2024年3月、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)はIFRS財団が策定するISSB基準(IFRS S1・S2)を踏まえた日本版サステナビリティ開示基準の公開草案を公表しました。今後、金融庁の制度整備と合わせて上場企業への適用が本格化するとみられており、ESG担当者・IR担当者にとって「いつまでに、何を、どう開示するか」を把握することは急務となっています。
本記事では、SSBJの基本的な位置づけからISSB基準との関係、日本における適用スケジュールの現状、そして企業が今すぐ取り組むべき準備ポイントまでを実務目線で整理します。

SSBJとは何か?ISSB基準との関係
ISSBが定める国際的な開示基準
ISSB(International Sustainability Standards Board:国際サステナビリティ基準審議会)は、IFRS財団の傘下として2021年に設立された国際機関です。2023年6月に最初の基準としてIFRS S1(サステナビリティ関連財務情報開示の全般的要求事項)とIFRS S2(気候関連開示)を公表しました。
IFRS S1はサステナビリティ全般にわたるガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標の4つの柱を定め、IFRS S2は気候変動に特化して物理的リスク・移行リスクおよびスコープ1〜3の温室効果ガス(GHG)排出量の開示を求めています。この2基準は現在100を超える国・地域での採用検討が進んでいます。
日本版基準を策定するSSBJの役割
SSBJ(Sustainability Standards Board of Japan:サステナビリティ基準委員会)は、日本国内においてISSB基準と整合した開示基準を策定する民間の標準設定主体です。財務会計基準機構(FASF)の内部組織として2022年7月に設立されました。
SSBJはISSB基準の内容を基本的に取り込みつつ、日本固有の法令・商慣行への対応や用語の日本語化などを行います。2024年3月に公開草案を公表し、広くパブリックコメントを募集しました。SSBJ基準の最終化後は、金融庁による制度会計への組み込み(有価証券報告書等での開示義務化)へと続くロードマップが想定されています。
日本での適用スケジュールと対象企業
執筆時点(2026年)では、金融庁・SSBJの動向を踏まえると以下のようなスケジュール感が見込まれています(今後の制度整備によって変更される可能性があります)。
- 2024年度:SSBJ基準の最終化に向けたパブリックコメント・審議
- 2025〜2026年度:金融庁による制度会計への組み込み検討・パブコメ
- 2027年3月期以降:プライム市場上場企業(大企業)への段階的義務化が有力視
- その後:スタンダード市場等への段階的拡大
先行して自主開示を進めている企業はすでにTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みで気候関連情報を開示していますが、SSBJ・IFRS S2との整合性確認が今後の課題となります。なお、TCFD提言はISSB設立に伴い2023年6月に解散し、その役割はISSBに引き継がれています。
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開示が求められる主な項目
サステナビリティ全般(IFRS S1相当)
IFRS S1に相当するSSBJ基準では、企業のサステナビリティ関連リスク・機会に関する情報を4つの柱(ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標)に沿って開示することが求められます。財務的影響を与える重要なサステナビリティ事項を特定・評価・管理するプロセスの説明が中心となります。
気候関連情報(IFRS S2相当)
気候関連開示では、以下が主な開示項目として挙げられます。
- ガバナンス:気候リスク・機会に関する取締役会・経営陣の監督体制
- 戦略:気候シナリオ分析(1.5℃・2℃・4℃等)に基づく短・中・長期の影響評価
- リスク管理:物理的リスク(洪水・熱波等)と移行リスク(規制変更・技術転換等)の特定・評価プロセス
- 指標と目標:スコープ1・2・3のGHG排出量と削減目標
特にスコープ3(バリューチェーン全体の間接排出)の算定・開示は多くの企業にとって実務上の難所となっており、サプライヤーとのデータ連携体制の整備が急がれています。
企業が今すぐ取り組むべき3つの準備
1. マテリアリティ(重要性)の評価と文書化
SSBJ・ISSB基準では、財務的重要性(Financial Materiality)を軸にした開示が求められます。自社のビジネスモデルに照らして重要なサステナビリティ事項を特定し、その評価プロセスを文書化しておくことが出発点です。ダブルマテリアリティ(財務的重要性+環境・社会への影響の重要性)を採用するCSRD(EUの企業サステナビリティ報告指令)とは考え方が異なる点に注意が必要です。
2. GHG排出量データの整備(特にスコープ3)
スコープ1・2については自社施設・設備のデータ収集体制が整っている企業が多い一方、スコープ3は15のカテゴリにわたるバリューチェーン全体の排出量算定が必要です。GHGプロトコル(Greenhouse Gas Protocol)の算定ガイダンスを参照しつつ、まず排出量が大きいカテゴリ(購入物品・サービス、製品の使用など)から着手することが現実的です。
3. 気候シナリオ分析の実施
IFRS S2(および従来のTCFD提言)では、1.5℃以下のシナリオを含む複数の気候シナリオを用いた分析が求められます。IEA(国際エネルギー機関)のシナリオやIPCCのSSP(共有社会経済経路)シナリオを参考に、自社の事業への影響を定性・定量的に評価します。初めて取り組む場合は、まず定性的な分析から始め、翌年度以降に定量化を進める段階的アプローチが実務上は採られることが多いとされています。
よくある課題と対応策
SSBJ・ISSB基準への対応を進める企業からよく聞かれる課題とその対応策を整理します。
- 課題1:担当部門が分散している
サステナビリティ開示は経営企画・ESG・IR・経理・法務など複数部門にまたがります。開示プロジェクトのオーナーを明確にし、横断的なワーキンググループを設置することが重要です。 - 課題2:スコープ3データが収集できない
サプライヤーへの協力依頼から始め、業界団体の排出原単位データベースを活用するなど、段階的にデータ精度を高めるアプローチが現実的です。 - 課題3:第三者保証の要否が不明
SSBJ基準の最終化・制度化の内容次第ですが、有報開示が義務化される場合には限定的保証(Limited Assurance)から合理的保証(Reasonable Assurance)への移行が想定されます。監査法人・保証機関との早期のコミュニケーションをお勧めします。
まとめ
SSBJとISSB基準への対応は、単なる開示書類の作成にとどまらず、自社のサステナビリティ戦略そのものを問い直す機会でもあります。本記事のポイントを整理します。
- SSBJはISSB(IFRS S1・S2)と整合した日本版サステナビリティ開示基準を策定する機関で、制度会計への組み込みが検討されている
- プライム市場上場企業を中心に2027年3月期以降の段階的義務化が有力視されている
- 気候関連開示ではガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標の4柱と、スコープ1〜3のGHG排出量開示が求められる
- 今すぐ取り組むべきはマテリアリティ評価の文書化・スコープ3データ整備・気候シナリオ分析の3点
- 担当部門の横断連携と第三者保証機関との早期接触も重要な準備事項
制度の最終化に向けた動向を注視しつつ、早期から体制整備を進めることが、将来的な開示コストの低減と投資家からの信頼獲得につながるとみられています。
greenoteでは企業のESG・サステナビリティ対応を支援しています。お気軽にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q. SSBJとは何ですか?
A. SSBJ(サステナビリティ基準委員会)は、日本国内のサステナビリティ開示基準を策定する委員会です。IFRS財団のISSBが定める国際基準を踏まえ、日本版の開示基準を整備しています。
Q. SSBJ基準への対応はいつから必要ですか?
A. 適用の対象範囲や時期は段階的に定められていく見込みです。まずは自社が対象になり得るかを確認し、既存のTCFD等の開示をもとに早めに準備を進めることが望ましいとされています。
Q. ISSB基準とSSBJ基準の関係は?
A. SSBJ基準はISSBの国際基準を土台に、日本の制度や実務に合わせて整備されるものです。国際的な比較可能性を保ちながら、日本企業が対応しやすい形を目指しています。