIFRS財団が設立した、サステナビリティ開示基準の国際的な設定主体です。2021年のCOP26で設立が発表され、世界共通のサステナビリティ開示基準づくりを進めてきました。

そのISSBが2023年6月に公表したのが、IFRS S1とIFRS S2です。IFRS S1はサステナビリティ全般の開示を定める基準で、企業のリスクと機会を幅広く扱います。IFRS S2は気候関連に特化した基準で、温室効果ガス(GHG)排出量などの開示を求めます。この2つが、世界のサステナビリティ開示の共通言語として位置づけられました。

SSBJ基準とIFRS S1・S2の対応関係

SSBJ基準は、IFRS S1・S2の内容を基本的に取り込んだ構成です。テーマ別基準第1号「一般開示基準」がIFRS S1に、テーマ別基準第2号「気候関連開示基準」がIFRS S2に、それぞれ対応する関係です。

この対応により、SSBJ基準に沿った開示は国際基準とも整合しやすい構造です。海外投資家への説明や、グローバルな比較可能性という観点でも利点があります。IFRS S1・S2の原文と関連資料は、IFRS財団の公式サイトで確認できます。

ISSB(国際基準)とSSBJ(日本版)の対応関係

ISSB(IFRS財団)

IFRS S1
サステナビリティ全般
IFRS S2
気候関連

SSBJ(日本版)

一般開示基準
S1に対応
気候関連開示基準
S2に対応
同じ構造・考え方を共有しつつ、日本の制度に合わせた経過措置・選択肢を追加

日本固有の取り扱い(経過措置・選択肢)

SSBJ基準には、日本企業が円滑に適用できるよう、いくつかの経過措置や選択肢が設けられました。国際基準をそのまま導入するのではなく、実務の負担に配慮した調整が加わっている点も特徴と言えます。

たとえば、適用初年度には気候関連以外のサステナビリティ情報の開示を一部猶予する措置や、Scope3排出量の開示に関する段階的な取り扱いが議論されてきました。こうした配慮は、企業が準備期間を確保しながら開示の質を高めていくための仕組みです。具体的な経過措置の内容は、SSBJの公表資料で最終的に確認することをおすすめします。基準の正文は、SSBJの公式サイトで参照できます。

SSBJ基準の適用スケジュール|いつ・どの企業から始まるか

SSBJ基準の適用は、東証プライム上場企業を対象に、時価総額の大きい企業から段階的に始まる方向で議論が進む段階です。時価総額3兆円以上の企業については、2027年3月期からの適用が視野に入ります。実務担当者が最も気にするポイントを、ここで整理しましょう。

時価総額による段階適用(3兆円→1兆円→5000億円)

金融庁の制度整備では、プライム上場企業を時価総額で区分し、大きい企業から順に適用する案が示されました。日本電機工業会(JEMA)が2026年3月に開催したセミナーでも、この段階適用の考え方が解説されています。

同セミナーの整理によると、時価総額3兆円以上の企業は2027年3月期からSSBJ基準に基づく開示が始まる見込みです。続いて時価総額1兆円以上、さらに5000億円以上へと、対象が段階的に広がる流れが見込まれます。規模の大きい企業から先行させることで、実務の混乱を抑えながら開示を定着させる狙いがうかがえます。

SSBJ基準の段階適用スケジュール(目安)
時価総額別のSSBJ基準の適用開始時期の目安
対象(東証プライム上場企業)適用開始の目安
時価総額 3兆円以上2027年3月期から
時価総額 1兆円以上2028年3月期から
時価総額 5000億円以上2029年3月期から
プライム全企業今後の検討
:2026年7月成立の改正金商法を受けた金融庁の方針。具体的な区分は政令・内閣府令で規定される予定です。

有価証券報告書での開示と金融庁の制度整備

SSBJ基準に沿った開示は、有価証券報告書のなかで行うことが想定されます。これまで任意の報告書で開示されてきたサステナビリティ情報が、法定開示書類に組み込まれる点が大きな変化です。

開示を制度として位置づけるのは、基準を作るSSBJではなく、ルールを定める金融庁の役割です。金融庁は金融審議会のもとで、開示の範囲や保証のあり方を検討してきた経緯があります。有価証券報告書での開示が求められれば、記載内容には一定の正確性が要求されます。財務情報と並ぶ重みを持つ情報として、社内の作成体制を整える必要が出てきます。

適用スケジュールはどこまで確定したか(2026年8月更新)

【2026年8月更新】この記事の初出時点では上記のスケジュールは「案」の段階でしたが、2026年7月に改正金融商品取引法(令和8年法律第64号)が成立・公布され、開示と保証を義務づける枠組みが法律として確定しました。時価総額3兆円以上・1兆円以上・5000億円以上という3段階の適用時期も、金融庁の説明資料で方針が示されています。

ただし、法律で決まったのは骨格です。どの会社がどの年度から対象になるかの具体的な区分は、今後の政令・内閣府令で規定される予定です。改正法の内容と確定したスケジュールの詳細は、次の章「【2026年7月成立】改正金商法とSSBJ開示の法定化」で解説します。最新の決定は金融庁やSSBJの公表をそのつど確認する姿勢は、引き続き欠かせません。

【2026年7月成立】改正金商法とSSBJ開示の法定化|確定した制度の全体像

ここまで「案」として紹介してきた制度は、2026年7月に法律として確定しました。有価証券報告書でのSSBJ基準開示と第三者保証を法律に位置づける改正金融商品取引法が成立・公布されたためです。この章では、法律で何が決まり、何がまだ政令・内閣府令待ちなのかを整理します。

改正金商法の成立・公布と新設された条文

「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律」(令和8年法律第64号)が2026年7月15日に成立し、7月23日に公布されました。暗号資産規制の見直しなどを含む一括改正ですが、サステナビリティ開示の観点で重要なのは、金商法に次の規定が新設された点です。

ひとつが第26条の4(特定非財務情報の作成基準)で、サステナビリティ情報を「特定非財務情報」という法律上の概念として位置づけ、内閣総理大臣が定める作成基準(実質的にはSSBJ基準を制度に取り込んだもの)に従って作成することを求めます。もうひとつが第26条の5(監査証明)で、政令で定める会社に対し、開示したサステナビリティ情報について第三者による監査証明(保証)を受けることを義務づけます。

サステナビリティ開示・保証に関する規定の施行日は2027年4月1日です。これまで有価証券報告書のサステナビリティ情報は2023年3月期に新設された記載欄への開示にとどまっていましたが、この改正により「基準に従って作成し、第三者の保証を受ける」枠組みへと法的な土台が固まりました。

確定した適用スケジュールと二段階開示の経過措置

適用時期は、金融庁の説明資料で示された方針に沿って、時価総額の大きいプライム上場企業から3段階で広がります。法律の成立を受け、具体的な区分は政令・内閣府令で規定される予定です。開示の翌年から保証が義務づけられる点もあわせて押さえておきましょう。

開示・保証の義務化スケジュール(政令等で規定予定)
対象(プライム上場) 開示の義務化 保証の義務化
時価総額 3兆円以上2027年3月期2028年3月期
3兆円未満 1兆円以上2028年3月期2029年3月期
1兆円未満 5000億円以上2029年3月期2030年3月期
上記以外のプライム企業今後検討
:時価総額は5事業年度末の平均値で判定する方向(内閣府令で規定予定)。

判定に使う時価総額は、単年ではなく5事業年度末の平均値を用いる方向で内閣府令に規定される予定です。決算期末の株価変動で対象になったり外れたりする事態を避けるための設計といえます。時価総額5000億円未満のプライム企業への適用は、開示状況や投資家のニーズを踏まえて今後検討されます。

実務上の緩和策として、適用開始から2年間は「二段階開示」の経過措置が予定されています。SSBJ基準に基づく記載事項を有価証券報告書の提出時点で完成させられない場合、訂正報告書に記載して半期報告書の提出期限までに追完できるしくみです。初年度からすべてを有報本体に間に合わせなくてよい、という点は準備計画に織り込めます。

第三者保証制度の中身|登録制・当初2年は範囲限定

保証は、各社の開示義務化の翌年の事業年度から義務づけられます。たとえば時価総額3兆円以上の企業なら、2027年3月期に開示が始まり、2028年3月期から保証が入る流れです。保証の範囲は導入当初の2年間は限定され、金融審議会ワーキング・グループの議論では、温室効果ガス排出量のScope1・2とガバナンスに関する開示が当初の対象として挙げられていました。3年目以降の拡大は国際動向を踏まえて検討されます。

保証の担い手も新しく設計されました。保証業務実施者は内閣総理大臣の登録制(第26条の6以下)で、監査法人だけでなく、要件を満たせば監査法人以外の法人も参入できます。登録には品質管理部門の設置や一定の財産的基礎などが求められ、登録後も守秘義務、一定の非保証業務との同時提供の禁止、担当者のローテーションといった行為規制がかかります。検査・監督は当面、金融庁が直接行います。

保証業務そのものは、国際的な保証基準ISSA 5000、品質管理基準ISQM 1、倫理・独立性基準IESSAと整合性が確保された基準に準拠して行われます。保証の実務やスケジュールの詳細はサステナビリティ情報の第三者保証の解説記事で深掘りしています。

セーフハーバー・ルール|将来情報やScope3の免責

サステナビリティ情報には、業績見通しやシナリオ分析のような将来情報、排出係数を使った見積り、取引先から受け取るScope3データのように、後から結果が変わりうる情報が多く含まれます。「見通しが外れたら虚偽記載になるのではないか」という懸念に応えるため、改正金商法ではセーフハーバー・ルール(第21条の2第3項等)が整備されました。

対象になるのは、将来情報、見積り情報、そして企業の統制が及ばない第三者から取得した情報(他社の温室効果ガス排出量であるScope3や、行政機関の公表情報など)です。前提となる事実・仮定・推論の過程・情報の入手経路などに関する社内の検討評価手続を有価証券報告書に開示し、確認書で経営者が開示手続の整備と実効性を確認していれば、記載が結果と異なっても金商法上の民事責任・行政責任を負わないこととされます。

ただし、財務諸表に密接に関連する情報は対象外で、故意による虚偽記載の刑事責任も免責されません。免責の条件が「検討過程の開示」である以上、算定の前提や仮定を文書化して残す運用は、免責を受けるためにも保証に備えるためにも共通して効いてきます。

SSBJ基準で開示が求められる主な項目|一般開示基準と気候関連開示基準

SSBJ基準では、ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標という4つのコア要素に沿って情報を開示します。この枠組みは、気候関連開示で先行したTCFD提言と共通する構造です。一般開示基準と気候関連開示基準の要点を順に見ていきます。

一般開示基準(IFRS S1相当)の要点

一般開示基準は、気候に限らずサステナビリティ全般のリスクと機会を開示対象とします。企業の見通しに影響を与えうるサステナビリティ関連の事項を、幅広く扱う基準です。

ここでの考え方の中心が「重要性(マテリアリティ)」です。マテリアリティとは、投資家の意思決定に影響を与えるほど重要かどうかを判断する基準を指します。自社にとって何が重要なサステナビリティ課題なのかを特定し、その評価の過程も含めて説明することが求められます。すべてを網羅するのではなく、投資家の判断に効く情報を選び取る姿勢が問われる部分です。

気候関連開示基準(IFRS S2相当)とScope1〜3

気候関連開示基準は、気候変動に関するリスクと機会、そして温室効果ガス(GHG)排出量の開示を求めます。なかでも注目されるのが、Scope1からScope3までの排出量の取り扱いです。

GHG排出量の全体像とScope3
サプライチェーン全体の排出を3つのScopeで捉える
サプライチェーン排出量 =
Scope1直接排出
Scope2電力等の間接
Scope3その他の間接
Scope3(上流)

上流

原材料・部品の調達、輸送、出張など、製品をつくるまでに関わる排出。

カテゴリ1〜8(購入した製品・サービス ほか)

自社

Scope1燃料燃焼・社用車などの直接排出。
Scope2購入した電力・熱による間接排出。

Scope3(下流)

下流

販売した製品の使用・廃棄、投資など、販売後に生じる排出。

カテゴリ9〜15(販売した製品の使用 ほか)
Scope3は、上流と下流にわたる「その他の間接排出」で、15のカテゴリに分類されます。多くの企業で、排出量全体のうち最も大きな割合を占めます。
(参考:環境省「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」)

Scope1は自社の直接排出、Scope2は購入した電力などによる間接排出、そしてScope3はサプライチェーン全体にわたる間接排出を指します。とりわけScope3は対象範囲が広く、取引先からのデータ収集が必要になるため、実務負担が大きい領域です。算定の具体的な進め方は、関連記事のスコープ3排出量の算定方法と実務ポイントでも詳しく解説しています。

共通する4つのコア要素(ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標)

一般開示基準と気候関連開示基準は、いずれもガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標という4つの柱に沿って開示します。EY Japanの基準案解説でも、この4要素がSSBJ基準を理解する出発点になると整理されました。

ガバナンスでは、サステナビリティ課題を監督する体制を示します。戦略では、リスクと機会が事業や財務へ与える影響を語る部分です。リスク管理では、課題を特定・評価・管理するプロセスを説明し、指標と目標では、進捗を測る指標と目標値を開示する構成になっています。この4要素は、すでにTCFDに沿って開示してきた企業にとって、なじみのある枠組みでもあります。

SSBJ基準に共通する4つのコア要素
一般開示基準・気候関連開示基準に共通(TCFDと同じ枠組み)
1

ガバナンス

サステナビリティ課題を監督する体制を示す。

2

戦略

リスクと機会が事業・財務へ与える影響を語る。

3

リスク管理

課題を特定・評価・管理するプロセスを説明する。

4

指標と目標

進捗を測る指標と目標値を開示する。

SSBJ基準とTCFD・有価証券報告書との関係|既存開示からの接続

SSBJ基準は、TCFD提言や有価証券報告書のサステナビリティ情報欄といった既存の開示の延長線上にあります。ゼロから取り組むのではなく、これまでの蓄積をどう接続するかが実務のカギです。多くの企業様が、すでに着手済みの開示を土台にできます。

TCFD提言との連続性

SSBJの気候関連開示基準は、TCFD提言と高い連続性を持ちます。TCFDとは、気候関連財務情報開示タスクフォースの略で、ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標の4要素で気候情報を開示する枠組みです。

この4要素は、そのままSSBJ基準のコア要素に引き継がれました。すでにTCFDに沿って気候情報を開示してきた企業は、その経験を活かしながらSSBJ基準へ移行できます。気候変動が経営に与える影響の捉え方は、関連記事の気候変動リスクが企業経営に与える影響と対応策でも整理しています。なお、TCFDは2023年に役割をISSBへ引き継いでおり、国際的な開示の流れはISSB・SSBJへと収れんしつつあります。

有価証券報告書のサステナビリティ情報欄との関係

日本ではすでに、2023年3月期から有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が設けられました。多くの上場企業が、この欄でガバナンスや戦略、人的資本などの情報を開示してきた経緯があります。

SSBJ基準は、この記載をさらに体系化し、比較可能な形へ整える役割を担います。すでに記載欄への開示を経験している企業にとって、SSBJ基準は「これまでの開示を基準に沿って磨き上げる」取り組みと位置づけられます。まったく新しい義務というより、既存開示の高度化と捉えると着手しやすくなるでしょう。

任意のサステナビリティ報告書・統合報告書との使い分け

SSBJ基準が有価証券報告書での開示を担う一方で、統合報告書やサステナビリティ報告書といった任意開示の媒体も引き続き重要です。両者は役割が異なり、補い合う関係にあります。

有価証券報告書は、投資家に向けた制度開示として正確性と比較可能性を重視します。これに対し統合報告書は、企業の価値創造ストーリーを自由度高く伝える媒体です。統合報告書の作り方は、関連記事の統合報告書の作り方と投資家に伝わる開示のポイントで解説しています。SSBJ基準への対応を機に、両者の役割を整理し直す企業も増えてきました。

企業が今から着手すべきSSBJ対応の実務ステップ

SSBJ対応は、ギャップ分析・データ整備・体制構築・保証への備えという4ステップで進めるのが現実的です。「義務化はまだ先」と考えて着手が遅れると、データ収集や社内調整が間に合いません。適用初年度から逆算した進め方を、ここで整理しましょう。

①ギャップ分析(現状開示とSSBJ要求の差分把握)

最初に取り組みたいのが、現状の開示とSSBJ基準が求める内容との差分を洗い出す「ギャップ分析」です。自社が今どこまで開示できていて、何が不足しているのかを可視化する作業です。

たとえば、有価証券報告書のサステナビリティ情報欄での既存開示を出発点に、SSBJ基準の4要素ごとに充足状況を確かめます。ガバナンスは記載できているが、指標と目標が手薄、といった具合に課題が浮かび上がります。この差分こそ、その後の準備計画の土台です。まず現在地を知ることが、最初の一歩になります。

②Scope3を含むGHG排出量データの整備

次に着手すべきは、GHG排出量データの整備です。とりわけScope3はサプライチェーン全体に及ぶため、データ収集に時間がかかります。早めに取りかかるほど、開示初年度の負担を平準化できます。

Scope1・2は自社のエネルギー使用から算定できますが、Scope3は取引先からの情報提供が前提になる項目も含まれます。算定の体制づくりや、サプライヤーへの依頼の進め方を、計画的に整える必要が出てきます。データの精度は段階的に高めていく前提で、まず測れる範囲から着手する姿勢が現実的でしょう。

③ガバナンス・社内連携体制の構築

SSBJ対応は、サステナビリティ部門だけで完結する取り組みではありません。経営層の監督体制と、財務・IR・各事業部門をまたぐ連携体制が欠かせません。有価証券報告書での開示となれば、財務報告と同じ水準の正確性が求められるためです。

サステナビリティ委員会のような監督の仕組みを整え、取締役会への報告ルートを明確にする取り組みが欠かせません。あわせて、情報を集約する社内の役割分担を決めておくと、開示作業が円滑に進みます。私たちgreenote編集部の取材実感としても、部門横断の体制づくりに早く着手した企業ほど、開示の質を安定させている印象があります。

④第三者保証(アシュアランス)への備え

将来的には、開示したサステナビリティ情報に対する第三者保証(アシュアランス)の導入が見込まれます。保証とは、開示情報の信頼性を第三者が確認する仕組みを指す言葉です。財務諸表の監査に近い役割を、サステナビリティ情報にも広げる動きです。

2026年7月成立の改正金商法により、保証は各社の開示義務化の翌年から義務づけられることが確定しました(詳細は前述の「第三者保証制度の中身」参照)。保証に備えるには、データの算定根拠や収集プロセスを文書として残しておくことが欠かせません。後から経緯を説明できる状態を保っておけば、保証対応もスムーズに進みます。

SSBJ対応の実務4ステップ(適用初年度から逆算)
1

ギャップ分析

現状の開示とSSBJ要求の差分を、4要素ごとに可視化する。

2

GHGデータ整備

Scope1〜3の排出量データを整備。Scope3は早期着手が要。

3

体制構築

経営層の監督と、財務・IR・各部門をまたぐ連携体制を整える。

4

第三者保証への備え

算定根拠・収集プロセスを文書化し、保証導入に備える。

SSBJ対応でつまずきやすいポイントと対応策

SSBJ対応では、データ収集・スケジュール誤認・保証範囲の誤解という3つの落とし穴に注意が必要です。先行して準備を進める企業が直面しやすい課題を、事前に押さえておくと手戻りを防げます。

データ収集と部門連携でつまずくケース

最も多いつまずきが、データ収集と部門連携の難しさです。サステナビリティ情報は、複数の部門に分散して存在することが少なくありません。集約の仕組みがないまま開示時期を迎えると、現場が混乱します。

特にScope3のように取引先を巻き込むデータは、依頼から回収まで時間を要します。誰が・いつまでに・どの形式で集めるのかを決めておかないと、開示直前に負荷が集中してしまいます。年間スケジュールに落とし込み、平常業務のなかでデータを蓄積する運用への切り替えが対応策です。

適用スケジュールの誤認による準備遅れ

「自社はまだ対象ではない」という誤認も、準備の遅れを招きます。前述のとおり、適用スケジュールは時価総額の区分ごとに異なり、時価総額5000億円未満のプライム企業の扱いは今後の検討に委ねられています。

ここで起きやすいのが、「自社の区分はまだ先だから動かなくてよい」と判断してしまうケースです。開示の翌年には保証が入るため、実際の準備期間は見た目より短くなります。対象になる前提で準備を進め、金融庁やSSBJの公表を定期的に確認して自社の区分を見極める運用が欠かせません。

保証(アシュアランス)の範囲を誤解するリスク

第三者保証をめぐっては、保証の範囲を誤解するリスクが見落とされがちです。公認会計士による解説でも、開示情報の一部のみを対象とする「部分保証」の範囲を取り違える点が、実務上の大きなリスクになると警鐘が鳴らされました。

保証は当初から開示情報の全体に及ぶとは限らず、段階的に範囲が広がる想定です。どの情報がどこまで保証の対象なのかを正確に把握しないと、社内外への説明で齟齬が生じます。保証の範囲と水準を早い段階で確認し、対象となる情報の根拠を整えておくことが、誤解を避ける近道です。

SSBJ対応でつまずきやすい3点と対応策
SSBJ対応でつまずきやすいポイントと対応策の対照表
つまずきやすいポイント対応策
データ収集・部門連携の難しさ年間スケジュールに落とし込み、平常業務でデータを蓄積する運用へ。
適用スケジュールの誤認対象になる前提で準備し、金融庁・SSBJの公表を定期的に確認する。
保証(アシュアランス)範囲の誤解保証の範囲と水準を早期に確認し、対象情報の根拠を整えておく。

あわせて読みたい:基準が多すぎて混乱したら、まず全体地図から → サステナビリティ開示基準の全体像|ISSB・SSBJ・CSRD/ESRS・GRIの違いと優先順位

まとめ|SSBJ基準は「日本版ISSB」として開示の新たな基準に

SSBJ基準とは、2025年3月にサステナビリティ基準委員会が公表した、ISSB(IFRS S1・S2)をベースとする日本版のサステナビリティ開示基準です。ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標の4要素に沿って、一般開示と気候関連開示を求める内容です。

適用は、時価総額3兆円以上のプライム上場企業について2027年3月期からの開始が見込まれ、その後段階的に対象が広がる方向です。ただし下位区分の時期は確定前であり、金融庁の制度整備を継続して確認する必要があります。

実務では、ギャップ分析から始め、Scope3を含むデータ整備、部門横断の体制構築、保証への備えへと、適用初年度から逆算して進めることが現実的です。ESG情報開示の基礎をあらためて確認したい場合は、関連記事のESG情報開示とは?基礎と企業が押さえるべきポイントもあわせてご覧ください。変化の速いテーマですが、早めの着手が開示の質と社内の余裕につながります。

よくある質問(FAQ)

Q. SSBJ基準への対応は義務ですか、それとも任意ですか?

2026年7月に成立・公布された改正金融商品取引法により、対象企業には有価証券報告書でのSSBJ基準に基づく開示が法律上の義務になります(施行は2027年4月1日)。時価総額の大きいプライム上場企業から、2027年3月期以降段階的に適用されます。

Q. SSBJ基準とISSB基準(IFRS S1・S2)は何が違いますか?

SSBJ基準はISSBのIFRS S1・S2をベースに開発された日本版の基準です。基本的な構造(4つのコア要素)や考え方は共通する一方、日本の制度に合わせた経過措置や選択肢が一部用意されました。国際的な整合を保ちつつ、日本企業が適用しやすいよう調整された点が特徴です。

Q. SSBJ基準の対象になるのはどんな企業ですか?

東証プライム市場の上場企業です。時価総額3兆円以上の企業が2027年3月期から先行して適用され、1兆円以上は2028年3月期、5000億円以上は2029年3月期へと段階的に拡大する方針です(具体的な区分は政令・内閣府令で規定予定)。それ以外のプライム企業への適用は今後検討されます。

Q. 中小企業もSSBJ基準に対応する必要がありますか?

現時点で直接の対象は、プライム上場の大企業が中心です。ただし、上場企業のサプライチェーンに含まれる企業は、取引先からScope3算定のためのデータ提供を求められる場面も想定されます。まずは自社のGHG排出量の把握から始めておくと、将来の要請への備えが整います。

Q. SSBJ基準への対応は、いつから準備を始めるべきですか?

対象となる時価総額区分の適用開始から逆算し、できるだけ早く着手することをおすすめします。とりわけScope3を含むデータ整備や、部門横断の体制構築には時間がかかります。義務化の時期が確定する前から、ギャップ分析など着手できる準備を進めておくと安心です。

Q. SSBJ基準に対応すると、TCFDの開示はもう不要になりますか?

TCFDで開示してきた内容は、SSBJの気候関連開示基準にそのまま活かせます。TCFDは2023年に役割をISSBへ引き継いでおり、これまでのTCFD開示の経験は、SSBJ基準への移行の土台です。新たに置き換わるというより、開示の枠組みが国際基準へと整理されていくと捉えるのが実態に近いでしょう。

Q. SSBJ開示の義務化は、もう法律で決まったのですか?

はい。2026年7月15日に成立し7月23日に公布された改正金融商品取引法(令和8年法律第64号)で、SSBJ基準に基づく開示(第26条の4)と第三者保証(第26条の5)が法律に位置づけられました。施行日は2027年4月1日です。どの会社がどの年度から対象になるかの具体的な区分は、政令・内閣府令で規定される予定です。

Q. 保証(監査証明)は監査法人に頼まないといけませんか?

いいえ。保証業務実施者は登録制で、監査法人以外の法人も要件を満たせば登録できます。依頼先を選ぶ際は、登録を受けた事業者かどうかの確認が必要です。保証は国際基準(ISSA 5000等)と整合した基準に準拠して行われ、導入当初2年間は保証の範囲が限定されます。

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最終更新日:2026年8月29日

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