スコープ3排出量の算定方法と実務ポイント【カテゴリ別解説】

2026.06.02
Scope3

企業の温室効果ガス(GHG)排出量の開示において、今もっとも対応が難しいとされているのがスコープ3です。スコープ3とは、自社のサプライチェーン全体における間接排出量を指し、企業によっては総排出量の80〜90%を占めることもあるとされています。

ISSB基準(IFRS S2)やSBT(科学的根拠に基づく削減目標)の普及に伴い、スコープ3の算定・開示は今後ますます重要になります。本記事では、GHGプロトコルの15カテゴリに沿った算定方法と実務上のポイントを解説します。

工場と産業のイメージ

スコープ3とは何か

スコープ1・2・3の違い

GHGプロトコル(Greenhouse Gas Protocol)では、企業の排出量を以下の3つのスコープに分類しています。

  • スコープ1:自社が直接排出するGHG(自社工場・車両・ボイラーなど)
  • スコープ2:購入した電力・熱・蒸気の使用に伴う間接排出
  • スコープ3:サプライチェーン全体の間接排出(上流・下流の15カテゴリ)

スコープ1・2は自社のコントロール下にある排出源のため比較的算定しやすい一方、スコープ3はサプライヤーや顧客の活動まで含むため、データ収集が難しく算定精度にばらつきが生じます。

なぜスコープ3の開示が重要なのか

IFRS S2(ISSB気候関連開示基準)では、重要性があると判断される場合にスコープ3の開示が求められます。また、SBTi(Science Based Targets initiative)のコーポレート基準でも、スコープ3が総排出量の40%を超える場合はスコープ3目標の設定が必須とされています。機関投資家のESGスクリーニングでもスコープ3開示の有無が評価指標となりつつあります。

スコープ3の15カテゴリ一覧

GHGプロトコルでは、スコープ3を「上流」8カテゴリと「下流」7カテゴリの計15に分類しています。

上流カテゴリ(1〜8)

  • カテゴリ1:購入した物品・サービス(原材料・部品の製造に伴う排出)
  • カテゴリ2:資本財(設備・機械の製造に伴う排出)
  • カテゴリ3:スコープ1・2に含まれないエネルギー関連活動
  • カテゴリ4:輸送・配送(上流)
  • カテゴリ5:事業から出る廃棄物
  • カテゴリ6:出張
  • カテゴリ7:雇用者の通勤
  • カテゴリ8:リース資産(上流)

下流カテゴリ(9〜15)

  • カテゴリ9:輸送・配送(下流)
  • カテゴリ10:販売した製品の加工
  • カテゴリ11:販売した製品の使用
  • カテゴリ12:販売した製品の廃棄
  • カテゴリ13:リース資産(下流)
  • カテゴリ14:フランチャイズ
  • カテゴリ15:投資

製造業ではカテゴリ1(購入物品)とカテゴリ11(製品使用)が最大の排出源になることが多く、金融機関ではカテゴリ15(投資先排出量=ファイナンスド・エミッション)が重要となります。

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算定方法の種類と選び方

スコープ3の算定には主に以下の3つのアプローチがあります。

支出額基準法(スペンドベース)

サプライヤーへの支払い金額に、業種別の排出原単位(円あたりのCO2換算排出量)を掛けて算定する方法です。データ収集の負荷が低く、初めてスコープ3に取り組む企業が広く使います。ただし精度は低く、あくまで第一歩としての位置づけです。

活動量基準法(アクティビティベース)

輸送距離・廃棄物重量・出張フライト回数など、実際の活動量データに排出係数を掛けて算定します。支出額基準法より精度が高く、多くのカテゴリで適用可能です。環境省の「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」でも推奨されています。

サプライヤー固有データ法

サプライヤーから実際のGHG排出量データを入手して算定します。最も精度が高い方法ですが、サプライヤーの協力と情報システムの整備が必要です。大手サプライヤーとの取引が多い場合や、カテゴリ1の精度向上を図る場合に有効です。

実務上の取り組み手順

ステップ1:重要カテゴリの特定

15カテゴリ全てを同等に算定する必要はありません。まず支出額基準法で全カテゴリを概算し、排出量が大きい上位3〜5カテゴリを「重要カテゴリ」として特定します。重要カテゴリに絞って精度向上に取り組むことが、効率的な対応の第一歩です。

ステップ2:データ収集体制の構築

重要カテゴリが決まったら、必要なデータの種類と収集先を整理します。社内のデータは購買・物流・総務など関連部門と連携し、外部データはサプライヤーへのアンケートや業界団体のデータベースを活用します。

ステップ3:算定・検証・開示

算定結果は第三者機関による検証(第三者保証)を受けることで信頼性が高まります。特にISSB基準に基づく有価証券報告書への開示では、将来的に限定的保証から合理的保証へのレベルアップが想定されます。

活用できるツール・データベース

スコープ3算定を支援するツールやデータベースを紹介します。

まとめ

スコープ3の算定は複雑ですが、段階的に取り組むことで精度を高めていくことができます。本記事のポイントを整理します。

  • スコープ3はサプライチェーン全体の間接排出で、15のカテゴリに分類される
  • 製造業はカテゴリ1・11、金融機関はカテゴリ15が特に重要になりやすい
  • 算定方法は支出額基準法→活動量基準法→サプライヤー固有データ法の順に精度が高まる
  • まず重要カテゴリを特定し、そこから精度向上に集中するアプローチが効率的
  • 将来的な第三者保証を見据えてデータ収集体制を整備することが重要

スコープ3への対応は一朝一夕には完成しませんが、早期に着手することが競合他社との差別化と投資家からの信頼につながります。

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よくある質問(FAQ)

Q. Scope1・2・3とは何ですか?

A. GHGプロトコルにおける排出量の分類です。Scope1は自社の直接排出、Scope2は購入した電力等による間接排出、Scope3はサプライチェーン全体の間接排出を指します。

Q. Scope3の算定はなぜ難しいのですか?

A. Scope3は原材料の調達から製品の使用・廃棄まで広範囲を対象とし、取引先など自社の外のデータが必要になるためです。15のカテゴリに分かれており、関連性の高いものから着手するのが現実的です。

Q. Scope3の算定は何から始めればよいですか?

A. まず自社にとって影響の大きいカテゴリを特定し、優先順位をつけて取り組むのが一般的です。一次データの入手が難しい場合は、排出原単位を用いた推計から始める方法もあります。

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