グリーンボンドが「環境」のための債券なら、「社会」のための債券もあります。それが、ソーシャルボンドです。調達した資金を、医療や教育、手頃な価格の住宅、雇用の創出といった社会課題の解決に充てる——。2020年のコロナ禍を機に、世界で発行が大きく広がった。本記事では、その仕組みと、グリーンボンド・サステナビリティボンドとの違いを、ICMA・金融庁などの一次情報をもとに、わかりやすく解説します。
資金の流れ全体はサステナブルファイナンスとは、環境版の債券はグリーンボンドとはもあわせてご覧ください。
≡この記事の目次
- 1ソーシャルボンドとは
- ►ソーシャルボンドをひとことで言うと
- ►なぜ注目されているのか
- 2何に使うのか――社会的プロジェクトと対象者
- ►医療・教育・住宅・雇用などのプロジェクト
- ►誰のための事業か――ターゲットポピュレーション
- 3ESG債のなかの位置づけ――グリーン・サステナビリティ・SLBとの違い
- ►環境はグリーン、社会はソーシャル、両方はサステナビリティ
- ►使途を限定するか、目標に連動させるか
- 4仕組みと原則――ICMAのソーシャルボンド原則
- ►4つの核となる要素と外部評価
- ►社会的成果のレポーティング
- 5市場の広がりと日本の動き
- ►コロナ禍で拡大したソーシャルボンド
- ►金融庁のガイドラインと国内の発行
- 6課題――ソーシャルウォッシュをどう防ぐか
- ►ソーシャルウォッシュと成果測定の難しさ
- ►社会的成果をどう示すか
- 7ソーシャルボンドをどう捉えるか
- 8出典・参考(一次情報)
ソーシャルボンドとは
まず、ソーシャルボンドをひとことで整理します。「調達した資金を、社会課題の解決に使うことを約束した債券」という発想から入りましょう。
ソーシャルボンドをひとことで言うと
ソーシャルボンドとは、調達した資金のすべてを、社会的な課題の解決に資するプロジェクト(ソーシャルプロジェクト)に充てることを約束した債券です。企業や自治体などが資金を集めるために発行する「借用証書」が債券ですが、その使い道を「社会のため」に限定したのが、ソーシャルボンドです。
ポイントは、「資金の使い道」が決め手だということ。普通の債券は、集めたお金を何に使うかは発行体の自由です。けれどソーシャルボンドは、「この資金は、社会課題の解決にしか使いません」と約束し、それを開示・報告します。お金に社会的な意味を持たせる仕組み、といえます。
なぜ注目されているのか
ソーシャルボンドが注目される背景には、社会課題の深刻化があります。格差や貧困、医療・教育へのアクセス、雇用の不安定さ——。こうした課題の解決には、巨額の資金が必要です。そこで、投資のお金を社会課題の解決に向ける手段として、ソーシャルボンドへの関心が高まりました。
決定的だったのが、2020年のコロナ禍です。医療体制の強化や、失業対策のための資金需要が一気に高まり、ソーシャルボンドの発行が世界で急増した。「お金の力で、社会の困りごとを解決する」——。その具体的な手段として、ソーシャルボンドは存在感を増しているのです。
何に使うのか――社会的プロジェクトと対象者
ソーシャルボンドの特徴は、資金の使い道が「社会課題の解決」に限られることです。どんなプロジェクトが対象になるのかを見ていきます。
資金は、社会課題の解決へ
対象となるプロジェクトの例
手頃な価格の住宅
必要不可欠なサービス(医療・教育)
基本的なインフラ設備
雇用の創出(中小企業支援・マイクロファイナンス)
食料の安全保障
対象者(ターゲットポピュレーション)
貧困層、社会的弱者、失業者、被災者など、支援を必要とする特定の人々に便益をもたらすことを目指す。
出典:ICMA・金融庁の公開情報をもとにgreenote作成
医療・教育・住宅・雇用などのプロジェクト
ソーシャルボンドの資金は、社会的なプロジェクトに充てられます。国際的なルールであるICMA(国際資本市場協会)の原則では、対象となる事業の例として、手頃な価格の基本的インフラ設備、必要不可欠なサービス(医療や教育など)、手頃な価格の住宅が挙げられています。
さらに、中小企業向け融資やマイクロファイナンスを通じた雇用の創出、食料の安全保障と持続可能な食料システム、社会経済的な向上とエンパワーメントなども含まれます。いずれも、人々の暮らしや尊厳に直結する課題です。環境を扱うグリーンボンドとは対象が異なり、ソーシャルボンドは「人と社会」に焦点を当てている。
誰のための事業か――ターゲットポピュレーション
ソーシャルボンドを理解するうえで欠かせないのが、「ターゲットポピュレーション(対象者)」という考え方です。これは、そのプロジェクトが誰に便益をもたらすのか、という観点。社会課題の解決は、漠然と「みんなのため」ではなく、支援を必要とする特定の人々に届くことが重視されます。
具体的には、貧困層、社会的弱者、失業者、被災者、女性や障害者など。「困っている人に、確かに届く」ことが、ソーシャルボンドの社会的な価値を支えます。環境の効果がCO2削減量で測られるように、ソーシャルボンドでは「誰の、どんな課題を、どれだけ解決したか」が問われる。
ESG債のなかの位置づけ――グリーン・サステナビリティ・SLBとの違い
ソーシャルボンドは、ESG債と呼ばれる債券の一種です。よく似た4つの債券を整理して、違いを押さえましょう。
ESG債は、目的と仕組みで分かれる
資金の使い道を限定するタイプ
グリーンボンド
資金を環境改善のプロジェクトに充てる
ソーシャルボンド
資金を社会課題の解決のプロジェクトに充てる
サステナビリティボンド
環境と社会の両方のプロジェクトに充てる
目標に連動させるタイプ
サステナビリティ・リンク・ボンド(SLB)
資金の使い道は限定せず、あらかじめ定めた目標の達成度に金利などの条件を連動させる。
グリーン・ソーシャル・サステナビリティは使途を限定。SLBは目標に連動させる点が違う。
出典:ICMA・金融庁の公開情報をもとにgreenote作成
環境はグリーン、社会はソーシャル、両方はサステナビリティ
ソーシャルボンドは、ESG債(ESGに資する債券)の一種です。仲間を整理しましょう。資金を環境改善に充てるのがグリーンボンド、社会課題の解決に充てるのがソーシャルボンド。そして、環境と社会の両方に充てるのが、サステナビリティボンドです。
サステナビリティボンドは、グリーンとソーシャルの両方の性格を併せ持つもの。たとえば、再エネ施設(環境)と、低所得者向け住宅(社会)の両方に資金を充てる、といった具合です。「何のために使うか」で、グリーン・ソーシャル・サステナビリティが分かれる——。この3つは、いずれも資金の使い道を特定するタイプの債券です。
使途を限定するか、目標に連動させるか
もう1つ、押さえておきたいのが、SLB(サステナビリティ・リンク・ボンド)との違いです。グリーン・ソーシャル・サステナビリティの3つが、資金の使い道を限定するのに対し、SLBは使い道を限定しません。
その代わり、SLBは「あらかじめ定めた目標の達成度に、金利などの条件を連動させる」仕組みです。たとえば「CO2を○%削減できなければ金利が上がる」といった形。「使い道を縛る(ソーシャルボンドなど)」のか、「成果にコミットさせる(SLB)」のか——。この設計思想の違いが、ESG債を大きく2つのタイプに分けています。ソーシャルボンドは、前者の「使い道を社会のために縛る」代表格なのです。
仕組みと原則――ICMAのソーシャルボンド原則
ソーシャルボンドが「社会に役立つ」と信頼されるには、国際的なルールが欠かせません。その土台がICMAの原則です。
信頼を支える、4つの核
調達資金の使途
社会的プロジェクトに充てることを明確にする
評価・選定プロセス
どんな基準でプロジェクトを選ぶかを示す
調達資金の管理
集めた資金を適切に管理し追跡する
レポーティング
資金の使い道と社会的成果を報告する
外部評価(セカンドオピニオンなど)
第三者が原則への適合を確認し、信頼性を高める。
これらの透明性が、ソーシャルウォッシュを防ぐ土台になる。
出典:ICMA(国際資本市場協会)の公開情報をもとにgreenote作成
4つの核となる要素と外部評価
ソーシャルボンドの信頼性を支えるのが、ICMA(国際資本市場協会)が定めるソーシャルボンド原則です。2017年に策定され、その後改訂されてきた。この原則は、ソーシャルボンドが満たすべき4つの核となる要素を示しています。
それが、①調達資金の使途、②プロジェクトの評価・選定のプロセス、③調達資金の管理、④レポーティング(報告)の4つです。さらに、これらを満たしているかを第三者が確認する「外部評価(セカンドオピニオンなど)」も重視されます。「社会のため」という言葉だけでなく、透明性のあるルールに裏打ちされること。それが、ソーシャルボンドが投資家に信頼される条件となる。
社会的成果のレポーティング
4つの核のなかでも、ソーシャルボンドでとくに難しく、重要なのが、レポーティング(報告)です。資金をどう使ったかだけでなく、それがどんな社会的成果(アウトカム)を生んだかを報告することが求められます。
ところが、社会的成果は、環境のCO2削減量のように数値化しにくい。「住宅を○戸供給した」までは測れても、「それで人々の暮らしがどう良くなったか」を示すのは簡単ではありません。だからこそ、何を指標とし、どう測り、どう伝えるかが、発行体の腕の見せどころになります。誠実なレポーティングこそ、ソーシャルボンドの価値を証明する鍵なのです。
市場の広がりと日本の動き
ソーシャルボンドは、近年とくにコロナ禍を機に大きく広がりました。市場の動向と、日本の制度づくりを整理します。
コロナ禍を機に広がり、制度も整う
コロナ禍での拡大(2020年〜)
新型コロナの感染拡大を機に発行が世界で急増。医療サービスや機器の供給能力を高める支出、パンデミックによる失業を防止・軽減するプロジェクトなどが対象とされた。
日本の動き
財投機関や地方自治体に加え、一般の民間企業による発行も拡大。金融庁が2021年にソーシャルボンドガイドラインを公表し、実務の指針を示した。
数値や制度は変わりうる。
出典:ICMA・金融庁の公開情報をもとにgreenote作成
コロナ禍で拡大したソーシャルボンド
ソーシャルボンドの転機となったのが、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大です。医療体制の強化、検査・治療の体制づくり、そしてパンデミックによる失業の防止・軽減——。これらに巨額の資金が必要となり、ソーシャルボンドの発行が世界で急増した。
ICMAも2020年に手引きを示し、医療サービスや機器の供給能力を高める支出、失業を防ぐためのプロジェクトなどを、コロナ関連のソーシャルプロジェクトの例として挙げました。危機のなかで、「社会課題の解決にお金を回す」というソーシャルボンドの意義が、強く実感された出来事でした。この経験が、市場の定着を後押ししています。
金融庁のガイドラインと国内の発行
日本でも、ソーシャルボンドは広がっています。当初は、財投機関や地方自治体による発行が中心でしたが、近年は一般の民間企業による発行も増えてきた。社会課題への取り組みを、資金調達と結びつけて示せる手段として、注目を集める。
制度面では、金融庁が2021年に「ソーシャルボンドガイドライン」を公表しました。サステナブルファイナンス有識者会議のもとで検討され、民間企業の発行も念頭に、実務的な指針を示したものです。国際的なICMA原則と整合させつつ、日本の実情に合った運用を後押しする。こうした制度づくりが、国内市場の信頼性と広がりを支えています。
課題――ソーシャルウォッシュをどう防ぐか
社会への貢献をうたう債券だからこそ、その中身が問われます。残る課題を中立に整理します。
うたい文句で終わらせないために
ソーシャルウォッシュ
社会貢献をうたいながら、実際には十分な社会的成果がない発行。グリーンウォッシュの社会版。
成果測定の難しさ
社会的成果はCO2削減量のように数値化しにくく、何をどう測り報告するかが難しい。
ICMAの原則にもとづく外部評価や、誠実なレポーティングが、これらを防ぐ鍵になる。
出典:ICMA・金融庁の公開情報をもとにgreenote作成
ソーシャルウォッシュと成果測定の難しさ
ソーシャルボンドの最大の課題が、ソーシャルウォッシュです。これは、社会貢献をうたいながら、実際には十分な社会的成果がない発行を指します。環境分野のグリーンウォッシュの、社会版といえる問題です。「社会のため」というイメージだけが先行し、中身が伴わなければ、投資家の信頼を損ないます。
この背景にあるのが、社会的成果(アウトカム)の測定の難しさです。環境ならCO2削減量という共通のものさしがありますが、社会課題は多様で、成果を数値で示しにくい。「本当に困っている人に届いたのか」「どれだけ暮らしが良くなったのか」を客観的に測るのは、容易ではありません。この測定の難しさが、ソーシャルウォッシュが生まれる温床にもなっています。
社会的成果をどう示すか
では、どう防ぐのか。鍵は、ICMAの原則にもとづく透明性です。資金の使い道を明確にし、第三者の外部評価を受け、そして社会的成果を誠実にレポーティングする。この一連の規律が、ソーシャルウォッシュを防ぐ土台になります。
近年は、社会的成果をできるだけ具体的な指標で示そうとする工夫も進んでいます。「○人に手頃な住宅を提供」「○件の雇用を創出」といった形です。完璧な測定は難しくても、測れるものを誠実に開示し、改善を続ける。その姿勢こそが、ソーシャルボンドを「うたい文句」で終わらせず、本当に社会を動かす力にしていくのです。
ソーシャルボンドをどう捉えるか
ソーシャルボンドは、調達した資金を医療・教育・住宅・雇用といった社会課題の解決に充てる債券です。ESG債のなかでは、環境のグリーンボンド、両方のサステナビリティボンドと並び、「社会」を担います。ICMAのソーシャルボンド原則という国際的なルールに支えられ、コロナ禍を機に世界で広がりました。日本でも金融庁のガイドラインが整い、民間企業の発行も増えています。
大切なのは、ソーシャルボンドを「イメージの良い資金調達」と捉えるのではなく、「投資のお金を、社会課題の解決へと確かに向けるための仕組み」として理解することでしょう。ソーシャルウォッシュや成果測定の難しさといった課題はありますが、透明性と誠実なレポーティングで、それらに向き合う努力が続いています。グリーンボンドやサステナブルファイナンスとあわせて捉えると、お金が社会を支える流れが見えてきます。ESGや金融の全体像はESG完全ガイドもご覧ください。
環境だけでなく、社会へも。ソーシャルボンドは、お金の使い道に「人と社会への貢献」という意味を込めた、サステナブルファイナンスの重要な一翼なのです。なお本記事は制度や仕組みを中立に整理したものであり、特定の投資や金融商品を推奨するものではありません。最新の内容はICMAや金融庁などの公表資料でご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q. ソーシャルボンドとは何ですか?
A. 調達した資金のすべてを、社会課題の解決に資するプロジェクト(ソーシャルプロジェクト)に充てることを約束した債券です。医療や教育、手頃な価格の住宅、雇用の創出などが対象で、貧困層や社会的弱者といった支援を必要とする人々に便益をもたらすことを目指します。国際資本市場協会(ICMA)の『ソーシャルボンド原則』という国際的なルールにもとづいて発行されます。
Q. ソーシャルボンドとグリーンボンドは何が違うのですか?
A. 資金の使い道が違います。グリーンボンドは『環境』の改善(再エネや省エネなど)に、ソーシャルボンドは『社会』課題の解決(医療・教育・住宅など)に資金を充てます。両方の用途に充てるものは『サステナビリティボンド』と呼ばれます。これらが資金の使い道を限定するのに対し、SLB(サステナビリティ・リンク・ボンド)は使途を限定せず、目標の達成度に条件を連動させる点が異なります。
Q. ソーシャルボンドにはどんな課題がありますか?
A. 代表的なのが『ソーシャルウォッシュ』です。社会貢献をうたいながら、実際には十分な社会的成果がない発行を指し、グリーンウォッシュの社会版といえます。背景には、社会的な成果(アウトカム)は環境のCO2削減量のように数値化しにくく、測定や報告が難しいという事情があります。これを防ぐため、ICMAの原則にもとづく外部評価や、成果のレポーティングが重視されています。
出典・参考(一次情報)
- ICMA(国際資本市場協会)「ソーシャルボンド原則(Social Bond Principles)」
- 金融庁「ソーシャルボンドガイドライン(2021年)」
- 日本証券業協会(JSDA)「証券業界のサステナビリティ(ICMA原則の日本語訳)」
最終更新日:2026年6月28日
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。