「この投資信託はESGに配慮しています」。そう聞いたとき、その根拠はどこにあるのでしょうか。言葉だけなら、誰でも「サステナブル」を名乗れてしまいます。そこでEUが導入したのが、金融商品のサステナビリティ情報を開示させる規則——SFDRです。
本記事では、SFDRとは何かを整理したうえで、事業体・商品の2層からなる開示の仕組み、よく耳にする「第8条」「第9条」の違い、PAI指標、そして2025年11月に公表された抜本改正案(SFDR 2.0)、日本企業・投資家への影響までを解説します。EUの開示制度CSRDはCSRDとは、グリーンの分類を定めるルールはEUタクソノミーとはもあわせてご覧ください。
≡目次
- 1SFDRとは|EUのサステナブルファイナンス開示規則
- ►金融商品にサステナビリティ情報の開示を求める
- ►グリーンウォッシュを防ぐという狙い
- 22層の開示|事業体レベルと商品レベル
- ►対象は金融市場参加者と助言者
- ►PAI(主要な不利な影響)指標で「悪影響」も示す
- 3金融商品の3分類|第6条・第8条・第9条
- ►第6条・第8条・第9条の違い
- ►「ライトグリーン」「ダークグリーン」と事実上のラベル化
- 4SFDR改正案(SFDR 2.0)|開示から商品カテゴリへ
- ►3つの新カテゴリ(移行・ESGベーシック・サステナブル)
- ►70%基準・必須除外と、開示の簡素化
- ►適用は2027〜2028年の見込み
- 5日本企業・投資家への影響
- ►EUで資金調達・商品を販売する場合
- ►開示の全体像(CSRD・タクソノミー)との関係
- ►広がる「サステナブル投資ラベル」の潮流
- 6まとめ|SFDRは投資の「サステナビリティの物差し」
SFDRとは|EUのサステナブルファイナンス開示規則
ESG投資が広がるなか、「その商品は本当に持続可能か」を見分けるものさしが要ります。その問いに答えるEUの仕組みが、SFDRです。まずは概要を押さえましょう。
金融商品にサステナビリティ情報の開示を求める
SFDRとは、Sustainable Finance Disclosure Regulation の略で、日本語では「サステナブルファイナンス開示規則」と訳されます。規則(EU)2019/2088に基づき、2021年3月から適用されてきました。
対象になるのは、資産運用会社や保険会社、年金基金といった金融機関です。これらに対し、自社や自社の金融商品が、サステナビリティにどう向き合っているかを開示するよう求めます。投資の世界に、共通の「情報開示のルール」を持ち込んだ規則だといえます。
ねらいは、投資家が判断しやすい環境を整えることです。どの商品がどの程度サステナブルなのか。それが見えるようになれば、投資家は納得して資金を託せます。SFDRは、そのための土台を用意しました。
グリーンウォッシュを防ぐという狙い
なぜ、こうした開示が必要なのでしょうか。背景にあるのが、グリーンウォッシュ(見せかけの環境配慮)への懸念です。実態が伴わないのに「サステナブル」を掲げる商品があれば、投資家は欺かれてしまいます。
SFDRは、情報を開示させることで、この問題に対処しようとします。各社が同じ枠組みで情報を出せば、見せかけと本物の区別がつきやすくなる。透明性を高め、本当に持続可能な活動へ資金を流すこと。それが、SFDRの根本的な目的です。
EUはSFDRを、サステナブルファイナンスを後押しする政策の一環として位置づけています。何が持続可能かを定めるEUタクソノミー、企業に開示を求めるCSRDと並ぶ、金融サイドの開示ルール。この全体像のなかで理解すると、SFDRの位置づけが見えてきます。
2層の開示|事業体レベルと商品レベル
SFDRの開示は、2つの層に分かれています。会社全体の方針と、個別の商品。この構造を押さえると、全体像が見えてきます。
SFDRの2層構造
会社全体と、個別商品の両面で開示する
対象=金融市場参加者(資産運用・保険・年金など)と金融助言者
① 事業体(エンティティ)レベル
会社全体としての方針を開示。サステナビリティリスクを投資判断にどう組み込むか、報酬方針との関係、PAI(主要な不利な影響)への配慮方針など。
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② 商品(プロダクト)レベル
個別の金融商品ごとに開示。その商品が環境・社会的な特性を促進するのか、サステナブル投資を目的とするのか、などを示す。
商品は 第6条・第8条・第9条 に分類出典:欧州委員会(SFDR=規則(EU)2019/2088)をもとにgreenote作成
対象は金融市場参加者と助言者
SFDRが開示を求める相手は、大きく2種類です。一つは「金融市場参加者」と呼ばれる主体。資産運用会社や保険会社、年金基金など、金融商品を作り提供する側を指します。もう一つが、それらの商品を投資家にすすめる「金融助言者」です。
そして、開示は2つのレベルで行われます。一つめが、事業体(エンティティ)レベル。会社全体として、サステナビリティリスクをどう投資判断に組み込むか、といった方針を開示します。会社としての姿勢を示す層だと考えるとよいでしょう。
二つめが、商品(プロダクト)レベルです。個々の金融商品について、それが環境・社会にどう配慮しているかを開示します。会社の方針と、個別商品の中身。この両面から透明性を確保するのが、SFDRの設計思想です。
PAI(主要な不利な影響)指標で「悪影響」も示す
SFDRの特徴的な仕組みが、PAIです。Principal Adverse Impacts の略で、「主要な不利な影響」を意味します。投資が環境や社会に与える、負の影響を示す指標群のことです。
たとえば、投資先企業の温室効果ガス排出量、生物多様性への影響、人権への配慮。こうした項目を通じて、投資の「マイナス面」を可視化します。良いところだけでなく、悪影響も開示させる。ここにPAIの狙いがあります。
PAIの報告は、一定規模以上の金融市場参加者(従業員500人超の大規模事業者など)に求められます。また、サステナブル投資をうたう商品でも、商品レベルでの報告が必要です。投資の光と影の両方を、数値で語らせる仕組みなのです。
金融商品の3分類|第6条・第8条・第9条
SFDRでよく耳にするのが「第8条ファンド」「第9条ファンド」という言葉です。これは、商品をサステナビリティの度合いで3つに分ける考え方に基づきます。
金融商品の3分類
第6条・第8条・第9条
→ 右へいくほど、サステナビリティへのコミットが強い
第6条(Article 6)
対象外
サステナビリティを目的・特性としない商品。リスクとして考慮することはあり得る
第8条(Article 8)
ライトグリーン環境・社会的な特性を「促進する」商品。投資先の良いガバナンスが前提
第9条(Article 9)
ダークグリーンサステナブルな投資を「目的とする」商品
第8条・第9条は明確な基準を伴わないまま、事実上のラベルとして使われてきた点が課題に。
出典:欧州委員会(SFDR=規則(EU)2019/2088)をもとにgreenote作成
第6条・第8条・第9条の違い
3つの分類は、こうです。第6条は、サステナビリティを目的にも特性にもしない商品。一般的な金融商品が、ここに当たります。ただし、サステナビリティを「リスク」として投資判断で考慮することはあり得ます。
第8条は、環境・社会的な特性を「促進する」商品です。たとえば、一定のESG基準を満たす銘柄に投資する、といったタイプ。投資先が良いガバナンスを備えていることが前提になります。通称、ライトグリーンと呼ばれます。
そして第9条が、サステナブルな投資そのものを「目的とする」商品です。環境・社会の課題解決を、はっきりと目標に掲げます。こちらは、ダークグリーンと呼ばれます。第6条から第9条へ進むほど、サステナビリティへのコミットが強くなる、と理解するとわかりやすいでしょう。
「ライトグリーン」「ダークグリーン」と事実上のラベル化
ここで一つ、注意したい点があります。第8条・第9条は、本来「開示の区分」にすぎません。ところが市場では、これが商品の「格付け」や「ラベル」のように扱われてきました。「うちは第9条ファンドです」と、品質保証のように使われたのです。
しかし、第8条・第9条には、明確で統一された基準があったわけではありません。そのため、似たような中身でも分類が分かれたり、逆に基準があいまいなまま「第9条」を名乗ったりする事態が生じました。比較がしにくく、かえってグリーンウォッシュを招きかねない——そんな批判が高まっていきます。
加えて、開示書類が長く複雑で、投資家にとって読みにくいという問題もありました。透明性のための制度が、かえってわかりにくさを生んでいる。こうした課題が、後述する大改正の引き金になります。
SFDR改正案(SFDR 2.0)|開示から商品カテゴリへ
SFDRは、いま大きな転換点にあります。2025年11月、欧州委員会が抜本的な改正案を公表しました。「開示」から「商品の分類」へと、考え方を切り替える内容です。
SFDR改正案(SFDR 2.0)
3つの新カテゴリへ
開示規制 → 商品カテゴリ規制
移行
Transition
信頼できる移行計画や科学的根拠に基づく目標で、持続可能性へ移行していく投資
ESGベーシック
ESG basics
リスク管理を超えてESG要素を組み込み、ESGの観点で優れた成果を目指す投資
サステナブル
Sustainable
環境・社会的な目的に貢献するサステナブルな事業・活動への投資
共通ルール
資産の70%以上を該当戦略に投資する最低基準+必須除外(論争兵器・タバコ・石炭など)
開示の簡素化
事業体レベルのPAI報告などを削除。商品ごとの開示を約2ページに圧縮
これは提案段階。適用は2027〜2028年ごろの見込み
出典:欧州委員会(2025年11月20日公表のSFDR改正案)をもとにgreenote作成
3つの新カテゴリ(移行・ESGベーシック・サステナブル)
改正案の核心は、商品の分類方法を一新することです。現行の第6条・第8条・第9条という「開示区分」をやめ、3つの明確な「商品カテゴリ」を設けます。
第一が、移行(Transition)。信頼できる移行計画や科学的根拠に基づく目標を通じて、持続可能性へと移っていく投資を指します。第二が、ESGベーシック(ESG basics)。リスク管理を超えてESG要素を組み込み、ESGの観点で優れた成果を目指す投資です。そして第三が、サステナブル(Sustainable)。環境・社会的な目的に貢献する、サステナブルな事業や活動への投資です。
ポイントは、これらが「ラベル」として明確に位置づけられることです。あいまいだった第8条・第9条と違い、各カテゴリには満たすべき条件が定められます。投資家が、中身を比べやすくなる狙いがあります。脱炭素への移行をどう資金面で支えるかはトランジション・ファイナンスとはもあわせてご覧ください。
70%基準・必須除外と、開示の簡素化
新しいカテゴリには、共通のルールが課されます。一つが、最低投資基準です。各カテゴリの商品は、資産の70%以上を、そのカテゴリの戦略に沿った投資に振り向ける必要があります。「名ばかり」を防ぐための、量的な歯止めだといえます。
もう一つが、必須除外です。論争を呼ぶ兵器、タバコ、石炭(褐炭など)、国連グローバル・コンパクトやOECD指針に違反する企業などへの投資が、原則として除外されます。とくにサステナブルのカテゴリでは、化石燃料に関する制限がより厳しくなる見込みです。
開示の負担も、大幅に軽くなります。これまでの事業体レベルのPAI報告(現行第4条)や報酬に関する開示(現行第5条)は削除されます。「サステナブル投資」の定義やDNSH(重大な害を与えない)の原則も簡素化される方向です。商品ごとの開示書類は、従来の長大なテンプレートから、おおむね2ページ程度へと圧縮される見通しです。
適用は2027〜2028年の見込み
ここで、強調しておきたいことがあります。SFDR 2.0は、まだ「提案」の段階だということです。2025年11月20日に欧州委員会が案を示しましたが、これからEU理事会と欧州議会での議論を経て、最終的な形が決まります。
立法手続きには、通常1年から1年半ほどかかります。改正案では、規則の発効から20日後に効力が生じ、その18か月後に適用される、とされています。これらを踏まえると、実際の適用は2027年から2028年ごろになる、というのが大方の見方です。
つまり、当面は現行のSFDR(第6条・第8条・第9条)が続きます。ただし、向かう方向ははっきりしました。「開示させる」から「カテゴリで分ける」へ。この転換の意味を、いまから理解しておくことが大切です。
日本企業・投資家への影響
EUの制度であるSFDRは、日本の企業や投資家にも関わります。その影響を整理します。
EUで資金調達・商品を販売する場合
まず直接関係するのが、EUとつながりの深い金融機関や企業です。EU域内で資金を調達したり、EUの投資家向けに金融商品を販売したりする場合、SFDRに沿った開示が関わってきます。たとえばEUで投資信託を提供する日本の運用会社は、商品をどの区分で開示するかを判断する必要があります。
SFDR 2.0が適用されれば、その判断の枠組みは「3つのカテゴリ」へと変わります。自社の商品が、移行・ESGベーシック・サステナブルのどれに当てはまるのか。早めに見立てておくことが、円滑な対応につながります。
開示の全体像(CSRD・タクソノミー)との関係
SFDRは、単独で存在するわけではありません。EUのサステナブルファイナンス規制の、一つのピースです。企業に開示を求めるCSRD、何がグリーンかを定めるEUタクソノミー、そして投資サイドの開示を担うSFDR。この3つは、互いに補い合っています。
たとえば、企業がCSRDで開示したデータは、投資家がSFDRの開示を作るうえでの材料になります。タクソノミーの基準は、何を「サステナブル」と呼べるかの判断に使われます。SFDRを理解することは、EUのサステナビリティ開示の全体像をつかむことにつながるのです。
広がる「サステナブル投資ラベル」の潮流
より大きな視点で見れば、SFDRは世界的な潮流の先駆けでもあります。「投資商品にサステナビリティのラベルを付ける」という発想は、EUにとどまりません。英国や他の地域でも、似た仕組みづくりが進んでいます。
完全に同じルールにはならなくても、考え方は共有されつつあります。日本の投資家や運用会社にとっても、こうした動きを理解しておくことは、これからのサステナブル投資に向き合う土台になります。ESG投資の質が問われる時代に、SFDRは一つの参照点を示しているといえるでしょう。
まとめ|SFDRは投資の「サステナビリティの物差し」
SFDRは、投資の世界にサステナビリティの透明性を持ち込む、EUの試みです。最後に、要点を振り返りましょう。
- SFDRとは、金融市場参加者に投資のサステナビリティ情報の開示を求めるEUの規則(2021年適用)。グリーンウォッシュを防ぎ、持続可能な投資へ資金を促す
- 開示は事業体レベルと商品レベルの2層。投資の負の影響を示すPAI(主要な不利な影響)指標も特徴
- 金融商品は第6条・第8条・第9条に分かれる。第8条=ライトグリーン、第9条=ダークグリーン。基準があいまいなまま事実上のラベル化した点が課題に
- 2025年11月、抜本改正案(SFDR 2.0)を公表。開示から、移行・ESGベーシック・サステナブルの3つの商品カテゴリへ転換(70%基準・必須除外・約2ページに簡素化)。適用は2027〜2028年の見込み
投資にサステナビリティの「物差し」を持ち込む。SFDRの試みは、走りながら大きく作り替えられようとしています。あいまいさへの反省を踏まえ、より明確なカテゴリへ。その行方は、EUで事業や投資を行う日本企業にとっても見逃せません。ESG・サステナブルファイナンスの最新動向は、これからもgreenoteでお届けしていきます。
参考(出典):欧州委員会(SFDR=規則(EU)2019/2088、2025年11月20日公表のSFDR改正案)ほか
出典・参考(一次情報)
※ 本記事は上記の一次情報をもとにgreenote編集部が整理しています。最新の内容は各公式サイトでご確認ください。
編集責任
greenote編集責任者
サステナビリティ実務・編集統括
ESG・サステナビリティ開示・脱炭素分野の一次情報を継続的に確認し、greenote掲載記事の企画・編集・公開に責任を持っています。官公庁・国際機関の公式情報に基づく編集方針を統括しています。
最終更新日:2026年6月21日