ESGは、いまや投資や経営の共通言語になりました。ところが近年、米国を中心に、その流れに「待った」をかける動きが強まっている。それが反ESG(アンチESG)です。「ESGは行きすぎだ」「投資にイデオロギーを持ち込むな」——。賛否が激しくぶつかるこのテーマを、本記事ではどちらかに肩入れせず、論点を中立に整理します。
ESGそのものの考え方はESG投資とは、その源流はSRI(社会的責任投資)とはもあわせてご覧ください。対立の構図を理解すると、いまのサステナビリティを取り巻く現実が見えてきます。
≡この記事の目次
反ESG(アンチESG)とは
まず、反ESGをひとことで整理します。「ESGを重視する流れへの、反発の動き」という発想から入りましょう。
反ESGをひとことで言うと
反ESG(アンチESG)とは、環境・社会・ガバナンス(ESG)を重視する投資や経営に対する、反発・反対の動きです。脱炭素やESG投資が世界的な潮流となるなか、それに対する揺り戻しとして、とくに米国で勢いを増してきました。
ひとことで言えば、「ESGは行きすぎではないか」という問題提起です。その矛先は、ESGを掲げる企業、ESGを投資判断に組み込む運用会社、ESG開示を求める規制など、多岐にわたる。賛成・反対が政治的にも対立する、現代の大きな論争の一つだといえます。
なぜ広がったのか――背景
反ESGが広がった背景には、いくつかの要因がある。一つは政治的な対立です。米国の保守派は、ESG推進を「ウォーク・キャピタリズム(社会正義を掲げる資本主義)」だと批判し、企業や金融が政治的な価値観を押しつけていると反発した。
もう一つがエネルギーと経済です。米国には石油・天然ガスなど化石燃料に関連する産業が盛んな州が多く、それらを守る動機があります。さらに、コロナ禍やウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰が、「脱炭素を急ぎすぎた結果ではないか」という不満を後押ししました。こうした政治・経済の事情が重なり、反ESGは一気に広がったのです。
反ESG側の主張――受託者責任とリターン
反ESGには、いくつかの論拠があります。まず、その中心にある「受託者責任」と「リターン」の主張を見ていきます。
反ESG側の主な主張
受託者責任
資産運用は受益者の金銭的リターンを最優先すべき。ESGの価値観を持ち込むのは受託者責任に反する、という主張。
リターンへの懸念
投資を政治化するとリターンが下がる。ESG投資の成績は明確に実証されていない、という主張。
政治・経済の事情
ウォーク資本主義への反発。化石燃料産業の保護。エネルギー価格高騰への不満。
いずれも反ESG側の主張であり、推進側には別の反論がある(後述)。
図:greenote作成(両者の主張を中立に整理した概念図)
お金は財務リターン最優先という主張
反ESGの中心にあるのが、受託者責任(フィデューシャリー・デューティー)をめぐる主張です。年金などの資産を預かる運用会社は、受益者(お金を託した人)の金銭的な利益を最優先しなければならない——。これは投資の世界で広く共有された原則です。
反ESG側はここから、「ESGという価値観を投資判断に持ち込むのは、投資の政治化であり、リターンを損なう」と主張します。つまり、ESG投資は受益者への受託者責任に反しうる、という論法です。加えて、「ESG投資の運用成績は明確に実証されていない」という指摘も、この主張を支える。
政治化への懸念と化石燃料
もう一つの柱が、「投資や経営を政治の道具にすべきでない」という懸念です。反ESG側は、企業や金融機関がESGを掲げることで、特定の政治的・社会的な価値観を押しつけていると見ます。
さらに、前述のとおり化石燃料産業の保護という現実的な事情も大きい。産油・産ガス州にとって、化石燃料への投資を絞るESGの動きは、地域経済への脅威に映る。「環境への配慮」と「経済・雇用」をどう両立させるか——。反ESGは、この緊張関係を映し出してもいる。
具体的な動き――米国の州法とBlackRock
反ESGは、主張にとどまらず、米国では法律や金融機関への圧力という具体的な形をとってきた。
反ESGは、州法という形で表れた
テキサス州
テキサス州
フロリダ州
一方で反ESGの措置を裁判所が差し止める例もあり、州ごとに対応が分かれる。
図:greenote作成(概念図。年表の根拠は記事末の出典をご覧ください)
テキサス・フロリダの反ESG州法
反ESGが最も明確に形をとったのが、州法です。法律そのものの題名を見ると、何を狙った制度なのかがはっきりします。
テキサス州のSB 13(第87回通常会期)は、表題が「エネルギー企業をボイコットする特定の企業との州の契約および当該企業への投資に関する法律」です。2021年6月14日に知事が署名し、2021年9月1日に施行されました。注目したいのは、対象が投資だけでないことです。州との契約(state contracts)も同じ法律で扱われています。運用から外されるだけでなく、州の取引先から外れうる——という構えです。
フロリダ州は2023年のCS/CS/HB 3「Government and Corporate Activism(政府および企業のアクティビズム)」で、2023年5月2日に成立(Chapter No. 2023-28)、2023年7月1日に施行しました。こちらも範囲が広く、州資金の預託・投資や退職年金・信託基金の資産だけでなく、確定拠出年金、債券、政府契約、金融機関、消費者金融、資金移動業、さらに不公正・欺瞞的な取引慣行にまで規定が及びます。「公的年金の運用方針の話」と受け取ると、実際の射程を小さく見積もることになります。
これらの州は、「ESG投資の成績は実証されておらず、受託者責任を満たさない」という立場をとります。反ESGが、政治のスローガンから具体的な制度へと進んだ象徴的な動きです。
BlackRockへの圧力とボイコット
州法は、金融機関への直接的な圧力にもつながりました。テキサス州では、州会計監査官(Comptroller)が法律にもとづいて「除外対象」とみなす企業のリストを公表しており、そこに世界最大級の運用会社ブラックロック(BlackRock)の名前が挙がったことが広く報じられました。リストに載れば、州の資金の運用先や契約相手として不利に扱われうる——という仕組みです。
ここで押さえておきたいのは、これが一度きりの出来事ではないという点です。このリストは会計監査官のサイトで公表され、継続的に更新されています(公表ページには各リストの更新月が記されており、直近では2025年以降の更新が確認できます)。反ESGは一過性の政治的騒ぎではなく、州の調達・運用の実務に組み込まれた継続的な手続きになっているということです。
ESGを推進してきた大手運用会社が、反ESGの標的になった——。この出来事は、反ESGが企業に与える圧力の大きさを象徴する。運用会社は、推進派と反対派の双方からの要求の板挟みになり、難しい対応を迫られることになりました。
ESG推進側の反論と司法
一方で、ESGを支持する側からの反論もあり、司法の判断も分かれています。両方の見方を整理します。
ESGは長期の財務リスクという反論
反ESGの「ESGはリターンを損なう」という主張に対し、ESG推進側は明確に反論します。その柱が、「ESG要素は、長期の財務リスクそのものである」という考え方です。気候変動による災害、規制の強化、評判の毀損——。こうしたESGに関わるリスクは、長期的には企業の業績や株価に影響する。
だとすれば、それらを投資判断で考慮することは、価値観の押しつけではなく、むしろ受益者の利益を守る受託者責任に整合する——。これが推進側の論理です。つまり同じ「受託者責任」という言葉をめぐって、反ESGと推進派が正反対の結論を導いている点に、この論争の難しさがある。
司法判断と州ごとの分断
対立は、司法の場にも持ち込まれています。反ESGの州法・規制と、逆にESGを義務づける規制の双方について訴訟が起こされており、ESGの正当性をめぐる綱引きが法廷でも続いています。ただし個別の訴訟は進行中のものが多く、結論が確定していないものも含まれます。本記事では特定の判決の内容には立ち入らず、制度として何が決まっているか(州法の条文と施行日)を確認できる範囲で示すにとどめます。
その結果、米国では州ごとに対応が大きく分かれる状況が生まれた。ESGを推進する州と、反ESGを掲げる州。企業や投資家は、どの州で事業を行うかによって、異なる要求に直面する。国全体として一つの方向に定まらない、分断された状態が続いています。
影響と展望――グリーンハッシングと日本
反ESGは、企業や投資家の行動に影響を与えている。その表れと、日本への示唆を見ていきます。
反発を避け、あえて語らない
グリーンハッシング
これまで
ESGの取り組みを積極的に発信していた。
反ESGのもとで
反発や政治的リスクを避け、取り組みは続けつつも公表を控える(グリーンハッシング)。
グリーンウォッシュ(やっていないのにやっているように見せる)とは逆に、やっていても黙る動き。情報開示の後退につながる懸念がある。
図:greenote作成(概念図。年表の根拠は記事末の出典をご覧ください)
ESGを語らない「グリーンハッシング」
反ESGの広がりが生んだ象徴的な現象が、グリーンハッシングです。これは、企業が反発や政治的なリスクを避けるために、ESGの取り組みを続けてはいても、あえて公表を控える動きを指します。
よく知られるグリーンウォッシュ(実態が伴わないのに、環境に配慮しているように見せること)とは、いわば逆の現象です。やっていても黙る——。一見すると穏当に思えますが、情報開示が後退し、投資家や消費者が企業の実態を判断しにくくなるという懸念があります。詳しくはグリーンウォッシュとはもご覧ください。反ESGは、開示のあり方にも影を落としているのです。
日本・グローバルへの示唆
反ESGの州法は米国が中心で、日本に同様の動きが直ちに広がっているわけではありません。日本では、むしろESG開示の要請が強まる傾向が続いています。とはいえ、影響は無関係ではない。
米国で事業や運用を行うグローバル企業・投資家は、推進と反対が激しく対立する状況に対応を迫られます。世界にはESGへの温度差が確かに存在する——。この現実を踏まえ、日本企業も、自社の取り組みをどの市場に向けて、どう発信するかを、より戦略的に考える必要があります。反ESGは、遠い国の話ではなく、グローバルに事業を行ううえでの一つの与件だといえます。
反ESGをどう捉えるか
反ESG(アンチESG)は、ESGを重視する流れへの反発として、とくに米国で広がってきた動きです。その中心には「受託者責任」と「リターン」をめぐる主張があり、テキサスやフロリダの州法、ブラックロックへの圧力という具体的な形をとってきました。一方でESG推進側は「ESGは長期の財務リスクであり、考慮こそ受託者責任に整合する」と反論し、司法判断も分かれ、米国は州ごとに分断された状態にあります。
大切なのは、反ESGを「ESGの否定」と単純に捉えることでも、逆に「不当な攻撃」と切り捨てることでもなく、「ESGをめぐる価値観・経済・政治の対立が表面化したもの」として、立体的に理解することでしょう。賛否のどちらが正しいかを断じるより、それぞれの主張の背景と論拠を冷静に押さえることが、変化の激しい時代の判断力につながるはずです。
ESGは行きすぎなのか、それとも必要な進化なのか——。その問いに簡単な答えはありません。だからこそ、一次情報と多様な視点にもとづいて、自分の頭で考えることが求められています。なお本記事は、反ESGまたはESGのいずれかの立場や、特定の企業・金融商品への投資を推奨するものではなく、論点を中立に整理したものです。
よくある質問(FAQ)
Q. 反ESG(アンチESG)とは、何に反対しているのですか?
A. ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する投資や経営の流れに対する反発の動きです。とくに米国で広がっています。中心的な主張は『資産運用は受益者の金銭的なリターンを最優先すべきで、ESGという価値観を持ち込むのは投資の政治化であり、年金などへの受託者責任に反する』というもの。これに対しESG推進側は『気候変動などのESG要素は長期の財務リスクに関わるので、考慮するのはむしろ受託者責任に整合する』と反論しており、見解が対立しています。本記事はどちらかに立たず両論を整理します。
Q. 反ESGは具体的にどんな動きになっているのですか?
A. 米国では州法という形で表れています。テキサス州は2021年に、化石燃料への投資を抑制する金融機関に州の公的年金が投資・取引することを制限する法律を成立させ、ブラックロックなどに取引停止をちらつかせて圧力をかけました。フロリダ州は2023年に、公的資産の運用でESG要素を考慮せず金銭的要素だけで判断するよう義務づけました。一方で、こうした反ESGの措置を裁判所が差し止める例もあり、州ごとに対応が分かれています。
Q. 反ESGは日本にも関係しますか?
A. 直接の反ESG法は米国が中心ですが、影響は無関係ではありません。米国で事業や運用を行うグローバル企業・投資家は、推進と反対が対立する状況に対応を迫られます。また、反発を避けてESGの取り組みをあえて公表しない『グリーンハッシング』という動きも広がっています。日本では引き続きESG開示の要請が強まる傾向にあり、世界の温度差を踏まえた発信が課題になります。本記事は特定の主張や投資を推奨するものではありません。
出典・参考(一次情報)
- テキサス州議会 第87回通常会期 SB 13(表題:Relating to state contracts with and investments in certain companies that boycott energy companies/2021年6月14日知事署名・2021年9月1日施行)
- テキサス州会計監査官(Texas Comptroller)「Divestment Statute Lists」(法律にもとづく除外対象企業リストの公表ページ)
- フロリダ州議会 2023年 CS/CS/HB 3「Government and Corporate Activism」(2023年5月2日 Chapter No. 2023-28/2023年7月1日施行)
※上記は本記事の州法の表題・成立日・施行日・対象範囲、および除外対象企業リストの公表に関する記述の根拠です。本文中の図は説明用にgreenoteが作成した概念図です。訴訟の状況や各州の運用は変動するため、最新の状況は一次情報でご確認ください。本記事は特定の主張や投資を推奨するものではありません。2026年9月時点の公表情報に基づく解説です。
最終更新日:2026年6月28日
メールマガジン
ESG・脱炭素の最新動向を、月に数回
規制・評価・資金の流れは毎年変わります。実務に効く変更点だけを整理してお届けします(登録無料・解除はワンクリック)。
無料で登録する手を動かす段階なら、無料のExcelテンプレートもあります → 実務テンプレート
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。